学校一の嫌われ者が学校一の美少女を拾ったら

みどりぃ

34 焼肉

「し、しんど……」
「腹減るどころか、胃が受け付けなくなるぞこれ……」

 バドミントンを終えた俺達は、休憩スペースで全員ダウンしていた。もう足ガックガクですわ。

「あはは……本気出しすぎたね」
「……だな」

 あれから個人戦にまで発展した。 順位?言うまでもなく春人が1位。あとは2位が姉さん、3位が夏希、そして梅雨、俺、冬華、静、河合、根津の順だ。
 バドミントンの得意不得意というより、スポーツに対する単純な性能差が順位に現れた形だと思う。いや静だけは戦法か、すげぇ性格の悪い攻め方だったな。

「しっかし、梅雨のやつも成長してたなぁ。前までどうにか勝てたのに」
「えへへ、アキくんの身体能力ゴリ押しの対策は夏希姉を見ればいいからねっ」
「お、そこであたしの真似をするとは見る目あるなー」

 くそ、めっちゃ悔しい。妹分に負けるとは。
 けど、梅雨のスポーツ神経ならいつか勝てなくなるのは分かってた。
 というかこの身体能力差で負けるとか俺どんだけ球技ダメなんだ。

「ふふ、まぁ秋斗は練習すればちゃんと上達するからね。ある程度のレベルまでいけば大抵の相手には負けないよ」
「そこまでが大変なんだけどな。バレーとかもフェイントとレシーブに絞ってアレだったし」

 みっちりと春人に叩き込まれーーつつ、試合形式を繰り返しては春人が楽しんでたけどーーどうにか人並みに毛が生えた程度だ。
 そんな会話を聞いて、冬華が首を傾げた。

「そうなんですか?猪山さんのブロックを崩したスパイクは練習したものではなかったんですね」
「あー、あれすごかったもんね!音も大きくて、僕ボールが壊れたかと思ったもん!」

 宇佐の疑問に河合が感想を添えた。すごかったー、と無邪気に笑う河合、無駄にかわいすぎ。

「あぁ、スパイクだけは練習前から出来てたからな」

 へぇー、と何人かから感嘆とも適当ともとれる相槌が返ってくる。
 けど、姉さんや夏希は肩を竦めて鼻で笑った。

「あー、自分より背の高い相手の頭をぶっ叩くイメージ、だったっけー?」
「アンタ、よくそんなワケ分かんないイメージであれだけのスパイク打てるわよね」

 夏希と姉さんが小馬鹿にしたように言い、それを聞いて周りも呆れ混じりに笑いが起こる。
 
 そんな中、春人だけはなんとも言えない苦笑いで、多分俺もそんな感じなんだろう。

「……?」

 それに気付いたのか、冬華は首を小さく傾げた。
 やべ、冬華って何気に勘が鋭いからな。

「それより、時間的にもうちょい遊べるけどどうする?」
「そうだね。せっかくだし、軽いクーリングダウンがてら気楽に何かしようか」

 適当な話題チェンジを春人が補強する事で全員の意識は切り替わり、各々がのそのそと立ち上がった。
 休憩で結構回復したのか、それらの足取りは意外と軽い。これが若さか。

「っしゃ、次は秋斗に寄せてみるかー?パンチングマシーンとか」
「身体能力がモロに出るゲームかい?さすがに秋斗には勝てる気はしないね」
「え〜、それって先輩もしかして脳筋って事ですかぁ?」
「いやそんな事……え、否定出来ない…?」

 軽口とともに移動する俺達。ちなみにパンチングマシーンは一位でした。
 ちなみに伊虎はダントツ最下位だったんだけど「いったぁ〜い」とか言って殴った手をさすってる姿を見るに、ぶりっ子かまして手加減してたんだろうな。
 大上姉弟と志々伎兄妹、夏希以外は微笑ましく見てたワケだし。まぁ俺らは苦笑いだったが。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「っっしゃぁあああ!食うぞぉー!」
「おおぉお!」

 そして焼肉食べ放題のチェーン店に移動した。
 目をギラギラさせた夏希が注文を入力するタッチパネルを連打している。その横から俺も欲しいものを押しまくる。

「バドミントンの後はご飯なんて入らないと思ったけど……」
「……匂いを嗅いでたら、お腹空いてきたし…」

 河合と根津も食う気満々らしく、物欲しそうにテーブル中央の焼き網を睨んでいる。
 それならたくさん注文しないとなー、と夏希と共にタッチパネル連打を加速させる。そりゃもうもはや世紀末で秘孔を突くあのお方ばりに。

「しかし、妙な組み合わせになったな」
「えと、ごめんね。迷惑だったかな?」
「んなワケないだろ、河合。まぁ根津はともかく」
「えっ、ご、ごめんってば……」
「……冗談だ。根津お前、なんか大人しくね?」

 軽口のつもりが、なんかしおらしく謝られた。
 てっきり「はぁ?あんたに言われたくないんだけど?」くらいは返ってくると思ったのに……なんかやりにくいな。

「わ、わたしだって……反省くらいするし」
「あっそ」

 内心でちょっとびっくりしつつ、適当に返す。

 あのワガママ自己中感溢れるギャル崩れみたいな根津がねぇ。
 確かに見た感じだが嘘ではなく本当に反省してるらしい。まぁそれ自体は間違いなく良い事だ。何より何より。

「うぅ……」
「?」

 密かに感心していると、何故か根津はバツが悪そうに更に縮こまった。何故に?
 そんな疑問からなんとなく根津をぼけーと眺めていると、俺の視線に気付いたらしい根津が目を勢いよく逸らし、またこちらをチラッと見て、また逸らして俯いた。顔も赤い気がする。
 
 ……反省しすぎて、挙動不審になってないか?ガラじゃない事するから精神に異常が?

「……根津」
「うぇ?は、はいっ」

 声を掛けると、声を裏返らせながら背筋を伸ばして返事をされた。
 んん、なんか思ってたのと違うし、変にダラダラとイジらずに済ませるか。

「何でこの席を希望した?話があるんだろ?」

 そう。この席――人数が人数なので分かれて、俺、夏希、根津、河合の4人――は、目の前の2人の希望に沿ったものだ。
 俺と話したい事があるらしい。河合はもともとそんな事を言って参加してたからともかく、根津は分からん。
 恨み言や逆ギレでもしてくるかと思ったけど、どうやらこの様子だと違うみたいだし。

「う、うん……あの、えっと」

 ワタワタと慌てた様子の根津に溜息を我慢出来ずにこぼす。
 なんだこいつ?話まとめてから席につけや。
 と、馬鹿正直に言えば更に挙動不審になるのは目に見えてるので、仕方なく待つとする。

「…ふぅ……。えっと、大上…くん、今回の事、ホントにごめんなさい。そして、ありがとうございます」

 やっと落ち着いたらしい根津が、俺の目を見て言葉を紡ぎ、そして最後にゆっくりと頭を下げた。

「―――……」

 思わず目を瞠ってしまった。根津の横にいる河合も目を丸くしている。
 言葉が出ない俺を前に、根津は頭を下げたまま動かない。

「……いつまでやってんだよ。もういいから顔上げろ」
「…………」

 言葉を絞り出してそう言うと、目尻を下げた根津がゆっくりと顔を上げた。しかし視線は下を向いており、ひしひしと申し訳なさが伝わってくる。
 驚いているのが、それらが演技じゃなそうだって事だ。

「……めっちゃ意外。お前、謝れるんだな」
「そっ……れは、うん、はい」

 煽りに近い発言にも、しゅんとした態度のまま。ちなみに俺の発言に小さく河合は同意したように頷いてた。うん、そりゃそう思うよね。
 それほどまでに、根津の今までの言動はひどかったワケだし。

「……まぁ、反省してるみたいだし、俺はもう気にしてない」
「…ほ………ホントに……?」
「あぁ。むしろその態度やめてくんない?調子狂うわ」
「ご、ごめん……」
「いや、だからそれを辞めろって……」

 まぁこれから関わる事もないだろうし、どっちでも良いけど、なんか後味が悪いというか喉に小骨が刺さったというか、そんな感じの心地悪さがある。
 貸し借りナシという話にはなったけど、仮にも冬華の友達だしな……せめてこの態度は辞めさせときたい。

 はぁ。奥の手だが仕方ない、あの手でいくか。

「根津」
「は、はい」
「お前、可愛いな」
「……………………ふぁっ?」

 奥の手のやり方は簡単。ひたすらに褒めるテイで煽るだけ。

 効果は横でいまだにタッチパネルを親の仇の如く突きまくる夏希で立証済みだ。
 こう言えば、確実に顔を赤くする程怒って怒鳴りまくるからな。

「小動物みたいなとこあるよな。ちっさいし、抱きしめたらすっぽり収まりそう」
「え、えっ、え……」
「メイクとかもすげぇよな。いつもバッチリ決まってる。可愛い」
「あの、ちょ、も……」
「なんだそのしおらしさ。ギャップやばいよな、それ反則だぞ」
「っ、う、うぅ……」

 うーん。まだ怒らないのか?意外と忍耐力あるのなこいつ。
 夏希ならもうとっくにーーそれこそ二言目の途中くらいにはーー物理攻撃に転じる頃だってのに。

「ただ、可愛いけどやっぱしおらしいのは似合わないな。いつものお前のが良いと思うわ」
「あぅぅ……」
「ね、根津さん?!」

 あれ?なんか倒れた。
 倒れた方向が河合の方だったから慌てて河合が支えてる。

「……怒りすぎてショートしたか?」
「秋斗ぉ、お前帰ったら話がある」

 首を捻っていると、溜息混じりにこめかみを押さえた夏希が呆れたように言う。
 何だろう、この怒りと反省が入り混じったような溜息は……?

「ん?おう……?」
「はぁ……いや、これあたしも悪いのかー?いや、違う、秋斗がバカだからだよなー。うん間違いない。秋斗が悪い」
「はぁ?」

 流石に唐突にディスられてイラッとするが、ふと視線を感じて隣の席のに目を向ける。

「「「「………………」」」」

 姉さん、梅雨が呆れたような、春人が苦笑い、静は笑顔で目が笑ってなく、冬華はドン引きといった視線を俺に向けていた。

「……な、なんだよ」
「……刺されちゃえ」
「何故に?!」

 宇佐がいつもの敬語すらなく吐き捨てた。
 いや、ここまで来たらなんとなく分かってきた。
 ……多分、さっきの煽り方はあまり良くない方法なんだろう。

「……すまん、ケンカ売りすぎたな。悪かった」
「……う、うんっ…………ん?」

 プルプルと震えたまま縮こまる根津に謝ると、絞り出したような声が返ってきた。
 あまり納得してなさそうだけど、というか途中首を傾げてたけど、まぁ根津も悪かったワケだし、お互い様って事にしとこ。

「……よし、次。河合、どしたよ?」
「この空気で僕に振るの?!」

 至極ごもっともな指摘だが、何故か突き刺さる複数の視線が痛いんだよ!乗ってくれ河合ぃ!

 ちなみに河合の話とは「学校でも普通に話したい」との事。

 反射的に断らろうとして、そう言えば最近似た話をしたなと思い至る。 そのせいか、なんとなくチラと冬華を見ると、くすりと微笑みながら頷かれた。
 
 ……なんか、肩の力を抜かれたというか。あいつの笑顔はどうもタチが悪いらしい。 はぁ。まぁ今更か。こないだ散々言われたばっかだしな。

 そんな事を思いつつ、溜息混じりながらも頷いておいた。
 弾けたような満面の笑みを浮かべて嬉しそうにする河合に、全員から微笑ましそうな生温い視線が集まる。うん、かわいいもんね。男だけど。

 それから怒りを落ち着けて立て直した根津には俺に気を遣うなと告げた。 そもそも謝る相手は俺じゃないからな。ぶっちゃけ根津の謝罪なんて俺からしたらどうでもいい。
 それに根津は「そういう意味できょどってたワケじゃないけど……」と呟きつつも、最後には頷いた。

 笑顔になった河合と根津は、憂いも晴れたとばかりに焼肉はまだかと言い始め、夏希も今か今かとトングを握りしめてる。
 そこにタイミング良く店員さんが注文の焼肉を持ってきてくれた。さすがプロ、片手で何枚皿持ってんだ。

「きたきたぁー!っし、食うか!トングを持て秋斗ぉ!」
「おう、マジで腹減ったわ!今日はとことん食うぞ!火力上げろ夏希!」

 それにテンションが上がる夏希と、匂いと空腹と夏希につられて盛り上がる俺。
 けど、河合と根津は続々と配膳される肉を見て笑顔のまま固まっていた。

 小声で「え、注文ミス……?」なんて聞こえた気がしたが、構わず夏希と食いまくった。
 それを目を丸くして眺める2人。
 いや食えよ、と思ったが、聞けば見てるだけで腹が膨れるとかなんとか。んなワケあるか、食べ放題なんだから食えよもったいない。

 まぁちびちびと食べてたけど、空腹だとか言ってた割にあまり箸が進んでなかったな。まだどこか遠慮でもあるのかね。
 割と早めに箸を置いたなんか2人でこそこそ言ってた。

「うぷ、お腹いっぱいだぁ……この2人、サ○ヤ人なのかな?」
「あの体のどこに……あれで太らないとか詐欺じゃん!」



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