学校一の嫌われ者が学校一の美少女を拾ったら

みどりぃ

47 同種の後輩

 夏休み。
 多くの学生にとって年間で最大級の長期休暇であり、季節も相まってはしゃぎがちな時期でもある。
 そんな夏休みの中、すでに一週間ほど自室にこもりっぱなしだった。

「あの、秋斗。ご飯出来たよ」
「ん、あぁ……もうそんな時間か」

 やっている事といえば、ひたすらにパソコンと向き合っていた。
 こうして冬華に声をかけられる時と風呂トイレ以外、ほとんど。
 それにしても最初こそ面倒で厄介だった冬華の居候だが、こういう時は何もせずに美味い飯にありつけるので正直すごく嬉しい。

「少し早めの昼食だし、軽めに素麺にしたの」
「そか、ありがと……って薬味いっぱいあんのな。うまそ」

 自室からリビングに移動すると、食欲を刺激する薬味やつゆの香りが鼻をついた。
 それに誘われるように席につき、手を合わせて箸をとる。

 いつも俺が座る場所には複数の薬味が置かれ、テーブルの中央にはゆがいた素麺がこんもりと盛られて置かれている。

 よし早めに食べるか。
 でないと、すぐになくなってしまう。

「あーうまー!いいなー秋斗ぉ、毎日こんな飯食えてさー」
「あのなぁ……だったら夏希んちに居候させりゃいいだろ。つか夏希ぃ、お前遠慮って知ってる?飲み物みたいな勢いで食ってんじゃねぇよ」

 夏希の勢いに盛られている素麺は早送りのようになくなっている。
 負けじと箸を伸ばし、薬味とからめて口に放り込んだ。

「おぉ……?わさびって意外とアリだな」
「ぅえ、マジー?あたしは苦手だったなー」
「それなら良かったです。夏希はごめんなさい、私の好みで置いてしまって」

 冬華も夏希の勢いにヒいてるのか、苦笑いを浮かべつついそいそと素麺を確保していた。
 それからそう時間もかからず完食し、お茶を啜っている。

「あーごちそーさん!冬華ありがとなー」
「いえ……多めに茹でておいて良かったです」
「本当にな。半分近く食べやがって……あ、そうそう。夏希、終わったぞ」
「おっ、お疲れー」

 お得意様の依頼もしつつだが、主にまとめて渡された夏希の動画の編集がこの一週間の内容だったりする。
 それをやっと今日の昼前に終わらせて、色々とまとめたり整理したりして今を迎え立ってワケだ。つっかれたぁ。

「いやマジでお疲れだわ。まとめて寄越すなよ」
「仕方ないじゃーん。最近サボってたから取り戻さないといけなかったしー」

 夏希は配信する動画を常にストックしておくタイプだが、それがここ最近のゴタゴタで尽きかけたらしい。
 それを夏休み2日目――今日から5日前にまとめて渡してきて、何故かそのままこの家で過ごしている。
 つまり5泊している。自由人かよ。

「はいはい。まぁこれでやっと俺も夏休みを満喫できるわ」
「おっ、それじゃどっか遊びにでも行こーよ」
「えー、めんどい」
「ダメー、却下ー!なー冬華、どっか行きたいとこないー?」
「そうですね……せっかくの夏ですし、それっぽい事もしたいですよね」

 あっさりと切り捨てられた俺の意見を他所に、女子2人は盛り上がっていく。

 楽しげに笑う2人を見るに、随分と仲良くなったらしい。
 1学期の頃も仲良くはしてたが、どうやら最近の連泊で仲を深めたみたいだな。

「じゃーさ、プールか海とかどーよ?」
「良いですね。あ、でも去年の水着、多分もう入らないんですよね……」
「ほほー、また大きくなったんだー?」
「何ですか、別にいいじゃないですか……というか夏希に言われても嫌味にしか聞こえないんですけど?」
「え、ちょ、ごめんってば。睨まないでよー」

 微妙に反応しづらい会話やめてくれません?
 置いてけぼりのまま入るに入れずにお茶のおかわりをコップに注ぐ。

「ま、まーまー。ほら、水着プレゼントするからさー」
「え?いやダメですよ、自分で買いますから」
「却下でーす。ここ最近美味い飯食べさせてもらったしー。あと部屋も使ったしねー」

 ふむ。要するに冬華の懐事情を知ってる夏希は、5泊した事を理由に水着を買うつもりらしい。
 それを冬華も察しているのだろう。
 なんとも言えない表情を浮かべ、それから力が抜けたように溜息をこぼした。

「はぁ……ズルい言い方ですね。秋斗そっくりです」
「えー!それは失礼すぎだっての。秋斗ほど拗れてないしー」
「おい、一番失礼なの夏希だからな?」

 思わず苦言を呈しつつ、お茶を飲む。やっぱ夏は麦茶だよね。

「よーし、んじゃ買いに行こっか。てか秋斗は水着あんのー?」
「あるけど……んん?俺も行くの?」
「え、当たり前じゃん。アホなの?」
「当たり前じゃないだろバカ。めんどくさいから嫌だ」

 なんでわざわざ人が集まる場所に行くのか。暑い上に蒸し暑いだろ。

「そう言わずに行きましょうよ」
「2人で行けばいいだろ?女子同士で楽しんでこいよ」

 追撃が冬華から飛んでくるも、面倒なもんは面倒なんだよ。
 一週間缶詰めだったし、しばらくはのんびりしたい。

「でしたら、しばらく秋斗のご飯は卵かけご飯オンリーですけど良いですか?」
「どこへでもお供させていただきます」

 ……せこい。やり方がせこいぞ冬華…
 そのきょとんとした邪気のない顔が余計に腹立たしい。さっき夏希のことズルいとか言ってたけどお前も大概じゃねぇか。

「ふふ、ありがとうございます。では出掛ける準備をしてきますね」

 楽しげに笑って自分用の部屋へと向かう冬華を恨みがましく睨んでおく。
 そんな俺を他所に軽やかな足取りで部屋に入っていく冬華を見届けて、夏希が俺の肩に手を置いた。

「しっかり胃袋掴まれてんのな」
「……あ、本当だ」

 言われて気付いたわ。




「あっづぅ……」
「それなー……」

 焼き殺しにきてるとしか思えない太陽に内心ブチギレつつ、熱されたアスファルトを歩く。
 夏希は名前に反して暑さに弱いので、勢いよく連れ出したくせに今は俺と同じテンションだ。

「2人ともちゃんと歩いてください。ゾンビですか」

 先を歩く冬華が呆れた様子で俺達に振り返った。
 その時にふわりと髪が舞い、この高温多湿を感じさせない涼やかさを思わせる。
 突き刺すような日差しの中でもその可憐さは一際眩い存在感があった。

「つってもなー……あー髪ジャマいっての」

 俯いていた夏希は顔を上げて煩わしげに髪を払った。
 暑さ対策だと薄着かつ露出の多い服をぱたぱたと引っ張って風を送り込んでいる。
 目を細め、気怠げに流れる汗を拭う彼女はどこか妖しい色気があった。

「……………」

 そんな2人とともに歩く俺。
 どうなると思う?死ぬほど目線に晒されるんだよね。

 ほとんどの男子、そこそこの女子(夏希を見てるようだ)が二度見する勢いで視線を向けてきて、それから俺に敵意または怪訝そうな表情を向ける。
 この流れを幾度にも繰り返しており、俺はショッピングモールに着く前から気疲れしているワケです。

 日差しに加えて視線まで突き刺さる。
 さすがに苛立ちが顔を覗かせるも、会話の合間にたまに見せるこいつらの笑顔のせいかそれも続かない。
 そしてふと思う。知ってたつもりだったけど、こいつらマジで美人なんだなと。

「……二度とお前らと歩きたくない」
「はぁー?なんでだよー、いいじゃんかー」
「そうですよ。そんな事言うと一品抜けますよ?」

 思わず漏れた本心に夏希は肩を叩き、冬華は頬を膨らませる。そして突き刺さる視線に悪意がこもる。
 もうあきまへん。何言っても逆効果だ、黙っとこ。冬華の脅しがリアルだし。

 もしこれが春人だったらこんな悪意も向けられないんだろうなぁ。まぁ集まる視線は増えそうだけど。
 それからしばし歩き、やっと目的地へと到着した。

「涼しー!天国ー!」
「エアコン最高……!」

 夏希と2人で文明への感謝を新たにする。
 冬華は少し肌寒そうにしていた。マジか、信じられない。

「寒がりにも程があんだろ……」
「うるさいです。冷え性なんですよ」

 まぁ夏場の方が冷え性は辛いという話も聞くし、このショッピングモールの空調はキツめだから余計にか。
 ともあれ水着を置いているテナントへと向かう。ちなみに日差しや暑さこそなくなったものの、集まる視線は変わらなかった。

「つーか今更だけど学校のやつらに見られたらめんどくさくならない?」
「ホント今更だなー。大丈夫だっての」
「文句を言われる筋合いはありませんし」

 本当に気にした様子もない2人。
 だったらもういいか、と暑さと気疲れで説得する気力も湧かずに頷いておく。
 それから程なくして水着売場に着いた。

「んじゃ俺も見てくるわ」
「おー。あたしらの水着姿が見たくなったら早く来いよー?」
「え、やっ、その……秋斗のえっち」
「何も言ってないのに風評被害やめてくんない?」

 目立つだけあって、2人の会話を聞いていたらしい周囲から鋭い視線が刺さることこの上ないんですよ。
 逃げるように男性用コーナーに向かい、適当なものを選んで購入。

 数分程で済んだので2人を待つ事になるんだが、先程の会話もあって合流する気が起きない。
 今行ったら「そんなに急いでくるなんてどんだけ見たいんだー?」とか「やっぱりえっちです」とか言われるに決まってるし。

 店内に居るのも気まずいし、出たところで待つとするか。
 夏休みだけあって同年代が多く見られる人通り。その邪魔にならないよう壁に寄り、暇つぶしにスマホを開く。

「あーもうっ、しつこいなぁ!」
「えーいいじゃーん。1人で遊ぶより楽しいって!」
「そーそー!買い物なら金出してあげるからさ!」

 それとほぼ同時に聞こえてくる声。
 分かりやすいナンパである。しかも成功しそうにない。ドンマイ。
 まぁ夏だしね、とか聞き流したいところなんだが、残念な事にそうもいかない。

「友達と来てるんでっ!」

 ナンパされてる方の声に聞き覚えがあったからだ。
 見るまでもなく分かる、長年聞いてきた声。
 
 梅雨のものだ。

「いいからいいから!お友達と一緒にさ!金ならあるしさー!」

 スマホから視線を動かすと、大学生くらいの大柄な男が2人。
 それらに囲まれて平均より小さめの身長の梅雨の後ろ姿が見える。

 背中越しでも伝わる梅雨のうんざり具合からして、かなりしつこく絡まれてるみたいだな。
 それにしても大学生って金持ってんのな、とか思いながら足を向けると、視線の先で割り込むように現れる姿が見えた。

「え〜、そんなにお金あるなんてかっこいいですねぇ〜」
「おっ?だろー!ってかお友達も超かわいいじゃん!」
「ねぇねぇ、君のお友達がノリ悪くてさー、君も説得してくんない?」
「あははっ、この子は真面目なんでぇ」

 梅雨よりもほんの少し背の高い、甘ったるい話し方をする少女、静だ。
 梅雨と仲良しって話だし、まぁ居ても不思議じゃないわな。

「でもでも〜、この子今から家族との用事があってぇ。警察のお父さんとか来るみたいなんですよぉ」
「へ、へぇー、そうなんだ。じゃあそれまでに……」
「だから〜、あたしだけじゃダメですかね〜?」
「ちょ、静っ?!」

 ……ふーん?

「おっ、そうねー、いいよいいよ!大歓迎!」
「それじゃ行こっか!そっちの子の家族が来ちゃ邪魔になっちゃうしねー」
「はーい!」
「え、待ってよ静!ねぇってば!」

 梅雨にさらりと背を向けて歩き出す静に、囲むように大柄の男2人が並ぶ。
 ありゃま、ナンパ成功じゃん。

「よぉ梅雨。元気?」
「えっ、あ、アキくん?!なんでここに……ってそれより静が!」

 声をかけると驚いたような顔を見せた梅雨だが、すぐに悲壮な顔を浮かべた。

「なんかナンパについてったな。ぶりっこだけあって男を転がすのが上手いのな」
「違うよっ!」

 見ていた感想を述べると、梅雨は憤りを見せた。

「静はそんな子じゃないんだよっ!普段の態度はそう見えるかも知れないけど、自分から男子に積極的に絡んだりしないもん!」
「へぇ、意外」

 腹黒のぶりっ子。普通に考えるなら男を手玉にとる為の仮面だと思っていた。
 けどまぁ梅雨か違うってんなら違うんだろう。
 となればナンパが成功した原因はーー

「きっと、わたしを助ける為だよ……」

 まぁそうなるわな。

「普段からこんな真似してんのかあいつは」
「違うよ、普段なら一緒になって追い返そうとするはずだもん。だからわたしもびっくりしてるし……」

 ふーん?さっきも少し違和感があったけど、もしかしたらもしかするのか?嫌だなぁ。

「そっか。ならまぁ一応様子見てくるから、梅雨はあそこの水着売場に避難しとけ。夏希と冬華がいるから」
「……ありがと、アキくん…………って水着?!夏希姉と冬華さんと?!ってアキくん話は終わってないよー?!」

 何やら後ろで叫ぶ梅雨をスルーして静達が向かった方へ歩く。
 クーラーの涼しさを押し返す程の人の群による蒸し暑さを感じながら、人の隙間を縫うように歩いていると……見えた。

「あっ、ごめんなさ〜い!ちょっとお花を摘みに行ってもいいですかぁ?」
「いいよー!なんなら一緒に多目的トイレにでも行くー?」
「ちょっ、お前それはないわー!」

 本当にないわー。 男の内1人は静の背中に手を置き、もう1人は静の前に立って後ろ向きに歩きながら会話をしている。
 人の多い中で危ないし邪魔な歩き方や、大きな声のせいで周囲からの視線は冷たい。

「やー、普通に女子トイレ行きますって〜。じゃ、行ってきますね〜」
「あ、ついてくよ。物騒だしねー、入り口で待ってるからさー」
「あ、あはは。じゃお願いしちゃいましょうかね〜……あ、トイレ行き過ぎてますねぇ」

 言いつつ振り返った静と目が合う。
 いつもなら空気を読んで邪魔にならないよう無視するところだが、梅雨の言ったように明らかに逃げようとしている以上、そうもいかない。

 驚いたように振り返った体勢で固まる静を不審に思ったのか、両脇を固める男2人が怪訝そうな顔になって静の視線を追う。
 
「よぉ、探したぞ」

 集まった三つの視線を受けながら、静だけを見て口を開いた。
 それでハッとした表情を見せる彼女に言葉を重ねる。

「お友達と別れた後は俺と会う予定だったろ?何ほっつき歩いてんだ」
「あ〜、ごめんなさぁい。ちょっと時間余ったから散歩がてらですね」
「はいはい。分かったから行くぞ」
「は〜い。あ、お二人ともごめんなさい、あたしもここで抜けますね〜」

 するりと男の手から離れてこちらに駆け寄ろうとする静。だが、それよりも早く男に腕を掴まれた。

「えー、いいじゃんあんな冴えない男ほっといてさー」
「そーそー。こっちの方が楽しいって!」

 冴えなくてすんませんねぇ。呆けていた男も復活して静を囲みにかかる。
 ちらと見えた静の顔が面倒くさそうに歪んでいた。いや素出ちゃってるよ。

「まぁまぁ、親切にしてくれたみたいっすけど先約なんでね。離してやってくださいや」

 静がブチギレる前にさっと近付きせいっと彼女に置かれている手を払ってほいっと手を掴んで引き寄せる。
 そこでやっとまともに俺の方を見た男達は、同じくやっとまともに視認しようとする俺と目が合う。

「……?ん?え、ちょ、おま、まさか?!」
「こ、こここいつ……お、大上?!」

 男2人は目を剥いて唾を散らす。きったね。
 静を抱えて射程圏内から離れて、俺も2人の顔を記憶から漁る。が、ヒットしてくれない。

「……先輩、知り合いなんですかぁ?」
「……………いや、思い出せないんだけど」
「はぁあ?!おまっ、マジかこいつ!」
「去年の春にてめぇが暴れ回った時に居ただろうか!」

 去年の春……あぁ、河合にカツアゲしてた上級生か?そーいや同時3年だからもう大学一年になるもんな。

「あ、その節はすんません。んじゃまた」
「あ、待てやコラ!」
「ただで帰れると思うなよ大上ぃ!」

 さっさと帰ろうとしたが、やはり許してはくれないらしい。
 臨戦体勢に入ってるらしく、指をポキポキ鳴らしながら歩いてくる。

「……あん時より人数少ないのに、やんのか?」

 なので少し圧がかかればと思って声音を下げて睨んでおく。
 春人や夏希のように分かりやすく威圧をかけれないけど、まぁ真似事みたいなもん。むしろ幼馴染2人は何物なのか。
 にわかの真似っこだけど、それでも多少効果はあったのか男達かたじろぐ。

「……それでもやるってんなら受けて立つ。ここじゃ目立つからショッピングモールの裏に来い……先向かってるから、逃げたきゃ逃げていいぞ」

 その隙をついて一言残し、静を連れて背を向ける。
 身構えて、言い換えれば待ちの体勢になった2人は追いかけてくる事なく無言で見送ってくれた。
 そのまま無言でしばらく歩いて、それからゆっくり口を開く。

「で、何やってんのお前」
「……うるさいです」

 俺の文句に不貞腐れたように唇を尖らせる静。
 普段の人当たりの良さや甘ったるいぶりっ子もない、突き放すような態度で悪態だけついて黙り込む。

 沈黙。何気に静といて初の沈黙かも。こいついっつも喋ってるし。
 思えば気を遣っての事なんだろうな。
 大抵の人は沈黙よりも会話が弾んだ方が良いだろうし。

 ぶりっ子もそれが理由かも。
 まぁあくまで一部だろうけど、それでも少なからず『周りの為に』ぶりっ子してる事になる。

 うーむ……やっぱ色々考えて、割と似てる部分があるんかも。
 となれば、先程のやつも梅雨が言うように自分だけを犠牲にして助けようとしたと見て良さそうだ。となれば言う事はひとつ。

「……ヘタクソ」
「っあぁ〜〜っ!やっぱ言ったぁ!ひどいですよ先輩ぃ!」

 頬を膨らませてペシペシと俺の腕を叩く静に、溜息混じりに言う。

「出たなぶりっ子。落ち込んでる時までよくやるわ」
「っ……はぁ。やっぱ先輩相手だと調子狂っちゃいますねぇ」
「……まぁ、多分タイプが似てるからだろ」
「あ、ですよね。やっぱそう思います?」

 静も同じ考えらしく、納得したように頷いている。
 
「お互い嘘つきだしな」
「おまけに恥ずかしがり屋で強がりですしねぇ」
「………だな。こりゃ思った以上に似てるかもなぁ」

 言いにくかったであろう部分もあっけらかんと言い放った静に内心驚きつつ、そんなとこまで似てるのかと呆れもする。 同時にまるで自分の見たくない部分を曝け出されたような気がして落ち着かない。

 いっそ同族嫌悪でもしそうなもんだが、力の抜けた笑みをで見られるとその気も起きないらしい。
 むしろ俺まで力が抜けた。ぽんと頭を叩き、同じく笑ってみせる。

「ま、何でさっきみたいなやり方したのか知らんけどやめとけ。向いてないし、俺が言うのもなんだけど下策だわ」
「……分かりましたけどぉ。ほんと、それを先輩が言いますか〜?」
「まぁな。けど静の方が容量良さそうだし、もっと上手くやれるだろ」
「それはどうなんですかね。てゆーか頭触らないでくださいよぉ、口説いてるんですかぁ?」
「あ、悪い。梅雨感覚でやってしまった」

 しまった。力抜けすぎて頭のネジも抜けたか?

「悪かった、謝る」
「……いいですよ別に。撫でるの上手でしたしぃ?てゆーか、梅雨の事可愛がりすぎじゃないですかぁ?」
「あー……長い付き合いで小さい頃から甘えてきたから、なんとなくそのまま甘やかしてる感じかもなぁ」

 これは夏希にも言える事だと思う。どうも甘えん坊で手のかかるイメージが抜けないというか。
 今やむしろハイスペック高校生なのは分かってるんだけど、どうもね。

「へぇ〜、それなら仕方ないんですかね。でしたらぁ、あたしも同じように甘やかしてもいいですよ?」
「なんでそうなるんだよ……」
「いいじゃないですかぁ。可愛い後輩がこんなに甘えてるんですよ〜?」
「可愛い……?」
「むむ、可愛くないですかぁ?!先輩の真似までしちゃうくらい慕ってるじゃないですか〜?!」
「……は?さっきのあれってお前の持ちネタじゃなくて俺の真似だったの?」
「…………あ」

 思わず指摘すると、静としても失言だったらしくポカンと口を開けた間抜けな顔で固まった。
 それから数秒見つめ合う形で黙ってると、静の顔が一気に赤く染まった。

「う、嘘ですって!冗談、冗談ですよぉ!ほら、そう言ったら可愛く見えるじゃないですかぁ?どうですか、可愛かったですかぁ?!」
「今更そんな苦しい嘘が通じると思う?」
「………うぅっ、不覚です。忘れてください…」

 ぶりっ子な甘ったるい話し方すらなく、赤い顔を隠すように俯いている。
 というかこいつ、ぶりっ子しない方が可愛くない?

「あー……善処します」
「それ結局忘れないやつぅー!」

 顔を隠したいのか俯いたまま頭で俺の腕をぐりぐり押してくる。
 そのせいでこいつは気付いてないだろうけど、周りからほっこりとした視線が凄い。
 それでいて男子からは見惚れたような視線も飛んでるあたり、やっぱり可愛いんだろう。

「ま、もうすんなよ?今回は良かったけど、毎回俺が近くにいるとは限らんし」
「……それって、近くに居たら……」
「んん?わるい、なんて言った?」

 俺の聴覚でも聞き取れない小声に聞き返すと、静は一拍置いてから顔を上げる。

「似てると思ったんですけどぉ、先輩ってあたしよりタチ悪いですよね〜」
「なんでだよ……」
「あはははっ!先輩にはどうせ分からないですよーだっ」

 言葉に反して、見せる表情は少し赤みを帯びた嬉しそうな笑顔。
 それに伴ってか、周囲からの視線に敵意が混じった。またかよ……

 ふと思う。
 いや今更なだろうけど、俺の周りの女子ってモテる奴ばっかな気がしてきた。


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