学校一の嫌われ者が学校一の美少女を拾ったら

みどりぃ

57 女子達の語らい

「てなワケで、これからは秋斗のやつにも恋愛機能が搭載されまーす。まぁ頑張りたいやつは頑張ってねー」

 報告ってのは結論から述べよ。 そんな定説に従ってあたしは集まる女子達に告げたんだけどーー

『……は?』

 返ってきた反応は、理解には程遠いものばかり。ま、そーだよねー。




「………アキくんっ……!」
「え、な、ど、どういう事ですか?」
「そ、そうですよぉ夏希先輩!先輩ってスマホアプリだったんですかぁ?新機能追加実装なんですかぁ?!」
「え?!あ、あっきーって人間じゃなかったの?!」
「……あの、なんで私までここにいるのかしら?」

 夏休みも早いもんでもうあと数日。
 秋斗のやつは仕事でこもり、春人のやつはクラスメイトに呼ばれたから居ない。
 そんなワケであんまりヒマだったから、『秋斗についての重大報告を聞きたい人はあたしんちに集合』とラインで送信したのが今朝。

 唐突極まりない連絡なのに、まさかこんなに集まるなんてなー。やるじゃん秋斗。

「そーそー。実は秋斗のやつ、アンドロイドでさー」
「「「えぇええっ?!」」」
「何をバカな事言ってるの……」

 ノリの良いーーというか混乱してるだけーーの冬華、静、根津に、呆れた風に溜息をつく高山センセー。
 そんな中でただ1人、梅雨だけが体を震わせて俯いている。
 それに気付いた周囲が不思議そうに、次いで心配そうな顔になった頃。

「よがっだぁああ……!」

 ガバッと顔をあげ、そのまま漢泣きよろしく天を仰いで号泣した。ありゃまぁ。

「ちょ、梅雨さん?!」
「だ、大丈夫?!どしたの?!」
「なづぎねぇええっ!」
「おーよしよし」

 心配そうにオロオロする周囲を他所に、梅雨は感極まったようにあたしに抱きついてきた。それを受け止め、頭を撫でる。

「えっと、その……」
「あー心配すんな。梅雨なりに心配してたのが爆発したってだけ」

 置いてけぼりの周囲を落ち着かせながら梅雨をあやす。
 まぁ周りからすりゃーいきなり意味不明な事言われて、いきなり梅雨が号泣しだしたんだしなー。混乱もするか。

 嗚咽をもらす可愛い妹分を優しく撫でる。
 梅雨はいつも元気で明るく振る舞い、あたしや秋斗を兄姉のように慕ってくれてる。 そしてあたしも秋斗も、本当の兄である春人と同じかそれ以上に可愛がってると思う。

 そんな見え方によっては甘えん坊にも見える梅雨だけど、春人の妹だけあってすんごい聡いんだよねー。
 そんな梅雨の特にすごいとこは、秋斗に対する観察力。
 時には春人やあたしですら見抜けない事も見抜く梅雨は、下手したら秋斗本人よりも秋斗に詳しいかも知んない。

 そんな梅雨は秋斗を特に慕ってるし、秋斗がずっと父親の件や、それによる周囲からの扱いに心痛めなかったはずもなく。
 当時は落ち込むわ怒るわ泣くわ喚くわで大変だった。
 そして秋斗がそれらを心の奥に押し込めてフタをして、その影響で人を避けて恋愛感情を切り離した事をずっと心配していた。

 それでも秋斗の前では常に明るく振る舞う妹分を、あたしは尊敬するし、心から誇りに思う。

「っぅ、ひぐっ……ぅぇええ…」
「……よしよし。梅雨、あんたはよく頑張ったよ。色々とありがとね」
「っ、うぁあああ!」

 だから周囲で心配そうにするやつらには悪いんだけど、今は好きにさせてあげたい。だからごめん、ちょっと待ってね。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「あー、なんかいきなりごめんねー」
「いえ、それは大丈夫ですけど……梅雨さん、大丈夫なんですか?」
「ん。もー大丈夫だろーよ」

 それからしばし。
 泣き止んだ梅雨は恥ずかしそうに顔をあげ、にへらと笑ってから「ちょっと洗面台借りるね」とだけ言って部屋を出た。

「……ところで根古屋さん?大上くんについて重大発表というのは、何か問題があったとかではなくて、その、れ、恋愛感情の事なのかしら?」
「あ、そっすよー。すんません、言葉足らずでしたね。心配と、もしかして迷惑もかけちゃいましたかー?」
「い、いえ。別に構わないけれど」

 高山センセーもノリで連絡したけど、なんか問題でも起こしたと思ったみたい。いやーホントすんません。 でもセンセー、部屋を出る気はなさそーなんだよね。うん、かわいー。

「な、夏希。詳しく教えてください。ちゃんと順を追って」
「そうですよぉ。いきなりアンドロイドなんて暴露されても戸惑いますぅ」

 いや違うから。よ静、まだ混乱してんのかよ。

「あー、実はノリで呼んだから本人の許可なくあんま詳しくは話せないけどー……まぁとにかく、今まで秋斗のやつは恋愛感情は一切持たない、つくらない、持ち込ませないって感じでなー」
「さ、三原則?」
「恋愛を核扱いですか……」
「さんげんそく………?」

 苦笑いする静と冬華。というか根津、高二で首傾げてんのはまずくないか?来年は後輩になりかねないな……

「でもさぁ、最近みんなも含めて色々あったろー?それで秋斗もやぁっと前向きになって、恋愛感情と向き合うみたいでさー」
「そ、そうなんですか」

 だからあの時無条件で友達扱いされたんですかね……なんて呟く冬華を他所に、根津がそろそろと手を上げる。

「はい、根津さん」
「は、はいっ……じゃあ、あっきーと根古屋さんて、付き合ってんの?」

 ビシリ、とあたしの部屋の空気が固まった気がした。
 あー、そーだよね。そこらへんも説明しといた方が良いよね。

「いや、付き合ってないなー」
「え、な、なんで?こんなに詳しく知ってるなら、そんな話をあっきーと直接したんじゃないの?」

 ほー、非核三原則も分からないのにそこらへんは気付くのかー。
 こいつ感覚だけで生きてる割に鋭いとこあるんだよなー。

「まぁなー。おまけに言えば、あたしって昔秋斗に告って保留にさせてたしなー」
「「「えぇえ?!」」」

 まぁ保留っつーよりは返事をさせなかったというか。ま、いっか。

「な、夏希?それで、どうなったんですか?」
「あははっ、そんな顔すんなって冬華ぁ」

 可愛い顔を心配そうに歪める冬華の頭をわしわし撫でつつ笑う。
 えってか待って髪さらっさら!新雪みたいにさらっさら!やばっ、ずっと触れるこれ!

「あたしはね、幼馴染っつー今の距離感が気に入ってんの。だからしばらくは恋人とかはいーかなーって」
「そ……そ、うなんですか」
「あははは!ほっとしてんなぁ、かわいー!」
「ちょ、夏希っ!もう撫ですぎですよっ」

 恥ずかしがる冬華を堪能していると、ふむふむと噛み砕いて把握していた様子の静が指を一本たてて口を開いた。

「じゃーあー、そんな夏希先輩から見てぇ、誰が一番先輩と付き合えそうなんですかぁ?」

 ピシリ、と再び空気が固まった気がする。
 それから冬華はもちろん、センセーまで全員があたしを睨むように凝視しはじめた。

「……ほほー、気になるかねー?ふふーん、どーしよっかなー?」

 あまりに見られるのでつい悪戯心がむずむずしちゃう。やーんこいつらかわいー!
 焦らしてると、必死さと悔しさが合わさったような顔をするからたまんない。春人や秋斗だと「またか」みたいな顔して平然と聞き流すからつまんないんだもん。

「でもなー、聞いたらショック受けちゃうかもなー?」
「だ、大丈夫です。言ってください、夏希」
「あたしも聞きたいですぅ。先輩をからかうネタになりそうですしぃ」
「わ、わたしもそんな感じ!」
「そ、そうね。目立つ生徒だもの、今後騒ぎになるかも知れないし、事前に把握しておかなくてはいけないものね」

 うーわ、冬華以外素直じゃないなー。
 まぁいーけど。さてさて、どんな顔になるかなー?

「んじゃ言うねー。ちなみにあたしの主観でしかないとは言え、それなりの精度だとは思うよー。まぁ信じる信じないは任せるけどさー」
「悔しいですけど、ほぼ100%当たる事は分かってますよ」

 ありゃ?随分信頼されてんのね。冬華の言葉にはおだても皮肉の色は見えないし。

「そーぉ?ならまずは第一位は……」

 ごくり、と喉が動く音が聞こえる。うーん、楽しー。
 けど、あまり嬉しい顔にはならないんだろーなぁ。

「……あたし」
「………っ」

 息を呑む音が聞こえる。
 ま、そーなるよねー。予想通り目を見開く面々の中、意外にも一番ショックを受けると思ってた冬華だけは表情を変えなかった。

「ありゃ?冬華は驚かないのかー?」
「まぁここまでは予想してますよ。むしろ見てれば誰でも分かります」
「えっ、で、でもさっき付き合わないって……」

 冬華の手を根津が慌てたように掴む。その手を反対の手で握り、冬華は淡々と告げる。

「それは2人がそう決めたからですよ、愛。逆に言えば、そう判断しなければ2人は付き合ってたと思います」
「え……!?」
「ま、付き合えたかは別として、現時点でその可能性が高いのはあたしかなー」

 これは自惚れでもなんでもない。長年一緒に寄り添ってきた自負だ。
 秋斗はまだ恋愛感情に向き合ったばかりで持て余すだろうから、すぐに付き合ったかは分からない。
 けど、あくまで可能性の話であれば、今一番秋斗に近いのはあたしだと思う。

「……夏希は、それでいいんですか?」

 ショックを受けてる根津を他所に、冬華は真剣な表情を見せた。
 うーん、優しいなー。やっぱ冬華ってすごいわ、秋斗がこんな短期間で懐に入れたのも分かるなぁ。

「ありがとね、冬華。でも、あたしが決めた事なの」
「……そう、ですか」

 秋斗が言い出したのかと思ったんだろーなぁ。
 だからあたしから、と伝えると、優しくも寂しそうな笑顔を見せた。
 そこでライバルが減ったと喜ばずに心配するあたりが冬華らしいね。

 ……その笑顔に込められたもう一つの意味を、あたしはあえて気付かないフリをした。

「……よし!じゃー第二位はー」

 空気を変えるように大袈裟に声を出すと、再び視線が集まった。
 それにニヤリと笑い、指を外に向ける。
 つられるようにみんなの視線が指の先――窓の向こうに集まったところで口を開く。

「梅雨でーす!」
「「「えぇええ?!」」」

 その窓の向こうで、すでに小さくなるまで遠ざかってる梅雨の後ろ姿に、全員が目を丸くした。いぇいいぇーい、良い反応―!

「ちょ、あれって梅雨?!あれ?え、なんで?!」
「あっはっはっは!」

 慌てる静を筆頭に、信じられないものを見たような目を瞬く冬華、洗面台の方と窓の間で視線を往復させる根津、早くも状況を理解したのか感心したような顔を見せるセンセー。
 
「いやー、おもしろー」
「……笑ってる場合ですか。夏希、梅雨さんが外に出たの、気付いてたんですか?」
「んにゃ?気付いたってより、予想してたって感じかなー」

 どこか責めるような視線を向ける冬華ににんまりと笑ってみせる。
 うんうん、ここらへんが冬華の甘いとこだよなー。

「あのね、みんな梅雨の事なめすぎー」

 そう、梅雨は決して甘くない。甘えん坊な普段の言動に惑わされるようじゃまだまだ。
 不思議そうな面々に、あたしはニヤリと笑う。

「あの春人の妹で、あたしと秋斗の妹分で、なにより秋斗を小さい頃から見てきた子だよー?見た目や言動通りの子なワケないじゃんか」

 そう。幼いともとれる言動や素直さ、甘えん坊な面を見せる梅雨は、周りから可愛がられる。 けどそれは言い換えれば、庇護の対象として見くびられがちだとも言える。志岐高の暇人どもの中じゃ『皆の妹』とか呼ばれる事もあるくらいだ。
 そんなはずがあるもんか。
 侮ることなかれ。
 春人ばりのハイスペックを持ち、あたしとスポーツで張り合い、秋斗の捻くれた言動さえもほぼ完全に読み切る。
 そしてあたしら3人の背中を見て、混じって遊び、置いていかれる事はおろか時にあたし達の度肝を抜く事すらある、長く一緒に過ごしてきた可愛い妹分。

「はっきり言って、秋斗との距離はあたしとほぼ変わらないくらい近いんだからねー?おまけに秋斗に似て、ここぞの行動力はすごいよー?」

 並んだ顔が青くなったのを見て、あたしは今日一番の笑顔を見せた。

「あ、ちなみに三位は冬華、四位はセンセーね。次が静で最後が根津―」
「え、冬華先輩はともかく、先生四位なんですか?!あたしじゃなくて?!」
「え、わ、私?!」
「秋斗の単純な好みでいえばドンピシャに近いしなー」
「ふ、ふ、不純だーっ!」
「ちょ、根津さん?!なんて事言うのかしら?!」

 まぁ実はここで特筆すべきは冬華なんだけどねー。
 あの秋斗相手に短期間でこまで入り込めるのは、はっきり言って異常。あたしも春人もビックリさせられたもんなー。
 順位付けなんてお遊びはしたけど、あくまで現時点の話。この先は……これまでのペースを見れば、冬華が追い上げる可能性は高い。

 まぁ十分楽しめたし暇も潰せたし?時間稼ぎも済んだから一挙公開したワケで。
 ぎゃいぎゃい騒がしい声を楽しく聞きつつ、窓の外からもう見えなくなった背中を眺める。

「……ま、散々我慢したみたいだし、こんくらいはね。どうせ秋斗も断れないだろーし、楽しんどいで」

 可愛い妹分へのご褒美はあげないとねー。周りが各々攻めてる時もずっと我慢してたしさ。
 
 あ、肝心なこと伝え忘れてたなー。
 へへ、あたしだってどうなるか分かんないもんね?梅雨、あんたも油断……しないか、あの子は。

「良い忘れてたけどさー。あたしも気が変わったら参戦するからねー?」
「「「?!」」」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「アキくんっ!!」
「おぉわっ?!え、梅雨?なんでいんの?」
「デート行こっ!今からっ!」
「いきなり?!どうした梅雨。てか仕事中なんですけど……」
「早く早くぅ!ねぇお願いっ!お願いお願いっ!ね、今日だけっ!」
「人の話を……あーもう分かったっての。ちょっと待ってろ」
「え、ほんとっ?わーいっ!えへへ、アキくん大好きっ!」



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