59 閑話 新聞部員の気ままな雑談

　志岐高校。
　学力は高すぎないといった中堅どころに位置する高校は、しかし教師陣の怠慢によって学生の風紀はあまり良くないという評判も密やかに呟かれる。

　いやはやそれどうなのよ？うっかり入った後で知っちゃったよ。

　ま、とにかくよ。そんな志岐高校においても『史上最悪』と前置きがつく問題児が、今最もホットな話題の持ち主なんだよねぇ。
　大上秋斗。ちなみに私のクラスメイトでもあるんだな〜。

　彼はね、学校中から嫌われる存在なのよ。　下駄箱なんていつ見てもゴミだらけでさぁ。私の下駄箱の隣だからゴミが邪魔ったらないのよね。
　んで目つき悪い！あれ絶対何人かやってるって。オーラみたいなんもあってさ、ほんとちょー怖えの。
　
　理由？聞いてよ！なんと彼。一年生の入学式からほんの数日で暴力事件まがいなことやっちらかしてんのよ。
　更には教師脅迫やら校外乱闘したなんて噂もあるし、最初は周りから危険人物として思い切り警戒されてたのよね。　私だって怖かったよ〜！なんてったって一年生の頃からクラス一緒だし。あの時は神を恨んだね。こんな純真無垢な私に何故こんな試練をぉ！ってさ。あ、やめて冷たい目で見ないで？

　そんなワケで約2年間クラスを共にしたそのちょー危険人物なんだけど、意外にも普段はすっごく大人しいのよ。
　まぁ学校サボる事はあるけど、登校したら机に座ったまま寝るか勉強するかってだけ。
　そのへんの生徒にふっかけるでもなく、暴力を振るうでもなく、うっかり昼寝を邪魔した生徒を怒るでもなく。ね、意外でしょ。

　そんな日々が続いてか、一年の頃の半ば頃から、危険人物から嫌われ者にシフトしたんだよねぇ。つまりはナメられ始めたってワケ。

　それに伴って彼の危険さを裏付ける逸話は、噂扱いに変わったんだよね。
　なんてったって不良集団を1人で倒したとか現実感のない逸話まであったからね〜。そりゃ噂って事にして現実感から目を背けたくもなるってゆーね。

　おっと。話は逸れたけど、要は悪い意味で注目を浴びつつもどこか視界の外に追いやられてた彼が、ここに来て大注目されるようになったってことよ。
　
　聞きたい？聞きたいかぁ〜。いいでしょう！え、言ってない？いいじゃん話させてよぉ！
　注目されはじめたのは２年になった１学期中頃かな。
　なんと、なんとなんと！あの根古屋夏希と話す姿が目撃されるようになったのよ！

　根古屋夏希が誰って？いやもう聞いてよ、てか見て？見たら分かるから。
　もうさぁ、同性の私でも見惚れるくらい綺麗なの！しかもバインッバイン。ありゃダメだ、有罪。クラスの男子共もチラッチラってもんよ。だから私もチラチラ見てる。私は悪くないッ！

　そんな世が世なら大花魁にでもなれそうな彼女なんだけど、入学して少ししてから誰とも話さないクールな一匹狼でさぁ。　そう言えば初日とかはフツーに周りとも話してたんだよね。いきなりダンマリになって周りも戸惑ってっけ。
　あれ？大上秋斗が事件起こしたのもそれくらいだっけ……？

　まぁいいや。とにかく！
　えっろい上にちょー美人な根古屋夏希が、あの、あの！大上秋斗と話すようになったの！しかもね、笑顔なの！　いやさ〜、たまに根古屋夏希と会話する女子もいるんだけどさ。そんなに笑わないの。笑ってもちょっと唇吊り上げるだけのクールなやつ。ちょーかっけぇよ。
　それなのにさ！？大上秋斗にはめっちゃ笑うの！クールさの欠片もない、顎下なでられた猫みたいに目を細めて！すり寄るように！悪戯っぽく！えっろ！おっと鼻血が。ティッシュとって？

　ふぅ……熱くなっちまったぜぇ。
　ともあれ、これが大上秋斗大注目のきっかけにして第一弾ってワケ。
　え、第一弾？そう、そうなの！まだこれで終わりじゃないのよ！

　お次がこちら。はいドン。
　宇佐冬華とも話すようになりましたー！いぇーい！
　いぇーいじゃねぇよ！どうなってんだ？！ありえねーだろーがこんなもん！え、ウソ待ってひかないで。

　いやでもだってさぁ。宇佐冬華だよ？
　最強生徒会長と名高くて才色兼備を実写化したら彼女になるとか言われる、あの大上紅葉を超える容姿の持ち主だよ？
　ちょっと街歩けば芸能スカウト待ったなしで、友達からは「冬華は街行く時は変装しろ」とか言われるんだよ？マジ天使なんだよ？
　いいすぎ？は？言ったなてめえ？
　マジで反則なんだってば。最初見た時は時が止まったね。なにこれ人形が動いてね？って思ったもん。

　くりくりした目とかちっちゃい顔とか均整のとれたプロポーションとか綺麗と可愛いの良いとこ取りとか、もはや嫉妬する気すら起きねっつの。
　しかもちょっと抜けてるというか世間知らずというか、そんな庇護欲もそそられる要素まであってさ。おまけにちょーマイペース！　だからつい「百合に興味……？えと、すみません、花はそんなに詳しくなくて」なんて言われた時に思わず頬を舐めようと飛びかかった私は悪くない！あの可愛さが悪い！あの時即座に止めた竹中覚えとけよ！あ、やっぱヒく？

　とととにかく！そんな二年生ツートップみたいな女子２人に囲まれる大上秋斗！本人の嫌われ具合に嫉妬が乗っかる相乗効果！　それらを代弁するかのように突っかかるバレーの天才猪山赤也！ふっかける勝負は球技大会のバレー勝負！負けたら大上秋斗の退学！

　いやいやいや、さすがの私でもひいたね。自分の土俵の割に条件えぐすぎじゃん？
　でもまさかの承諾。からのまさかまさかの大勝利。

　ね？ね？びっくりでしょ？え、いや嘘じゃないって！私も目を疑ったけどさ！
　しかもそん時にね、志々伎春人とすんごい連携とっててさぁ。あんたら仲悪かったんじゃないのかって内心ツッコんだわ。むしろてめーらツッコミ合ってんじゃねぇだろうな……って待ってごめんその目はやめて！私が悪かったからぁ！
　
……ごほん。えと、ちなみに志々伎春人ってのは……って知ってんの？マジ？他校まで知られてんのかよやっぱパねぇわ〜。
　そうそう、そのリア充キングの志々伎春人がさ、底辺男子の大上秋斗とだよ？びっくりしたっつの。

　でね、それからは怒涛よ。
　もうね、新聞部としちゃ嬉しい悲鳴よ。記事書くの追いつかないっつの。

　まず猪山赤也がいきなり逮捕されて退学。バレー部は一時期活動停止になったでしょ？　んで屯田先生はいつもの偉そうな態度から卑屈なくらい超低姿勢になったでしょ？あれはウケた。　あとは大上秋斗が満点で中間テスト一位になったでしょ？お前勉強とかする顔じゃねーだろってね。　あ、そん時から「天才とバカは紙一重」でお馴染みの烏丸颯が、宇佐冬華と根古屋夏希の一言で大半の女子からハブられたりしたな〜。一言？「私はあいつの事嫌い」ってさ。そりゃね、敵に回しちゃダメなのよあの2人は。

　いや待て待てと言われてましても。私だって待って欲しかったっての。　言ったでしょ、怒涛だったって。怒涛すぎて詳しくは私も分かんないの！
　あー悔しい！大上秋斗に盗聴器つけとけば良かったぁ！あ、待ってスマホ取り出さないで？通報はいやん！

　ま、まぁそんなワケで。その締めが１学期の終業式でさ。
　油断してたよ、なんたって退屈なだけの終業式であんな事になるなんてさぁ。

　いやね、早い話が人気者オールスターによる大上秋斗の弁明って感じ？　最強生徒会長と、リア充キングと、２年ツートップ女子2人！……あ、性別不詳となんちゃってお嬢様も出てきてたわねぇ。
　そんな有名どころが皆んなして大上秋斗の味方だって表明してさ。

　ね、びびるでしょ！でさでさ、特にやばかったのが根古屋夏希！
　なんと、学校側が秘密裏に処理してた事件を放送しちゃってさ！全生徒と先生も大パニックよ！
　……皆まで言うな。分かってる、新聞部としての立場がないって事くらいなぁ……っ！
　　はぁ……ま、そんでさ。大上秋斗の最初の暴力事件は上級生からのイジメを食い止めたっていうし、大上秋斗が脅したって先生はセクハラしてたってオチだし、猪山の逮捕はレイプ未遂だって判明するし、屯田はセクハラバレるし。
　ってうちの教師セクハラばっかしてんな！やべぇよ学校行くのこわぁい！……おい？その冷めた目で私の胸見んの今すぐやめな。

　ちっ！……んでさ、それから保護者会とかも出てきて色々あったみたいよ？聞いた話だと、隠蔽しようとした校長や教頭もだいぶ叩かれたって。　で、屯田は懲戒免職。
　他の教師達も個別に話を聞かれたりしたらしくて、大なり小なり怠慢やらがあるからほとんどの教師が叩かれたんだとさ。
　噂によると無傷なのは高山先生くらいとか。

　で、もうさぁ〜。私の立場で言うなって話なのは分かってるけどさ……すっっごい気持ちよかったんだよね。
　いやだって、こんな逆転劇とかリアルで見た事ないし仕方なくない？！　うっ、そりゃ私も批判される側なのは分かってるけどさぁ……

　で、でもねでもね？素直にすごいなって思ったワケさ。
　大上秋斗が？うぅん、いやそれもそうなんだけど。大上秋斗と、根古屋夏希をはじめとした仲間、みたいなのが、かなぁ。
　なんかこう、不躾な横槍なんて入れさせないというか、入れる気も起きないというか、そんな絆みたいなんがあるような気がしてさ〜……って笑うな！恥ずかしい事言ってる自覚はあるけど、見たらあんただって、って笑うなぁ！

　とっ、とにかく！
　もはや志岐高校の校則に載るんじゃないかってくらい当たり前だった「大上秋斗は嫌われ者」って前提がこれでもかと乱されたワケよ。


　で、今日の二学期初日ね。

　なんか落ち着かなくて早めに学校行ったら、びっくりするくらい皆んないんのよ。
　多分皆んなも落ち着かなかったんじゃない？もしくは情報収集かな、大上秋斗にどう出るのかーって。
　で、聞いてる感じだと賛否両論って感じでさぁ。え、半々なのかよって？いやいや、もとがもとだからね？半分になったのがビックリなくらいだから。

　まぁそんなソワソワしてる学校にギリギリで登校してきたのよ、話題のあんちくしょうが。
　あんた遅刻ギリギリのくせにゆったり歩くとかどんなメンタル？みたいな感じで悠然と歩く大上秋斗を、早くに登校してたほとんどの生徒が校舎の窓から見てるワケ。

　そんな奇妙な光景がこれ。ウケるっしょ？このポカン顔。　ん？なんで撮れたのかって？へへっ、実は私、突撃インタビューしようと思って外にいたんだよね！ほら、１学期じゃ情報が後手後手だったし、反省してこっちから攻めようって！

　まぁ出来なかったんだけどさ〜。え、うん、そう、日和った。
　いやだってさぁ〜、なんなのアレ。近寄れるワケないじゃん！あ、これ写真。

　ね？ね？だよね？！無理でしょ？！てかすごくないこれ？合成かよって感じでしょ？！
　もうね、オールスターズ。さすがの私も固まったよね。突撃しようとして片足上げた体勢でカチンコチンよ。
　でも皆んなそうだったんだって！だって校舎すっごい静かだったもん！

　え？そうそう！これが宇佐冬華。ねーかわいいでしょ？！分かる！可愛すぎて語彙力しぬよね！
　あ、うん！それが根古屋夏希ね。……ね、やばいよね。高校生って嘘だろって思うよね。えろすぎぃ！……土下座したら分けてくんねーかな…
　え？あー……あんたもイケメン好きかぁ。それそれ、それが志々伎春人。笑顔が眩しすぎて視力が下がるって評判の。マジただの兵器。

　あ、この子？「みんなの妹」とか言われてる子でさ、志々伎梅雨っていうの。
　なんと志々伎春人の妹なの！めっっちゃ可愛いよね！あんな子に「お姉ちゃん」とか呼ばれてみ？ヨダレ出るっつの！　あー私もこんな妹いたらなぁ〜。毎秒愛でるわぁ〜。
　あ、でも「みんなの妹」は志々伎春人の前じゃ禁句ね？言ったら冷たい笑顔がかえってくるらしいよ。え、むしろ見たい？アンタも業が深いね……

　ん？あー、うん、かわいいよね。……え、反応が微妙って？
　いやさ、その子って地味に黒い噂があってさ〜。なんか男を手玉にとるとか小悪魔通り越した悪魔とかさ。伊虎静って子なんだけど、なかなか腹黒らしいよ？　……だよね、見えないよね。私も思った。なんかすっごい女の子してる笑顔だもんね、これ。
　だから私もびっくりしてさぁ。二度見したもん。可愛いかよって。噂は噂って事かなぁ。

　あ、この子は根津愛。そうそうよく覚えてたね。宇佐冬華と仲良かったのに猪山赤也についてイジメた女ね。
　ってなんで一緒にいるか？だよねぇ。なんかさ、イジメてたのは大上秋斗と猪山赤也に騙されて勘違いしてたからなんだって。
　で、それを宇佐冬華が許して受け入れたってワケ。ね？ね？宇佐冬華やばいでしょ？！ガチ天使！
　……だよね、いやもう私も不思議で仕方ないっての。新聞部として悔しいけど、なんで根津愛と大上秋斗まで一緒に居るのか分かんないの。きっとまた理由があるんだろうね……

　あ。で、こちらが我らが最強生徒会長の大上紅葉様ね！ん？大上？言ってなかったっけ？
　私もビックリしたけど、大上秋斗のお姉さんなんだってさ。血筋やばすぎない？絶対親とか化物スペックだよね。

　……そう、残るそちらが話題の大上秋斗。でしょでしょ？1人くらいやっちゃってそうな目つきでしょ。

　……ま、そういうワケよ。
　それぞれヤバいくらいの有名人がさ、まさかの大集合。もうなんかの企画かよって。
　しかもすっごく仲良さげなのよ！意味分かんない！けど眼福！悔しいけど見ちゃうぅ！

　え？うん、正解。まぁ予想つくよね。
　そう、大上秋斗の悪評なんて一瞬で消滅よ。いっそ笑っちゃうくらいのてのひら返しでさぁ。始業式後に群がるわ群がるわ。まるで人がアリのようだ！
　
　……え？あー、チヤホヤね。うん、よくある展開だもんね、そう思うよね？いやバカにしてないって。私もそう思ったもん。　あれでしょ？底辺男子が成り上がって人気者！みんなからの手のひら返しを受け入れてチヤホヤされ！女の子もきゃーきゃー言っちゃう！バラ色生活スタートッ！……なーんてヤツでしょ？

　ところがさ、あの大上秋斗はそんな簡単なあんちくしょうじゃなかったんだよね。
　群がる生徒達に一言、「俺の陰口叩かなかったやつ、もしいるなら手ぇ上げてくんない？」って。
　そしたらもう、お祭り騒ぎから一転ですよ。シーーンですよ！お通夜かってくらい！
　そんでどさくさ紛れにインタビューしようと思った私もシーーン。そりゃね、さすがの私でもそこまで厚顔無恥にはなれないって。

　でさ、助けを求めるように生徒達が志々伎春人とか根古屋夏希、宇佐冬華に視線を向けるの。
　それをさ、思わず顔赤くなっちゃうくらい素敵な笑顔で返されるワケ！でもみんな真っ青！なんか笑顔が怖くて！私も怖かったよぉお……ふえぇ……

　あ、そうそう。そんな中で、「性別不詳」こと河合大樹が空気読めぇえ！ってくらい平然と話しかけんのよ。　思わず固まる空気！迸る緊張感！女子高生なのに脇汗びっちゃりの私！え、道理で汗くさいって？え、ウソっ！ウソと言ってよ！朝からくさかったの私っ？！

　あ、うん、続きね。その前に制汗剤使うね？　……いやそれでさぁ、肩すかしってくらい「おう」とか大上秋斗は挨拶返してんの。　おまけに田中、神崎、赤嶺もそんな感じで親しげに話しかけてさ〜。え、３人の下の名前？知らない。
　いやちがっ！ほんっと目立たないヤツらなんだもん！覚えてないの！私は悪くないッ……はずないよね、はい、すみません。
　でも大上秋斗はそんな子らとはフツーに話してさ。そこでやっと球技大会のはバレーチームのメンツだっな〜って思い出してさ。
　
　……うん。だよね。そういう事だよね。私もそう思った。
　そう、バレー大会でチーム組んだって小さい関わりでも、大上秋斗はあんなに受け入れられるくらい、良いヤツなんだってさ。
　　ん？周り？話しかけたのに無碍にされて逆ギレしたり、私みたいに反省したりかな。
　でもまぁ大半はグループの有名どころの圧力に負けて愛想笑いしてたよ。

　ま、そんなワケでさ〜。　皆んなして同調圧力みたいに大上秋斗を嫌って、噂して、遠ざけて。
　でも話した事ある人達はみーんな親しげ。学校でも人気な有名人から、クラスでも目立たないような生徒まで、ぜーんいんさぁ。

　なんか、私バカだったなーってつくづく思わされたよ。
　スクールカーストとか、皆んなが言ってるから私もとか、結局自分で判断せずに誰かが貼ったレッテルだけ見て流されてたんだなって。
　自分で見ないと何も分かんないのにね。
　てかもう新聞部としてホント失格だよね。笑うしかないのに笑えないってゆーね。

　で、さすがに自己嫌悪ヤバくてさぁ。
　え？その割に落ち込んでないどころかテンションあげあげでずっと話してたって？
　……あはは……うん、それなんだけどさ。
　実はね、私我慢出来ずに大上秋斗に思い切って謝ったんだよね。

　……うん。はい。分かってます。ひくよね？ここは私も認める。さすがにナイなって。
　確かに自己嫌悪から逃げる為の自己満足にしか見えないよね。
　色々と価値観とか今までの自分とかをぐちゃぐちゃにされた気分もあわさって、勢いで謝った。うん、我ながらホント酷い話だ。
　え？そう思うよね。警戒心強いし、言う事ズバズバ言うし、学年一位とるくらい頭良いし。
　その通りでさ、もちろん大上秋斗は私の浅ましさも見抜いてたよ。
　でもあんたの予想……というか言った直後の私の予想でもあんだけど、謝罪を受け取らずに怒られるってそれ、ハズレだったの。

　あはは……そうなるよね〜。私もびっくりしたもん、ホント。
　「反省して直接謝るだけ大したもんだろ」って言われてさ。
　あはは……うん、バレた？そりゃさ、さすがの私も泣いたね。てか号泣。大上秋斗もちょっち慌てるくらい。え、違う？ドン引きされてた？そ、そんなまさか……

　で、でさでさっ！そん時見せた笑顔がぁっ！もうね！けしからんのですよ！あのくっそ悪い目つきがふにゃって柔らかくなんの！
　正直くっそ萌えた。涙と一緒に鼻血出るかと思ったっつーの！ついでに下半身もさ……あ、はいすみません、自重します。いやホントすみません。

　ご、ごほんっ。
　とにかくだ。なんか許してもらえちゃったワケで。　おまけに「てかお前だよな？新聞部でたまに校内ニュース書いてんの。良い暇つぶしにさせてもらってるわ」なんて言われちゃってさぁ！
　もう乙女心鷲掴みよ！ぐふふっとか素で言っちゃったよぉ！あ、ひかないでお願い。

　んでさ、そのセリフに根古屋夏希と宇佐冬華がギョッとしてんの。そんな顔も可愛いのかよって内心ブチギレっ！てへっ！我ながら醜いっ！そんな私が私は好きっ！　あ、スルーどうも。いやさぁ、なんか大上秋斗って名前とか覚えないタイプらしくて。そんな彼が私の事覚えてるのにビックリしたらしくて、めっちゃ問い詰めてた。

　え〜？なんかぁ〜、ずっと嫌われて1人で暇な時に校内ニュース読んでくれてたらしくてぇ〜、それで面白い記事書くなって名前覚えてくれてたんだってぇ〜。ぐふふっ！
　ま、まぁ？ぶっ飛んでる記事とか？私情をふんだんに散りばめられてるとか？なんか摩擦なしに喜んでいいか分からない評価でしたけど？い、いいんだいっ！私は彼に暇つぶしを提供できただけだ満足なんだいっ！

　あ、ちなみに私の渾身の謝罪を見てた周りがさ、懲りもせずに我先と謝罪しに群がるワケ。
　……はい、仰る通りです。反省してます。せめて個別ですべきでした、はい。
　ホント迷惑かけちゃったよね、たはは……

　え？いやそれがさ。もちろん全員受け入れたりはしなかったよ。でも不思議なのが受け入れる人もいんのよ。
　で、さらにビックリなのが謝罪を受け入れる人達って、私の記憶だと全員積極的に陰口を言わなかった人なんだよね。
　でも新聞部の私ならともかく、人と話さないし名前を覚えないらしい彼が、まるで知ってるみたいにピンポイントで見抜いて受け入れるのよ。
　もうね、嘘探知機でも隠し持ってんのかと思ったよね。理由？結局分からずじまいっす！


　ま、そんなワケで大波乱の登校初日が終わったのさぁ。

　これから？どーせまたなんか話題を呼び込むだろうしさ、恥知らずにも大上秋斗とは仲良くなりないなって思ってます！
　……んでさ、今度からはちゃんと、大上秋斗の嘘偽りない事実を記事に書くの。　もう、二度とあんな不当な噂なんて起こさせない。絶対に。

　えへへっ！うん、頑張る！ありがと！
ぃよ〜し！明日から忙しいなるぜぇ！