恋6 影使い

柳くんはこの春からラウンジバーでバイトを始めたらしい
渋いマスターがやってて客筋のいいラウンジらしい

あ　おい織田　お茶の時間　ある？

と　キャンパスで柳くんに声を掛けられた

うん　大丈夫だけど　そっちは？

と　連れがいる様子の柳くんに返すと

いや　だから今から用事があるから　またな！また　今度！はい　宜しく！

と　妙に人懐こい子犬のような男を振り払って　僕の肩を抱くようにして地下カフェへ向かった

悪い！助かったよ

と　席についた柳くんが言った

どうしたの？なんか邪険にしてたけど？

どうしたもこうしたもサブカルの一回生の岡って言うんだけど　しつこいったら無いんだ

ふふふ　君がそんなに露骨に嫌がるのは珍しいね

ありゃあ　この間　言ってた勘違い男子だ
緊縛を教えてくれってひつこい
教えて欲しければ縛って欲しい女の子を連れて来いと言ってるのに紹介しろ　としつこい
タチが悪いんだ

あはは
それこそ村井くんが言ってたみたいな女の子の身体に触って縛りたいだけの子だな

そうだろ？そうだよな？
手段と目的の履き違いも甚だしい
…とは言え　俺だって自分の目的の為　だけどな

ふふ　相手の合意があるなら　いいんじゃ無い？

織田みたいな奴ばっかりなら　過ごしやすいんだがなあ
…アイツがサブカルの一回の女の子に無理矢理　緊縛モデル頼んで問題になって部長の水川さんにまで迷惑かけてしまったよ
アイドルアニメ研究グループの子だったから向こうの副部長にもワビ入れて
今期は緊縛実践は無しって事になった
まあ　前期もお客さんの希望だったの　アイドルアニメ研究グループも知ってるから一回の暴走って事で納得してくれたけど…

え？じゃあ　今のは？

どっかから俺が希望者に緊縛体験サービスしてるの　聞き込んで来たんだよ

いつも飄々としてる柳くんの弱音を吐いてる姿は中々にレア
それだけ身内扱いしてくれているんだろう

…何　笑ってるんだよ　織田

いや　柳くんが可愛いな　と思ってさ

言ってろ！
…しかし　まあ企画しちゃたから村井に頼んでるボンデージスーツやっつけてしまうか

実践はしないんだろ？

ああ　でも　展示するよ
和洋比較被虐文化論とか謳って
どうせ　ホントにレポート書くつもりだし
ワンセットは研究会に寄贈してワンセットは私物だな

法学部なのに文化史的なレポートまで書く気かい？

性風俗は為政者の恣意のままに法で律せられるのさ
先輩の受け入りだけどね
しかも一度　ゴリ押しで定められた法律は良識に照らして後ろめたいせいで論じられる事なくしまいこまれて黴の生えた法律がそのままになってる訳だ
…大日本帝国憲法の話じゃないんだぜ？
今の話なんだ

結局　柳くんは６月の間に革加工の先輩女子に話をつけて尚且つ村井くんをキミは誰だ　と言うレベルで女性と打ち解けさせてワイワイと２種類2セットのボンデージスーツを仕上げた

慰労会と称してバイト先のラウンジバーに招待されて女性を交えた僕たち3人は人を飽きさせない渋いマスターと柳くんに歓待されて　此処では素性も来歴も "年齢" も問いません　と言うマスターにアルコールを出して貰って楽しい時間を過ごした