メグルユメ
10.棘だらけの暴竜
龍種は年を取るほど強くなる。寿命が1000年あるとされる彼らは、齢950が全盛期になる。技だけではなく、魔力も、筋力もそこが全盛期だ。それを過ぎれば衰えていく。
冒険者は勝ちが続き、慣れてきた頃が最も死亡率が高くなる。龍にも存在する。龍種が最上位の首であると自覚、いや調子に乗り始める時期だ。具体的には200歳から300歳頃だ。調子に乗り、慢心し、傲然と死んでいく。それがこの年齢だ。
現在アレン達の前に立ち塞がっている龍もこの年齢に当てはまる。8m級の大きさに藍色の鱗。それよりも目を引く棘だらけの全身。その1本1本がヂドル産の剣並に硬く、非常に厄介である。さらに、棘の多さと硬さは戦いに勝利するほどに増え、硬くなっていく。
つまり、この龍種、スパイクドラゴンにとって棘は誇りである。
アレン達は遺跡の中にいた。何か持っていけそうなものを探していた。まるで泥棒である。
「何だこれ。盃か?」
コストイラは欠け割れている優勝者のトロフィーのような盃を見つける。壊すと面倒そうなので触れないで観察する。
「近くにこれがあったわ」
アストロの手に握られているのは”聖杯の記録と考察”と書かれた羊皮紙だ。
「聖杯か。どんな願いも叶うんだっけ」
「私は食料を無尽蔵に出ると教わった」
「わ、わ、私はな、亡くなった方をい、い、生き返らせることができるとき、き、聞いたことがあります」
どうやら伝説が多いようだ。
「あれ? アシドさん。どうかしたんですか?」
アレンがアシドに近づくと、アシドは振り返りもせずに答える。
「灯りのねェ湖だ。泳ぎたい気分が爆発しそうだぜ」
「明らかに何かいそうな気がするんですが」
「だからオレも我慢してんだよ。あーあ。泳ぎてェ」
アシドは不満を口にしながら、槍の柄で自身の足の甲をトントン叩く。
「あそこは水源らしいわよ。この村が使って井戸ね」
「井戸か。何もいねェ可能性が高そうな気がしてきたぜ」
「入らないでくださいよ」
アストロはたまたま見つけた村の地図を見ながら告げると、アシドはより一層欲望を膨らませる。アレンが釘を刺すが、聞いているのか怪しい。
「水を飲むくらいはいいんじゃねェか。水筒の中身も心許ないし」
「そういわれると弱いですね」
アレンがそう言うとアシドは嬉々として湖に近づく。そのまま水に触れようとした時だった。スパイクドラゴンが現れたのは。
ザバリと水の中から出現したそいつは、突進を仕掛ける。頭についた棘をギリギリで躱したはいいものの、頭突きをまともにもらってしまう。
アシドは無理矢理背を反らし、バク転して着地する。そういえば膝は大丈夫なのだろうか。
「どうした」
聖杯を調べていたコストイラ達が合流する。スパイクドラゴンは口内に水を溜め、水球を発射する。レイドが前に立ち、楯で防ぐ。白銀の輝きが増す。
「私が前に立つ。行け」
アシドとコストイラが飛び出す。
槍を回しながら近づくアシドにスパイクドラゴンは右前足を振るう。アシドは驚異の動体視力で棘の位置と軌道を読み、迫る棘の1本を掴んだ。スパイクドラゴンの力を借りて、背中に登る。右前足を戻しながら、コストイラへの攻撃とする。薙ぎ払いが直撃し、コストイラは壁へ激突する。パラパラと小石が降ってくる。
『グルォオオオオ!!』
スパイクドラゴンの右前足首から血を噴き出している。ペッと口内の唾液を吐きながらコストイラが立ち上がる。刀には血が付いていた。ただではやられない。それがコストイラだ。
アシドは背中に槍を突き立てる。鉄のように固い鱗が貫かれた。同時にスパイクドラゴンの自尊心にも傷つく。
背中に気を取られたせいで、目の前のナイフに気付かなかった。ナイフは口内に入り、牙に止められる。そのままナイフを噛み砕く。口内が爆発した。
スパイクドラゴンが大量の血を吐く。ナイフの刃があちらこちらに刺さったのだ。
『グルゥウオオ!!』
スパイクドラゴンは大きく開け、雄叫びを上げる。口内にさらに炎が入り込む。普段ならば、何ともないのだが、今回は口の中がズタズタだ。口内の傷口を炙られる。とてつもない激痛に口を水に沈め悶える。
口の中が冷え、熱が消えていくと、背中に意識が戻る。悶えている間にも、アシドは槍を刺し続けていたのだ。
スパイクドラゴンはアシドごと水に潜った。アシドはすでに陸に上がる。水棲の生き物に水中で挑むなど愚の骨頂だ。勝ち目がない。本来であればここで戦いは終わる。スパイクドラゴンの逃走という形で。しかし、そんなことを自尊心の塊たる若い竜が許すはずがない。スパイクドラゴンもすぐに水面を割る。
その瞬間、棘にナイフが当たり、落ちる。そのナイフを棘竜が踏む。爆発が起こる。口内での爆発がトラウマになっており、身をびくりと震わせる。敵の方を向くと、全員が楯持ちの後ろにいる。赤髪を除いて。
「斬るぜ」
赤髪が何を言ったのかは分からない。ただ、刃物を持ってこちらに駆けてくる。きっと宣戦布告だろう。よってスパイクドラゴンも迎え撃つ。棘と刀が合わせる。自分より5分の1も小さい奴なんかすぐに吹き飛ばしてやると息巻いたスパイクドラゴンの棘が切れた。
自尊心が、誇りが切れた。粉々に砕かれ、ズタボロに切り裂かれ、ボロボロと崩れた。
刃はその奥、そこに眠る鱗も断つ。そのまま右前足首を切り飛ばす。
『オオオオオオ』
鳴きながら白目を剥き、スパイクドラゴンは水に沈んだ。
「血で水が汚れたな。これは汲まない方がいいな」
アシドは薄く、血が混じり、始めた湖を見てそう呟いた。確かに血が混じってしまった。飲んだら毒や病気になりそう。
「完全に混ざる前に掬っちゃいなさい」
アシドは天啓を得たことで早速水を汲み始める。
「大丈夫なんですかね」
「さぁ?」
アストロがおどけるように肩を竦める。アレンは絶句し、アシドを止めようとする。アシドはアレンが声を出す前に動きだす。やっぱり止めようと思い立ったのか?しかし、違った。
湖が中心から盛り上がり、ゾバッと藍色の体が出現する。まだ戦う気なのかと思ったが違う。スパイクドラゴンの腹が食い千切られていた。
誰がこんなことを、などと考えることはない。犯人は湖の中にいる。
ぱちゃりと静かに水面から鞭のような縄のような、細長いものが現れる。パチャピチャと紐が動くと、宝箱が出現し、湖のど真ん中に設置された。
なるほど。さっきの紐は誘引突起で、この宝箱は疑似餌か。
つまるところ、これはあれだ。罠だ。
冒険者は勝ちが続き、慣れてきた頃が最も死亡率が高くなる。龍にも存在する。龍種が最上位の首であると自覚、いや調子に乗り始める時期だ。具体的には200歳から300歳頃だ。調子に乗り、慢心し、傲然と死んでいく。それがこの年齢だ。
現在アレン達の前に立ち塞がっている龍もこの年齢に当てはまる。8m級の大きさに藍色の鱗。それよりも目を引く棘だらけの全身。その1本1本がヂドル産の剣並に硬く、非常に厄介である。さらに、棘の多さと硬さは戦いに勝利するほどに増え、硬くなっていく。
つまり、この龍種、スパイクドラゴンにとって棘は誇りである。
アレン達は遺跡の中にいた。何か持っていけそうなものを探していた。まるで泥棒である。
「何だこれ。盃か?」
コストイラは欠け割れている優勝者のトロフィーのような盃を見つける。壊すと面倒そうなので触れないで観察する。
「近くにこれがあったわ」
アストロの手に握られているのは”聖杯の記録と考察”と書かれた羊皮紙だ。
「聖杯か。どんな願いも叶うんだっけ」
「私は食料を無尽蔵に出ると教わった」
「わ、わ、私はな、亡くなった方をい、い、生き返らせることができるとき、き、聞いたことがあります」
どうやら伝説が多いようだ。
「あれ? アシドさん。どうかしたんですか?」
アレンがアシドに近づくと、アシドは振り返りもせずに答える。
「灯りのねェ湖だ。泳ぎたい気分が爆発しそうだぜ」
「明らかに何かいそうな気がするんですが」
「だからオレも我慢してんだよ。あーあ。泳ぎてェ」
アシドは不満を口にしながら、槍の柄で自身の足の甲をトントン叩く。
「あそこは水源らしいわよ。この村が使って井戸ね」
「井戸か。何もいねェ可能性が高そうな気がしてきたぜ」
「入らないでくださいよ」
アストロはたまたま見つけた村の地図を見ながら告げると、アシドはより一層欲望を膨らませる。アレンが釘を刺すが、聞いているのか怪しい。
「水を飲むくらいはいいんじゃねェか。水筒の中身も心許ないし」
「そういわれると弱いですね」
アレンがそう言うとアシドは嬉々として湖に近づく。そのまま水に触れようとした時だった。スパイクドラゴンが現れたのは。
ザバリと水の中から出現したそいつは、突進を仕掛ける。頭についた棘をギリギリで躱したはいいものの、頭突きをまともにもらってしまう。
アシドは無理矢理背を反らし、バク転して着地する。そういえば膝は大丈夫なのだろうか。
「どうした」
聖杯を調べていたコストイラ達が合流する。スパイクドラゴンは口内に水を溜め、水球を発射する。レイドが前に立ち、楯で防ぐ。白銀の輝きが増す。
「私が前に立つ。行け」
アシドとコストイラが飛び出す。
槍を回しながら近づくアシドにスパイクドラゴンは右前足を振るう。アシドは驚異の動体視力で棘の位置と軌道を読み、迫る棘の1本を掴んだ。スパイクドラゴンの力を借りて、背中に登る。右前足を戻しながら、コストイラへの攻撃とする。薙ぎ払いが直撃し、コストイラは壁へ激突する。パラパラと小石が降ってくる。
『グルォオオオオ!!』
スパイクドラゴンの右前足首から血を噴き出している。ペッと口内の唾液を吐きながらコストイラが立ち上がる。刀には血が付いていた。ただではやられない。それがコストイラだ。
アシドは背中に槍を突き立てる。鉄のように固い鱗が貫かれた。同時にスパイクドラゴンの自尊心にも傷つく。
背中に気を取られたせいで、目の前のナイフに気付かなかった。ナイフは口内に入り、牙に止められる。そのままナイフを噛み砕く。口内が爆発した。
スパイクドラゴンが大量の血を吐く。ナイフの刃があちらこちらに刺さったのだ。
『グルゥウオオ!!』
スパイクドラゴンは大きく開け、雄叫びを上げる。口内にさらに炎が入り込む。普段ならば、何ともないのだが、今回は口の中がズタズタだ。口内の傷口を炙られる。とてつもない激痛に口を水に沈め悶える。
口の中が冷え、熱が消えていくと、背中に意識が戻る。悶えている間にも、アシドは槍を刺し続けていたのだ。
スパイクドラゴンはアシドごと水に潜った。アシドはすでに陸に上がる。水棲の生き物に水中で挑むなど愚の骨頂だ。勝ち目がない。本来であればここで戦いは終わる。スパイクドラゴンの逃走という形で。しかし、そんなことを自尊心の塊たる若い竜が許すはずがない。スパイクドラゴンもすぐに水面を割る。
その瞬間、棘にナイフが当たり、落ちる。そのナイフを棘竜が踏む。爆発が起こる。口内での爆発がトラウマになっており、身をびくりと震わせる。敵の方を向くと、全員が楯持ちの後ろにいる。赤髪を除いて。
「斬るぜ」
赤髪が何を言ったのかは分からない。ただ、刃物を持ってこちらに駆けてくる。きっと宣戦布告だろう。よってスパイクドラゴンも迎え撃つ。棘と刀が合わせる。自分より5分の1も小さい奴なんかすぐに吹き飛ばしてやると息巻いたスパイクドラゴンの棘が切れた。
自尊心が、誇りが切れた。粉々に砕かれ、ズタボロに切り裂かれ、ボロボロと崩れた。
刃はその奥、そこに眠る鱗も断つ。そのまま右前足首を切り飛ばす。
『オオオオオオ』
鳴きながら白目を剥き、スパイクドラゴンは水に沈んだ。
「血で水が汚れたな。これは汲まない方がいいな」
アシドは薄く、血が混じり、始めた湖を見てそう呟いた。確かに血が混じってしまった。飲んだら毒や病気になりそう。
「完全に混ざる前に掬っちゃいなさい」
アシドは天啓を得たことで早速水を汲み始める。
「大丈夫なんですかね」
「さぁ?」
アストロがおどけるように肩を竦める。アレンは絶句し、アシドを止めようとする。アシドはアレンが声を出す前に動きだす。やっぱり止めようと思い立ったのか?しかし、違った。
湖が中心から盛り上がり、ゾバッと藍色の体が出現する。まだ戦う気なのかと思ったが違う。スパイクドラゴンの腹が食い千切られていた。
誰がこんなことを、などと考えることはない。犯人は湖の中にいる。
ぱちゃりと静かに水面から鞭のような縄のような、細長いものが現れる。パチャピチャと紐が動くと、宝箱が出現し、湖のど真ん中に設置された。
なるほど。さっきの紐は誘引突起で、この宝箱は疑似餌か。
つまるところ、これはあれだ。罠だ。
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