学校一の嫌われ者が学校一の美少女を拾ったら

みどりぃ

11 三文の徳?

「起きてください」
「…………んぁ?」
「もう、起きてくださいよ」

 えぇ、もう朝?磁石でも仕込まれたようになかなか開かない目蓋をどうにか開けると、どえらい美少女が俺の体を揺すっていた。
 なにこれドッキリ?とか考えた時点で思い出した。宇佐だ。しばらく泊まるんだったな。

「やっと起きましたね……遅刻も多い訳です。寝起き弱すぎですよ」

 言い訳は出来ないけど、今日は起きてすぐ意識はしっかりしてる方だ。お前を見てビックリしたから。
 宇佐のあまり動かない表情が微妙にムスッとしてるあたり、それなりの手間を掛けさせてしまったらしい。すんません、の内心謝っていると、宇佐がすでに制服に着替えている事に気付いた。
 え、もう出る時間?と慌てて時計を見ると、いつも起きる時間よりも1時間近く早い。

「………おやすみ」
「な、何でですかっ」

 亀のように布団に顔ごと潜すと、先程よりも怒った声でまた俺を揺さぶりだした。
 それでも負けてなるものかと踏ん張る俺に、宇佐が痺れを切らしたように言う。

「朝ごはん冷めますよ!それともいらないんですか?!」
「いるっ!」
「きゃあっ」

 宇佐の作った飯!そうか、朝から食えるんだった!
 布団を蹴り飛ばし、即座に起き上がる。寝起きで体の動きにくいのも無視してベッドから素早くおりた。

「早く行こ!朝飯とか久しぶりだ!」
「あの、分かりましたから、布団戻してから来てくださいね……って、ちょっ?」

 蹴り飛ばした拍子にベッドから落ちた布団を呆れたように眺めながら言う宇佐の肩を掴んで反転。背中を向けた宇佐を押して進む。

「先に飯だ」
「わかっ、分かりましたから!離してくださいっ」

 妙に慌てているので手を離すと、顔だけ振り返ってからひと睨みだけして、足早に部屋から出て行った。
 そんなに布団戻さないのが気に食わなかったか……?まぁいいや。飯だ飯!

 純和風といったご飯に焼き魚、味噌汁のお浸しはやっぱり美味しかった。朝から贅沢だわ、テンション上がる。
 いつもは地を這うようなテンションで重たい体を引きずるように学校に行ってるので、こんなに嬉しい、かつ健康的な朝は一人暮らしをしてから初めてかも知れない。

「朝から豪華だな……嬉しいけど、あんまり無理しなくていいからな?」
「そういう条件で泊めてもらってるので気にしないでください。それに、これくらいならそこまで手間じゃありません」
「す、すごいな。これで手間じゃないとか……花嫁修行いらずだな」

 むしろ姑が黙り込むんじゃないだろうか。高校生なのにどうやってこんだけのスキル身につけれるんだよ。
 
「ごちそうさまでした……って宇佐?食わないのか?」
「いっ、いえ……食べます」 

 焼き魚を器用に箸で持ったまま固まっていた宇佐が、慌てたようにそれをくわえた。何故か睨んできてるけど。

「? 食べ終わったらそのままテーブルに置いといてくれ。後でまとめて洗っとく」
「え?いや私が洗いますけど」
「いや朝から作ってくれたし、それくらいはするわ。時間も余裕あるし」
「はぁ……頑固ですね。分かりました、ありがとうございます」

 普段ならまだ寝てる時間だ。少し仕事してから行くか?
 どっちにしろ、とりあえず学校行く準備だけは済ませるか。宇佐が飯食ってる間に終わらせよ。
 
 制服を来て諸々の準備を終わらせてリビングに戻ると、宇佐の姿はなく空の食器だけがあった。洗面所から音がするし、歯磨きでもしてるのかね。
 食器を洗い、いつでも出れる状態になった。時計を見ると、いつも出発する時間より30分も早い。

(仕事が出来る人はは朝早く起きて時間を有効活用するとか聞くけど……確かにアリかもな。なんかやる気が違うわ)

 朝イチで体力はあるし、こうも健康的な朝だと寝ぼけてもない。もう30分早ければ仕事を進めていただろうなとも思う。
 そんな事を考えていると、宇佐がリビングに入ってきた。どうやら彼女も出れるらしく、手にはカバンを持っている。

「では行きますか」
「おー、いってらっしゃい」
「……あなたもですよ、大上さん。たまには早く学校に行きましょう」
「こんなに早く学校に行って何するんだよ」

 とは言ったものの、やる気に対して手持ち無沙汰な事もあり、別に行ってみてもいいかなとも思った。
 むっとした雰囲気を出す宇佐に、苦笑いを浮かべつつ口を開く。

「分かった。試しに行ってみるのも良いかも知れんし」
「最初からそう言ってください。それじゃ行きますよ」
「へいへい」

 家を出て、いつもより日が低く眩しさを覚える道を歩く。横を歩く宇佐も眩しいのか少し目をすぼめているが、それでも朝日で照らされた彼女に視線が集まるのだから美少女とは恐ろしい。
 というか、集まる視線……?

「てゆーか何で一緒に登校してんだ。なんか流れでついてきたけど、別々の方がいいわな。悪かった」

 ざっと見た限りでは志岐高校の生徒は見当たらないが、近付くほど目撃される可能性は上がる。早めに気付いて良かったと安堵の溜息をつき、謝罪を添えながら別の道に逸れようとして、

「別々に行く必要もないですよね。流れでここまで来たなら、流れでそのまま学校まで行けば良いじゃないですか」

 宇佐が俺のカバンを掴んで阻止してきた。
 
「はぁ?嫌だわ、俺はイジメられたくない」
「大丈夫ですよ。大上さんの神経の図太さなら多少は気になりません」
「それ他人が当人に言うセリフじゃないからな」

 言うとしても俺だろ。しかも気になるし。イジメられたくないし。
 それに、せっかく現状なら猪山と根津さえ黙らせれば問題ないのに、俺と接点があると思われたらそれも怪しくなる。というより、ほぼ確実に白い目で見られるようになる。

「離せ」
「逃げないなら」
「……逆に聞くけど、一緒に行くメリットは何だ?」

 デメリットもメリットもない、もしくはデメリット以上のメリットがあるならともかく、デメリットだけの状況を作ろうとする意味が分からない。
 
「特に理由なんてありませんよ。ただ同じ家から同じ時間に同じ学校へ向かうのに別々になる必要がないだけです」
「ある。お互いデメリットしかない」
「気にしないでください。私も気にしませんから」

 気にするし、お前は気にしろ。デメリットが大きいのは俺よりお前だろ。

「はぁ、仕方ない」
「やっと諦めましたか」
「逃げるか」
「……へ?あ、ちょっと!」

後ろから聞こえる声を背にしてダッシュ。宇佐の声に怒りが混じってきてるのを聞き流しながら、晩飯が抜きにならない事を祈っておく。

 そして止まるタイミングも分からないまま学校まで走ってきた。
 走りながら思ったけど、びっくりするくらい志岐高校の生徒を見かけなかった。どんだけうちの学生は早起きが苦手なんだ。人の事言えないけど。

 人のいない校門を抜けて下駄箱まで到着して、それでも何故か詰め込まれたゴミをどけて上履きに履き替える。
 と同時に、聞き慣れた声が届いた。

「よぉ秋斗」
「な、夏希?!」
「あははっ、めっちゃビックリしてるじゃん。つかやっぱり早かったなー」
「……なんでいるんだ?」

 マジでびっくりしたんだけど。夏希もそんなに朝強くないし、結構ギリギリに学校来るタイプなのに。

「昨日宇佐さんと話しててさ。なんか早起きさせてみせるって言ってたから。でも秋斗の事だから宇佐さんより早く来るか、時間ずらしてギリギリになるかのどっちかと思ってよ」

 早いパターンだったかー、と楽しげに笑う夏希に、さすが腐れ縁だと肩をすくめる。
 
「すごいな、大正解だ。美味い朝飯でテンション上がって家出たけど、一緒に行く感じになって逃げてきた」
「だろーな。まぁあたしとしてはワンチャン宇佐さんと一緒に来て注目されまくる秋斗を見たかったけどー」
「嫌だわ。嫌すぎて学校までずっと走ってきたんだぞ」
「どんだけだよ。宇佐さんかわいそー」

 責めるような視線を受け流し、夏希に手のひらを向けてしっしっと上下に振る。

「はいはい、俺が悪かった。いいから離れろよ、まだ人が居ないけどその内来るだろうし」
「大丈夫だって。うちの高校でこんな時間に来るやつなんていねーよ」

 さも当然のように言い切られ、確かに全然見かけなかった道中を思い出す。
 夏希は宇佐と違って振り切る事も難しいし、言い包めるのも困難。となれば、下手にここで揉めて長引くよりはさっさと移動してしまった方がいいか。

「分かったよ、とりあえず教室行こうか」
「にししっ、りょーかい」

 勝ったと言いたげに嬉しげに笑う夏希を軽く睨み、靴を下駄箱に入れて歩き出す。
 いつもより少し涼しく、音のない廊下を歩くのは新鮮で、これが早起きした事による三文の徳なのかなと不意に思う。
 たまには良いかも知れない、と考えた時に、どこからか声が聞こえてきた。

「――またですか、高山先生」

思わず夏希を見ると、同じくこちらを見ていた夏希と目が合い、頷き合う。
 
「すみません、色々と予定がありまして。またの機会があれば」
「これまで何回もそう言ってますよね。良いじゃないですか!一回くらい!」

 夏希と2人で忍び足で声の方に向かい、そっと顔だけ出して覗き込む。何やら一方的に詰め寄ってる感じの教師2人だが、片方はよく知った顔だ。
 高山先生。俺からすればちょっとした恩のある人だ。朝早くからお疲れ様です。

「夏希、あのおっさん誰?」
「屯田。3年を受け持ってるおっさんで、高山先生大好きな独身」
「へぇ。朝からお盛んなこって」
「見たとこ脈は無さそうだけどなー」

 なんて呑気に覗いていたら、屯田とやらが更に高山先生に詰め寄る。
思わずといった感じに後ずさる高山先生に構わず詰め寄る様子は……うん、側から見てるとヤバい絵面にしか見えん。

「夏希、面白そうだからムービーとっとけ」
「なめんなよ。もう撮ってる」

 こいつ思考回路似すぎ。伊達に俺みたいなのと長年付き合ってないな。……こんなんだから中学の頃に悪友とか呼ばれてたんじゃないか?

「ちょ、ちょっと屯田先生、近いんですが」
「良いじゃないですか!先輩と後輩のスキンシップの範囲ですよ」

 そう言って高山先生に手を伸ばす屯田。
夏希に視線だけやると、ばっちり収めてるとばかりにサムズアップしてきた。

「夏希さんきゅー」
「おーよ」
「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」
「ほいほい」
 
 普段なら面白いネタを撮ってほったらかしにするんだけど、恩がある相手が嫌がってるのを無視するのはな。
夏希も俺が世話になったことを知ってるからか、当然のように見送ってくれる。
 言うまでもなく、屯田がボロをこぼした時の為にムービーなり録音なり出来るようスタンバイしてくれてるだろうよ。頼りになる悪友だ。

「おはざぁっす」
「だ、誰だっ!?」

 挨拶してきた生徒に誰だは無いだろ、仮にも教師だろ。
 慌てて高山先生から離れて振り返る屯田に向かって歩きながら、どうしても冷めた目になってしまう。

「……お、大上くん?」
「おはようございます、高山先生」
「お、おはよう……あなた、その眼…」

 聞こえないくらい小声で何か言いつつ目を丸くしてるーーそんなに早く登校したわたくしが珍しいんですかねぇーー高山先生に視線を向けるも、すぐに屯田を見やる。
 なんか「良いところだったのに」とでも言いたげな悔しげな表情。アホか、脈の無さ具合で言えば助けたと言っても良いくらいなのに。

 朝から盛り上がりすぎ。捕まりたいのかな。顔も赤いし、性欲に振り回されてるなこれ。

「朝から楽しそうだなぁ。羨ましいわ」
「お前、教師になんて口の聞き方だっ!」

 興奮状態の勢いが止まらないのか、随分と大きな声で叫ぶ屯田。近くにいた高山先生も音量にびっくりしてるし。

「そう言いたいなら教師らしくあって欲しいもんだ。今時高校生でもそんなストレートなセクハラなんてしないってのに」
「くっ、お前えっ!名前とどこのクラスかを言え!成績を下げてやる!」
「おぉ、なんて堂々としたパワハラ発言。てか成績ねぇ、道徳の授業で赤点とりそうなやつにどうこう言われたくないけど……まぁいいか。名前は大上秋斗。クラスは2年2組、担任は高山先生」

 セクハラの次はパワハラか。成績云々は元々進級ギリギリの成績でやってきたし、好成績狙ってるワケじゃないなら良いけどさ。
 言われた通り名乗ってみると、屯田は目を丸くしてる。高山先生んとこの生徒を怒鳴っちまったとか思ってんのかね。

「お、お前が大上秋斗か……ちっ、噂通りのクズめ」

 あ、違った。俺の名前にびっくりしてたみたいだ。
 反応を見るに、俺って教師の間でも悪い方向で有名らしい。とは言え、教師に面と向かって言われたのは久しぶりだ。

「ちょっと屯田先……」
「はいはい、そんなクズにこれからアンタは脅される訳だけど、心の準備は良いか?」

 明らかに怒った様子の高山先生に被せて要件を伝える。
 先生、あんたこいつの後輩なんだろうから大人しくしといた方が楽だろうに。

こいつ相手に援護もいらんし、大人しくしといて欲しい、という意味を込めてアイコンタクトしておく。高山先生はむっと眉に皺を寄せるも、内心はともかく口をつぐんでくれた。

「お、脅すだとっ!?教師相手に問題児ごときが!」
「セクハラ教師が問題児よりどれくらい偉いかは知らんけど、まぁやらかしちゃった方が悪いよなぁ。てなワケで、さっきセクハラかましてたアンタをばっちりムービーで撮ってまぁす」
「せ、セクハラだとぉ……っ?!」
「ついでに俺との会話も録音してるけど。パワハラだっけ?今時はあぁいう差別発言は各方面から食いつき良いらしいぞ」
「お、お、大上ぃいい……っ!」

 すんげぇ顔で睨んでくる屯田。焦ってるのか脂汗がすごいな。さっきとは違う意味で顔真っ赤。ともあれ、あとはこのネタをいかに効果的に使うか、という話だけだ。
だがーー

「やめなさい、大上くん」

 まぁ、こうなるだろうなとは思ってたよ。

「た、高山先生……!」

 庇ってくれたと思ってか感涙さえしそうな表情で高山先生を見る屯田。
 そんな屯田に一切視線を向けず、ただ真っ直ぐに俺を見据えている。

「大上くん。脅すといった行為ではなく、もっと然るべき対応があるでしょう。あなたなら出来るはずです」
「えっ、なっ?高山先生!?何をーー」
「すみません屯田先生、後にしてもらえますか。今は担任としてこの子と話しているので」
「そうだぞ。話に割り込むとかマナーがないな」
「こら大上くん、茶化さない」
「はい、すみませんでした」

 ついふざけてしまった。案の定怒られたし、これは俺が悪い。素直に謝っとこう。

 てか屯田がびっくりしてるんだけど。高山先生に強く言われたからか?
高山先生は元々こんな性格の人だと思うけど、先輩相手で大人しくしてたのかな。

「も、猛獣使いという話は本当だったのか……」

 んん?猛獣使い?何それ、話の流れ的には高山先生の事っぽいけど。高山先生も不思議そうな顔をしてるから知らないのか。

「ごほんっ。とにかく、そんな方法をとれば私は担任として貴方を罰しなくてはいけなくなります。私にそんな事をさせないで下さい」
「でも先生。そういった方法の方が丸く収まることもありますよ?」
「いえ、そんな事はありません。必ずどこか角が立ちます。そして今回それが牙を剥くとすれば、間違いなく貴方に対してですよ」

(……だからこそ、この方法を選んだんだけどな)

 ただそれを言う気はない。きっと目の前の教師は、それさえも叱ってくれるだろうから。

「はぁ、分かりましたよ」
「……私のことを思って行動してくれた事には感謝しています。ありがとう」
「そこは気にしなくていいっすよ。俺が勝手にやったことっす」

 ちょっと言いにくそうに、しかし小さくも綺麗に笑う先生に手を雑に振ってはぐらかす。実際、恩を少しでも返したかっただけだしな。

「おい、大上っ!」
「んん?なんだよ?」
「敬語を使えっ!」

 ちゃんと話が終わるまで待っていた屯田がここぞとばかりに叫ぶ。
 敬語については高山先生も同感なのか顔をしかめてるけど。今は許してください。

「大上、教師を脅迫するという行動は見逃せんぞ!お前は退学だ!」

 やっぱり仕掛けてきたか。隙を見せりゃつけ上がる。そんなもんだろ。
そんな意志を込めて高山先生をチラリと見やると、高山先生は驚愕したように目を丸くしていた。
 
 結局、こういう輩の方が多い世の中だ。ここまでストレートに表現するヤツが少ないだけで。そんなヤツ相手にこっちだけが方法を選んでやるなんて、その方が理不尽だ。
 そりゃもちろん、高山先生が言うクリーンな方法で片付けられる方が良いのは分かってるけど。

「ふーん。いいよ別に」
「お、大上くんっ?!」
「ふん、当然だ!はっはっは!」

 退学かぁ。母さん怒るかな?その時は平謝りしないといけないだろうけど、案外気にしない気もする。
さておき、屯田によって続けられた会話を続けようか。

「んじゃまぁ、一緒に罰を受けるとしようか、屯田さんや」
「っはっは……は?」
「いや、退学になるならさっきのムービーをこの上なく有効活用するに決まってるだろ?俺は『生徒』として高山『先生』の言葉を聞いただけだしな」
「ふ、ふざけるな!そんな真似が許されると思うのかっ!」
「アンタもな。ばれてマズイ真似をすんなよ。まぁ高山先生に免じて変に誇張はしないでおいてやる。それでもアンタが許されるかは……まぁ周りの人らが決めてくれるだろうよ」
「お、お、大上貴様ぁああっ!」
「ハンムラビ法典って良い事言うよな」

 目には目を、ってな。いや、厳密にはこの場面には当てはまらないけどさ。

「ふ、2人とも待ってください!何故そうなるんですか!」
「高山先生……ですが、この問題児を学校に置いておく訳には…」

 何やら言い合う2人。どういう話に落ち着くかは分からんけど、俺はその結果に合わせて動くだけだ。
2人を眺めていると、ポケットのスマホが震える。取り出して見てみると、夏希からか。

『そろそろ生徒が増えるからいい加減切り上げろよー。 PS 屯田はバレー部顧問で、猪山はバレー部エース』

 確かにちょっと時間経ってるな。てか余計な情報がくっついてーーあぁ、そういうことか?いや夏希よ、これ上手くいくか?……まぁものは試しか。

「だったらこの問題児をどうする気ですか!」
「問題児などと言わないでください。彼の名前は大上くんで、私の受け持つ生徒です」
「問題児は問題児でしょう!」

「あー、盛り上がってるとこ悪いけど、キリがなさそうだし、他の生徒も来る頃だぞ。いいのか、こんな所を見られても。なぁ屯田さん?」
「なんだ、逃げる気か!」
「逃してやってるのはこっちなんだけどなぁ。まぁいいや、ひとつ提案があるんだけど」
「何が提案――」

「何ですか?大上くん」

 またも怒鳴ろうとする屯田を押さえ込むように割り込む高山先生。どうやらさすがの彼女も屯田の相手に辟易してきてるらしい。俺もっす。はよ終わらせましょ。

「球技大会で、勝った方の意見を通して、負けた方は大人しくそれを聞くってのはどうだ?……どうすか?これなら学生らしい方法っすよね、高山先生」
「……あの。賭けは学生らしからぬ要素な気がするんだけれど」
「いやいや学生らしいでしょ。罰ゲームつきの賭けとか日常茶飯っすよ、学生なんて」
「そ、そうなのですか……?」
「ですです。切って離せない要素っすよ」

 高山先生は勢いで抑えとく。彼女が納得しないことには俺としては話が進めにくい。
 口を挟むタイミングを失った様子の屯田を見やり、わざとらしくニヤついてやりながら口を開く。

「次の球技大会、俺のいるチームと、屯田先生の『教え子がいるチーム』のどっちが勝ち進むか、でどうよ?」

 さぁ……見えすいた抜け道だけど気付くか?気付けば乗っては来るはずだが。

「………あぁ、いいだろう」
「よし、決定。録音もしたし高山先生が証人だから、後になって喚くなよ?」

 まさかの話が通っちまったよ。夏希、やるな。
そんなことを思ってると、屯田は急に笑い出した。

「くくっ、はっはっは!バカが!俺はバレー部顧問だぞ!知らなかったようだな!」

 うん、まぁ、ついさっきまではね。

「そして球技大会の責任者でもある!まだ決めてなかったが今決定した!球技大会はバレーを行う!」

 球技大会の話が進まないの、やっぱこいつのせいかよ。よく威張れるな……

「『教え子』と言ったな!ならば俺の受け持つクラスだけではなく、バレー部も俺の教え子だろう!」

まぁ屯田を釣る為にそう言ったんだけど。言葉の抜け道には気付けば勝負に食いつくだろうし。なにしろ必ず勝てる勝負なんだから。

「だったら俺が選ぶチームは決まっている!『バレー部エース、猪山のいるチーム』だ!」
「ちょ、屯田先生!いくらなんでもそれは」
「高山先生は黙っていてください。これは男と男の勝負です」

 そんな大層なもんでもないだろうけど、別に内容は問題ない。むしろ思い切り予定通り。

「はいはい、分かった。じゃあ、球技大会まではセクハラすんなよ」
「やかましいわ!お前こそ、せいぜい残り少ない学生生活を楽しむんだな」

 ニヤニヤと笑う屯田に背を向けて教室へと向かう。腹立つ笑顔だな。
その途中でこれまたニヤニヤしている夏希と合流。腹立つ笑顔だな。

 てか、早起きは三文の徳?どこがだよ。二度と学校には早く来ないからな。



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