学校一の嫌われ者が学校一の美少女を拾ったら
33 お腹をすかせに
なんやかんなで大所帯じみてしまった打ち上げだけど、行こうと思っていた焼肉屋には辿り着いていない。
というより、別方向に向かっている。
ついでに言えば、1人増えてる。
俺としてはこんなに人が増えたんじゃーーしかも学校で目立つようなやつらばかりーー悪目立ちしそうだし、さっさと済ませたかったんだけど。
そうもいかない状況になっている。
何故か?夏希のせいだ。
『よぉーし、せっかくこんだけ集まったんだしさー。焼肉を美味しくたくさん食うためにも、腹空かせに寄り道しよーよ』
などと供述しておりました。ガチすぎるだろ。
『いいね、乗ったよ。それならぜひ対戦とか出来る運動がいいな。ね、秋斗』
言うまでもなく勝負大好き優等生が乗っかり、俺の意見なんぞ挟む間もなく話が進んでしまった。
それで何をするかどこに行くかと意見が飛び交ってると、河合が『全部出来そうなとこに行くのはどう?』などと言い放ちおった。
結果、学生御用達という俺としては避けたいスポットの総合レジャー施設、通称スポチャに決定。
『すまん、急に体調が悪くなったから俺帰るわ。気にせず楽しんでくれ』
苦し紛れの逃走を図るも、夏希と春人が両サイドから肩を組んできてあえなく失敗。
『すみません、私もちょっと……』
『ん?冬華もダメー。今日はお礼を兼ねたあたしの奢りだし、逃げられると思うなよー?』
『え?いえ、それは悪いですよ』
『悪いも何もないっての。あたしがお礼したいから勝手にすんの。それとも迷惑だったー?』
『……またですか。もう、ずるいですね、夏希は』
『そりゃーな。何年ずるいヤツと一緒に居ると思ってんだよ』
『ふふっ、説得力すごいです』
なんて会話もあった。宇佐が金に余裕がない事を見越しての夏希のフォローだ。
根が優しく、気配りや察知能力の高い夏希らしい。あとずるいヤツってのは春人だと確信してる。
『ほぇ〜、アキくん相変わらずやってるなぁ』
『やってるってなんだよ。いいから下りろよ』
それまでずっと背中に乗ってる梅雨が何か言ってたけどスルー。ちなみにマジでスポチャに着くまで乗ってやがった。
『せんぱーい、あたしも疲れちゃいましたぁ。抱っこしてくださいよぉ』
『春人に頼め』
春人が河合と盛り上がって入り辛いのか、俺にニヤニヤと人を食ったような笑みで絡んでくる。こいつ春人狙いな上に結構遠慮ない性格と思ってたのに意外だわ。それとも春人にだけ空気読むの?
『………』
おまけに根津はずっとだんまりだし。
何?俺のせい?そう思って話しかけてもどもってばかりだし、むしろ話しかけない方が良さそうだったので放置してる。
『あはは、楽しみだね秋斗』
イラッとした。歪ませたい、その爽やかな笑顔。
誰のせいでこんな面倒を……そう思った俺は、ちょっと仕返ししてやろうとスマホを取り出した。
それからしばらくしてスポチャに到着と同時に、
『珍しいじゃない秋斗。あんたが誘ってくるなんて』
我が姉降臨。
固まる春人。
興奮する夏希。
『聞いたわよ?春人、あんた主催なんだって?私をハブにするなんて良い度胸ね』
『い、いえ、そういうつもりじゃ。というより、僕主催じゃな……』
『はいはい、どうせ主導権を握るのはあんたなんだから。冷たいわね、昔はよくーー』
『わぁー!すみません、紅葉さん!ご容赦を!』
そう、俺が知る限り唯一春人のペースを崩せる人物なのだ。
こんな志々伎さん初めて見ました、とか呟く宇佐を尻目に、俺は溜飲を下げて気持ちよくスポチャに乗り込んだ訳だ。
「やってくれたね秋斗……」
「ほぉー?そんな事言っていいのかなぁ春人くん?」
入場早々、梅雨がテンション高めに目についたアトラクションに走っていく。
それを全員で追いかけていると、いつものように気配なく背後に立った春人が恨めしそうに声をかけてきた。
だが、すでに最強のカードを切った俺に負けはない。
「素直じゃないなぁ春人?嬉しいなら嬉しいと言えよ、あぁ?」
どこぞの小悪党か俺は。そう思いつつも春人がぐっと声を詰まらせるのを見ると辞める気にならない。むしろテンション上がる。
いつも手玉にとりやがって、この完璧超人が。たまには仕返ししないとなァ?
「返事がねぇなぁ?それとも迷惑だったか?それなら今から姉さんにーー」
そう言いながら姉さんの方に向かおうとすると、ガシッと肩を掴まれる。
背中越しに顔を向けると、これでもかとにっこりと笑った春人が居た。
「ふふっ、ふふふっ……ありがとう、秋斗。今日は楽しもうじゃないか」
「くく、はははっ。そうだなぁ春人」
やってくれたね?ザマァ見ろ。そんな副音声が脳裏で聞こえる。
「ボコボコにして吠え面かかせてやるよ腹黒天然優等生!」
「返り討ちにして泣きっ面晒してあげるよツンデレ鈍感問題児!」
「来い夏希!下剋上だ、やるぞ!」
「河合くん!今こそ復讐の時だ、行くよ!」
お、やるか!と乗り気の夏希と、え、復讐じゃなくて感謝しに来たんだけど?!と目を剥きながらも着いてくる河合と共に、近くにあったバドミントンのコーナーに入っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
嵐のように去っていった男性陣プラス夏希。
残された私達はそれを呆然と見送ってると、肩をポンと叩かれた。
「久しぶりね、冬華ちゃん。前より元気そうで良かったわ」
女性としては格好良すぎる志岐高の生徒会長、大上紅葉さんです。
「おかげさまで。こうして友達とも仲直り出来ましたし」
「そうなの。頑張ったのね」
「いえ、秋斗のおかげです」
あーもうなんて素敵な笑顔……宝塚にハマる女性の気持ちが分かった気がします。これはダメです、至近距離だと眩しさで目が…目がやられますっ!
「どうぇえっ?!冬華さん、アキくんの事名前呼びになってる?!ま、まさかっ?!」
悩んでいると、とても可愛らしい子が見た目からは想像出来ない声を上げつつ驚いてしまいました。
志々伎梅雨さん。感情豊かで素直に表現して……あーもう可愛いですね。妹にしたいです。甘やかせてでもニコニコさせたいです。志々伎さん譲ってくれませんかね?え、だめ?
「おバカ、私が大上だから区別してるのよ」
「あ、そっかぁ。こんな美人さんまでオトしちゃったのかと思ってビックリしたよ〜」
「あはは、アキが?今のアキにそんな甲斐性ないわよ」
笑い方まで爽やかな生徒会長。弟の評価は少し厳しめなんですかね。
「そ……そんな事ない、と思いますけど?あっきー、けっこーカッコいいと思うし……」
「「え」」
そんな生徒会長に横から訂正の声を掛けたのは愛。
その言葉に生徒会長と梅雨さんは目を丸くしてます。さて、愛にばかり義姉にアピールさせるのも癪ですし……
「ちなみに私は秋斗は普段から名前呼びです」
「「えっ」」
「あと……その、す、好き、ですし」
「「えっ?!」」
ふぅ……さ、さすがに恥ずかしいですね。生徒会長みたいにサラッと格好よくはいきません。あーもう顔が熱いです。
しかし効果はあったのか、梅雨さんだけでなく生徒会長まで口を開けたまま固まってます。ふふ、度肝抜いてやれましたかね。 そんな満足感もそこそこに、2人はそれぞれ違った表情に変化しました。
「うぁ〜!またアキくんがっ!てゆーか今回の相手はまずいよっ、危険すぎるよっ!」
頭を抱えて天を仰ぐ梅雨さんと、
「冬華ちゃんが……それにしても、アキがねぇ」
私を見て驚いた後、愛を見てニヤリと楽しげに笑う生徒会長。
どうでも良いですけどこの笑顔、夏希にそっくりですね。いえ、夏希が似たのでしょうか。
「……あなた、根津さんよね。聞いた限りだと間接的にとは言えアキに痛い目見せられたらしいけど、そこらへんはもういいワケ?」
「え、あっと……はい、自業自得ですし、結局助けてもらっちゃいましたし…」
「ふぅーん」
愛の言葉に、生徒会長は浮かべた笑みはそのままに目を細めてます。
その視線が大上さんにそっくりで、そんな空気じゃないのに少し笑いそうになってしまいました。
「あなたはアキがまた嫌われ者になった要因だし、私からも少しお仕置きしちゃおうかと思ってたけど……」
「……っ!」
あぁ、本当にそっくりな姉弟ですね。鋭い視線と、その鋭さに比例するような威圧感は、まさに大上さんのそれにそっくりです。
とは言えただ見てる訳にもいかないので、愛を庇うように一歩前に出ようとして、
「ま、反省してるみたいね。終わった話みたいだし、私からどうこう言う事でもないわ」
「え……」
その瞬間、拍子抜けする程あっさりと威圧感が消え去りました。
「それにしても珍しいわよね。あのアキが一度は敵と見た相手を庇うなんて」
「あ、だよねぇ。それは私も思ったぁ。初めてなんじゃない?」
それどころか、本当に世間話でもするように梅雨さんと一緒に首を傾げています。
肩の力が抜けるのと同時に、同じ仕草をする2人が妙に微笑ましく見えてつい笑ってしまいました。
「あら、何か可笑しかった?」
「あ、いえ、すみません。仲良しなんですね、紅葉さんと梅雨さん」
「そーなんですよっ!ホントのお姉ちゃんだと思ってますもん!」
「嬉しい事言ってくれるわね。よし良いわよ、本当に妹になりなさい」
「やったぁ〜!」
微笑ましい。微笑ましいんですけど、本当に妹に……?
「えっとぉ、生徒会長?もしかして、梅雨ちゃんって秋斗と付き合ってるんですか?」
どうやら同じ事が気になったらしい愛が恐る恐る質問しています。
「いや、それはないんじゃない?」
「うん、付き合ってないですよ?……ま・だっ」
「というか紅葉でいいわよ?愛ちゃん」
「えっ……えと、分かりました、紅葉さん」
さらりと流されたけど、今梅雨さん小声で「まだ」って言いましたよね。
あと愛もさっき耳打ちした時、小さく「カッコいい…」とか言ってましたし……全方位でたぶらかしますね紅葉さん…
「……あら、冬華ちゃん。どうしたの、怖い顔して?」
「………え?あれ、そんな顔してました?」
「そうね。なんか拗ねてるようにも見えたけど」
不思議そうにしている紅葉さんにふむと首を傾げる。あ、もしかしてこれが嫉妬というヤツなんですかね?うーん、一端の乙女になった気分です。
なんて感慨に耽ってると、紅葉さんはゆっくりと視線を動かしました。
「……静ちゃん、最近は大人しくしてるのね?」
「えへへ〜、こう見えて優等生なんですよ〜」
その視線の先は伊虎さんです。
にこやかな笑顔が交わされていますが、どうもお互い探るような気配があるような……
そう言えば、以前秋斗の家で鉢合わせた時もあまり会話をしていませんでしたね。
「あなたが梅雨の友達になったのは驚いたけど……まさかアキにまで首を突っ込むとは思わなかったわ」
「そうですね〜。あたしもそんなつもりはなかったんですけどぉ、思ったより面白そうだなって思いまして〜」
「……ま、程々にしなさいよ?」
「え〜なんかひどいですよぅ。単純な興味と好意ですってば」
紅葉さんの爽やかな風を甘い空気が押し留めるように、2人の会話は混ざり合うというよりぶつかり合うような印象です。
しかし、そのどこか棘のある雰囲気はすぐに壊れました。
「こ、好意っ?!うそっ、静まで?!」
ガバッと勢いよく顔を向けて、ガシッとこれまた勢いよく伊虎さんの肩を掴む梅雨さんによって、なんとも肩の力が抜ける雰囲気に変わったからです。
「ちょ、梅雨〜。別にそういう意味の好意じゃないって〜」
「ホントにぃ……?静ってすーぐウソつくじゃん!」
「ひど〜い!でもでも、別に好きになるのって個人の自由だよねっ?」
きゃぴっ、と背後に文字が浮かびそうな雰囲気で片目をつむる伊虎さんに、梅雨さんはうぐっと言葉を詰まらせました。
それを勝利と捉えてにんまりと笑う伊虎さんは、しかしーー
「……驚いたわ。意外と本気みたいね。アキったらやるじゃない」
紅葉さんの呟きでピシリと固まりました。
「え、えぇ〜?何の事ですかぁ?」
「あら、言っていいのかしら?」
「……………なんでもないですぅ」
惚ける彼女も、ついには押し黙ります。
それを梅雨さんが湿度の高い視線で睨んでますが、もはや紅葉さんは情報収集に満足したのかあっさりと会話を断ち切りました。
「ま、せっかくなんだから楽しみましょ?ほら、あのおバカ達も盛り上がってるみたいだし」
紅葉さんはバドミントンのコートを指差します。
つられてコートを見ると、何やら人集りが出来てました。
『おいおい、すげぇぞあいつら!ムービー撮ろっと!』
『なんだあの動き!どこぞの戦闘民族?』
『いいから見に来いって!宇宙から来た野菜人がバドしてるから!』
何やら妙な言われようですが、コートを冗談みたいな速度で縦横無尽に駆け回りながら、ウソみたいなスピードでシャトルが飛び回っているのを見ると分からなくもありませんね……
というか、その中に紛れて右往左往している河合さんが可哀想になってきました……
「くたばれ春人ぉ!」
「まだまだ甘いね夏希!」
「甘いのはお前だ腹黒ぉ!」
「ってうわぁ!そこで僕狙いなの大上くん?!」
く、口汚い……しかし夏希と秋斗のチームワークすごいですね。 球技が苦手と言ってた通りなのか、細かい技は使わずーー使えず?――それを運動量と身体能力のゴリ押しで補ってます。
それを活かす立ち回りをしつつ攻める所は攻める夏希。運動神経良すぎです。
いえ、そんな2人を相手に、テンパってしまってる河合さんを擁して渡り合う志々伎さんこそ化物なのかも知れませんけど。
「んー、アキは相変わらず下手ねぇ。夏希は体力落ちてるし……それにしても楽しそうじゃない。たまにはおバカの相手でもしようかしら」
そんな言葉を残して、ついに河合さんが倒れたので交代だと紅葉さんがコートに入っていきました。
劣勢だった志々伎さんのチームは一気に逆転して勝利。悔しそうな2人を嘲笑う志々伎さんと紅葉さんは……こう言ってはなんですけどすっごく良い笑顔でした。
ちなみにその後行われた志々伎さんと紅葉さんの一対一は、一点差という僅差で志々伎さんの勝利。
悔しそうにしている紅葉さんですが、大上さんと夏希のペアと張り合う相手に一点差って……紅葉さんも大概です。バケモノです。
その後も火がついたのか、しばらくはメンバーを変えつつバドミントンで盛り上がりました。
余談ですが途中から行われたペア戦では志々伎兄妹ペアが優勝して、私と愛ペアは最下位でした。 梅雨さんは志々伎さんの妹なだけありました。息の合い方とスペックは圧巻でしたよ。
ちなみに二位は紅葉さんと夏希さんペア、三位は秋斗と伊虎さんペアです。ゴリ押しの秋斗とねちっこい攻め方をする伊虎さんを女傑チームがねじ伏せた形でしたね。 というか、私も愛もクラスの中では動ける方のはずなんですけど……相手が悪すぎなんですって!
というより、別方向に向かっている。
ついでに言えば、1人増えてる。
俺としてはこんなに人が増えたんじゃーーしかも学校で目立つようなやつらばかりーー悪目立ちしそうだし、さっさと済ませたかったんだけど。
そうもいかない状況になっている。
何故か?夏希のせいだ。
『よぉーし、せっかくこんだけ集まったんだしさー。焼肉を美味しくたくさん食うためにも、腹空かせに寄り道しよーよ』
などと供述しておりました。ガチすぎるだろ。
『いいね、乗ったよ。それならぜひ対戦とか出来る運動がいいな。ね、秋斗』
言うまでもなく勝負大好き優等生が乗っかり、俺の意見なんぞ挟む間もなく話が進んでしまった。
それで何をするかどこに行くかと意見が飛び交ってると、河合が『全部出来そうなとこに行くのはどう?』などと言い放ちおった。
結果、学生御用達という俺としては避けたいスポットの総合レジャー施設、通称スポチャに決定。
『すまん、急に体調が悪くなったから俺帰るわ。気にせず楽しんでくれ』
苦し紛れの逃走を図るも、夏希と春人が両サイドから肩を組んできてあえなく失敗。
『すみません、私もちょっと……』
『ん?冬華もダメー。今日はお礼を兼ねたあたしの奢りだし、逃げられると思うなよー?』
『え?いえ、それは悪いですよ』
『悪いも何もないっての。あたしがお礼したいから勝手にすんの。それとも迷惑だったー?』
『……またですか。もう、ずるいですね、夏希は』
『そりゃーな。何年ずるいヤツと一緒に居ると思ってんだよ』
『ふふっ、説得力すごいです』
なんて会話もあった。宇佐が金に余裕がない事を見越しての夏希のフォローだ。
根が優しく、気配りや察知能力の高い夏希らしい。あとずるいヤツってのは春人だと確信してる。
『ほぇ〜、アキくん相変わらずやってるなぁ』
『やってるってなんだよ。いいから下りろよ』
それまでずっと背中に乗ってる梅雨が何か言ってたけどスルー。ちなみにマジでスポチャに着くまで乗ってやがった。
『せんぱーい、あたしも疲れちゃいましたぁ。抱っこしてくださいよぉ』
『春人に頼め』
春人が河合と盛り上がって入り辛いのか、俺にニヤニヤと人を食ったような笑みで絡んでくる。こいつ春人狙いな上に結構遠慮ない性格と思ってたのに意外だわ。それとも春人にだけ空気読むの?
『………』
おまけに根津はずっとだんまりだし。
何?俺のせい?そう思って話しかけてもどもってばかりだし、むしろ話しかけない方が良さそうだったので放置してる。
『あはは、楽しみだね秋斗』
イラッとした。歪ませたい、その爽やかな笑顔。
誰のせいでこんな面倒を……そう思った俺は、ちょっと仕返ししてやろうとスマホを取り出した。
それからしばらくしてスポチャに到着と同時に、
『珍しいじゃない秋斗。あんたが誘ってくるなんて』
我が姉降臨。
固まる春人。
興奮する夏希。
『聞いたわよ?春人、あんた主催なんだって?私をハブにするなんて良い度胸ね』
『い、いえ、そういうつもりじゃ。というより、僕主催じゃな……』
『はいはい、どうせ主導権を握るのはあんたなんだから。冷たいわね、昔はよくーー』
『わぁー!すみません、紅葉さん!ご容赦を!』
そう、俺が知る限り唯一春人のペースを崩せる人物なのだ。
こんな志々伎さん初めて見ました、とか呟く宇佐を尻目に、俺は溜飲を下げて気持ちよくスポチャに乗り込んだ訳だ。
「やってくれたね秋斗……」
「ほぉー?そんな事言っていいのかなぁ春人くん?」
入場早々、梅雨がテンション高めに目についたアトラクションに走っていく。
それを全員で追いかけていると、いつものように気配なく背後に立った春人が恨めしそうに声をかけてきた。
だが、すでに最強のカードを切った俺に負けはない。
「素直じゃないなぁ春人?嬉しいなら嬉しいと言えよ、あぁ?」
どこぞの小悪党か俺は。そう思いつつも春人がぐっと声を詰まらせるのを見ると辞める気にならない。むしろテンション上がる。
いつも手玉にとりやがって、この完璧超人が。たまには仕返ししないとなァ?
「返事がねぇなぁ?それとも迷惑だったか?それなら今から姉さんにーー」
そう言いながら姉さんの方に向かおうとすると、ガシッと肩を掴まれる。
背中越しに顔を向けると、これでもかとにっこりと笑った春人が居た。
「ふふっ、ふふふっ……ありがとう、秋斗。今日は楽しもうじゃないか」
「くく、はははっ。そうだなぁ春人」
やってくれたね?ザマァ見ろ。そんな副音声が脳裏で聞こえる。
「ボコボコにして吠え面かかせてやるよ腹黒天然優等生!」
「返り討ちにして泣きっ面晒してあげるよツンデレ鈍感問題児!」
「来い夏希!下剋上だ、やるぞ!」
「河合くん!今こそ復讐の時だ、行くよ!」
お、やるか!と乗り気の夏希と、え、復讐じゃなくて感謝しに来たんだけど?!と目を剥きながらも着いてくる河合と共に、近くにあったバドミントンのコーナーに入っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
嵐のように去っていった男性陣プラス夏希。
残された私達はそれを呆然と見送ってると、肩をポンと叩かれた。
「久しぶりね、冬華ちゃん。前より元気そうで良かったわ」
女性としては格好良すぎる志岐高の生徒会長、大上紅葉さんです。
「おかげさまで。こうして友達とも仲直り出来ましたし」
「そうなの。頑張ったのね」
「いえ、秋斗のおかげです」
あーもうなんて素敵な笑顔……宝塚にハマる女性の気持ちが分かった気がします。これはダメです、至近距離だと眩しさで目が…目がやられますっ!
「どうぇえっ?!冬華さん、アキくんの事名前呼びになってる?!ま、まさかっ?!」
悩んでいると、とても可愛らしい子が見た目からは想像出来ない声を上げつつ驚いてしまいました。
志々伎梅雨さん。感情豊かで素直に表現して……あーもう可愛いですね。妹にしたいです。甘やかせてでもニコニコさせたいです。志々伎さん譲ってくれませんかね?え、だめ?
「おバカ、私が大上だから区別してるのよ」
「あ、そっかぁ。こんな美人さんまでオトしちゃったのかと思ってビックリしたよ〜」
「あはは、アキが?今のアキにそんな甲斐性ないわよ」
笑い方まで爽やかな生徒会長。弟の評価は少し厳しめなんですかね。
「そ……そんな事ない、と思いますけど?あっきー、けっこーカッコいいと思うし……」
「「え」」
そんな生徒会長に横から訂正の声を掛けたのは愛。
その言葉に生徒会長と梅雨さんは目を丸くしてます。さて、愛にばかり義姉にアピールさせるのも癪ですし……
「ちなみに私は秋斗は普段から名前呼びです」
「「えっ」」
「あと……その、す、好き、ですし」
「「えっ?!」」
ふぅ……さ、さすがに恥ずかしいですね。生徒会長みたいにサラッと格好よくはいきません。あーもう顔が熱いです。
しかし効果はあったのか、梅雨さんだけでなく生徒会長まで口を開けたまま固まってます。ふふ、度肝抜いてやれましたかね。 そんな満足感もそこそこに、2人はそれぞれ違った表情に変化しました。
「うぁ〜!またアキくんがっ!てゆーか今回の相手はまずいよっ、危険すぎるよっ!」
頭を抱えて天を仰ぐ梅雨さんと、
「冬華ちゃんが……それにしても、アキがねぇ」
私を見て驚いた後、愛を見てニヤリと楽しげに笑う生徒会長。
どうでも良いですけどこの笑顔、夏希にそっくりですね。いえ、夏希が似たのでしょうか。
「……あなた、根津さんよね。聞いた限りだと間接的にとは言えアキに痛い目見せられたらしいけど、そこらへんはもういいワケ?」
「え、あっと……はい、自業自得ですし、結局助けてもらっちゃいましたし…」
「ふぅーん」
愛の言葉に、生徒会長は浮かべた笑みはそのままに目を細めてます。
その視線が大上さんにそっくりで、そんな空気じゃないのに少し笑いそうになってしまいました。
「あなたはアキがまた嫌われ者になった要因だし、私からも少しお仕置きしちゃおうかと思ってたけど……」
「……っ!」
あぁ、本当にそっくりな姉弟ですね。鋭い視線と、その鋭さに比例するような威圧感は、まさに大上さんのそれにそっくりです。
とは言えただ見てる訳にもいかないので、愛を庇うように一歩前に出ようとして、
「ま、反省してるみたいね。終わった話みたいだし、私からどうこう言う事でもないわ」
「え……」
その瞬間、拍子抜けする程あっさりと威圧感が消え去りました。
「それにしても珍しいわよね。あのアキが一度は敵と見た相手を庇うなんて」
「あ、だよねぇ。それは私も思ったぁ。初めてなんじゃない?」
それどころか、本当に世間話でもするように梅雨さんと一緒に首を傾げています。
肩の力が抜けるのと同時に、同じ仕草をする2人が妙に微笑ましく見えてつい笑ってしまいました。
「あら、何か可笑しかった?」
「あ、いえ、すみません。仲良しなんですね、紅葉さんと梅雨さん」
「そーなんですよっ!ホントのお姉ちゃんだと思ってますもん!」
「嬉しい事言ってくれるわね。よし良いわよ、本当に妹になりなさい」
「やったぁ〜!」
微笑ましい。微笑ましいんですけど、本当に妹に……?
「えっとぉ、生徒会長?もしかして、梅雨ちゃんって秋斗と付き合ってるんですか?」
どうやら同じ事が気になったらしい愛が恐る恐る質問しています。
「いや、それはないんじゃない?」
「うん、付き合ってないですよ?……ま・だっ」
「というか紅葉でいいわよ?愛ちゃん」
「えっ……えと、分かりました、紅葉さん」
さらりと流されたけど、今梅雨さん小声で「まだ」って言いましたよね。
あと愛もさっき耳打ちした時、小さく「カッコいい…」とか言ってましたし……全方位でたぶらかしますね紅葉さん…
「……あら、冬華ちゃん。どうしたの、怖い顔して?」
「………え?あれ、そんな顔してました?」
「そうね。なんか拗ねてるようにも見えたけど」
不思議そうにしている紅葉さんにふむと首を傾げる。あ、もしかしてこれが嫉妬というヤツなんですかね?うーん、一端の乙女になった気分です。
なんて感慨に耽ってると、紅葉さんはゆっくりと視線を動かしました。
「……静ちゃん、最近は大人しくしてるのね?」
「えへへ〜、こう見えて優等生なんですよ〜」
その視線の先は伊虎さんです。
にこやかな笑顔が交わされていますが、どうもお互い探るような気配があるような……
そう言えば、以前秋斗の家で鉢合わせた時もあまり会話をしていませんでしたね。
「あなたが梅雨の友達になったのは驚いたけど……まさかアキにまで首を突っ込むとは思わなかったわ」
「そうですね〜。あたしもそんなつもりはなかったんですけどぉ、思ったより面白そうだなって思いまして〜」
「……ま、程々にしなさいよ?」
「え〜なんかひどいですよぅ。単純な興味と好意ですってば」
紅葉さんの爽やかな風を甘い空気が押し留めるように、2人の会話は混ざり合うというよりぶつかり合うような印象です。
しかし、そのどこか棘のある雰囲気はすぐに壊れました。
「こ、好意っ?!うそっ、静まで?!」
ガバッと勢いよく顔を向けて、ガシッとこれまた勢いよく伊虎さんの肩を掴む梅雨さんによって、なんとも肩の力が抜ける雰囲気に変わったからです。
「ちょ、梅雨〜。別にそういう意味の好意じゃないって〜」
「ホントにぃ……?静ってすーぐウソつくじゃん!」
「ひど〜い!でもでも、別に好きになるのって個人の自由だよねっ?」
きゃぴっ、と背後に文字が浮かびそうな雰囲気で片目をつむる伊虎さんに、梅雨さんはうぐっと言葉を詰まらせました。
それを勝利と捉えてにんまりと笑う伊虎さんは、しかしーー
「……驚いたわ。意外と本気みたいね。アキったらやるじゃない」
紅葉さんの呟きでピシリと固まりました。
「え、えぇ〜?何の事ですかぁ?」
「あら、言っていいのかしら?」
「……………なんでもないですぅ」
惚ける彼女も、ついには押し黙ります。
それを梅雨さんが湿度の高い視線で睨んでますが、もはや紅葉さんは情報収集に満足したのかあっさりと会話を断ち切りました。
「ま、せっかくなんだから楽しみましょ?ほら、あのおバカ達も盛り上がってるみたいだし」
紅葉さんはバドミントンのコートを指差します。
つられてコートを見ると、何やら人集りが出来てました。
『おいおい、すげぇぞあいつら!ムービー撮ろっと!』
『なんだあの動き!どこぞの戦闘民族?』
『いいから見に来いって!宇宙から来た野菜人がバドしてるから!』
何やら妙な言われようですが、コートを冗談みたいな速度で縦横無尽に駆け回りながら、ウソみたいなスピードでシャトルが飛び回っているのを見ると分からなくもありませんね……
というか、その中に紛れて右往左往している河合さんが可哀想になってきました……
「くたばれ春人ぉ!」
「まだまだ甘いね夏希!」
「甘いのはお前だ腹黒ぉ!」
「ってうわぁ!そこで僕狙いなの大上くん?!」
く、口汚い……しかし夏希と秋斗のチームワークすごいですね。 球技が苦手と言ってた通りなのか、細かい技は使わずーー使えず?――それを運動量と身体能力のゴリ押しで補ってます。
それを活かす立ち回りをしつつ攻める所は攻める夏希。運動神経良すぎです。
いえ、そんな2人を相手に、テンパってしまってる河合さんを擁して渡り合う志々伎さんこそ化物なのかも知れませんけど。
「んー、アキは相変わらず下手ねぇ。夏希は体力落ちてるし……それにしても楽しそうじゃない。たまにはおバカの相手でもしようかしら」
そんな言葉を残して、ついに河合さんが倒れたので交代だと紅葉さんがコートに入っていきました。
劣勢だった志々伎さんのチームは一気に逆転して勝利。悔しそうな2人を嘲笑う志々伎さんと紅葉さんは……こう言ってはなんですけどすっごく良い笑顔でした。
ちなみにその後行われた志々伎さんと紅葉さんの一対一は、一点差という僅差で志々伎さんの勝利。
悔しそうにしている紅葉さんですが、大上さんと夏希のペアと張り合う相手に一点差って……紅葉さんも大概です。バケモノです。
その後も火がついたのか、しばらくはメンバーを変えつつバドミントンで盛り上がりました。
余談ですが途中から行われたペア戦では志々伎兄妹ペアが優勝して、私と愛ペアは最下位でした。 梅雨さんは志々伎さんの妹なだけありました。息の合い方とスペックは圧巻でしたよ。
ちなみに二位は紅葉さんと夏希さんペア、三位は秋斗と伊虎さんペアです。ゴリ押しの秋斗とねちっこい攻め方をする伊虎さんを女傑チームがねじ伏せた形でしたね。 というか、私も愛もクラスの中では動ける方のはずなんですけど……相手が悪すぎなんですって!
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