メグルユメ
34.妻として…………
習い教わり頑張って身に着けた攻撃力に対し、夫は心底不思議な顔をしていた。
『なぜ、君が戦うのだね?』
これは昔の考え方だ。女子供は戦わず、男が女を護り戦う。夫はそちらの方が力を発揮できるから戦わないでくれと頼んできた。何もせずに待っていろというのか?イライザにはできなかった。一緒に戦おうと思った。夫の前で言えたらどれほど楽だったのだろうか。
あなたが表に出るのなら、私は影になるわ。あなたが言ったのよ。妻は夫の影となり支えるものだって。だからは私は影になり、敵を倒していった。
当然よ。妻として。当然の役目よ。
じゃあ、誰がイライザを護るのさ。
魔王様はその姿を知らないから支えられない。だったら護れるのは部下しかいない。イライザの影としての姿を知っているのはパンタレストさんとロッドとコウガイとアタシだけ。
パンタレストさんはよくイライザに遠慮しがちに小言を言っている。婉曲した表現すぎてイライザは理解できず、よく首を傾げていた。
ロッドとコウガイは影の影として後始末をしている。彼女の失態が明るみに出ると面倒なことになると疲れた顔で言っていた。
アタシはイライザの相談によく乗る。大抵がパンタレストさんに言われたことの意味に関することなのだが。一緒にいるうちにアタシ達は友達を超えて親友と呼べるものになっていた。
だから、この状況が許せなかった。
「コウガイッ!」
アイコンタクトだけですべてを理解したコウガイは、アスミンを剥がしロッドの方に押す。
「え?マジで?」
「ふぇ?」
ロッドも何かを察した様子で確かめるように言葉を漏らす。アスミンは何も分かっていない。
アタシは魔王城を向いて軽く跳び、コウガイの脚に着地する。コウガイの脚は動いており、それは蹴りの動作だった。ちょうど良いタイミングでアタシも脚を伸ばす。
アタシは水を纏う。その上で、水が螺旋状に動く。ドリルのように回るアタシは大気を貫き、真っ直ぐと魔王城へと進む。
アタシは今、最速の槍だ。
一本の細剣が槍とナイフを防いだ。黄色の髪を揺らし、蒼色の眼でアシドとシキを睨む。アシドとシキが後ろに跳ぶ。
『カレトワ…………』
「うん。カレトワだよ」
カレトワはイライザの方を向かず、細剣を振るい牽制する。レイドも復活し、圧倒的な不利を背負う。
「イライザ、もう少し後ろへ」
『えっ?』
「もう少し」
イライザは言われるままに後ろへ下がっていく。破壊された壁の位置まで移動させられていく。
『///////////////////ッッ!』
イライザが最後まで詠唱できたのはカレトワがいたからだ。詠唱を止めようとするアシドの凶槍も、シキの凶刃も、カレトワが傷つきながらも防いでいく。
両者の間に隕石が割って入る。先ほど攻撃を食らったアシドは苦い顔をして躱していく。
「キャッ」
エンドローゼの元にも降り注ぐ。頭を抱えてやり過ごそうとする。しかし、当たらない。顔を上げると目の前にはレイドがいた。
カレトワは自嘲気味に笑う。無理だろ、これ。
攻撃の一つ一つを致命を避けて受けていく。いや、一番の武器である脚を傷つけられている時点でもう致命的なのかもしれない。普段なら既に逃げているだろう。逃げ道だって確保してある。
だが、できない。
『////ッ!?』
悲痛な叫び声を上げるイライザの存在だ。親友を見捨てて逃げることなんてこのカレトワにはできない。イライザの援護があるからギリギリで死なずに保っていた。
状況はさらに悪化していく。
不滅の炎が復活した。勇者一行最大攻撃力が最前線に復帰する。
視界の端がきらりと光った。
一瞬コストイラの視線が光の方を向く。合図だ。準備が整ったようだ。カレトワは細剣を振るい、吹雪を起こす。各々が各々の対処をする時間を稼ぎ、カレトワは次の行動に移る。右の後ろ足でイライザを足払いして、前に倒れさせる。
『え!?』
振り向きながら左腕で受け止め、外に飛び出す。
「重ッ!」
『え、ちょ、失礼ッ!』
考えれば当たり前のことである。イライザの身長は3メートルもあるのだから、それ相応の重さがある。それに加えて、カレトワの細腕だ。イライザを抱えるのでやっとな太さであり、こういった力仕事には適していない。しかし、やらなければ2人とも死んでしまう。
死にたくない。その思いだけが常識外れの行動を成功させた。外に張られた糸を伝ってカレトワが逃げていく。
吹雪を抜けた勇者一行はすでに逃げてしまったカレトワ達に下唇を噛む。渡り切ったカレトワはイライザを下ろし、四つん這いになる。
「よく渡り切った、アタシ!!」
カレトワは自分で自分を褒め、仰向けになる。ロッドはカレトワの治療にあたる。コウガイはイライザに寄り添い怪我の状況を確認する。アスミンはイライザを見たことがなかったので、警戒して棚に隠れて半身だけを覗かせている。
アレンが瞳に魔力を集める。ここからでは攻撃が届いても相手を倒せる威力はない。
「深追いはしません。魔王を探しましょう」
「それならあそこだ」
破壊された壁から身を乗り出したアシドがある一点を指さしていた。
巨体のくすんだブロンズヘアがいた。
あれが魔王か。
『なぜ、君が戦うのだね?』
これは昔の考え方だ。女子供は戦わず、男が女を護り戦う。夫はそちらの方が力を発揮できるから戦わないでくれと頼んできた。何もせずに待っていろというのか?イライザにはできなかった。一緒に戦おうと思った。夫の前で言えたらどれほど楽だったのだろうか。
あなたが表に出るのなら、私は影になるわ。あなたが言ったのよ。妻は夫の影となり支えるものだって。だからは私は影になり、敵を倒していった。
当然よ。妻として。当然の役目よ。
じゃあ、誰がイライザを護るのさ。
魔王様はその姿を知らないから支えられない。だったら護れるのは部下しかいない。イライザの影としての姿を知っているのはパンタレストさんとロッドとコウガイとアタシだけ。
パンタレストさんはよくイライザに遠慮しがちに小言を言っている。婉曲した表現すぎてイライザは理解できず、よく首を傾げていた。
ロッドとコウガイは影の影として後始末をしている。彼女の失態が明るみに出ると面倒なことになると疲れた顔で言っていた。
アタシはイライザの相談によく乗る。大抵がパンタレストさんに言われたことの意味に関することなのだが。一緒にいるうちにアタシ達は友達を超えて親友と呼べるものになっていた。
だから、この状況が許せなかった。
「コウガイッ!」
アイコンタクトだけですべてを理解したコウガイは、アスミンを剥がしロッドの方に押す。
「え?マジで?」
「ふぇ?」
ロッドも何かを察した様子で確かめるように言葉を漏らす。アスミンは何も分かっていない。
アタシは魔王城を向いて軽く跳び、コウガイの脚に着地する。コウガイの脚は動いており、それは蹴りの動作だった。ちょうど良いタイミングでアタシも脚を伸ばす。
アタシは水を纏う。その上で、水が螺旋状に動く。ドリルのように回るアタシは大気を貫き、真っ直ぐと魔王城へと進む。
アタシは今、最速の槍だ。
一本の細剣が槍とナイフを防いだ。黄色の髪を揺らし、蒼色の眼でアシドとシキを睨む。アシドとシキが後ろに跳ぶ。
『カレトワ…………』
「うん。カレトワだよ」
カレトワはイライザの方を向かず、細剣を振るい牽制する。レイドも復活し、圧倒的な不利を背負う。
「イライザ、もう少し後ろへ」
『えっ?』
「もう少し」
イライザは言われるままに後ろへ下がっていく。破壊された壁の位置まで移動させられていく。
『///////////////////ッッ!』
イライザが最後まで詠唱できたのはカレトワがいたからだ。詠唱を止めようとするアシドの凶槍も、シキの凶刃も、カレトワが傷つきながらも防いでいく。
両者の間に隕石が割って入る。先ほど攻撃を食らったアシドは苦い顔をして躱していく。
「キャッ」
エンドローゼの元にも降り注ぐ。頭を抱えてやり過ごそうとする。しかし、当たらない。顔を上げると目の前にはレイドがいた。
カレトワは自嘲気味に笑う。無理だろ、これ。
攻撃の一つ一つを致命を避けて受けていく。いや、一番の武器である脚を傷つけられている時点でもう致命的なのかもしれない。普段なら既に逃げているだろう。逃げ道だって確保してある。
だが、できない。
『////ッ!?』
悲痛な叫び声を上げるイライザの存在だ。親友を見捨てて逃げることなんてこのカレトワにはできない。イライザの援護があるからギリギリで死なずに保っていた。
状況はさらに悪化していく。
不滅の炎が復活した。勇者一行最大攻撃力が最前線に復帰する。
視界の端がきらりと光った。
一瞬コストイラの視線が光の方を向く。合図だ。準備が整ったようだ。カレトワは細剣を振るい、吹雪を起こす。各々が各々の対処をする時間を稼ぎ、カレトワは次の行動に移る。右の後ろ足でイライザを足払いして、前に倒れさせる。
『え!?』
振り向きながら左腕で受け止め、外に飛び出す。
「重ッ!」
『え、ちょ、失礼ッ!』
考えれば当たり前のことである。イライザの身長は3メートルもあるのだから、それ相応の重さがある。それに加えて、カレトワの細腕だ。イライザを抱えるのでやっとな太さであり、こういった力仕事には適していない。しかし、やらなければ2人とも死んでしまう。
死にたくない。その思いだけが常識外れの行動を成功させた。外に張られた糸を伝ってカレトワが逃げていく。
吹雪を抜けた勇者一行はすでに逃げてしまったカレトワ達に下唇を噛む。渡り切ったカレトワはイライザを下ろし、四つん這いになる。
「よく渡り切った、アタシ!!」
カレトワは自分で自分を褒め、仰向けになる。ロッドはカレトワの治療にあたる。コウガイはイライザに寄り添い怪我の状況を確認する。アスミンはイライザを見たことがなかったので、警戒して棚に隠れて半身だけを覗かせている。
アレンが瞳に魔力を集める。ここからでは攻撃が届いても相手を倒せる威力はない。
「深追いはしません。魔王を探しましょう」
「それならあそこだ」
破壊された壁から身を乗り出したアシドがある一点を指さしていた。
巨体のくすんだブロンズヘアがいた。
あれが魔王か。
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