メグルユメ

トラフィックライトレイディ

1.冷気が溢れる空間

 前回までのあらすじ。

 成人の儀を受けたシキ、アレン、コストイラ、アシド、アストロ、レイド、エンドローゼの7人は勇者となった。

 強敵や仲間との絆、そして魔王軍との決戦。紆余曲折の旅を終え、魔王インサーニアを倒すことに成功した。役目は終わったと思い帰ってくると、衝撃の事実が発覚。

 まだ終わっていない。というか序章。

 先代に鍛えてもらい、教えてもらい、そして託された。

 それじゃあ、境目に行ってみよう!






 なーんて息巻いて出てきたが、アレン達は境目前の街、ヒタトイに滞在していた。

 理由は準備不足だ。

 アレン達は予想外の事態に陥っていた。

 寒い。そう、寒いのだ。今も外は軽く吹雪いている。冷蔵庫は食料が凍らないように設置していますという地域で、アレン達は自分の体を抱き、震えていた。

 バンツウォレイン王国は温暖な気候が特徴的な地域である。夏期には半袖、冬期では長袖一枚で過ごせ、厳しくても、そこにカーディガン一枚で済む。コートなど持っているだけで使ったことがあるものなどいないほどだ。

 そこにこの寒さだ。応えないはずがない。

「だぁっ! ちくしょーっ! 寒ィなァ、おいっ!!」

 とりわけ影響を受けているのはコストイラだろう。寒さはいわば氷、つまり水属性だ。火属性であるコストイラは相性が悪い。しかも、この寒さでは火の勢いも弱まるのだとか。

「こんな寒いなんて聞いてねェぞッ! クソッ!!」

 したがって、コストイラが暖炉の前を陣取っているのも納得できる。

 エンドローゼは鼻を啜っており、温まるためにアストロにくっついている。エンドローゼは子供体温であり、平熱が少し高く、アストロはカイロ代わりとしてくっつくのを拒まない。シキは凍える手に息を吹き込み揉みこむ。レイドは寒くないのか、寒くて気力がないのかずっと不動だ。アシドは雪や寒いという単語に反応する。修行中に何かあったのだろうか。地雷っぽいので何も聞かないことにする。

 現在、アレン達は最終会議をしていた。

 運のいいことに今いる宿には地図があった。歩く道筋を決めていく。

「最初、海峡まで歩いたら、南下します。この洞窟を抜け、山を移動すると、森が広がっているので、ここを抜けます。大樹があるようなのでここを目印にします。この近くにはこの小屋宿と同じような宿があるそうなので、一旦そこに着くところまでで考えておきます。その後はこっちの宿の方で考えます」
「いつまでこの寒さに耐えればいい!!?」

 暖炉前から動かず苛立っているコストイラに、アレンは申し訳なさそうに答える。

「………次の宿までずっと、おそらくその後も続くかと」
「ぬわぁああああッ!!!?」

 コストイラは頭を乱雑に掻き毟り、発狂する。

「うるさいっ!」
「がっ!!?」

 アストロは限界を超えたようでコストイラの脳天に拳を落とした。






 ヒタトイを抜けると、寒さが増した。あれより寒い気候ってあったんだ。すでに極寒と呼ぶのにふさわしい気温は、寒いというより痛いになっていた。

 アレン、アストロ、エンドローゼは動物の毛を使ったコートを着ている。後衛はそこまで動く必要がないから、他者より厚着をしている。

 コストイラとシキはそれよりは薄着だが、少し動きづらそうにしている。いつもの戦闘の動きができそうになく、コストイラは苛立ち、シキは落ち込んでいるように見える。

 アシドは長袖にカーディガンと、バンツウォレインの冬期のスタイルだ。寒くないのかアストロに聞かれた時、慣れたと答えていた。これって慣れるものなのかと驚愕するアレンには誰も気づかない。

 レイドはもっと凄かった。長袖一枚だ。盛り上がった筋肉によりパツパツになっているが、寒くないのか聞くと、まだ大丈夫だと返された。何が大丈夫なのだろうか。

 踝まで雪に埋めながら歩を進める。

「どこで夜を明かすんだ。徹夜か?」

 苛立つ気力さえなくしたコストイラが、素朴な疑問を口にする。答えるのはアレンだ。

「洞窟でしか休息を挟めません。辿り着けなければ徹夜もあり得ます」

 舌打ちが聞こえた気がするが、吹雪に呑まれ、消えていった。気のせいだろう。

「来たぞ」

 アシドが槍を構える。穂先が差す方向に魔物がいた。金属製のハンマーに丸盾を左腕につけた緑の二足歩行の雄牛がいた。

『ブアフゥウウ』

 白い息を撒き散らし、雄牛が走り寄ってくる。

 ミノタウロスに比べると小さい。体表から熱を奪われないように小さくなるように進化したのだろう個体だ。アシドを狙いハンマーを振り下ろすが、軽々と躱される。

 アシドはそのまま側頭部、角の前を蹴り上げる。

『ブルゥッ!?』

 子牛はよろめき、腰を落とす。シキが真正面から迫っていく。

『ブゥ!!』

 緑牛は人間のように体をびくりとさせ、手に持っていたハンマーを横に薙ぐ。

 しかし、シキの軌道はハンマーよりも下、体半分は雪に擦っている。ナイフの刺突が緑牛の胸を穿つ前に丸盾に防がれる。速度のある刺突は丸盾を壊すことに成功したが、代わりに勢いを失った。

 胸を刺すが浅い。

 振り抜いたままになっていた右腕が返ってくる。肘鉄を食らわそうとしているのは一目瞭然だ。

 しかし、残念かな。シキの速さはバトルオックスのそれの6倍はある。バトルオックスから見れば瞬間移動と見間違う速度でシキは動けるのだ。

 バトルオックスの肘鉄はシキの残像に当たり、バトルオックスは感触のない像に不可思議な感覚を覚え、呆けた顔になる。その間にナイフが今度こそ敵の胸に深々と刺さった。

 ゴボゴボと溢れ出る血液はすでに冷たくなっていた。

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