メグルユメ

トラフィックライトレイディ

4.焦げつける前に

 強力と強力。
 強者と強者。
 巨体と巨体。

 大迫力で見応えのある戦いというものは心躍り、昂るものがある。圧倒的な火力のぶつかり合い。攻防代わり続ける殴り合い。すべてが興奮させた。自らの命を賭した超常的な戦いはアレンも好きだ。そして、それが今目の前で行われている。アレンは実感した。これは絶対安全地帯で見ているからこそ楽しいのだ。

「おい、アレン、急ぐぞ」

 レイドに声をかけられ、アレンは現実に戻ってくる。アレンは現実逃避していた頭に軽く手を当て、少し振る。

「すみません。行きましょう」






 アレン達は多数決によって村に行くことにした。一刻も早くここがどこなのか知りたかったのだ。先ほどの流星群の影響で道には大きめの岩がゴロゴロしている。おかげで岩に身を隠しながら移動できる。だからといって、大胆に行動できるわけではない。いつこちらに気付くのか分からないし、いつ巻き込まれるかが分からない。慎重に岩から覗きながら移動する。

 よし、まだこちらに気付いていない。大丈夫だなって、ええええええええっ!!? 何でシキさん先に行ってんの?ばれたらどうすんの!!?

 シキはアレンの視線に気付いたのか、こちらを向き、何を思ったのか親指を立てた。何で?

 前に行っているのはシキだけではなかった。アシドまで前にいる。慎重にって言ったの聞いてなかったのかな?

「何で先走ってんの?」

 アストロが呟く。激しく同意させてもらおう。というか、それよりも気になることがある。

「足元悪いのに早くないですか?」

 アストロは息を切らしており、返答をする気がなく首を振り、肩を上げ、知らないと意思を示す。意外なのがエンドローゼだ。体力が一番ないと思っていた彼女が肩で息をしながらも前に進んでいる。他人を見ている場合ではない。最後尾にいるので足を引っ張ってしまっている。急がなくては。

「急ごうとすると焦って、余計に体力を使うわ。自分のペースを守りなさい」

 お叱りを受けてしまった。人に伝わってしまうほど焦ってしまっていたらしい。

『ゴォオオオオオ!!』

 サラマンドラが叫ぶ。雄叫びは大気を震わせ、それに呼応するように流星群が発生する。アレン達は対処を余儀なくされ、移動を止める。

『ブルゥアア!!』

 バルログは両拳に炎を纏わせ、迫る岩石一つ一つに対処する。殴り、殴り、殴り飛ばす。殴るたびに体力を削っているが、その破片がサラマンドラに返り、反撃を食らっている。たまったもんじゃないのはアレン達の方だ。破片が飛んできてすれすれを通過していく。待って、ヤバイ、声出そう。

 ツンツンとアストロに腰をつつかれる。早く行けという催促の合図だろう。見ると、すでにシキ、アシドコンビは渡り切っており、待機していた。コストイラもあと少しの位置におり、レイドとエンドローゼは互いに助け合いながらも進んでいた。アレンは倒木の上に乗ると、見つからないように身を屈めながらアストロに手を伸ばす。

「は!?」

 睨まなくても。アストロはアレンの手を掴み、木の上に乗る。

「次は私が先ね」

 順番を気にしていたらしい。………だからって睨まなくても。

 バルログは両手でサラマンドラの首を掴んでおり、サラマンドラはバルログの右肩に噛みついている。

 ビチ。張り詰めた者が切れた音が響いた。サラマンドラの首の皮が千切れたようだ。

 バキリ。硬いものが砕ける音がした。バルログの肩の骨が砕かれたのだ。

 終わりが近い。

 もし決着がついたのなら、その勝者、その意識がこちらに向くかもしれない。止めっている暇はない。アレンは歩を再開させる。

 ブチブチブチ。

『グウウウウウウウ』

 ゴッシャ!

『オオオオオオオオオオ!!』
『グゥウウウウウウウウ!!』

 バッッチ――――ン!!

『オオオオオオオオオオオオッッッ!!』

 バルログの雄叫びが聞こえる。バルログの雄叫びだけが聞こえる。

 アレンは思わず振り返ってしまった。2つに分かれた首を持ち、そこから噴き出る血を浴び、深紫の巨人は咆哮を上げている。

 アレンの脚が止まる。怖い。自分もあぁなってしまうのかと思うと、足が震える。奥歯が噛み合わない。うまく息ができない。

『オオオオ』

 アレンは恐怖に呑まれた。ぎょろりと動くバルログのオレンジの瞳がアレンの姿を捉えた。

 見つかった。

 バルログの目が少し見開かれ、身を屈めた。

「アレンッ!」

 コストイラが名を叫ぶ。

「アレン!」

 アストロが名を呼んでいる。

「アレン!!」

 アシドが叫ぼうと、

「アレン!」

 レイドが叫ぼうと、アレンの体は動かない。

「あ、ア、アレンさんっ!」

 エンドローゼがこちらに杖を向けている。ふっと拘束が解けた。しかし、投げ放たれる岩を避ける速度がアレンにはない。

 恐怖に顔が引き攣る。

「はっ」

 自然と声が出る。おかしい。これは笑い声か。恐怖だと思っていた顔は笑みを浮かべているのか。

「アレン!」

 シキの声だ。初めて聞くほどの大きい声、それがアレンに向いているというだけでアレンにとっては嬉しかった。初恋の、片思いの相手に、名を呼ばれるだけで感動する。薄っすらとアレンの瞳に涙が浮かんだ。岩が当たると、衝撃を覚悟した瞬間、予想外にも衝撃は横から来た。

「大丈夫?」

 シキはアレンをお姫様抱っこで迫りくる岩から救い出した。そのまま踵でブレーキをかけて止まる。お姫様抱っこされるなんて。そりゃシキの方が背が高く、力も強く、おまけにかっこいい。せめてこういうことではリードしたかった。

「? 大丈夫?」
「………はい」
「そう」

 じゃあ、とシキはアストロたちの方を見る。

「一気に行く」
「ふぇ」
『ゴォオオオオオ!!』

 バルログは再び大岩を投げる。シキは足元の悪い中、全力疾走で駆け出す。岩が上や後ろを通りすぎる。生きた心地がしない。でも、シキの腕の中にいると安心できた。きっと、生き残れるという自信が湧いているのだろう。

 岩が飛んでこなくなった。ドゴッっと大きな破壊音。バルログが飛んでくる。どんなものにもかかわらず、大質量のモノが迫ってくるのは恐怖を覚える。バルログの右肩は食い破られており、うまく動かないようだ。左拳に炎を纏い、襲ってくる。

「ッ!?」

 アレンはシキの服をキュッと掴む。シキは動じない。アレンの鼻腔に凛として澄やか匂いが入り込んだ。少し、アレンの心が落ち着いた。炎の拳が後ろを通過していく。そのまま左腕を薙ぐが届かない。アレンを抱えたまま、シキは被害の出ていない森に逃げ込む。

 バルログは追撃してこない。縄張りから抜けたからなのか、傷を癒すためなのか、バルログは背を向けた。







「ありがとうございます」

 アレンはシキに礼を言い、頭を下げる。

「構わない」

 シキの対応は素っ気ないものに戻っていた。これもシキの魅力だろう。歩き始めて30分ほどたった頃、木々の隙間から村を囲う柵が見えてきた。

「あったぞ、村だ」

  先頭を歩いていたコストイラが、手で傘を作り先を見通す。木でつくられた柵は腰の高さほどで、家屋はログハウスのようで、四角に三角を置いたデザインになっていた。

「人の気配が………」
「あぁ、休めそうな気はしねェな」

 アシドとコストイラがそう言うと、正規の入り口から村の入る。

 ふと、村の中心部に当たる井戸に目を向けると、白髪で腰の曲がった老人が側に立っていた。
 老人もこちらに気付く。

「おや? 旅の者かね? 残念ながらもう儂しか残っておらんよ。他の奴らは一人、また一人と向こうへ行ってしまったよ」

 老人はそう言うと一つの山を見つめていた。

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