メグルユメ
10.雪で埋もれた森
吹雪の止んだ雪山は歩きやすかった。時折エンドローゼが腰まで埋まったり、エンドローゼがこけたりしていたが、おおよそ順調だ。
山道はすでに下りに変わっており、山の終わりが近いことを示していた。
どうやらアレン達にはシャラントロン事件のような悲劇は起こらないらしい。
「おいアレン。小屋んところで言っていた森はあれか?」
「はい、そうです」
「あいよ」
アシドはシキから受け取った自身の槍で上機嫌に自分の肩をポンポンと叩く。やはり、テントの支柱より慣れ親しんだ槍の方がいいようだ。アレン達が森に入ろうとすると少し低めの声が呼び止めてきた。
『やぁ、おじさん達この森に入るのかい? この森結構危険だよ。僕が案内してあげようか」
子供だ。身長は100㎝程であり、子供特有のふっくらとした顔、なだらかな体。これだけであれば子供だと断定しただろう。
しかし、断定はしない。理由は羽だ。この子供には羽が生えている。可愛らしく小さい、役に立っていると思えない大きさの羽。子供は今まさに飛んでいるが、信じられない。
「誰だ、君。あと、お兄さんな」
コストイラも子供相手だからか口調が優しい。
『僕はこの森に棲んでいる精霊さ。これ以上人間が死ぬのを見てられないからね。だから僕が案内してあげる』
コストイラはアレンを見て、刀を少し刃が見えるくらいに抜き、すぐにパチンと収める。アレンは目を瞑りゆっくりと頷く。コストイラは自称精霊に聞こえないように溜息を吐き、頭を掻く。
「頼んだ」
『よし来た。で、どこに行くの?』
「温泉」
もはやコンマの世界の即答だった。子供はあまりの速さに目を丸くしたが、すぐににこりと笑う。コストイラは体が冷えているので、すぐに温まりたいのだ。それを目標に今歩いているのだ。
『お、温泉か、なるほどね。寒いもんね。まぁ、ここを通る人の大半は温泉に入るために来るからね。おじさん達もそうだったわけだね』
「お兄さんな」
コストイラの突っ込みをスルーして、子供はついて来いと言わんばかりに歩き出す。
「どれぐらいでこの森を抜けれんだ?」
『何? おじさんもう疲れたの? 20分も歩けば湖につくけど、そこから10分くらいで温泉かな』
「意外と早く抜けられそうだな。あとおじさんじゃなくてお兄さんな」
もはや漫才のように思えてくるほどのスルーである。コストイラが青筋を浮かせ、ぴくぴくさせている。アストロが小さくキレないでよと言うと、コストイラはいつまで我慢すりゃいいんだよと返す。アストロは、コストイラは静かにキレていると断定した。
「おいアストロ」
コストイラが精霊に聞こえないように話しかける。
「今度はお前があのクソガキと話してみろよ」
「何でよ」
「オレがおじさんだぞ。お前はなんだ」
「お姉さん」
即答である。
「やって見ろよ」
「良いわ」
アストロが自称精霊に近づく。
「ねぇ、貴方は何の精霊なの?」
『え。僕はこの森に棲んでいる光の精霊だよ。お姉さん』
アストロはコストイラの方を向き、ドヤ顔を見せつける。どうだと言わんばかりの顔にコストイラは大きく舌を打つ。
「おい、なんでオレはおじさんでこいつはお姉さんなんだよ。同い年だぞ、オレ等」
コストイラの訴えに、子供は視線を向けるが、何を言ってんのこいつ、という表情を見せると、ハッと鼻で笑って前を向く。
「クソガキっ!」
「抑えなよ」
コストイラがキレそうになるのをアストロが止める。
「ねぇ、どこかで休憩を入れましょ。この子が疲れてしまったの」
『わかったよ、お姉さん。あそこの切り株で休もう』
アストロはにこりと笑うと子供も笑う。
両者の顔が互いの視線から外れ、誰も見る者がいなくなったとき、ともにニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。
人間は愚かだ。
簡単に騙されるし、楽に殺されてしまう。いくら警戒してくる奴も優しくされると絆されてしまう。そうすると、近寄るのも容易だし、始末も簡単になる。そういう奴ほど決まって死ぬときは何でも聞いてくる。
何で? 笑わせないでよ。むしろ、何で信用するんだい。
人間の頭を潰すとき、その必死さに笑ってしまう。君はその必死になった魔物を助けたことがあるかい?
助けてくれ? 何で殺していると思っているんだい?
金ならある? 僕には必要ない。
体で奉仕? 僕に性別ないし、する気もないさ。
断末魔が心地いい。
返り血が骨まで温める。
死に顔が絶頂まで押し上げる。
止められない。止められない。
あぁ、今日は7人もいる。一人殺れば心が崩れる。そうすれば、7人は素晴らしいオブジェになれる。
切り株の近くの木の裏に隠したハンマーを取り出す。
今日もまた天使が舞う。
ビシャリと、雪に血が塗られた。
ポタポタと血が落ちる。
温かな血は雪を溶かし、穴をあけていく。血を滴らせるその腕から、ボトリと武器を落とした。
”4t”と書かれたハンマーが落ちた。
『え?』
「ありがとよ。これでテメェを斬れるぜ、クソガキ」
『がぁああああああッッ!!?』
腕を斬られた痛みに叫びをあげる子供の口を斬る。開口の限界値が更新された。
アストロは後ろを見ない。まるでこうなると知っていたような。
嵌められた? 子供は考える。
「あばよ。偽りの天使」
『助け…』
別れを告げるコストイラに、フェイクエンジェルは命乞いをしようとして止まった。フェイクエンジェルは気付いてしまった。これは自分が嘲笑していた対象そのものではないか、と。だから止めた。フェイクエンジェルは、自分は他者と同じではいけないと思い、その矜持を胸に最後は精一杯に笑った。
フェイクエンジェルを斬り、血に濡れた刀を拭いながらコストイラは舌打ちする。
「こいつ。最後の最後まで貫きやがった」
「クソガキのくせに?」
「チッ!」
アストロに言われもう一度舌を打つ。果たして、自分は貫けているのだろうか。その考えが浮かんでもう一度舌を打つ。自分の選んだ道だ。後悔してももう戻れない。
山道はすでに下りに変わっており、山の終わりが近いことを示していた。
どうやらアレン達にはシャラントロン事件のような悲劇は起こらないらしい。
「おいアレン。小屋んところで言っていた森はあれか?」
「はい、そうです」
「あいよ」
アシドはシキから受け取った自身の槍で上機嫌に自分の肩をポンポンと叩く。やはり、テントの支柱より慣れ親しんだ槍の方がいいようだ。アレン達が森に入ろうとすると少し低めの声が呼び止めてきた。
『やぁ、おじさん達この森に入るのかい? この森結構危険だよ。僕が案内してあげようか」
子供だ。身長は100㎝程であり、子供特有のふっくらとした顔、なだらかな体。これだけであれば子供だと断定しただろう。
しかし、断定はしない。理由は羽だ。この子供には羽が生えている。可愛らしく小さい、役に立っていると思えない大きさの羽。子供は今まさに飛んでいるが、信じられない。
「誰だ、君。あと、お兄さんな」
コストイラも子供相手だからか口調が優しい。
『僕はこの森に棲んでいる精霊さ。これ以上人間が死ぬのを見てられないからね。だから僕が案内してあげる』
コストイラはアレンを見て、刀を少し刃が見えるくらいに抜き、すぐにパチンと収める。アレンは目を瞑りゆっくりと頷く。コストイラは自称精霊に聞こえないように溜息を吐き、頭を掻く。
「頼んだ」
『よし来た。で、どこに行くの?』
「温泉」
もはやコンマの世界の即答だった。子供はあまりの速さに目を丸くしたが、すぐににこりと笑う。コストイラは体が冷えているので、すぐに温まりたいのだ。それを目標に今歩いているのだ。
『お、温泉か、なるほどね。寒いもんね。まぁ、ここを通る人の大半は温泉に入るために来るからね。おじさん達もそうだったわけだね』
「お兄さんな」
コストイラの突っ込みをスルーして、子供はついて来いと言わんばかりに歩き出す。
「どれぐらいでこの森を抜けれんだ?」
『何? おじさんもう疲れたの? 20分も歩けば湖につくけど、そこから10分くらいで温泉かな』
「意外と早く抜けられそうだな。あとおじさんじゃなくてお兄さんな」
もはや漫才のように思えてくるほどのスルーである。コストイラが青筋を浮かせ、ぴくぴくさせている。アストロが小さくキレないでよと言うと、コストイラはいつまで我慢すりゃいいんだよと返す。アストロは、コストイラは静かにキレていると断定した。
「おいアストロ」
コストイラが精霊に聞こえないように話しかける。
「今度はお前があのクソガキと話してみろよ」
「何でよ」
「オレがおじさんだぞ。お前はなんだ」
「お姉さん」
即答である。
「やって見ろよ」
「良いわ」
アストロが自称精霊に近づく。
「ねぇ、貴方は何の精霊なの?」
『え。僕はこの森に棲んでいる光の精霊だよ。お姉さん』
アストロはコストイラの方を向き、ドヤ顔を見せつける。どうだと言わんばかりの顔にコストイラは大きく舌を打つ。
「おい、なんでオレはおじさんでこいつはお姉さんなんだよ。同い年だぞ、オレ等」
コストイラの訴えに、子供は視線を向けるが、何を言ってんのこいつ、という表情を見せると、ハッと鼻で笑って前を向く。
「クソガキっ!」
「抑えなよ」
コストイラがキレそうになるのをアストロが止める。
「ねぇ、どこかで休憩を入れましょ。この子が疲れてしまったの」
『わかったよ、お姉さん。あそこの切り株で休もう』
アストロはにこりと笑うと子供も笑う。
両者の顔が互いの視線から外れ、誰も見る者がいなくなったとき、ともにニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。
人間は愚かだ。
簡単に騙されるし、楽に殺されてしまう。いくら警戒してくる奴も優しくされると絆されてしまう。そうすると、近寄るのも容易だし、始末も簡単になる。そういう奴ほど決まって死ぬときは何でも聞いてくる。
何で? 笑わせないでよ。むしろ、何で信用するんだい。
人間の頭を潰すとき、その必死さに笑ってしまう。君はその必死になった魔物を助けたことがあるかい?
助けてくれ? 何で殺していると思っているんだい?
金ならある? 僕には必要ない。
体で奉仕? 僕に性別ないし、する気もないさ。
断末魔が心地いい。
返り血が骨まで温める。
死に顔が絶頂まで押し上げる。
止められない。止められない。
あぁ、今日は7人もいる。一人殺れば心が崩れる。そうすれば、7人は素晴らしいオブジェになれる。
切り株の近くの木の裏に隠したハンマーを取り出す。
今日もまた天使が舞う。
ビシャリと、雪に血が塗られた。
ポタポタと血が落ちる。
温かな血は雪を溶かし、穴をあけていく。血を滴らせるその腕から、ボトリと武器を落とした。
”4t”と書かれたハンマーが落ちた。
『え?』
「ありがとよ。これでテメェを斬れるぜ、クソガキ」
『がぁああああああッッ!!?』
腕を斬られた痛みに叫びをあげる子供の口を斬る。開口の限界値が更新された。
アストロは後ろを見ない。まるでこうなると知っていたような。
嵌められた? 子供は考える。
「あばよ。偽りの天使」
『助け…』
別れを告げるコストイラに、フェイクエンジェルは命乞いをしようとして止まった。フェイクエンジェルは気付いてしまった。これは自分が嘲笑していた対象そのものではないか、と。だから止めた。フェイクエンジェルは、自分は他者と同じではいけないと思い、その矜持を胸に最後は精一杯に笑った。
フェイクエンジェルを斬り、血に濡れた刀を拭いながらコストイラは舌打ちする。
「こいつ。最後の最後まで貫きやがった」
「クソガキのくせに?」
「チッ!」
アストロに言われもう一度舌を打つ。果たして、自分は貫けているのだろうか。その考えが浮かんでもう一度舌を打つ。自分の選んだ道だ。後悔してももう戻れない。
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