学校一の嫌われ者が学校一の美少女を拾ったら
51 これからの目標
「……俺が家族を壊したんだ」
そう。俺が壊した。 いまだに後悔はある。あの時に戻れれば、と考えた事なんて数えきれない。
もっと上手くやれたんじゃないか。いや、そもそも間違いでしかなかったんじゃないか。
ただ暴力に屈したくなくて。
それを母さんや姉さんに向ける親父が許せなくて。
でも、結局俺のやった事は親父と変わらないんじゃないか、と。
……まぁ、なのに何で謝られなくちゃいけないのかと混乱してるワケなんですが。
「こら、勝手にまとめないの」
俺の説明じゃ誤魔化されてくれない冬華は、またもや俺の頬を両手で挟み込む。
「それ、悪い癖。後悔してるんだと思うけど、だからって1人で勝手に決めつけちゃダメ」
あー……うん。なんかもうアレだ、敵わないな。
そう思うも、やはり悔しさは微塵もなく、不思議と晴れやかな気持ちだから困ったもんだ。
「ふふっ」
「……母さん?」
さてどうしたものか、と悩んでると、沈黙の中に響いたのは母さんの小さな笑い声だった。てかほったらかしでしたね、すんません。
冬華と一緒に視線を向けると、顔を上げていた母さんは眉尻を下げて口をゆっくりと開く。
「……あのね、冬華ちゃん。秋斗が旦那と争って勝っちゃったを見て、私はその時秋斗を怖がっちゃったの」
「……私もよ」
母さんの説明に、姉さんが短く補足した。
それを聞き、冬華はふむと頷き、これ以上の説明は要らないとばかりに俺に視線を戻した。
「背負い込み癖はその時から、なんだね」
「……さぁ、どうなんでしょ」
「で、秋斗は謝罪を受け取るべきか。いや、受け取る立場なのか悩んでるんだ?」
「……おい春人、お前まさか俺をさしおいて冬華にエスパー伝授した?」
的確すぎる読みに思わず春人を見ると、んなワケあるかと肩をすくめられた。
「……確かにここは秋斗が決めるところだよ。夏希達も口を出さない理由もよく分かった」
「まぁそうだよなぁ……」
「でも私は言う」
「お前すげぇな」
色んな意味で。
いや今日の冬華は飛ばしてますねー。猛スピードでゴーイングマイウェイですわ。
思わず遠い目をする俺に、冬華は小さく微笑む。
「すべき、じゃないの。どうしたいか、でいいと思うよ?」
「………なる、ほど」
悔しい。癪だぞおい。
こんな場の空気なんて欠片も読む気がないようなマイペース女に、まさかこうもしっくりとくる言葉が言えるなんて。
あぁ、でも、うん。そうか、それでいいのか。
「……ありがとな」
「うん。お安い御用」
冬華は目を細めて笑顔を見せてから、頬から手を離した。
やっと自由を得た首を動かして、母さんと姉さんを見る。2人とも真剣な表情でこちらを見ていた。
そんな2人をしばし眺め、俺は俺の「したい」答えを言う。
「許します。つーか怒ってないし、そもそも俺が悪いし」
俺の言葉に、2人は反応を見せない。続きがある事を察してるんだろう。
「ただし、確かにショックだったのはショックだったので代わりにお願いをします」
そう告げると、2人は表情を変えないまま体を強張らせたのが分かった。
それを見ながら言葉を続ける。
「……冬華を勝手に居候させた事、勘弁してください。なんかもうこの流れで怒られたくないっすわ」
「「…………」」
目に見えて母さんと姉さんの力が抜けた。次いで呆れた表情を見せる。いやぁ親娘だねぇ、顔そっくり。
「秋斗……この流れでそれはどうなの」
「冬華だけには言われたくない」
横から飛ぶ声に適当に返してると、母さんは顔を俯けてから肩を振るわせ始めた。
(え、何?怒った?)
思わず姉さんにアイコンタクトで確認するも、姉さんも分からないらしく首を横に振ってる。
思わず中腰になって近急脱出の準備だけしてると、母さんが「ぶはっ」と息を漏らした。
「うふふふっ……も〜笑わせないでよ秋斗ぉ」
「え、あの……お母様?」
「あのね、別に同居の事は初めから怒る気なんてないわよ?」
『え?』
母さん以外の全員の声が揃った。
「当たり前でしょお?人助けをしてる息子を何で怒らなくちゃいけないのよぉ?」
「いやでも、さすがに独断かつ報告なしは勝手すぎたかなー……と」
「そんなの昔からじゃない。秋斗がそういう子だって事くらい知ってるわよぉ。だいたい家賃まで自分で払ってるじゃない」
今更でしょ、とばかりに笑う母さんにさすがに言葉が出ない。
うーむ、息子が無断で女連れ込んで住まわせてるってのに……さすが姉さんの母親と言うべきか、我が親ながら大物というかなんというか。
「まぁ懲りてくれたんなら次からは報告してね?例えば冬華ちゃんと付き合った〜とか?」
「いや、ねぇから」
「え〜何で〜?教えてくれてもいいじゃない」
「いやそうじゃなくて、付き合うとかないだろって」
だって俺だぞ。
母さん、息子の事を理解してると言うならそこらへんも分かってくれ。
俺に付き合うとか無理でしょ。色んな意味でハードル高いわ。
「ふ〜ん。まぁ丁度話題にも出たし、2つ目のお話ね?」
「ん?ああ、何?」
マイペースに話を進める母さんに頷いて促すと、こほんと改まるような仕草をして、にっこりと笑った。
「秋斗……それから紅葉。お母さんからお願いがあるの」
「「……はぁ」」
姉さんも?怪訝そうな表情になる俺と似たような顔の姉さんと目が合った。
「うん。あのねぇ、年頃の子供が浮いた話もないのって寂しくってぇ。だから、2人の恋人が見てみたいなぁ〜って」
あーなるほどね。俺個人ってより『母さんの子供』が対象だから姉さんも含めたワケね。
で、恋人が見たいと。ふんふん、さて恋人ってどこで売ってたっけ?
『えぇええ?!」
さすがに驚愕の声がついて出ちゃった。
姉さんも同じく。何故か俺と姉さん以外のこの場の全員まで驚いてるけど。
「こ、恋人ぉ?俺のぉ?無理だろ普通に。こちとら小学生の頃から春人達以外と関わってないコミュ障だぞ?」
「お母さん、私も無理よ!考えたこともないし!」
「えぇ〜!何でよぉ」
「拗ねんな良い歳して!」
「そうよ、かわいくないわよお母さん!」
「もう、あなた達ったら………立派に成長したと思ったら、度胸もついたみたいねぇ?」
「「すいませんでしたぁ!」」
あれ?なんで無茶振りされた側が謝ってんの?
「いや、でも無理なもんは無理だって。俺と付き合うなんて奇人いねぇよ」
「このバカアキと同列なのはムカつくけど、私も似たようなものよ」
いや姉さんはモテてるだろ。何言ってんのこいつ。我が姉ながらアホなんかな。
そんな呆れた目で姉さんを見ると、何故か姉さんも似たような目で俺を見てた。
「いいから見せてよ〜。ね、お願い?」
「「だからかわいくなーー」」
「お、ね、が、い?」
「「………」」
姉さんとハモると、母さんがにこやかな笑顔のまま目だけ笑わない妙技を披露してくれた。そりゃね、口も閉じるってもんですよ。怖いもん。
しかし一転して、母さんは力なく目を伏せた。
「……あなた達が恋愛とかを避けるのって、きっと私とお父さんのせいでしょ?」
閉じた口は、開けなかった。
「ごめんなさい。小さい頃にあんなDV見てたんじゃ、結婚もその手前にある恋愛もやる気も失せるわよね」
そんな事ないよと言えないのは、図星だったからに他ならない。
きっと姉さんもそうだろう。
まさに母さんの言う通り、あんな事になるくらいなら恋愛なんて要らないと思ってる。
特に俺は、親父の血が流れてる上に、親父と同じ事をしてしまった男だ。
もし仮に俺なんかと付き合ってくれた子に、同じ事をしてしまうかも知れないと思うとゾッとする。
言葉を紡げず、逃げるように母さんから目を逸らす。
その先には事情を理解してる春人と夏希が目を閉じて黙る姿と、事情を知らなかった冬華と梅雨が気まずそうに俺を見ている姿があった。
その2人からも逃げるように目を逸らし、彷徨った視線はテーブルに落ちた。
「……そうよね、私のせい。だから言わずにいたわ」
「………っ」
違う、と言いたかった。母さんが背負う必要なんてない。俺が勝手にそう思ってきただけだ。
そんな言葉に詰まる俺に、母さんは一転して声音を変える。
「でも〜、やっぱり子供と恋愛トークできゃっきゃしたいのぉ〜!ねぇお願い〜!許してぇ?」
「「………」
がくん、と一気に肩の力が抜けた。きっと良い意味でじゃない。
「……あ、相変わらずだなー…」
さすがの夏希も苦笑いでそんな事を呟く。うん、なんかごめんね。
「……秋斗」
場の空気を口を開く度に変える母さんは、今度は真剣な気配を見せた。
「秋斗はお父さんと違って、親しい相手に絶対暴力を振るったりしないわ」
「………分からないだろ」
俺の考えを読んだかのような発言に、内心驚く。しかし母さんは首を横に振った。
「いいえ、分かるわ。秋斗は痛みを受ける事も、痛みを与える怖さも知ってるもの」
そう言って、母さんは身を乗り出して手を伸ばし、俺の頬を軽くぺちんと叩いた。びっくりしたわ、何だいきなり。
「ほっぺ、痛くないでしょお?でも気持ちは動揺したわよね?……暴力って、体だけじゃなくて心も痛いの。それを秋斗は知ってるから、大事な人には絶対しない」
「……ケンカ売られたら割とボコボコにしてるけど」
「じゃあ例えば夏希ちゃんを殴った事はある?」
「……………ないけど」
記憶を遡ってみたけど、ないな。
「軽いチョップやデコピンとかもほとんどないはずよ」
「………そうだっけ?」
「んー、そうだな。言われてみりゃ確かにないかも」
夏希に確認しても頷いてるし、まぁそうらしい。
「ほらね、大丈夫よ。だから、心置きなく恋愛を楽しみなさい?」
「いや、でも」
「それに、やる前から逃げるなんて秋斗らしくないわよぉ?もうビビっちゃってぇ〜」
「は?」
「ふふっ、体ばっかり大きくなっても、まだまだかわいいわねぇ〜、よしよししてあげる!」
「あ?」
え、この流れでまさかの煽りですかお母様?
「仕方ないわねぇ、お母さんが一から横について教えてあげるわよぉ?ほら、それなら怖くないでしょお?世話が焼けるんだから〜」
「………待て、母さん」
「だってもう避ける理由もないのにモジモジとびびっちゃうんだもんねぇ。も〜、私に似て内気で臆病なんだから〜」
このこの、とか突く母さん。いやアンタのどこが内気だ、と呟く姉さん。
しかしそんなもんはどうでもいい。
「……母さん、誰がびびってるって?」
「あ〜き〜とっ!というより他にいないじゃない?ここにいる子達は、秋斗以外びびりなんていないもの」
つい声が低くなる俺に構わず、母さんは微笑ましそうに笑ったまま俺の額を突いてすら来る。
「びびってなんかねぇよ」
「うふふふっ、かわいいんだから〜。いいのよ、無理しなくて。ビビり……じゃなかった、秋斗にはまだ早かったわよねぇ。お母さん反省〜、ごめんねぇ?さっきのは忘れて?」
あーはいはい、カチンときましたー。
「びびってねぇよ!恋人見せりゃいいんだろ?!」
「うん、そうよぉ?適当じゃなくて、ちゃ〜んと好きな子のね」
「やってやるよ、見てろよ?!」
「ふ〜ん?まぁ期待せずに待ってるわぁ。期待せずに〜」
「2回言うな!」
「あ、紅葉は……その、ごめんねぇ」
「……ちょっと、何謝ってんのよお母さん」
「ううん、何でもないのぉ。言ったら泣いちゃうかも知れないしぃ。ちっさい頃すぐ泣いてたもんね〜」
「ちょっと母さん?この年で泣くワケないでしょ!何よ、言ってみなさいよ」
「えぇ〜……そう?あのね。私、紅葉と違って学生の頃、すっごくモテモテだったの」
「はぁ?だから何?」
「でも私似なのに紅葉はモテないんだなって〜……それって、遺伝子じゃなくてあなたの力不足だよねって」
「……な、何が言いたいワケ?はっきり言ってよ、ねぇお母さん?」
「おまけに私が学生の頃より頭よくて運動できて生徒会長までしてるのに、それでもモテないって……紅葉ちゃんやば〜い!」
「ふふっ…………そのケンカ、買ったわ」
「え〜、どうせ私と違ってヤンチャな紅葉ちゃんだしぃ、適当な男の子を脅して連れてきそ〜。ちゃんと好きな相手連れてこれる?連れてこれなくて泣かない?」
「あーもうっ、うるさい!ちゃんと文句なしの彼氏つれてくるから黙りなさい!」
「……す、すごいお母様ですね……なんというか、演技には見えない煽り方というか……。演技、ですよね?」
「うん。半分程度は本音なんだろうけど、それを上手く全面に出してる。だからこそこの2人を簡単に手玉にとれるんだろうね」
「そうなのっ、あの2人を手玉にとれるのって千秋さんくらいだよ!味方につけたら最強だよっ!ただ……マイペースすぎて味方につけるのが大変なんだけどね」
「あー……むしろこっちが揶揄われたりなー…」
「夏希姉、よく千秋さんに揶揄われてるもんねっ」
「おっと、梅雨もじゃないか。味方につけるって息巻いて挑んでは揶揄われるだろう?」
「……私も、挑むべきなんですかね」
「おー、応援するよー?まぁあたしじゃアドバイスは出来ないけどなー…」
「2人とも〜、せいぜい頑張ってね〜。無理だったらお母さんが慰めてあげるからぁ」
「「子供扱いするな!」」
そう。俺が壊した。 いまだに後悔はある。あの時に戻れれば、と考えた事なんて数えきれない。
もっと上手くやれたんじゃないか。いや、そもそも間違いでしかなかったんじゃないか。
ただ暴力に屈したくなくて。
それを母さんや姉さんに向ける親父が許せなくて。
でも、結局俺のやった事は親父と変わらないんじゃないか、と。
……まぁ、なのに何で謝られなくちゃいけないのかと混乱してるワケなんですが。
「こら、勝手にまとめないの」
俺の説明じゃ誤魔化されてくれない冬華は、またもや俺の頬を両手で挟み込む。
「それ、悪い癖。後悔してるんだと思うけど、だからって1人で勝手に決めつけちゃダメ」
あー……うん。なんかもうアレだ、敵わないな。
そう思うも、やはり悔しさは微塵もなく、不思議と晴れやかな気持ちだから困ったもんだ。
「ふふっ」
「……母さん?」
さてどうしたものか、と悩んでると、沈黙の中に響いたのは母さんの小さな笑い声だった。てかほったらかしでしたね、すんません。
冬華と一緒に視線を向けると、顔を上げていた母さんは眉尻を下げて口をゆっくりと開く。
「……あのね、冬華ちゃん。秋斗が旦那と争って勝っちゃったを見て、私はその時秋斗を怖がっちゃったの」
「……私もよ」
母さんの説明に、姉さんが短く補足した。
それを聞き、冬華はふむと頷き、これ以上の説明は要らないとばかりに俺に視線を戻した。
「背負い込み癖はその時から、なんだね」
「……さぁ、どうなんでしょ」
「で、秋斗は謝罪を受け取るべきか。いや、受け取る立場なのか悩んでるんだ?」
「……おい春人、お前まさか俺をさしおいて冬華にエスパー伝授した?」
的確すぎる読みに思わず春人を見ると、んなワケあるかと肩をすくめられた。
「……確かにここは秋斗が決めるところだよ。夏希達も口を出さない理由もよく分かった」
「まぁそうだよなぁ……」
「でも私は言う」
「お前すげぇな」
色んな意味で。
いや今日の冬華は飛ばしてますねー。猛スピードでゴーイングマイウェイですわ。
思わず遠い目をする俺に、冬華は小さく微笑む。
「すべき、じゃないの。どうしたいか、でいいと思うよ?」
「………なる、ほど」
悔しい。癪だぞおい。
こんな場の空気なんて欠片も読む気がないようなマイペース女に、まさかこうもしっくりとくる言葉が言えるなんて。
あぁ、でも、うん。そうか、それでいいのか。
「……ありがとな」
「うん。お安い御用」
冬華は目を細めて笑顔を見せてから、頬から手を離した。
やっと自由を得た首を動かして、母さんと姉さんを見る。2人とも真剣な表情でこちらを見ていた。
そんな2人をしばし眺め、俺は俺の「したい」答えを言う。
「許します。つーか怒ってないし、そもそも俺が悪いし」
俺の言葉に、2人は反応を見せない。続きがある事を察してるんだろう。
「ただし、確かにショックだったのはショックだったので代わりにお願いをします」
そう告げると、2人は表情を変えないまま体を強張らせたのが分かった。
それを見ながら言葉を続ける。
「……冬華を勝手に居候させた事、勘弁してください。なんかもうこの流れで怒られたくないっすわ」
「「…………」」
目に見えて母さんと姉さんの力が抜けた。次いで呆れた表情を見せる。いやぁ親娘だねぇ、顔そっくり。
「秋斗……この流れでそれはどうなの」
「冬華だけには言われたくない」
横から飛ぶ声に適当に返してると、母さんは顔を俯けてから肩を振るわせ始めた。
(え、何?怒った?)
思わず姉さんにアイコンタクトで確認するも、姉さんも分からないらしく首を横に振ってる。
思わず中腰になって近急脱出の準備だけしてると、母さんが「ぶはっ」と息を漏らした。
「うふふふっ……も〜笑わせないでよ秋斗ぉ」
「え、あの……お母様?」
「あのね、別に同居の事は初めから怒る気なんてないわよ?」
『え?』
母さん以外の全員の声が揃った。
「当たり前でしょお?人助けをしてる息子を何で怒らなくちゃいけないのよぉ?」
「いやでも、さすがに独断かつ報告なしは勝手すぎたかなー……と」
「そんなの昔からじゃない。秋斗がそういう子だって事くらい知ってるわよぉ。だいたい家賃まで自分で払ってるじゃない」
今更でしょ、とばかりに笑う母さんにさすがに言葉が出ない。
うーむ、息子が無断で女連れ込んで住まわせてるってのに……さすが姉さんの母親と言うべきか、我が親ながら大物というかなんというか。
「まぁ懲りてくれたんなら次からは報告してね?例えば冬華ちゃんと付き合った〜とか?」
「いや、ねぇから」
「え〜何で〜?教えてくれてもいいじゃない」
「いやそうじゃなくて、付き合うとかないだろって」
だって俺だぞ。
母さん、息子の事を理解してると言うならそこらへんも分かってくれ。
俺に付き合うとか無理でしょ。色んな意味でハードル高いわ。
「ふ〜ん。まぁ丁度話題にも出たし、2つ目のお話ね?」
「ん?ああ、何?」
マイペースに話を進める母さんに頷いて促すと、こほんと改まるような仕草をして、にっこりと笑った。
「秋斗……それから紅葉。お母さんからお願いがあるの」
「「……はぁ」」
姉さんも?怪訝そうな表情になる俺と似たような顔の姉さんと目が合った。
「うん。あのねぇ、年頃の子供が浮いた話もないのって寂しくってぇ。だから、2人の恋人が見てみたいなぁ〜って」
あーなるほどね。俺個人ってより『母さんの子供』が対象だから姉さんも含めたワケね。
で、恋人が見たいと。ふんふん、さて恋人ってどこで売ってたっけ?
『えぇええ?!」
さすがに驚愕の声がついて出ちゃった。
姉さんも同じく。何故か俺と姉さん以外のこの場の全員まで驚いてるけど。
「こ、恋人ぉ?俺のぉ?無理だろ普通に。こちとら小学生の頃から春人達以外と関わってないコミュ障だぞ?」
「お母さん、私も無理よ!考えたこともないし!」
「えぇ〜!何でよぉ」
「拗ねんな良い歳して!」
「そうよ、かわいくないわよお母さん!」
「もう、あなた達ったら………立派に成長したと思ったら、度胸もついたみたいねぇ?」
「「すいませんでしたぁ!」」
あれ?なんで無茶振りされた側が謝ってんの?
「いや、でも無理なもんは無理だって。俺と付き合うなんて奇人いねぇよ」
「このバカアキと同列なのはムカつくけど、私も似たようなものよ」
いや姉さんはモテてるだろ。何言ってんのこいつ。我が姉ながらアホなんかな。
そんな呆れた目で姉さんを見ると、何故か姉さんも似たような目で俺を見てた。
「いいから見せてよ〜。ね、お願い?」
「「だからかわいくなーー」」
「お、ね、が、い?」
「「………」」
姉さんとハモると、母さんがにこやかな笑顔のまま目だけ笑わない妙技を披露してくれた。そりゃね、口も閉じるってもんですよ。怖いもん。
しかし一転して、母さんは力なく目を伏せた。
「……あなた達が恋愛とかを避けるのって、きっと私とお父さんのせいでしょ?」
閉じた口は、開けなかった。
「ごめんなさい。小さい頃にあんなDV見てたんじゃ、結婚もその手前にある恋愛もやる気も失せるわよね」
そんな事ないよと言えないのは、図星だったからに他ならない。
きっと姉さんもそうだろう。
まさに母さんの言う通り、あんな事になるくらいなら恋愛なんて要らないと思ってる。
特に俺は、親父の血が流れてる上に、親父と同じ事をしてしまった男だ。
もし仮に俺なんかと付き合ってくれた子に、同じ事をしてしまうかも知れないと思うとゾッとする。
言葉を紡げず、逃げるように母さんから目を逸らす。
その先には事情を理解してる春人と夏希が目を閉じて黙る姿と、事情を知らなかった冬華と梅雨が気まずそうに俺を見ている姿があった。
その2人からも逃げるように目を逸らし、彷徨った視線はテーブルに落ちた。
「……そうよね、私のせい。だから言わずにいたわ」
「………っ」
違う、と言いたかった。母さんが背負う必要なんてない。俺が勝手にそう思ってきただけだ。
そんな言葉に詰まる俺に、母さんは一転して声音を変える。
「でも〜、やっぱり子供と恋愛トークできゃっきゃしたいのぉ〜!ねぇお願い〜!許してぇ?」
「「………」
がくん、と一気に肩の力が抜けた。きっと良い意味でじゃない。
「……あ、相変わらずだなー…」
さすがの夏希も苦笑いでそんな事を呟く。うん、なんかごめんね。
「……秋斗」
場の空気を口を開く度に変える母さんは、今度は真剣な気配を見せた。
「秋斗はお父さんと違って、親しい相手に絶対暴力を振るったりしないわ」
「………分からないだろ」
俺の考えを読んだかのような発言に、内心驚く。しかし母さんは首を横に振った。
「いいえ、分かるわ。秋斗は痛みを受ける事も、痛みを与える怖さも知ってるもの」
そう言って、母さんは身を乗り出して手を伸ばし、俺の頬を軽くぺちんと叩いた。びっくりしたわ、何だいきなり。
「ほっぺ、痛くないでしょお?でも気持ちは動揺したわよね?……暴力って、体だけじゃなくて心も痛いの。それを秋斗は知ってるから、大事な人には絶対しない」
「……ケンカ売られたら割とボコボコにしてるけど」
「じゃあ例えば夏希ちゃんを殴った事はある?」
「……………ないけど」
記憶を遡ってみたけど、ないな。
「軽いチョップやデコピンとかもほとんどないはずよ」
「………そうだっけ?」
「んー、そうだな。言われてみりゃ確かにないかも」
夏希に確認しても頷いてるし、まぁそうらしい。
「ほらね、大丈夫よ。だから、心置きなく恋愛を楽しみなさい?」
「いや、でも」
「それに、やる前から逃げるなんて秋斗らしくないわよぉ?もうビビっちゃってぇ〜」
「は?」
「ふふっ、体ばっかり大きくなっても、まだまだかわいいわねぇ〜、よしよししてあげる!」
「あ?」
え、この流れでまさかの煽りですかお母様?
「仕方ないわねぇ、お母さんが一から横について教えてあげるわよぉ?ほら、それなら怖くないでしょお?世話が焼けるんだから〜」
「………待て、母さん」
「だってもう避ける理由もないのにモジモジとびびっちゃうんだもんねぇ。も〜、私に似て内気で臆病なんだから〜」
このこの、とか突く母さん。いやアンタのどこが内気だ、と呟く姉さん。
しかしそんなもんはどうでもいい。
「……母さん、誰がびびってるって?」
「あ〜き〜とっ!というより他にいないじゃない?ここにいる子達は、秋斗以外びびりなんていないもの」
つい声が低くなる俺に構わず、母さんは微笑ましそうに笑ったまま俺の額を突いてすら来る。
「びびってなんかねぇよ」
「うふふふっ、かわいいんだから〜。いいのよ、無理しなくて。ビビり……じゃなかった、秋斗にはまだ早かったわよねぇ。お母さん反省〜、ごめんねぇ?さっきのは忘れて?」
あーはいはい、カチンときましたー。
「びびってねぇよ!恋人見せりゃいいんだろ?!」
「うん、そうよぉ?適当じゃなくて、ちゃ〜んと好きな子のね」
「やってやるよ、見てろよ?!」
「ふ〜ん?まぁ期待せずに待ってるわぁ。期待せずに〜」
「2回言うな!」
「あ、紅葉は……その、ごめんねぇ」
「……ちょっと、何謝ってんのよお母さん」
「ううん、何でもないのぉ。言ったら泣いちゃうかも知れないしぃ。ちっさい頃すぐ泣いてたもんね〜」
「ちょっと母さん?この年で泣くワケないでしょ!何よ、言ってみなさいよ」
「えぇ〜……そう?あのね。私、紅葉と違って学生の頃、すっごくモテモテだったの」
「はぁ?だから何?」
「でも私似なのに紅葉はモテないんだなって〜……それって、遺伝子じゃなくてあなたの力不足だよねって」
「……な、何が言いたいワケ?はっきり言ってよ、ねぇお母さん?」
「おまけに私が学生の頃より頭よくて運動できて生徒会長までしてるのに、それでもモテないって……紅葉ちゃんやば〜い!」
「ふふっ…………そのケンカ、買ったわ」
「え〜、どうせ私と違ってヤンチャな紅葉ちゃんだしぃ、適当な男の子を脅して連れてきそ〜。ちゃんと好きな相手連れてこれる?連れてこれなくて泣かない?」
「あーもうっ、うるさい!ちゃんと文句なしの彼氏つれてくるから黙りなさい!」
「……す、すごいお母様ですね……なんというか、演技には見えない煽り方というか……。演技、ですよね?」
「うん。半分程度は本音なんだろうけど、それを上手く全面に出してる。だからこそこの2人を簡単に手玉にとれるんだろうね」
「そうなのっ、あの2人を手玉にとれるのって千秋さんくらいだよ!味方につけたら最強だよっ!ただ……マイペースすぎて味方につけるのが大変なんだけどね」
「あー……むしろこっちが揶揄われたりなー…」
「夏希姉、よく千秋さんに揶揄われてるもんねっ」
「おっと、梅雨もじゃないか。味方につけるって息巻いて挑んでは揶揄われるだろう?」
「……私も、挑むべきなんですかね」
「おー、応援するよー?まぁあたしじゃアドバイスは出来ないけどなー…」
「2人とも〜、せいぜい頑張ってね〜。無理だったらお母さんが慰めてあげるからぁ」
「「子供扱いするな!」」
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