メグルユメ
10.熱砂の湖岸
寒暖差の激しい環境は人体にも影響がある。
人間の体や心は、ある程度の環境の変化や刺激の強さに耐えられるようにつくられる。しかし、その程度があまりにも極端なものであると、影響が出てくる。どれほど身構えていても、突然の気候の変化やその他の様々なストレスフルの出来事に体も心も翻弄される。季節の変わり目の体調不良や寒暖差が原因にある可能性がある。
つまり、エンドローゼの体調不良も寒暖差の可能性がある。
「いや、可能性っつーか確定だろ」
顎を伝う汗を拭うコストイラは、木陰に隠れるように凭れる。先ほどの神社や天狗の里は涼しかった。体感として14度くらいだろうか。しかし、今いる場所は30度くらいだ。原因として考えられるのは日射だけではなく、足元の砂だ。熱を吸収した砂が異常に熱く、体感温度を上げていた。
「湖が近いのね」
「日が遮るものがないからな」
レイドが手で傘をつくり、空を見る。
「差がスゲェよな。暑い涼しい暑い涼しい。今度は暑くてよ。体おかしくなるぞ」
コストイラは首に手をやり、ベタッとなっていることで、眉間に皴を寄せ掌を見る。
「いつまでこの暑さが続くんだよ」
「あの森まで」
アシドの問いにアレンは指で指し示す。全員がその指の先、森の方を見る。遠いとも近いとも言えない微妙な距離にある。
「歩ける?」
「が、が、頑張ります」
エンドローゼはふらふらと木に掴まり立ちする。なるべく暑くないところを選び、エンドローゼに歩かせる。
「待て」
アシドが槍を横に倒し、足を止めさせる。アシドの顔が斜め上を見る。つられてアストロとレイド、アレンも上を見る。枝に巻き付いたブレイズコアトルがいる。オレンジの瞳は、気付かれたことに気付き、襲い掛かってくる。アシドは槍を振るい、ブレイズコアトルの首を叩く。そのまま地面に叩きつける。尾を巻き付けていた枝がバキリと折れ、体が落ちてくる。
『グエッ』
ブレイズコアトルはくったりと首を折った。
「はっ?」
アシドがつんつんと槍で突くが反応が返ってこない。
「え? 嘘だろ。あれで終わりなのか?」
「認めなさい。これが現実よ」
「そんな」
アシドはブレイズコアトルに抱き着き、嘘泣きする。何だこの茶番。あのエンドローゼさえジト目で見守っている。
「いつまで茶番してるんだ」
「それもそうだな」
アシドはコストイラに言われ、スッと真顔になり、ブレイズコアトルの首を斬った。
しばらく歩くと、コストイラが止まり湖の方を見始めた。
「どうしたんですか?」
「何だ? 魔物か?」
魔物であるなら大変だ。すぐに戦闘準備と逃走経路の確保をしなければなるまい。
「違ェよ。向こう岸が見えるなって思っただけだ」
言われて湖の方を見ると、確かに向こう岸が見えた。向こう岸からこちらを見た時は見えなかったのに、霧が晴れたようだ。
「龍は救われたんでしょうか」
「救われるさ。あんな声出して、あんな感動的な最期を、あんな人数で看取ったんだ」
「感傷に浸っているところ悪いんだけど、水汲んでもらえる?」
雰囲気を壊したのはアストロだ。アレン達が振り向くと、アストロはエンドローゼに膝枕していた。
「また倒れたん?」
「いいえ、休憩よ」
「ふにゅ~~~。ご、ごめんなさい」
エンドローゼが申し訳なさそうに体を縮こませる。アストロは鼻を鳴らすと、自身の膝に押し付けるように頭を撫でる。シキとレイドは無言でエンドローゼとアストロを扇いでいる。2人には悪いが貴族と従者にしか見えない。
「水はどんぐらい必要なんだ?」
「コップの1,2杯くらいで」
「あいよ」
コストイラはこの状況を受け入れ、素直に湖の方へ向かう。道中、アチッアチッと足を跳ねさせていた。
「アシドさんはどうしたんです?」
「精の付くものをってどっか行ったわ。アイツはコストイラと違って受け入れが早いのよ」
「おいっ! 聞こえてんぞ」
言外に、お前は引き際をわきまえろと言われたコストイラが怒りながら戻ってくる。アストロはホラッと渡してくるコストイラの手首を掴むとエンドローゼに声をかける。
「エンドローゼ」
「うにゅ?」
「ちょちょちょ」
上から声がしたので、エンドローゼは顔を上に向ける。アストロは掴んでいた手首を捻り、コストイラは咄嗟に体勢を整えようとするが、遅かった。落下した水は見事にエンドローゼの顔面に直撃する。
「ふわっ!! わっぷうぇ?」
意味の分からない叫び声を出すと、エンドローゼは体を起こし、必死に顔を拭う。
「な、な、な、何ですか?! 冷たいっ! す、す、す、凄い冷たい!?」
「気分はどう?」
「ふぇ?」
強制的に覚醒させられた状態での質問に、エンドローゼは戸惑いを隠せない。目を丸くしたままでいると、アストロがもう一度尋ねてくる。
「気分はどう?」
「は、はい。もう平気です。ご、ご、ご迷惑をおかけしました」
エンドローゼは座ったままの状態で頭を下げる。そんなことをさせたかったわけではないアストロは苦い顔をする。
「戻ってきたぜ」
アシドが戻ってきた。何か手にしている。言っていた精の付くものだろうか。
「蜥蜴がいたから採ってきた。焼いて食おうぜ」
「ひぇ」
エンドローゼの顔が引き攣る。こういう野生感があるものが苦手なのだろうか。そういえばハーピー肉も少し遠慮しがちだった。
「そういえば、さっきハイウィザードを見たぞ」
「え?」
森にハイウィザード? 絶対厄介だ。分かる。だって、たくさんの経験をしてきたんですもの。
人間の体や心は、ある程度の環境の変化や刺激の強さに耐えられるようにつくられる。しかし、その程度があまりにも極端なものであると、影響が出てくる。どれほど身構えていても、突然の気候の変化やその他の様々なストレスフルの出来事に体も心も翻弄される。季節の変わり目の体調不良や寒暖差が原因にある可能性がある。
つまり、エンドローゼの体調不良も寒暖差の可能性がある。
「いや、可能性っつーか確定だろ」
顎を伝う汗を拭うコストイラは、木陰に隠れるように凭れる。先ほどの神社や天狗の里は涼しかった。体感として14度くらいだろうか。しかし、今いる場所は30度くらいだ。原因として考えられるのは日射だけではなく、足元の砂だ。熱を吸収した砂が異常に熱く、体感温度を上げていた。
「湖が近いのね」
「日が遮るものがないからな」
レイドが手で傘をつくり、空を見る。
「差がスゲェよな。暑い涼しい暑い涼しい。今度は暑くてよ。体おかしくなるぞ」
コストイラは首に手をやり、ベタッとなっていることで、眉間に皴を寄せ掌を見る。
「いつまでこの暑さが続くんだよ」
「あの森まで」
アシドの問いにアレンは指で指し示す。全員がその指の先、森の方を見る。遠いとも近いとも言えない微妙な距離にある。
「歩ける?」
「が、が、頑張ります」
エンドローゼはふらふらと木に掴まり立ちする。なるべく暑くないところを選び、エンドローゼに歩かせる。
「待て」
アシドが槍を横に倒し、足を止めさせる。アシドの顔が斜め上を見る。つられてアストロとレイド、アレンも上を見る。枝に巻き付いたブレイズコアトルがいる。オレンジの瞳は、気付かれたことに気付き、襲い掛かってくる。アシドは槍を振るい、ブレイズコアトルの首を叩く。そのまま地面に叩きつける。尾を巻き付けていた枝がバキリと折れ、体が落ちてくる。
『グエッ』
ブレイズコアトルはくったりと首を折った。
「はっ?」
アシドがつんつんと槍で突くが反応が返ってこない。
「え? 嘘だろ。あれで終わりなのか?」
「認めなさい。これが現実よ」
「そんな」
アシドはブレイズコアトルに抱き着き、嘘泣きする。何だこの茶番。あのエンドローゼさえジト目で見守っている。
「いつまで茶番してるんだ」
「それもそうだな」
アシドはコストイラに言われ、スッと真顔になり、ブレイズコアトルの首を斬った。
しばらく歩くと、コストイラが止まり湖の方を見始めた。
「どうしたんですか?」
「何だ? 魔物か?」
魔物であるなら大変だ。すぐに戦闘準備と逃走経路の確保をしなければなるまい。
「違ェよ。向こう岸が見えるなって思っただけだ」
言われて湖の方を見ると、確かに向こう岸が見えた。向こう岸からこちらを見た時は見えなかったのに、霧が晴れたようだ。
「龍は救われたんでしょうか」
「救われるさ。あんな声出して、あんな感動的な最期を、あんな人数で看取ったんだ」
「感傷に浸っているところ悪いんだけど、水汲んでもらえる?」
雰囲気を壊したのはアストロだ。アレン達が振り向くと、アストロはエンドローゼに膝枕していた。
「また倒れたん?」
「いいえ、休憩よ」
「ふにゅ~~~。ご、ごめんなさい」
エンドローゼが申し訳なさそうに体を縮こませる。アストロは鼻を鳴らすと、自身の膝に押し付けるように頭を撫でる。シキとレイドは無言でエンドローゼとアストロを扇いでいる。2人には悪いが貴族と従者にしか見えない。
「水はどんぐらい必要なんだ?」
「コップの1,2杯くらいで」
「あいよ」
コストイラはこの状況を受け入れ、素直に湖の方へ向かう。道中、アチッアチッと足を跳ねさせていた。
「アシドさんはどうしたんです?」
「精の付くものをってどっか行ったわ。アイツはコストイラと違って受け入れが早いのよ」
「おいっ! 聞こえてんぞ」
言外に、お前は引き際をわきまえろと言われたコストイラが怒りながら戻ってくる。アストロはホラッと渡してくるコストイラの手首を掴むとエンドローゼに声をかける。
「エンドローゼ」
「うにゅ?」
「ちょちょちょ」
上から声がしたので、エンドローゼは顔を上に向ける。アストロは掴んでいた手首を捻り、コストイラは咄嗟に体勢を整えようとするが、遅かった。落下した水は見事にエンドローゼの顔面に直撃する。
「ふわっ!! わっぷうぇ?」
意味の分からない叫び声を出すと、エンドローゼは体を起こし、必死に顔を拭う。
「な、な、な、何ですか?! 冷たいっ! す、す、す、凄い冷たい!?」
「気分はどう?」
「ふぇ?」
強制的に覚醒させられた状態での質問に、エンドローゼは戸惑いを隠せない。目を丸くしたままでいると、アストロがもう一度尋ねてくる。
「気分はどう?」
「は、はい。もう平気です。ご、ご、ご迷惑をおかけしました」
エンドローゼは座ったままの状態で頭を下げる。そんなことをさせたかったわけではないアストロは苦い顔をする。
「戻ってきたぜ」
アシドが戻ってきた。何か手にしている。言っていた精の付くものだろうか。
「蜥蜴がいたから採ってきた。焼いて食おうぜ」
「ひぇ」
エンドローゼの顔が引き攣る。こういう野生感があるものが苦手なのだろうか。そういえばハーピー肉も少し遠慮しがちだった。
「そういえば、さっきハイウィザードを見たぞ」
「え?」
森にハイウィザード? 絶対厄介だ。分かる。だって、たくさんの経験をしてきたんですもの。
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