メグルユメ
9.村長の勤め
竜は話をできる生物だ。
ノレイ村の村長トレースヴァンピは龍と盟約を結んでいた。とても友好的な関係であった。龍は護衛をし、ノレイ村は食料を授けた。たまに酒宴を開き、酒豪である龍に酒を飲まされ、倒れたこともある。
トレースヴァンピと龍はとても仲が良かった。
しかし、ある日、関係が変わった。
300年ほど前、勇者レペッシュが誕生した頃に悪化していった。龍がノレイ村を攻め込んできたのだ。きっかけが何かは分からない。唐突に襲ってきた。
トレースヴァンピは村長として対抗した。龍は強い。それは周知の事実であり、村人達は戦意を喪失していった。分っている。自分では竜に勝てない。地の利を活かしても龍3,4体分しか勝てない。
倒れる時、竜達はなぜ? や、どうして? と驚愕な顔をしていた。どういう意味かは分からない。
トレースヴァンピは説明する間もなく、息絶えた。
隕石で攻撃されるのは2度目だ。一度は魔王インサーニアの妻であるイライザによる攻撃だ。あの時は相当手を焼いたが、2度目はそうはいかない。
レイドは護衛を守るように楯を構える。アシドとシキは、隕石を縫うように駆ける。コストイラは壁まで走り、大回りで躱し、トレースヴァンピに向かい走る。
トレースヴァンピは左手を振るう。シキは急激に止まるが、アシドは攻撃範囲に入ってしまう。
メキャ、と左足が鳴る。ブレーキをかけるために出した足が超重力に圧され、膝が逆に曲がった。アシドの顔が激痛に歪む。
びしりとトレースヴァンピの腕輪に罅が入る。そのまま砕け、バラバラと下に落ちる。
「腕輪が」
「溜まっているテクニカルポイントを使い切ったのね」
「じゃあ」
「あれを使い切らせれば優位に立てるわ」
『フンッ!』
トレースヴァンピはアストロとアレンの会話を聞いており、その口を閉じさせようと腕を振るう。現れる隕石はレイドが防ぐ。後ろで守られているアストロは腕輪の魔力を使わせようと魔術を放つ。
『くっ!?』
トレースヴァンピはその浮遊する体を活かし、滑るように回避していく。
『舐めるなっ!』
トレースヴァンピは右手を前に出す。後ろからコストイラが刀を振るう。しかし、手応えがない。トレースヴァンピは霊体である。その体は生身ではない。刃をするりと通り抜け、面食らっているコストイラを捕捉する。びしりと腕輪に罅を入れながら、花弁を舞い運ぶ風のように滑らかな動きでコストイラを殴る。
「ぐぁっ!?」
砕けた腕輪の破片が腹に刺さったようで、コストイラは腹を押さえながらもんどりを打つ。
次の魔術を放とうとするトレースヴァンピに対し、シキはナイフを振るう。シキは前轍は踏まない。ナイフは正確に腕輪を叩き、砕く。中に詰まっていたテクニカルポイントは一気に解放され、奔流し、爆発を起こした。
煙に中からシキは吐き出され、ゴロゴロと地面に転がる。トレースヴァンピはよろよろと煙から出てくる。今の爆発が影響したのか、腕輪に罅が入っている。
『よ、くも………』
爆発の影響か、意識が朦朧としており、言葉が滑らかに出てこない。そしてトレースヴァンピの意識の外から足の治りかけのアシドが腕輪を叩く。
『なっ!?』
唐突なことで対処できず、2度目の爆発、風圧で飛ばされるアシドは華麗に着地しようとして再び膝を逆方向に曲げる。すぐさまエンドローゼが駆け寄り治療するが、アシドに対し滅茶苦茶怒っている。アシドは何も言い返せないのか、静かに時が過ぎるのを待っている。
『あ、あ』
トレースヴァンピは上の空だ。意識がそこにない。腕輪は砕けており、残されたのは罅割れたものを2つと無傷なものは1つの計3つだ。
『私、は、私、は』
ぶつぶつと譫言を呟きながら、両手を前に出し軽く何かを握るとするさまは不気味だ。
「最後の一発、いくぜ」
復活したコストイラは鋭い目つきでトレースヴァンピを見る。そして繰り出された一撃は無傷の腕輪を砕き、小規模の爆発を起こす。小さなものでも罅入ったものを砕くには十分だった。
『ガッ!』
激昂したトレースヴァンピはコストイラを道連れにしようと手を伸ばす。しかし、コストイラが干渉できないのならトレースヴァンピも干渉できない。霊体の手はコストイラをすり抜ける。
そしてコストイラはトレースヴァンピの頭についているサークレットに頭突きする。その衝撃に装飾されていた魔紅石がびしりと罅入る。
「痛ッてェ。めっちゃ痛ェ」
コストイラが頭を押さえているが、その指の間から血が垂れている。
『思考が晴れた』
天を見上げるトレースヴァンピからは戦闘中に感じた荒々しさが消えていた。
『あの時の彼らの眼は曇っていたか? 澄んでいたのではないか?』
要領を得ない。一体何の話をしているのだろうか?
『本当は、彼らは狂気になど染まっていなかったのではないか? ノレイに狂気が存在していたとすれば、それを齎したのはこの私だ』
「何言ってんだよ。おい、何の話だよ」
コストイラが聞いたが、トレースヴァンピは成仏した。カランと音を鳴らしたサークレットを残して。
『何だ』
神社の本殿内で2人の男が対峙する。
片や3m大の瓢箪の酒を呷る男。片や3m大の苔岩のような被り物をしている男。
両者ともに異常なほどの威圧感を放っており、麓の村のおじいさんは寝込んでしまった。
『何の用だ、レイベルス。用がないのならその手足を動かし出て行け』
「そう言うな、ガレット。オレ達の仲だろ。ガッハッハ。酒でも飲まんか?」
ガレットは差し出される盃を押し返し断る。
『貴様と飲むと三日三晩続くではないか』
「互いに大酒飲みだからな。ガッハッハ」
レイベルスは瓢箪の酒を呷る。
「あのガキでも見守ってんのか?」
『そうだ』
「誰だよ、あのガキ」
『貴様の方がよく知っていよう』
「オレの知り合いだ? あんな爛れたガキなんか、?アン?もしかしてシロガネと一緒にいたアイツか?」
『そうだ』
「そうか。シロガネを探してんのか。あの体じゃ巡り合えんのか分かんねェぞ」
『どっちでもいい。結末が見たいだけだ』
「かつてのイーラみてェなこと言うな」
ガレットの視線の先、少女は川沿いの道を歩いていた。
『ヴァア』
ノレイ村の村長トレースヴァンピは龍と盟約を結んでいた。とても友好的な関係であった。龍は護衛をし、ノレイ村は食料を授けた。たまに酒宴を開き、酒豪である龍に酒を飲まされ、倒れたこともある。
トレースヴァンピと龍はとても仲が良かった。
しかし、ある日、関係が変わった。
300年ほど前、勇者レペッシュが誕生した頃に悪化していった。龍がノレイ村を攻め込んできたのだ。きっかけが何かは分からない。唐突に襲ってきた。
トレースヴァンピは村長として対抗した。龍は強い。それは周知の事実であり、村人達は戦意を喪失していった。分っている。自分では竜に勝てない。地の利を活かしても龍3,4体分しか勝てない。
倒れる時、竜達はなぜ? や、どうして? と驚愕な顔をしていた。どういう意味かは分からない。
トレースヴァンピは説明する間もなく、息絶えた。
隕石で攻撃されるのは2度目だ。一度は魔王インサーニアの妻であるイライザによる攻撃だ。あの時は相当手を焼いたが、2度目はそうはいかない。
レイドは護衛を守るように楯を構える。アシドとシキは、隕石を縫うように駆ける。コストイラは壁まで走り、大回りで躱し、トレースヴァンピに向かい走る。
トレースヴァンピは左手を振るう。シキは急激に止まるが、アシドは攻撃範囲に入ってしまう。
メキャ、と左足が鳴る。ブレーキをかけるために出した足が超重力に圧され、膝が逆に曲がった。アシドの顔が激痛に歪む。
びしりとトレースヴァンピの腕輪に罅が入る。そのまま砕け、バラバラと下に落ちる。
「腕輪が」
「溜まっているテクニカルポイントを使い切ったのね」
「じゃあ」
「あれを使い切らせれば優位に立てるわ」
『フンッ!』
トレースヴァンピはアストロとアレンの会話を聞いており、その口を閉じさせようと腕を振るう。現れる隕石はレイドが防ぐ。後ろで守られているアストロは腕輪の魔力を使わせようと魔術を放つ。
『くっ!?』
トレースヴァンピはその浮遊する体を活かし、滑るように回避していく。
『舐めるなっ!』
トレースヴァンピは右手を前に出す。後ろからコストイラが刀を振るう。しかし、手応えがない。トレースヴァンピは霊体である。その体は生身ではない。刃をするりと通り抜け、面食らっているコストイラを捕捉する。びしりと腕輪に罅を入れながら、花弁を舞い運ぶ風のように滑らかな動きでコストイラを殴る。
「ぐぁっ!?」
砕けた腕輪の破片が腹に刺さったようで、コストイラは腹を押さえながらもんどりを打つ。
次の魔術を放とうとするトレースヴァンピに対し、シキはナイフを振るう。シキは前轍は踏まない。ナイフは正確に腕輪を叩き、砕く。中に詰まっていたテクニカルポイントは一気に解放され、奔流し、爆発を起こした。
煙に中からシキは吐き出され、ゴロゴロと地面に転がる。トレースヴァンピはよろよろと煙から出てくる。今の爆発が影響したのか、腕輪に罅が入っている。
『よ、くも………』
爆発の影響か、意識が朦朧としており、言葉が滑らかに出てこない。そしてトレースヴァンピの意識の外から足の治りかけのアシドが腕輪を叩く。
『なっ!?』
唐突なことで対処できず、2度目の爆発、風圧で飛ばされるアシドは華麗に着地しようとして再び膝を逆方向に曲げる。すぐさまエンドローゼが駆け寄り治療するが、アシドに対し滅茶苦茶怒っている。アシドは何も言い返せないのか、静かに時が過ぎるのを待っている。
『あ、あ』
トレースヴァンピは上の空だ。意識がそこにない。腕輪は砕けており、残されたのは罅割れたものを2つと無傷なものは1つの計3つだ。
『私、は、私、は』
ぶつぶつと譫言を呟きながら、両手を前に出し軽く何かを握るとするさまは不気味だ。
「最後の一発、いくぜ」
復活したコストイラは鋭い目つきでトレースヴァンピを見る。そして繰り出された一撃は無傷の腕輪を砕き、小規模の爆発を起こす。小さなものでも罅入ったものを砕くには十分だった。
『ガッ!』
激昂したトレースヴァンピはコストイラを道連れにしようと手を伸ばす。しかし、コストイラが干渉できないのならトレースヴァンピも干渉できない。霊体の手はコストイラをすり抜ける。
そしてコストイラはトレースヴァンピの頭についているサークレットに頭突きする。その衝撃に装飾されていた魔紅石がびしりと罅入る。
「痛ッてェ。めっちゃ痛ェ」
コストイラが頭を押さえているが、その指の間から血が垂れている。
『思考が晴れた』
天を見上げるトレースヴァンピからは戦闘中に感じた荒々しさが消えていた。
『あの時の彼らの眼は曇っていたか? 澄んでいたのではないか?』
要領を得ない。一体何の話をしているのだろうか?
『本当は、彼らは狂気になど染まっていなかったのではないか? ノレイに狂気が存在していたとすれば、それを齎したのはこの私だ』
「何言ってんだよ。おい、何の話だよ」
コストイラが聞いたが、トレースヴァンピは成仏した。カランと音を鳴らしたサークレットを残して。
『何だ』
神社の本殿内で2人の男が対峙する。
片や3m大の瓢箪の酒を呷る男。片や3m大の苔岩のような被り物をしている男。
両者ともに異常なほどの威圧感を放っており、麓の村のおじいさんは寝込んでしまった。
『何の用だ、レイベルス。用がないのならその手足を動かし出て行け』
「そう言うな、ガレット。オレ達の仲だろ。ガッハッハ。酒でも飲まんか?」
ガレットは差し出される盃を押し返し断る。
『貴様と飲むと三日三晩続くではないか』
「互いに大酒飲みだからな。ガッハッハ」
レイベルスは瓢箪の酒を呷る。
「あのガキでも見守ってんのか?」
『そうだ』
「誰だよ、あのガキ」
『貴様の方がよく知っていよう』
「オレの知り合いだ? あんな爛れたガキなんか、?アン?もしかしてシロガネと一緒にいたアイツか?」
『そうだ』
「そうか。シロガネを探してんのか。あの体じゃ巡り合えんのか分かんねェぞ」
『どっちでもいい。結末が見たいだけだ』
「かつてのイーラみてェなこと言うな」
ガレットの視線の先、少女は川沿いの道を歩いていた。
『ヴァア』
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