学校一の嫌われ者が学校一の美少女を拾ったら
7 嫉妬
「つっっかれたぁ……」
朝から色々とあったが、やっと昼休憩。
チャイムと同時に恥も外聞もなく猛ダッシュで教室から逃げてきた。その勢いのまま購買でパンを買って裏庭の一角に身を潜めている。
まるで逃走犯だな、なんで俺がこんな事しなくちゃいけないんだ。
ただ体育でも出さない本気のダッシュの甲斐あってか、やっと突き刺さる視線やヒソヒソ話から解放された1人の時間だ。
心なしか身も心も軽い気がする。
買ってきたパンのひとつを開ける。焼きそばの香りがたまらない。
そう言えば焼きそばパンを息を切らせて買う俺に、購買のおばちゃんが「パシリかい?」と聞いてきた時は妙な納得感があったな。確かにパシリの代表的なパンってイメージはある。
「ばぁっ!」
「うヴォっ?!」
「あはははっ!いぇーい!びっくりしたぁ?」
「げほっげほっ!お、お前、梅雨?!」
ぼけっと油断しきっていた背後から突如大声とともに現れた女子生徒。
リボンの色が彼女――梅雨が一年生だと示しているように、一つ下の後輩にあたる子だ。
「なんでこんなところに……」
「えへへっ、アキくんがすんごいダッシュしてたから追いかけてきちゃった!」
「犬なの?」
答えながら俺の横に腰を下ろして、手に持った弁当箱を広げていく。
焼きそば以上に食欲を誘う美味そうな香りを放つ弁当箱に視線をもっていかれながら、悔し紛れに焼きそばパンにかじりついた。
梅雨も「いただきます」と手を合わせてから卵焼きを口に放り、頬を緩ませながら味わってーーそれを恨みがましく眺めてたーー口を開く。
「久しぶりに会えたねぇアキくん!たまにはわたしのクラスに遊びに来てよぉ」
「嫌だわ。つか俺が会いに行くと困るのは梅雨だぞ?」
「へ?あー……なんか噂で聞いたよ。すごい悪い事したんだって〜?」
学校一の嫌われ者が遊びに行く相手となれば、絶対変な目で見られるだろ。下手したらイジメの対象とかになるかも。
それを梅雨はからかうようにニヤつきながら俺の頬を突いてきた。
「らしいなぁ。いつの間にか悪い事してたわ」
「もー!すぐそうやって面倒くさがって!アキくん、誤解はちゃんと解かないと!」
「いや本当にしてるのはしてるんだよ」
「はいはい!この子ったら全くも〜!いっつもそうなんだから〜!」
「お母さんなの?てかほっぺ突くのやめろ」
全く俺の話を聞く気がない上に温い目で呆れてくる後輩。元からなかった先輩の威厳がよりなくなった気分だ。
まぁ幼馴染とも言える長い付き合いがあるからだろうけど、昔は一生懸命後ろをついてまわってた梅雨も年々俺の扱いが雑になってる気がする。
「はぁ……昔はアキ兄ちゃんとか言ってついてくる構ってちゃんだったのになぁ」
「あ、あーっ!それ言うのはズルいよ!もうわたしだって大人なんだからねっ!」
「大人なら俺の頬をつんつん突くのいい加減やめろ……!」
地味に痛い頬をひきつらせて言うも、梅雨は怒ってますとばかりに無言で頬を膨らませるだけ。
まぁ静かになるならいいか、と焼きそばパンを食べ進めているとまたもや梅雨が叫ぶ。
「もーっ!久しぶりに会ったんだからもっとお話しよーよぉ!」
「やっぱ構ってちゃんじゃねぇか!飯くらい食わせろ!」
「食べながらで良いからぁ!」
「お行儀の悪い……兄貴と親に怒られても知らんぞ。てかいつまで頬突いてんだアホ!」
見た目こそは確かに成長したけど、中身はまだお子ちゃまの梅雨を宥めながら、焼きそばパンを完食する。
「そう言えば紅葉姉が最近顔出してないってブツブツ言ってたよ?」
「あー……確かにそうかも。最近忙しかったしな」
「その内呼び出されるかもね」
「それは勘弁だな……てか梅雨は姉さんと会う事あんの?」
梅雨の兄貴と同じクラスの俺とすらほぼ会わない梅雨が、何故3年生の姉さんと?おまけに生徒会もあるから姉さんは割と忙しいはずなのに。
「あれ?聞いてない?わたしたまに生徒会のお手伝いしてるんだよ!」
「え、マジか。なんで?」
「紅葉姉いわく今のうちに慣れさせとくんだってさ。生徒会長にするとかなんとか?」
「……なるほど。ってことは兄貴の方はなる気はないのか」
「お兄ちゃんは部活があるからねぇ」
言われてみれば納得か。あの兄貴の妹だけあってこいつは優秀だし、一年生であっても生徒会長になってもおかしくないか。
だとしても生徒会の選挙前から手伝わせるあたり、姉さんの本気が伺える。余程人材に困ってるんだろうな。
「ごくろーさん」
「うん!でも結構楽しんでるから大丈夫だよ!それに、生徒会長になったら役員の指名権も手に入るんだって!」
「へぇ。立候補じゃないのか」
「立候補があれば優先されるらしいけど、毎年あんまり積極的な生徒が居ないから結局ほとんど指名で決まるらしいよ!……てゆーかアキくん、2年生なのに何で知らないのさ」
「興味ないし」
もーっ!と怒る梅雨を宥めつつ、次のパンにかじりつく。
それにしてもほぼ指名とはね。だから現生徒会は人数が少ないのか?姉さんなら下手に集めて足手纏いになるくらいなら自分でやるとか言いかねないし。
「ま、そん時は兄貴でも指名してやれよ。アイツなら部活と両立くらいサクッとこなすだろ」
「うーん、そうだと思うけどぉ。どっちが生徒会長か分からなくなっちゃいそう」
「あー……いや、そこらへんも上手く立て回ってくれると思うけど。まぁ好きにしろよ」
「……アキくん、お兄ちゃんの事なんだかんだ信頼してるよねぇ」
そりゃあな。あまり人と関わりたくない上に嫌われてる俺だが、アイツを信頼出来ないとなるといよいよ人としてダメな気がするし。
いや聖人君子ってワケじゃないし腹黒なところこそあるけど、なんだかんだで助けられてばかりいるし。能力に至っては文句のつけようがないしな。
「ちなみにわたし的にはアキくんを指名したいっ!」
「絶っ対やめろ。生徒会長解任されるぞ」
「えぇー!じゃあそれまでに変な誤解を解けばいいじゃんかぁ!」
「だから誤解じゃないんだって……」
頬をパンパンに膨らませて額で俺の腕をぐりぐりと押す梅雨を宥めてパンを完食。それと同時に予鈴が鳴った。
「そろそろ戻るか」
「え?あ、やばっ!わたしまだ食べ終わってないよぉ!」
「喋ってばっかいるからだろバーカ!」
「バカって言う方がバカだもん!ねぇアキくんも手伝ってよ!」
「え、いいの?」
「うん!そんなにお腹減ってないし!」
美味そうな弁当だからラッキーだ。実際、梅雨の母親の飯はマジで美味い。
どれくらい美味いかと言うと、つい味わって食べてしまったせいで2人とも遅刻確定するくらいには美味い。涙目で走る梅雨をからかいながら教室へと戻りました。
「ほら走って走って!」
「もう遅刻してるのに元気だねぇ」
「うるさーい!てゆーかアキくん、いつまで着いてきてるの?!」
「あ、やべ、行きすぎてるわ」
「あはははっ、バーカバーカ!ちゃんとサボらず戻りなよ!ほらダッシュ!」
歩いて戻りました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
梅雨時期とは思えない晴れっぷりを窓越しに眺める。
放課後になってしまった。昼休憩のように逃げたかったけど、掃除当番なんだよな。サボりたいところだが、今日は高山先生から直々にちゃんとするよう言われてしまってはそうもいかない。
「お、大上が掃除してる……」
「嘘だろ、あのクズが」
「た、高山先生すげぇ……」
おかげで何故か誰も帰らず見られまくってる。そんな珍しい?やりづらいんだけど。
いや、帰らない理由は多分俺だけじゃない。いつも割とすぐ教室を出る3人が揃ってるのも原因だと思う。
「秋斗ぉ、さっさと終わらせて帰ろーよぉ」
「うるさいですよー根古屋さん。掃除中はお静かに」
「食事中だろそれ。てゆーか夏希って呼べー」
「大上くんが掃除とはね。槍でも降らせたいのかい?」
「出来るなら志々岐くんの頭に束ねて降らせたいところだな」
「ははっ、日頃の行い的には大上くんの頭に降るだろうね」
「…………」
「……何?なんでそんな睨んでんの?」
「早くしてください。晩御飯の準備をする時間もあるんですよ?」
「知るか……というかそういう話は今するなっ…!」
夏希、志々岐春人、宇佐だ。
しかも手持ち無沙汰なのかちょくちょく話しかけてくる。暇なら帰れよマジで。お前らが話しかけくる度にめちゃくちゃ睨まれるんだよこっちは。
つかもしかして帰る時まで待ってついてくるとかないよな?嫌われ者の俺がこいつらと一緒に帰るとなれば……明日はえげつない面倒事が起きる気しかしない。イジメ怖い。
よし、帰らせよう。全員は無理かも知れんが、とりあえず志々岐春人だけはいけるはず。
「……そこのお三方、掃除の邪魔なんでさっさと帰れ。特に志々岐くんは部活があんだろ」
「今日は休みだよ。たまにはクラスメイトとの交流を楽しもうと思ってね」
「だったら周り見てみろ。交流したがってるヤツらがうじゃうじゃ居るから」
「そうかな?それに、普段交流のない大上くんと話すのも楽しそうじゃないか」
「こんなクズと話しても楽しくないだろ」
こうやって話してれば必ず釣れるはず。なんつっても志々岐春人っつー極上の餌だからな、入れ食い爆釣間違いなし。
「そーだよ志々岐くん!あんなのと関わらない方がいいって!それより私達と一緒に帰ろうよ!」
「そーそー!いっつも部活だから一緒に帰ってみたかったんだー!」
「え?いや、今日は……」
「じゃあな、志々岐くん」
「ちょっ……」
はい釣れた。ワラワラと群がる女子生徒に拉致られていく志々岐春人。はいお疲れさーん。
「根古屋さんもどうぞお帰りください」
「夏希って呼んだら先に帰ってもいいけどー?」
次は夏希……っと思ったけど、こいつは厄介なんだよな。なんせ誰か巻き込もうにも誰もびびって話しかけない。あとニヤニヤがうざい。
そして名前呼びだけは無理。嵐山あたりが鬱陶しくなりかねないし、ただでさええげつない男子達からの視線がそろそろ致死量に届きかねん。
「下の名前なんて恐れ多い」
「ぶふっ!お、恐れ多いんだ?やば、ウケる」
は、腹立つ!いや耐えろ。今は俺の学校生活の為に耐える時だ……!
「……なので、ボッチをからかって遊ばないでもらえますか?」
「ぶふぅっ!ぼ、ボッチ!あはははっ!」
「…………んのやろ!何笑ってんだぁ?!」
「だって!秋斗が変な事言うから!」
「変じゃないだろ!カースト的にはこんな感じだろ!」
「あははははっ!秋斗がカーストとか言ってる!もーやめてお腹痛い!」
あーもううぜえ!完全にバカにして楽しんでやがるこいつ!
思わず手に持った箒を振りかぶると、きゃーきゃー言いながら逃げる夏希。待てこらマジで一発入れてやろうか!
「……あの、楽しそうなのは良いんですけど。良かったんですか?」
「はぁ?!何が………あ」
宇佐に言われて気付いた。周りがポカンとした顔で俺と夏希を見ている事に。
「ばぁーか」
夏希は気付いた上でわざとやってたのか、ニヤリと小馬鹿にした笑みを浮かべていた。
反論できません。や、やらかした……!
「ねね根古屋さんがあんなにわ、笑ってるなんて……!」
「しかもあんなクズ相手に……?!」
「何故だ!俺なんて毎日話しかけてんのに無視されてるのに!」
「だぁっはっは!俺もほぼ無視されてるぞ!!」
後悔で思考が埋め尽くされる俺に構わず、周りの生徒達が俺の失態を嘲笑うように盛り上がる。振りかぶったままの箒をそっと下ろした。あと嵐山は声でかすぎ。
「……掃除、早く、完了」
「そうですね。それが良いと思います」
「帰る、飯食う、寝る」
「しょ、ショックで会話が単語になってます……」
それから数分で一気に掃除を済ませた。実家の大掃除の時より本気でやった。
終わった瞬間即座に走り出したものの、荷物をばっちり持った夏希と宇佐が廊下で待ち構えていた。よ、読まれてた!いや、抜き去る!
「邪魔ぁ!」
「甘い!」
「激甘です」
その2人をフェイントまで入れて抜き去ろうと走るも、夏希に読まれてルートを塞がれ、切り返そうとしたタイミングで宇佐に腕を掴まれた。何ですかこのコンビネーション?
「……離せ」
「離してほしければこの荷物持ってください。重いです」
「お前な……」
「はい、これです。ふぅ、助かります」
「持つとは言ってないんだけど?」
マイペースの宇佐にペースを乱されてる自覚はあるのに立て直せない。気付けばでかい荷物が俺の肩にかかってた。
おまけに俺の返事は聞かずに歩き出してるし。いやいいけどさ、確かに女子が持つには少し重いかもだし。
(……つーかもしかして、これはこいつなりの頼り方なのか?)
今の状況で、おそらく宇佐は人に頼ることに躊躇いがあるように見える。
そんな中で成り行きとはいえ少し面倒を見た事が影響したのか、宇佐は分かりにくいながらも頼ろうとしてるようにも見えなくはない。
もしそうならーー自覚の有無や、甘え方が傍若無人だとかド下手とかは置いといたとしてもーー多分悪い兆候じゃないはずだ。
いくら俺でも、それをわざわざ無碍にする気にはなれない。その代わり視線が痛いけど。
「……秋斗お前、なんか宇佐さんに優しくねーかー?」
そんな俺の思考を読んだか、もしくは同じ考えだったのか。夏希が地味に痛いところをボソリと突いてきた。
誤魔化すかはぐらかすか有耶無耶にするか……あれ、これ同じようなもん?
「気のせいだろ。それに俺はもともと優しい」
「はいはい、今回は誤魔化されてあげよーかな」
「そりゃどーも」
まぁバレるわな。そもそも夏希と俺の思考ってどうやら似てるみたいだし。
そんなことを話しつつ下駄箱に到着。
そこで俺の下駄箱を見てーー今日の俺の判決を下された気分になった。
「………不登校になるかも」
「あーあ……こりゃブチギレられてんなー。宇佐さん、可愛すぎて今の状況でも人気あるしなぁ」
「いや、半分はお前のせいでもあるんだからな」
下駄箱から溢れかえる程のゴミ。マジックで殴り書きされている下駄箱。よく見るとへこんでるし、殴られてるっぽい。
これで靴だけは無事なのはかつて靴をダメにされた時に犯人を探し回って色々仕返しした事がからか。
とはいえ、男子の怨念がこれでもかと込めたとばかりの下駄箱を見るとどうしても憂鬱になる。
どうやらしばらくは平和な学校生活はお預けになりそうだ。泣いていい?
朝から色々とあったが、やっと昼休憩。
チャイムと同時に恥も外聞もなく猛ダッシュで教室から逃げてきた。その勢いのまま購買でパンを買って裏庭の一角に身を潜めている。
まるで逃走犯だな、なんで俺がこんな事しなくちゃいけないんだ。
ただ体育でも出さない本気のダッシュの甲斐あってか、やっと突き刺さる視線やヒソヒソ話から解放された1人の時間だ。
心なしか身も心も軽い気がする。
買ってきたパンのひとつを開ける。焼きそばの香りがたまらない。
そう言えば焼きそばパンを息を切らせて買う俺に、購買のおばちゃんが「パシリかい?」と聞いてきた時は妙な納得感があったな。確かにパシリの代表的なパンってイメージはある。
「ばぁっ!」
「うヴォっ?!」
「あはははっ!いぇーい!びっくりしたぁ?」
「げほっげほっ!お、お前、梅雨?!」
ぼけっと油断しきっていた背後から突如大声とともに現れた女子生徒。
リボンの色が彼女――梅雨が一年生だと示しているように、一つ下の後輩にあたる子だ。
「なんでこんなところに……」
「えへへっ、アキくんがすんごいダッシュしてたから追いかけてきちゃった!」
「犬なの?」
答えながら俺の横に腰を下ろして、手に持った弁当箱を広げていく。
焼きそば以上に食欲を誘う美味そうな香りを放つ弁当箱に視線をもっていかれながら、悔し紛れに焼きそばパンにかじりついた。
梅雨も「いただきます」と手を合わせてから卵焼きを口に放り、頬を緩ませながら味わってーーそれを恨みがましく眺めてたーー口を開く。
「久しぶりに会えたねぇアキくん!たまにはわたしのクラスに遊びに来てよぉ」
「嫌だわ。つか俺が会いに行くと困るのは梅雨だぞ?」
「へ?あー……なんか噂で聞いたよ。すごい悪い事したんだって〜?」
学校一の嫌われ者が遊びに行く相手となれば、絶対変な目で見られるだろ。下手したらイジメの対象とかになるかも。
それを梅雨はからかうようにニヤつきながら俺の頬を突いてきた。
「らしいなぁ。いつの間にか悪い事してたわ」
「もー!すぐそうやって面倒くさがって!アキくん、誤解はちゃんと解かないと!」
「いや本当にしてるのはしてるんだよ」
「はいはい!この子ったら全くも〜!いっつもそうなんだから〜!」
「お母さんなの?てかほっぺ突くのやめろ」
全く俺の話を聞く気がない上に温い目で呆れてくる後輩。元からなかった先輩の威厳がよりなくなった気分だ。
まぁ幼馴染とも言える長い付き合いがあるからだろうけど、昔は一生懸命後ろをついてまわってた梅雨も年々俺の扱いが雑になってる気がする。
「はぁ……昔はアキ兄ちゃんとか言ってついてくる構ってちゃんだったのになぁ」
「あ、あーっ!それ言うのはズルいよ!もうわたしだって大人なんだからねっ!」
「大人なら俺の頬をつんつん突くのいい加減やめろ……!」
地味に痛い頬をひきつらせて言うも、梅雨は怒ってますとばかりに無言で頬を膨らませるだけ。
まぁ静かになるならいいか、と焼きそばパンを食べ進めているとまたもや梅雨が叫ぶ。
「もーっ!久しぶりに会ったんだからもっとお話しよーよぉ!」
「やっぱ構ってちゃんじゃねぇか!飯くらい食わせろ!」
「食べながらで良いからぁ!」
「お行儀の悪い……兄貴と親に怒られても知らんぞ。てかいつまで頬突いてんだアホ!」
見た目こそは確かに成長したけど、中身はまだお子ちゃまの梅雨を宥めながら、焼きそばパンを完食する。
「そう言えば紅葉姉が最近顔出してないってブツブツ言ってたよ?」
「あー……確かにそうかも。最近忙しかったしな」
「その内呼び出されるかもね」
「それは勘弁だな……てか梅雨は姉さんと会う事あんの?」
梅雨の兄貴と同じクラスの俺とすらほぼ会わない梅雨が、何故3年生の姉さんと?おまけに生徒会もあるから姉さんは割と忙しいはずなのに。
「あれ?聞いてない?わたしたまに生徒会のお手伝いしてるんだよ!」
「え、マジか。なんで?」
「紅葉姉いわく今のうちに慣れさせとくんだってさ。生徒会長にするとかなんとか?」
「……なるほど。ってことは兄貴の方はなる気はないのか」
「お兄ちゃんは部活があるからねぇ」
言われてみれば納得か。あの兄貴の妹だけあってこいつは優秀だし、一年生であっても生徒会長になってもおかしくないか。
だとしても生徒会の選挙前から手伝わせるあたり、姉さんの本気が伺える。余程人材に困ってるんだろうな。
「ごくろーさん」
「うん!でも結構楽しんでるから大丈夫だよ!それに、生徒会長になったら役員の指名権も手に入るんだって!」
「へぇ。立候補じゃないのか」
「立候補があれば優先されるらしいけど、毎年あんまり積極的な生徒が居ないから結局ほとんど指名で決まるらしいよ!……てゆーかアキくん、2年生なのに何で知らないのさ」
「興味ないし」
もーっ!と怒る梅雨を宥めつつ、次のパンにかじりつく。
それにしてもほぼ指名とはね。だから現生徒会は人数が少ないのか?姉さんなら下手に集めて足手纏いになるくらいなら自分でやるとか言いかねないし。
「ま、そん時は兄貴でも指名してやれよ。アイツなら部活と両立くらいサクッとこなすだろ」
「うーん、そうだと思うけどぉ。どっちが生徒会長か分からなくなっちゃいそう」
「あー……いや、そこらへんも上手く立て回ってくれると思うけど。まぁ好きにしろよ」
「……アキくん、お兄ちゃんの事なんだかんだ信頼してるよねぇ」
そりゃあな。あまり人と関わりたくない上に嫌われてる俺だが、アイツを信頼出来ないとなるといよいよ人としてダメな気がするし。
いや聖人君子ってワケじゃないし腹黒なところこそあるけど、なんだかんだで助けられてばかりいるし。能力に至っては文句のつけようがないしな。
「ちなみにわたし的にはアキくんを指名したいっ!」
「絶っ対やめろ。生徒会長解任されるぞ」
「えぇー!じゃあそれまでに変な誤解を解けばいいじゃんかぁ!」
「だから誤解じゃないんだって……」
頬をパンパンに膨らませて額で俺の腕をぐりぐりと押す梅雨を宥めてパンを完食。それと同時に予鈴が鳴った。
「そろそろ戻るか」
「え?あ、やばっ!わたしまだ食べ終わってないよぉ!」
「喋ってばっかいるからだろバーカ!」
「バカって言う方がバカだもん!ねぇアキくんも手伝ってよ!」
「え、いいの?」
「うん!そんなにお腹減ってないし!」
美味そうな弁当だからラッキーだ。実際、梅雨の母親の飯はマジで美味い。
どれくらい美味いかと言うと、つい味わって食べてしまったせいで2人とも遅刻確定するくらいには美味い。涙目で走る梅雨をからかいながら教室へと戻りました。
「ほら走って走って!」
「もう遅刻してるのに元気だねぇ」
「うるさーい!てゆーかアキくん、いつまで着いてきてるの?!」
「あ、やべ、行きすぎてるわ」
「あはははっ、バーカバーカ!ちゃんとサボらず戻りなよ!ほらダッシュ!」
歩いて戻りました。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
梅雨時期とは思えない晴れっぷりを窓越しに眺める。
放課後になってしまった。昼休憩のように逃げたかったけど、掃除当番なんだよな。サボりたいところだが、今日は高山先生から直々にちゃんとするよう言われてしまってはそうもいかない。
「お、大上が掃除してる……」
「嘘だろ、あのクズが」
「た、高山先生すげぇ……」
おかげで何故か誰も帰らず見られまくってる。そんな珍しい?やりづらいんだけど。
いや、帰らない理由は多分俺だけじゃない。いつも割とすぐ教室を出る3人が揃ってるのも原因だと思う。
「秋斗ぉ、さっさと終わらせて帰ろーよぉ」
「うるさいですよー根古屋さん。掃除中はお静かに」
「食事中だろそれ。てゆーか夏希って呼べー」
「大上くんが掃除とはね。槍でも降らせたいのかい?」
「出来るなら志々岐くんの頭に束ねて降らせたいところだな」
「ははっ、日頃の行い的には大上くんの頭に降るだろうね」
「…………」
「……何?なんでそんな睨んでんの?」
「早くしてください。晩御飯の準備をする時間もあるんですよ?」
「知るか……というかそういう話は今するなっ…!」
夏希、志々岐春人、宇佐だ。
しかも手持ち無沙汰なのかちょくちょく話しかけてくる。暇なら帰れよマジで。お前らが話しかけくる度にめちゃくちゃ睨まれるんだよこっちは。
つかもしかして帰る時まで待ってついてくるとかないよな?嫌われ者の俺がこいつらと一緒に帰るとなれば……明日はえげつない面倒事が起きる気しかしない。イジメ怖い。
よし、帰らせよう。全員は無理かも知れんが、とりあえず志々岐春人だけはいけるはず。
「……そこのお三方、掃除の邪魔なんでさっさと帰れ。特に志々岐くんは部活があんだろ」
「今日は休みだよ。たまにはクラスメイトとの交流を楽しもうと思ってね」
「だったら周り見てみろ。交流したがってるヤツらがうじゃうじゃ居るから」
「そうかな?それに、普段交流のない大上くんと話すのも楽しそうじゃないか」
「こんなクズと話しても楽しくないだろ」
こうやって話してれば必ず釣れるはず。なんつっても志々岐春人っつー極上の餌だからな、入れ食い爆釣間違いなし。
「そーだよ志々岐くん!あんなのと関わらない方がいいって!それより私達と一緒に帰ろうよ!」
「そーそー!いっつも部活だから一緒に帰ってみたかったんだー!」
「え?いや、今日は……」
「じゃあな、志々岐くん」
「ちょっ……」
はい釣れた。ワラワラと群がる女子生徒に拉致られていく志々岐春人。はいお疲れさーん。
「根古屋さんもどうぞお帰りください」
「夏希って呼んだら先に帰ってもいいけどー?」
次は夏希……っと思ったけど、こいつは厄介なんだよな。なんせ誰か巻き込もうにも誰もびびって話しかけない。あとニヤニヤがうざい。
そして名前呼びだけは無理。嵐山あたりが鬱陶しくなりかねないし、ただでさええげつない男子達からの視線がそろそろ致死量に届きかねん。
「下の名前なんて恐れ多い」
「ぶふっ!お、恐れ多いんだ?やば、ウケる」
は、腹立つ!いや耐えろ。今は俺の学校生活の為に耐える時だ……!
「……なので、ボッチをからかって遊ばないでもらえますか?」
「ぶふぅっ!ぼ、ボッチ!あはははっ!」
「…………んのやろ!何笑ってんだぁ?!」
「だって!秋斗が変な事言うから!」
「変じゃないだろ!カースト的にはこんな感じだろ!」
「あははははっ!秋斗がカーストとか言ってる!もーやめてお腹痛い!」
あーもううぜえ!完全にバカにして楽しんでやがるこいつ!
思わず手に持った箒を振りかぶると、きゃーきゃー言いながら逃げる夏希。待てこらマジで一発入れてやろうか!
「……あの、楽しそうなのは良いんですけど。良かったんですか?」
「はぁ?!何が………あ」
宇佐に言われて気付いた。周りがポカンとした顔で俺と夏希を見ている事に。
「ばぁーか」
夏希は気付いた上でわざとやってたのか、ニヤリと小馬鹿にした笑みを浮かべていた。
反論できません。や、やらかした……!
「ねね根古屋さんがあんなにわ、笑ってるなんて……!」
「しかもあんなクズ相手に……?!」
「何故だ!俺なんて毎日話しかけてんのに無視されてるのに!」
「だぁっはっは!俺もほぼ無視されてるぞ!!」
後悔で思考が埋め尽くされる俺に構わず、周りの生徒達が俺の失態を嘲笑うように盛り上がる。振りかぶったままの箒をそっと下ろした。あと嵐山は声でかすぎ。
「……掃除、早く、完了」
「そうですね。それが良いと思います」
「帰る、飯食う、寝る」
「しょ、ショックで会話が単語になってます……」
それから数分で一気に掃除を済ませた。実家の大掃除の時より本気でやった。
終わった瞬間即座に走り出したものの、荷物をばっちり持った夏希と宇佐が廊下で待ち構えていた。よ、読まれてた!いや、抜き去る!
「邪魔ぁ!」
「甘い!」
「激甘です」
その2人をフェイントまで入れて抜き去ろうと走るも、夏希に読まれてルートを塞がれ、切り返そうとしたタイミングで宇佐に腕を掴まれた。何ですかこのコンビネーション?
「……離せ」
「離してほしければこの荷物持ってください。重いです」
「お前な……」
「はい、これです。ふぅ、助かります」
「持つとは言ってないんだけど?」
マイペースの宇佐にペースを乱されてる自覚はあるのに立て直せない。気付けばでかい荷物が俺の肩にかかってた。
おまけに俺の返事は聞かずに歩き出してるし。いやいいけどさ、確かに女子が持つには少し重いかもだし。
(……つーかもしかして、これはこいつなりの頼り方なのか?)
今の状況で、おそらく宇佐は人に頼ることに躊躇いがあるように見える。
そんな中で成り行きとはいえ少し面倒を見た事が影響したのか、宇佐は分かりにくいながらも頼ろうとしてるようにも見えなくはない。
もしそうならーー自覚の有無や、甘え方が傍若無人だとかド下手とかは置いといたとしてもーー多分悪い兆候じゃないはずだ。
いくら俺でも、それをわざわざ無碍にする気にはなれない。その代わり視線が痛いけど。
「……秋斗お前、なんか宇佐さんに優しくねーかー?」
そんな俺の思考を読んだか、もしくは同じ考えだったのか。夏希が地味に痛いところをボソリと突いてきた。
誤魔化すかはぐらかすか有耶無耶にするか……あれ、これ同じようなもん?
「気のせいだろ。それに俺はもともと優しい」
「はいはい、今回は誤魔化されてあげよーかな」
「そりゃどーも」
まぁバレるわな。そもそも夏希と俺の思考ってどうやら似てるみたいだし。
そんなことを話しつつ下駄箱に到着。
そこで俺の下駄箱を見てーー今日の俺の判決を下された気分になった。
「………不登校になるかも」
「あーあ……こりゃブチギレられてんなー。宇佐さん、可愛すぎて今の状況でも人気あるしなぁ」
「いや、半分はお前のせいでもあるんだからな」
下駄箱から溢れかえる程のゴミ。マジックで殴り書きされている下駄箱。よく見るとへこんでるし、殴られてるっぽい。
これで靴だけは無事なのはかつて靴をダメにされた時に犯人を探し回って色々仕返しした事がからか。
とはいえ、男子の怨念がこれでもかと込めたとばかりの下駄箱を見るとどうしても憂鬱になる。
どうやらしばらくは平和な学校生活はお預けになりそうだ。泣いていい?
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