メグルユメ
14.豪快に面倒事を吹き飛ばせ
宗教とは難しいものだ。同じ事物を一生の間信じ続けられることは一種の狂気なのかもしれない。多くの者は裏切りがあったとしても改宗することはない。産まれた時から宗教が決められていて、どんな反抗期な子供でさえ、信仰を乗り換えない。宗教に疑問を持ち、改宗しようとする者はほぼいない。歴史を見ても、8つの宗教しかないのがその証拠だ。
これに苛立ちを示すのがマーエン教だ。当たり前だろう。元々、世界の宗教はマーエン教のみだったのに、他の宗教に信者を取られたのだ。自分達より教徒のいる宗教を目の敵にしている。
宗教とは領土だ。
領土を拡大するために日夜戦争している。他国の領土を奪い取ろうとする侵略行為を布教と呼び、その戦いを宗教戦争と呼ぶ。それらも、必ず正義の名の下に行われる。大体の場合は繁栄と幸福のためだ。
正義はこちらにあるのだから、何を言われようと相手の主張は悪である。かの有名な騎士王アスタットは正義の反対は別の正義だと主張したが、誰も聞き入れようとしなかった。だってそうだろう。正義の反対は悪なのだから。
急造の教会の中で、記憶喪失の青年が体を起こす。急に建物が揺れたのだ。青年は寝起きの頭に手を当て、左右に振る。
『教会が揺れるなんて、ヤマト様が許さぬだろう。ということは今はヤマト様がいらっしゃらないのか? となれば、教会を護るのは私?』
考えると、そこからの行動は早かった。貴族の外出用のような洋服を手に取りながらベッドを下りる。服を着ると、曲刀と仮面を手に取って部屋を出る。ドンと教会に繋がる連絡通路の扉が揺れた。
おかしい。ヤマト様は信心深いお方だ。起きている時間の9割以上は教会内にいらっしゃる。今も教会内にいらっしゃるはずだ。こんなに揺れるようなことが起きるはずがない。
『ヤマト様!? 如何なされたのでしょうか?』
青年は扉を開け、教会内に入る。
怒れるビショップは、卑しき冒険者たちと戦っていた。
『死ね!背教者どもめ』
ヤマトの大声を、青年は聞いたことがなかった。相当取り乱しておられる。青年はヤマト様を鎮めるべき立場の地位にいる。しかし、青年はヤマト様の背教者という言葉に身を熱くした。背教者死すべし。邪教徒すべし。
マーエン教の教えに従い、青年は曲刀を抜く。
『助太刀いたします』
青年は一番近くにいた銀髪の少女を狙う。小柄で華奢な少女など魔物となった青年のパワーとスピードでぐちゃぐちゃにしてやる。
上段から振り下ろされる曲刀を、少女は見もせずにナイフを抜き、曲刀の腹を押し上げ、少女の左踵が青年の頬に刺さる。青年の意識が飛ぶ。
「何だ?」
『っ!? ノエス!』
ヤマトはノエスに駆け寄り、抱きかかえる。体を揺らして起こそうとする。
『ノエス? ノエス!』
『う、や、ヤマト様』
『良かった。では背教者を』
『はい。討ちましょう』
アシドが槍でヤマトを刺すが、ヤマトは動じない。
『ヤマト様をよくも!』
ノエスが動き、アシドに切りかかる。アシドは槍を抜かずに離脱する。
『ヤマト様、槍を』
『抜かんでいい。出血多量だ』
『分かりました』
ノエスは曲刀を振り、体の向きを変える。
『背教者をぶった切る』
ノエスは一直線に走り出す。無手のアシドは合気道のような開手の構えをとり、対応する。ノエスが上段から斬りかかるが、外に逃げるように体を回し、足を払う。その隙に一時離脱する。
ヤマトはアシドを狙い、拳を振るう。アシドは反応しない。仲間を信頼しているからだ。ヤマトとアシドの間にレイドが入り込む。楯で拳を受け止める。ズザザと足が地面を滑るが、アシドより前で完全に止める。
ノエスは立ち上がろうとするが、アシドが曲刀で刺し、縫い留める。ヤマトは押し潰すように上から拳を落とす。アシドとレイドはすぐに離脱する。ヤマトはノエスに気付き拳を止めるが、拳の風圧でノエスの体が少し潰れる。シキはヤマトの右拳に乗り、ナイフで腕を斬りながら肩まで走る。そして、強烈な蹴りでヤマトの兜を蹴り、体をブレさせる。
アシドはノエスを刺していた曲刀を掴み、ノエスの体を斬りながら抜き去り、ヤマトに切りかかる。アシドに拳を落とすが、簡単に避けてみせ、手首を切り落とす。
「行け!」
『ぐぅぬぁっ!!』
興奮状態により痛みに鈍くなっており、目の前の敵を相手する。コストイラが刀に火をともし、相対する。コストイラは疾走し、ヤマトはそれに合わせるように残っていた左拳を振るう。ヤマトの背中に激痛が走る。シキが、ヤマトの背にあった槍を引き抜いたのだ。鈍くなっていても痛みはある。ヤマトの拳がブレ、コストイラを掠める。コストイラは斜めに回転させ飛び越え、ヤマトの腕を蹴り、ヤマトの巨体を斬りつける。
ヤマトの体はグラリと倒れ掛かる。アシドはシキから槍を受け取り、コストイラの後ろから追い抜く。アシドはコストイラの刀の側面に着地し、コストイラは腕の力だけで打ち上げる。
加速するアシドはヤマトの胸を突き穿つ。ヤマトは倒れながら、支柱の一本を掴むが、ボキリと折れる。踏鞴を踏みながら下がっていき、壁に衝突する。そのまま、壁を突き破る。
一つの綻びから、バラバラと建物が崩れていく。建築学を無視した急造の教会は崩落していく。
「やっべ。逃げろ、逃げろ!」
「崩れてんじゃん!」
「フェアっ!?」
7人は慌てて教会から飛び出し行く。まさかエンドローゼが一番に外に出るとは思わなかった。逃げ足は速いのか?
「派手にやってんな。やるな、お前ら」
飛び出してきたアレン達の目の前には、3m大の男が、岩を背に瓢箪から酒を飲んでいた。
「オレはよォ、この教会が気に入らなかったんだよ。ついにぶっ壊れたか。いやぁ機嫌がいい。気分もいい。こういう時は祝宴だよなっ!!」
男はそう言うと、どこから出したのか人数分の盃を人数分取り出す。それらを地面に置くと、ドカリと座り、酒を注ぐ。男の猛禽類のような鋭い目線は、拒否という選択肢を作らせなかった。
「にしてもあんなに派手にぶっ壊れるとはなァ。ガッハッハ。分かってるじゃねェか」
背をバンバンと叩かれ、アシドが噎せる。助けを求めるように目線を送るアシドをコストイラやアストロは全力で無視する。すまない、アシド。君は生贄なんだ。
くぴりとお酒を一口飲んだエンドローゼが倒れた。
「エンドローゼってお酒に弱いのね」
アストロはエンドローゼの背を撫でる。
「お前、それ、楯か? ひしゃげてんな。何したんだよ」
「魔物の攻撃を防ぎました」
「ふーむ」
男は楯を撫で、その硬さに片眉を上げる。
「この硬さがひしゃげたか。面白ェ。この近くに河童の里があんだ。河童なら整備してくれんだろ。オレの名前を出せば確実だ」
自信満々に自分のことを指さす。
「そういえば、あなたは誰ですか?」
「え? あれ? 名乗ってなかったっけ?」
「はい」
「おいおいおいおい。誰とも知らずに付き合ってくれたのかよ、ありがとな!オレはレイベルス。このあたりじゃ結構有名な鬼なんだぜ」
これに苛立ちを示すのがマーエン教だ。当たり前だろう。元々、世界の宗教はマーエン教のみだったのに、他の宗教に信者を取られたのだ。自分達より教徒のいる宗教を目の敵にしている。
宗教とは領土だ。
領土を拡大するために日夜戦争している。他国の領土を奪い取ろうとする侵略行為を布教と呼び、その戦いを宗教戦争と呼ぶ。それらも、必ず正義の名の下に行われる。大体の場合は繁栄と幸福のためだ。
正義はこちらにあるのだから、何を言われようと相手の主張は悪である。かの有名な騎士王アスタットは正義の反対は別の正義だと主張したが、誰も聞き入れようとしなかった。だってそうだろう。正義の反対は悪なのだから。
急造の教会の中で、記憶喪失の青年が体を起こす。急に建物が揺れたのだ。青年は寝起きの頭に手を当て、左右に振る。
『教会が揺れるなんて、ヤマト様が許さぬだろう。ということは今はヤマト様がいらっしゃらないのか? となれば、教会を護るのは私?』
考えると、そこからの行動は早かった。貴族の外出用のような洋服を手に取りながらベッドを下りる。服を着ると、曲刀と仮面を手に取って部屋を出る。ドンと教会に繋がる連絡通路の扉が揺れた。
おかしい。ヤマト様は信心深いお方だ。起きている時間の9割以上は教会内にいらっしゃる。今も教会内にいらっしゃるはずだ。こんなに揺れるようなことが起きるはずがない。
『ヤマト様!? 如何なされたのでしょうか?』
青年は扉を開け、教会内に入る。
怒れるビショップは、卑しき冒険者たちと戦っていた。
『死ね!背教者どもめ』
ヤマトの大声を、青年は聞いたことがなかった。相当取り乱しておられる。青年はヤマト様を鎮めるべき立場の地位にいる。しかし、青年はヤマト様の背教者という言葉に身を熱くした。背教者死すべし。邪教徒すべし。
マーエン教の教えに従い、青年は曲刀を抜く。
『助太刀いたします』
青年は一番近くにいた銀髪の少女を狙う。小柄で華奢な少女など魔物となった青年のパワーとスピードでぐちゃぐちゃにしてやる。
上段から振り下ろされる曲刀を、少女は見もせずにナイフを抜き、曲刀の腹を押し上げ、少女の左踵が青年の頬に刺さる。青年の意識が飛ぶ。
「何だ?」
『っ!? ノエス!』
ヤマトはノエスに駆け寄り、抱きかかえる。体を揺らして起こそうとする。
『ノエス? ノエス!』
『う、や、ヤマト様』
『良かった。では背教者を』
『はい。討ちましょう』
アシドが槍でヤマトを刺すが、ヤマトは動じない。
『ヤマト様をよくも!』
ノエスが動き、アシドに切りかかる。アシドは槍を抜かずに離脱する。
『ヤマト様、槍を』
『抜かんでいい。出血多量だ』
『分かりました』
ノエスは曲刀を振り、体の向きを変える。
『背教者をぶった切る』
ノエスは一直線に走り出す。無手のアシドは合気道のような開手の構えをとり、対応する。ノエスが上段から斬りかかるが、外に逃げるように体を回し、足を払う。その隙に一時離脱する。
ヤマトはアシドを狙い、拳を振るう。アシドは反応しない。仲間を信頼しているからだ。ヤマトとアシドの間にレイドが入り込む。楯で拳を受け止める。ズザザと足が地面を滑るが、アシドより前で完全に止める。
ノエスは立ち上がろうとするが、アシドが曲刀で刺し、縫い留める。ヤマトは押し潰すように上から拳を落とす。アシドとレイドはすぐに離脱する。ヤマトはノエスに気付き拳を止めるが、拳の風圧でノエスの体が少し潰れる。シキはヤマトの右拳に乗り、ナイフで腕を斬りながら肩まで走る。そして、強烈な蹴りでヤマトの兜を蹴り、体をブレさせる。
アシドはノエスを刺していた曲刀を掴み、ノエスの体を斬りながら抜き去り、ヤマトに切りかかる。アシドに拳を落とすが、簡単に避けてみせ、手首を切り落とす。
「行け!」
『ぐぅぬぁっ!!』
興奮状態により痛みに鈍くなっており、目の前の敵を相手する。コストイラが刀に火をともし、相対する。コストイラは疾走し、ヤマトはそれに合わせるように残っていた左拳を振るう。ヤマトの背中に激痛が走る。シキが、ヤマトの背にあった槍を引き抜いたのだ。鈍くなっていても痛みはある。ヤマトの拳がブレ、コストイラを掠める。コストイラは斜めに回転させ飛び越え、ヤマトの腕を蹴り、ヤマトの巨体を斬りつける。
ヤマトの体はグラリと倒れ掛かる。アシドはシキから槍を受け取り、コストイラの後ろから追い抜く。アシドはコストイラの刀の側面に着地し、コストイラは腕の力だけで打ち上げる。
加速するアシドはヤマトの胸を突き穿つ。ヤマトは倒れながら、支柱の一本を掴むが、ボキリと折れる。踏鞴を踏みながら下がっていき、壁に衝突する。そのまま、壁を突き破る。
一つの綻びから、バラバラと建物が崩れていく。建築学を無視した急造の教会は崩落していく。
「やっべ。逃げろ、逃げろ!」
「崩れてんじゃん!」
「フェアっ!?」
7人は慌てて教会から飛び出し行く。まさかエンドローゼが一番に外に出るとは思わなかった。逃げ足は速いのか?
「派手にやってんな。やるな、お前ら」
飛び出してきたアレン達の目の前には、3m大の男が、岩を背に瓢箪から酒を飲んでいた。
「オレはよォ、この教会が気に入らなかったんだよ。ついにぶっ壊れたか。いやぁ機嫌がいい。気分もいい。こういう時は祝宴だよなっ!!」
男はそう言うと、どこから出したのか人数分の盃を人数分取り出す。それらを地面に置くと、ドカリと座り、酒を注ぐ。男の猛禽類のような鋭い目線は、拒否という選択肢を作らせなかった。
「にしてもあんなに派手にぶっ壊れるとはなァ。ガッハッハ。分かってるじゃねェか」
背をバンバンと叩かれ、アシドが噎せる。助けを求めるように目線を送るアシドをコストイラやアストロは全力で無視する。すまない、アシド。君は生贄なんだ。
くぴりとお酒を一口飲んだエンドローゼが倒れた。
「エンドローゼってお酒に弱いのね」
アストロはエンドローゼの背を撫でる。
「お前、それ、楯か? ひしゃげてんな。何したんだよ」
「魔物の攻撃を防ぎました」
「ふーむ」
男は楯を撫で、その硬さに片眉を上げる。
「この硬さがひしゃげたか。面白ェ。この近くに河童の里があんだ。河童なら整備してくれんだろ。オレの名前を出せば確実だ」
自信満々に自分のことを指さす。
「そういえば、あなたは誰ですか?」
「え? あれ? 名乗ってなかったっけ?」
「はい」
「おいおいおいおい。誰とも知らずに付き合ってくれたのかよ、ありがとな!オレはレイベルス。このあたりじゃ結構有名な鬼なんだぜ」
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