マーメイド2 影使い

そんな訳で展示室は出来たが立体作品は梓と誠のライフマスクが壁に並べた資料キャビネットの上の展示スペースに並べてあるだけで後は由香が美術館に持ち帰ってしまった
12畳の広さに３人掛けのカウチ2台　テーブル１台　壁沿いの2辺を腰高のキャビネットを並べて展示と資料収納に充てる
十分な筈だ
写真パネルは鑑賞に耐えるアートだが　モデルたちには申し訳ないが人体プリントシートは稚拙な感じが拭えない
勿論　怜子たちの身体だと思えば思い入れは深いが個人的な覚え書き　と言われればその通りだ
これがアートの意思　意図を持って１００人２００人と集めれば違うだろうが俺が欲しかったのは怜子たちだったのだから　そもそもアートでは無い訳だ
狩猟の記念品の剥製やコレクターの自慢か　と言われれば違う！と言えるのだが悪趣味と言われれば頷かざるを得ない
そもそも変態の多頭飼いなのだから　何をか言わんや　なのだが　
アーティストへの尊敬と憧れが俺の胸を焼く
　
それにしても屋上を借りるのは高くついた
屋上にあるマンションの保守管理設備棟へ立ち入れないように従来のドアとは違う入り口の設置と管理棟を隔てる壁の設置の費用負担を課せられたのだ
お陰でこちらのプライバシーが守られる　とも言えるが
管理会社の担当が提出した"倉庫"の図面と設備明細とを現物検査をして住居設備が無い事を確認しやっと屋上出入り口のキーを引き渡された訳だ

あら　また屋上だったんですか

と　怜子が読んでいた本から顔を上げて言った

うん　珈琲淹れるけど飲むかい？

はい　ありがとうございます

珈琲を怜子の前に置く

礼の言葉を呟いて本を読み続ける怜子の顔を見ていたら　ふっと顔を上げた怜子が不思議そうな顔をした

どうしました？

いや　綺麗だなぁ　と思ってさ

怜子は手に持っていたカップと本を置いて俺に向き直った

ホントにどうしたんですか？また　アートを見て来て弱気になったんですか？

ネタ元は遥かい？
いや　弱気じゃないよ
…弱った美人たちにつけ込んでコレクションを増やしている変態だなぁ　と思ってさ

それは…弱音より悪いですね
あの　弱った美人って今　飼って貰っている私たちの事ですよね…それはご主人様の間違い　勘違いです
まこちゃんと梓ちゃん以外は…
私たちは死なない為…行き残る為に怪物になる事を選んだ女です

怪物とは…いい過ぎじゃないか？

いえ　私も遥ちゃんも由香さんも怪物である事を選んだんです
その事を後悔はしません　死ななかったから助けて貰って怪物だったからペットにして貰えたんですから
…分かってはいるのでしょう　ご主人様だって

…怜子や遥をペットにした頃は俺も酷かっただろうに

でも　ご主人様はそれまでは女を飼った事が無かったから仕方ないじゃないですか
私が初めて全てを自由に出来る女　だったんでしょ
だったら多少なりとも怪物にはなるでしょう
それが私だった事が嬉しいんです
遥ちゃんだってそうです
でもご主人様は直ぐ冷静になったから梓ちゃんや由香さん理音ちゃんには…ピアスをしませんでしたよね

誠は違うって言うのは　何故だ？

ふふ　初めて怜子は笑顔を見せた

言った通りです
あの子は怪物になる必要が無かったから
ピアスを入れるのにあなたはだいぶ　抵抗を示しましたよね？
あの子のピアスは装飾なんです　遥ちゃんとお揃いの
私と遥ちゃんのは怪物の証なんです
…私たちはあなたの物　そしてご主人様は私たちの物

ああ

怪物である事を抑制する事の出来るあなただから梓ちゃんや由香さん理音ちゃんを任せたの
怪物の信頼じゃ　駄目かしら
あなたにとって？

とんでもない　光栄だよ

怜子は美しく微笑んだ

それと

と　怜子は言った

人魚姫だってマーメイドから怪物になる事を選んだ女ですよ
だから　泡になったんです
本人も分かって選んだ結末ですよ