メグルユメ
9.霊峰に残された巨人
雪山に登る時、必ず聞かされる話がある。シャラントロン事件だ。雪の降らないバンツウォレイン王国ですら有名な雪山での事件だ。シャラントロンという男が雪山の熟練者たち8人と共に9人で登山したとき、1日で全員がなくなった事件。
200年前。この霊峰は地元の先住民に”死の山”と呼ばれていた。吹雪がよく吹き、人を飲み込み、止んだとき、死体になっているという民話も存在している。
シャラントロンたちは今まで開拓されていなかった過酷なコースを歩くことにしていた。歌ったり踊ったりと楽勝なムードさえあった。
出発から10日目、この日は悪天候になった。気温はマイナス25から30度にまで下がっていた。吹雪のせいで目的地まで10㎞手前で、テントを張ることにした。雪を掘り、平らにした状態でテントを張っていく。
2週間が経って、シャラントロンたちの親は心配になってきた。聞いていた帰りの日時を1週間も過ぎているのに一向に連絡がない。近くの町役場に届け出を出すと、一月後に調査が始まった。
出発地と目的地から挟むように捜索が開始され、テントがすぐに発見された。その中には9人はいなかった。中には荷物は残されており、さらに靴まで何足か置いてあった。テントは内側から切られており、一部には雪が潰すように被さっていた。調査隊は雪崩かと思ったが、テントの支柱は垂直に立ったままだった。外力が働いたとは考えづらい。
そこから出発地方面に歩く、5人の遺体が見つかった。その中にはシャラントロンもいた。裸足の者、下着姿の者、半袖の者もいた。明らかに不自然だった。この寒い、寒すぎるといってもいい山で服を脱ぐことなど考えられない。上着は遺体から5mほどの位置まで流されていた。
少し離れた位置の雪の下に残りの人たちがいた。5人の遺体からは10mほど離れていた。この4人は外傷が多くみられた。5人には外傷がなく凍死だったのに。4人の死因は事件の不可解さを増させていた。肋骨がすべて折れている者、頭蓋骨が陥没している者、眼球と舌を失っている者、そして首を折られて骨が飛び出している者。5人とは違いすぎる死因に人々は数多くの噂話を生んだ。
獣害説。内輪のもつれ説。雪崩説。様々な説が生まれた。先住民たちは”死の山”だからと震えあがった。
実際の原因は表層雪崩だった。雪が掘られていたことで滑りやすくなっていたのだ。真実を知っていても誰も信じようとしなかった。
そして、シャラントロンの死体が消えたことで事件を闇に捨てられた。
雪崩の原因は実は窒息が多い。雪の勢いで気を失い、目を覚ます前に死んでしまうのだとか。そのことを思い出し、コストイラは雪を突き破り外に出てくる。すぐに辺りを把握すると、ジャイアントイエティはコストイラの目の前にいた。
目が合う。
『ゴオオオオオオオオオオ!!』
大地が揺れ、雪が震えた。
「ふわっ!?」
その振動にアシドが起きる。腕の中にいるアストロはまだ気を失っている。手元に槍がない。流されてしまったか。雪は重いし固い。アストロを庇いながら外を目指す。エンドローゼが目を覚ますと、岩に寄りかかっていた。少しけだるさが残る両腕を動かす。ズッと両腕が雪にめり込んだ。エンドローゼは自分が雪山にいることを思い出した。一面の白に目を傷めながら、辺りを見る。
前、右、左、ない。
ドンと後ろから音が聞こえた。岩の向こうは戦場だ。見なくてもわかる。
ズボ!
「ッ!!」
目の前で雪から手が生えた。エンドローゼは悲鳴が漏れないように口を必死に抑える。誰の手かと見ていると、パタパタしているだけで出てこない。エンドローゼはその手を取り、必死に引っ張った。非力すぎてあまり意味がないが、手の主は雪から解放された。アシドだった。
アシドはそのままアストロを引っ張り出す。
「膝、貸してくれる?」
「は、はい」
エンドローゼは冷たくならないように羽織っていた上着を敷き、その上に横座りし、太腿にアストロの頭を乗せる。いつもと逆の立場で、少し変な感じがする。
雪を纏う風が吹き荒れる中、巨大な魔物の周りを炎を、蒼いオーラを纏う2人の男と両目を赤く光らせ赤い呼気を吐く男が囲っていた。
『ゴオオオオオオオオ!!』
「寒かねェな。まだまだ涼しいの範疇だぜ!」
この環境下でもアシドは走る。蒼い尾を引くアシドを目にしたジャイアントイエティは鬱陶しく思い、攻撃しようとする。現在槍を持っていないアシドにとっては何をされても脅威だ。
アシドが気を引いていた間に、コストイラとレイドはジャイアントイエティの足元に来ていた。
「はぁああっ!!」
「フンッ!」
両者は裂帛と共に刃を脚に叩き込む。
『ゴオオッ!?』
痛みに哭くが、それだけだ。バランスを崩したり、ターゲットを変えることもない。ジャイアントイエティの目標はアシドのままだ。アシドの脚なら逃げきれるだろう、下が雪でなければ。雪に足を取られてトップスピードにならない。その状態でもアシドの方が速いが、それがいつまで持つことか。
「くそっ!止まりやがらねェ」
「簡単なこと。さらに攻撃を加えるだけだ」
レイドは野球のバッターのフルスイングのように大剣を振るい、ジャイアントイエティの膝裏を思い切り叩く。大剣は足半ばまで断つが、それ以上通らない。
「うおっ!?」
大剣は抜けず、それごとジャイアントイエティは歩き続ける。レイドはバランスを崩し、大剣から手を離す。
コストイラは炎を纏いながらジャイアントイエティの体表を駆ける。そのまま炎を纏う刀を叩き込む。ジャイアントイエティの進行が止まった。コストイラはオレのおかげと思ったがどうやら違うようだ。
ジャイアントイエティの左目には鉄柱が刺さっていた。コストイラ達が分かることではないが、その鉄柱はテントの支柱だった。そのテントはかつてこの地で起きた事件の証拠品だった。そして、このジャイアントイエティはその事件の被害者だった。このジャイアントイエティの名はシャラントロンであると。
ぺちぺちと頬を叩かれる感覚で目が覚める。
『………ォォォ』
魔物の声を聴き、早急に覚醒させていく。腰元に何か圧迫感がある。何かが乗っているようだ。
ぼやけた視界の中で、人の上半身が見えた。
「起きた?」
シキだ。美しい銀髪をさらりと流し、首を傾け覗き込んでくる。顔が熱い。真っ赤になっているのではなかろうか。シキに見られている。今の自分はシキにどう見られているのだろうか。
そういえば、シキは今僕の腰に乗っている。この体勢はまずいのでは?
「は、はい。起きました」
少し声が上擦ってしまった。恥ずかしい。
シキは眉をひそめたが、そのままどいた。
アレンは少し顔を背けながら、立ち上がり、背についた雪を払う。払ったところで吹雪いているので意味はないかもしれないが、気分の問題だ。
「あれ、その手に持っているのは」
「アシドの槍」
アレンは恥ずかしさを紛らわすように話を振ると、シキは自身の手元を見る。
「なぜシキさんがそれを」
「さぁ」
たった2音で終わらせられた。それはそうと、分からないらしい。まぁ、あの雪崩でなくならないだけ、この槍は幸運なのだろう。
「えっと、みなさんは」
「ん」
アレン達はシキが指さした方へ歩き始めた。
レイドは止まった巨体から大剣を引き抜く。勢い余ってレイドは雪に顔を突っ込んだ。
『ゴオオオオオオオオッッ!!』
ジャイアントイエティはその激痛から、誤魔化すように足をバタつかせている。ドボと上部から雪崩が起きた。レイドはエンドローゼたちの元に走った。エンドローゼはアストロを庇うように覆い被さっていたが、その上からレイドが覆い被さり、防御技を発動させる。
ジャイアントイエティの上に乗っていたコストイラは雪崩に巻き込まれずに済む。その場にアシドも乗ってくる。
サクッと心地よい音を立てながら巨体の背にナイフが刺さり、、括り付けられていた糸を伝い、シキとアレンが合流する。たとえジャイアントイエティといえど雪崩に巻き込まれてはひとたまりもないので、背に乗っかられていても暴れることはない。
雪崩が収まる。これならこの安全地帯が倒れても平気だ。背上に乗っている4人は各々の獲物で攻撃を始める。ジャイアントイエティは抵抗する間すら与えられず、シキが体内に入り込む。ほどなくして、巨大な魔物は息絶えた。
グラリと体が傾く。
「おらっ!」
バサッと雪の中からレイドが現れ、埋もれた。倒れたジャイアントイエティが舞いあげた雪を被る。
「んなっ!」
レイドが再び現れる。
「フンッ!」
レイドは力を入れると、一気にアストロとエンドローゼを引っこ抜いた。
その時には吹雪が止んでいた。
200年前。この霊峰は地元の先住民に”死の山”と呼ばれていた。吹雪がよく吹き、人を飲み込み、止んだとき、死体になっているという民話も存在している。
シャラントロンたちは今まで開拓されていなかった過酷なコースを歩くことにしていた。歌ったり踊ったりと楽勝なムードさえあった。
出発から10日目、この日は悪天候になった。気温はマイナス25から30度にまで下がっていた。吹雪のせいで目的地まで10㎞手前で、テントを張ることにした。雪を掘り、平らにした状態でテントを張っていく。
2週間が経って、シャラントロンたちの親は心配になってきた。聞いていた帰りの日時を1週間も過ぎているのに一向に連絡がない。近くの町役場に届け出を出すと、一月後に調査が始まった。
出発地と目的地から挟むように捜索が開始され、テントがすぐに発見された。その中には9人はいなかった。中には荷物は残されており、さらに靴まで何足か置いてあった。テントは内側から切られており、一部には雪が潰すように被さっていた。調査隊は雪崩かと思ったが、テントの支柱は垂直に立ったままだった。外力が働いたとは考えづらい。
そこから出発地方面に歩く、5人の遺体が見つかった。その中にはシャラントロンもいた。裸足の者、下着姿の者、半袖の者もいた。明らかに不自然だった。この寒い、寒すぎるといってもいい山で服を脱ぐことなど考えられない。上着は遺体から5mほどの位置まで流されていた。
少し離れた位置の雪の下に残りの人たちがいた。5人の遺体からは10mほど離れていた。この4人は外傷が多くみられた。5人には外傷がなく凍死だったのに。4人の死因は事件の不可解さを増させていた。肋骨がすべて折れている者、頭蓋骨が陥没している者、眼球と舌を失っている者、そして首を折られて骨が飛び出している者。5人とは違いすぎる死因に人々は数多くの噂話を生んだ。
獣害説。内輪のもつれ説。雪崩説。様々な説が生まれた。先住民たちは”死の山”だからと震えあがった。
実際の原因は表層雪崩だった。雪が掘られていたことで滑りやすくなっていたのだ。真実を知っていても誰も信じようとしなかった。
そして、シャラントロンの死体が消えたことで事件を闇に捨てられた。
雪崩の原因は実は窒息が多い。雪の勢いで気を失い、目を覚ます前に死んでしまうのだとか。そのことを思い出し、コストイラは雪を突き破り外に出てくる。すぐに辺りを把握すると、ジャイアントイエティはコストイラの目の前にいた。
目が合う。
『ゴオオオオオオオオオオ!!』
大地が揺れ、雪が震えた。
「ふわっ!?」
その振動にアシドが起きる。腕の中にいるアストロはまだ気を失っている。手元に槍がない。流されてしまったか。雪は重いし固い。アストロを庇いながら外を目指す。エンドローゼが目を覚ますと、岩に寄りかかっていた。少しけだるさが残る両腕を動かす。ズッと両腕が雪にめり込んだ。エンドローゼは自分が雪山にいることを思い出した。一面の白に目を傷めながら、辺りを見る。
前、右、左、ない。
ドンと後ろから音が聞こえた。岩の向こうは戦場だ。見なくてもわかる。
ズボ!
「ッ!!」
目の前で雪から手が生えた。エンドローゼは悲鳴が漏れないように口を必死に抑える。誰の手かと見ていると、パタパタしているだけで出てこない。エンドローゼはその手を取り、必死に引っ張った。非力すぎてあまり意味がないが、手の主は雪から解放された。アシドだった。
アシドはそのままアストロを引っ張り出す。
「膝、貸してくれる?」
「は、はい」
エンドローゼは冷たくならないように羽織っていた上着を敷き、その上に横座りし、太腿にアストロの頭を乗せる。いつもと逆の立場で、少し変な感じがする。
雪を纏う風が吹き荒れる中、巨大な魔物の周りを炎を、蒼いオーラを纏う2人の男と両目を赤く光らせ赤い呼気を吐く男が囲っていた。
『ゴオオオオオオオオ!!』
「寒かねェな。まだまだ涼しいの範疇だぜ!」
この環境下でもアシドは走る。蒼い尾を引くアシドを目にしたジャイアントイエティは鬱陶しく思い、攻撃しようとする。現在槍を持っていないアシドにとっては何をされても脅威だ。
アシドが気を引いていた間に、コストイラとレイドはジャイアントイエティの足元に来ていた。
「はぁああっ!!」
「フンッ!」
両者は裂帛と共に刃を脚に叩き込む。
『ゴオオッ!?』
痛みに哭くが、それだけだ。バランスを崩したり、ターゲットを変えることもない。ジャイアントイエティの目標はアシドのままだ。アシドの脚なら逃げきれるだろう、下が雪でなければ。雪に足を取られてトップスピードにならない。その状態でもアシドの方が速いが、それがいつまで持つことか。
「くそっ!止まりやがらねェ」
「簡単なこと。さらに攻撃を加えるだけだ」
レイドは野球のバッターのフルスイングのように大剣を振るい、ジャイアントイエティの膝裏を思い切り叩く。大剣は足半ばまで断つが、それ以上通らない。
「うおっ!?」
大剣は抜けず、それごとジャイアントイエティは歩き続ける。レイドはバランスを崩し、大剣から手を離す。
コストイラは炎を纏いながらジャイアントイエティの体表を駆ける。そのまま炎を纏う刀を叩き込む。ジャイアントイエティの進行が止まった。コストイラはオレのおかげと思ったがどうやら違うようだ。
ジャイアントイエティの左目には鉄柱が刺さっていた。コストイラ達が分かることではないが、その鉄柱はテントの支柱だった。そのテントはかつてこの地で起きた事件の証拠品だった。そして、このジャイアントイエティはその事件の被害者だった。このジャイアントイエティの名はシャラントロンであると。
ぺちぺちと頬を叩かれる感覚で目が覚める。
『………ォォォ』
魔物の声を聴き、早急に覚醒させていく。腰元に何か圧迫感がある。何かが乗っているようだ。
ぼやけた視界の中で、人の上半身が見えた。
「起きた?」
シキだ。美しい銀髪をさらりと流し、首を傾け覗き込んでくる。顔が熱い。真っ赤になっているのではなかろうか。シキに見られている。今の自分はシキにどう見られているのだろうか。
そういえば、シキは今僕の腰に乗っている。この体勢はまずいのでは?
「は、はい。起きました」
少し声が上擦ってしまった。恥ずかしい。
シキは眉をひそめたが、そのままどいた。
アレンは少し顔を背けながら、立ち上がり、背についた雪を払う。払ったところで吹雪いているので意味はないかもしれないが、気分の問題だ。
「あれ、その手に持っているのは」
「アシドの槍」
アレンは恥ずかしさを紛らわすように話を振ると、シキは自身の手元を見る。
「なぜシキさんがそれを」
「さぁ」
たった2音で終わらせられた。それはそうと、分からないらしい。まぁ、あの雪崩でなくならないだけ、この槍は幸運なのだろう。
「えっと、みなさんは」
「ん」
アレン達はシキが指さした方へ歩き始めた。
レイドは止まった巨体から大剣を引き抜く。勢い余ってレイドは雪に顔を突っ込んだ。
『ゴオオオオオオオオッッ!!』
ジャイアントイエティはその激痛から、誤魔化すように足をバタつかせている。ドボと上部から雪崩が起きた。レイドはエンドローゼたちの元に走った。エンドローゼはアストロを庇うように覆い被さっていたが、その上からレイドが覆い被さり、防御技を発動させる。
ジャイアントイエティの上に乗っていたコストイラは雪崩に巻き込まれずに済む。その場にアシドも乗ってくる。
サクッと心地よい音を立てながら巨体の背にナイフが刺さり、、括り付けられていた糸を伝い、シキとアレンが合流する。たとえジャイアントイエティといえど雪崩に巻き込まれてはひとたまりもないので、背に乗っかられていても暴れることはない。
雪崩が収まる。これならこの安全地帯が倒れても平気だ。背上に乗っている4人は各々の獲物で攻撃を始める。ジャイアントイエティは抵抗する間すら与えられず、シキが体内に入り込む。ほどなくして、巨大な魔物は息絶えた。
グラリと体が傾く。
「おらっ!」
バサッと雪の中からレイドが現れ、埋もれた。倒れたジャイアントイエティが舞いあげた雪を被る。
「んなっ!」
レイドが再び現れる。
「フンッ!」
レイドは力を入れると、一気にアストロとエンドローゼを引っこ抜いた。
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