メグルユメ
33.女王の威厳
女王はフリルがふんだんに使われた赤と黒の布地に、赤には黒の、黒には赤の糸で刺繍が施されたドレスを着ている。動くたびにふわりふわりと裾が動き、翻り、動きづらそうという印象を受けたが、そもそもの問題としてイライザは大きく動く必要がない。イライザは体術が全くできない。普段の運動ぐらいなら支障はないのだが、攻撃手段として見るなら話は別で、途端に動けなくなる。だからこそ、イライザは遠距離に特化したのだ。
掌から、紫色の竜巻のような風が発射される。レイドは大剣を楯のようにして受けるが、踏ん張れずに扉付近まで下げられる。床には靴の跡が残される。
風が乱射され、コストイラたち近距離組が近づけられない。魔術を相殺しようと炎の魔術を放つと、風とぶつかり爆発を起こす。爆発に気を取られたアシドは紫の風に煽られ、三段ある窓の二段目まで飛ばされる。アシドは見事に着窓すると、窓を蹴り、上空へと躍り出る。
『///////////////////////////ッッ!!』
何かを言った。すると、空中の何もないところから頭大の石が出現する。一つはアシドの脇腹に、一つはコストイラの頭に、一つは部屋の壁を壊し、残りは床に着弾する。見たことある。これは、夜空でたまに見たことがある。流星群だ。
初速のまだそこまで威力のない隕石を食らったアシドは脇腹と口から血を垂れ流しながら左手で傷口を押さえる。四つん這いの状態から起き上がれない。
頭に当たったコストイラは動かない。頭から血を流し倒れる姿に、イライザは興味をなくし視線を切る。
開く酒。潰える夢。途絶えることなく。
視線をレイドに向けたイライザは、くすんだブロンドの髪を溢しながら足元を見る。黒い霧が溜まっていた。イライザは能力を下げる技であると一瞬で看破する。
次の瞬間、イライザの体を淡い光が包み込んだ。
イライザは強くなる必要がなかった。魔王に見初められ、魔王妃となった。そもそものイライザはただの平民だった。そこそこ貧乏な家に生まれ、そこそこ貧乏な暮らしをし、そこそこの幸福を得ていた。魔王に見初められる前は、魔力さえ感知できない、魔術とは無縁の存在だった。見初められてからは、それ相応のふさわしい女になろうとした。勉学に励み、体術を学び、魔術を教わった。
勉学の成果はすぐに出た。教師を驚かすほどの成長を急激に、短期間でしてみせた。元々、そういった才能があったのかもしれない。
体術はできなかった。教師であるカレトワには諦めて魔力に物言わせたら、とアドバイスされた。元々、そういう才能はないのだろう。
魔術は地道にだが使えるようになっていった。教師からは学び始めるのが他よりも遅かったが、同年代の方と比べると吸収が早いと褒められた。元々、才能の塊だったのだろう。
カレトワやエンコは時々、実践に付き合ってくれた。
エンコは、必ずさすがですと褒めた。自身の信仰する魔王に選ばれた存在として、エンコはイライザとよく接触していた。イライザは困っていたが、夫はそういう奴だからと諦めていた。
カレトワには、まだまだだね、と笑われた。彼女に言わせると狙いが顔に出ているとのこと。フェイントがフェイントとして機能していないらしい。カレトワは一回り半ほど年が離れているが、とても良好な仲で時折お忍びで共にアップルパイを食べに城下町に行くような関係だった。
でも、もう彼女も死んでしまったのだろうか。
涙は流さない。敵を討ってから流そう。
ピコン。
レイドの頭上から音がした。
「ぬ?」
レイドにはそれが何の音なのか分からなかったので頭上を見る。その瞬間、紫の風が正面から押し寄せた。
「ぐぉ!?」
今度は大剣のガードがない。レイドは鉄の扉に叩きつけられ、肺の空気が押し出される。内開きのはずの扉が、外側に開いた。
イライザは即座に判断する。あと残っているのは流星群を躱した銀髪の少女と魔術を相殺させた紫の少女、奇妙な眼でこちらを見ている茶髪、おどおどしている淡い紫の少女。次に攻撃するべきは高火力の紫か。それよりもあの淡い紫の少女は回復術士か。残しておくと厄介だ。先にそっちを倒す。
気まぐれの多いカンジャが気まぐれに教えてくれた対処法、回復術士は真っ先に潰せ。残していれば不死の軍団のように次々と起き上がるから面倒なことになると。
『///ッ!』
先ほどの流星群をエンドローゼに向け集中砲火しようとする。しかし、届かない。イライザの背から血が出る。血で右側の顔を隠されたコストイラが斬った。血で潰された視界は遠近感が狂っており、狙いが外れたようで、コストイラの顔が歪む。
イライザは手だけをコストイラに向け、紫の風をぶつける。ゴロゴロと転がり、壁にぶつかって止まる。前を向くとアシドとシキが武器を振るところだった。
あ、駄目だ。
そう思った瞬間、壁と窓が爆発した。
掌から、紫色の竜巻のような風が発射される。レイドは大剣を楯のようにして受けるが、踏ん張れずに扉付近まで下げられる。床には靴の跡が残される。
風が乱射され、コストイラたち近距離組が近づけられない。魔術を相殺しようと炎の魔術を放つと、風とぶつかり爆発を起こす。爆発に気を取られたアシドは紫の風に煽られ、三段ある窓の二段目まで飛ばされる。アシドは見事に着窓すると、窓を蹴り、上空へと躍り出る。
『///////////////////////////ッッ!!』
何かを言った。すると、空中の何もないところから頭大の石が出現する。一つはアシドの脇腹に、一つはコストイラの頭に、一つは部屋の壁を壊し、残りは床に着弾する。見たことある。これは、夜空でたまに見たことがある。流星群だ。
初速のまだそこまで威力のない隕石を食らったアシドは脇腹と口から血を垂れ流しながら左手で傷口を押さえる。四つん這いの状態から起き上がれない。
頭に当たったコストイラは動かない。頭から血を流し倒れる姿に、イライザは興味をなくし視線を切る。
開く酒。潰える夢。途絶えることなく。
視線をレイドに向けたイライザは、くすんだブロンドの髪を溢しながら足元を見る。黒い霧が溜まっていた。イライザは能力を下げる技であると一瞬で看破する。
次の瞬間、イライザの体を淡い光が包み込んだ。
イライザは強くなる必要がなかった。魔王に見初められ、魔王妃となった。そもそものイライザはただの平民だった。そこそこ貧乏な家に生まれ、そこそこ貧乏な暮らしをし、そこそこの幸福を得ていた。魔王に見初められる前は、魔力さえ感知できない、魔術とは無縁の存在だった。見初められてからは、それ相応のふさわしい女になろうとした。勉学に励み、体術を学び、魔術を教わった。
勉学の成果はすぐに出た。教師を驚かすほどの成長を急激に、短期間でしてみせた。元々、そういった才能があったのかもしれない。
体術はできなかった。教師であるカレトワには諦めて魔力に物言わせたら、とアドバイスされた。元々、そういう才能はないのだろう。
魔術は地道にだが使えるようになっていった。教師からは学び始めるのが他よりも遅かったが、同年代の方と比べると吸収が早いと褒められた。元々、才能の塊だったのだろう。
カレトワやエンコは時々、実践に付き合ってくれた。
エンコは、必ずさすがですと褒めた。自身の信仰する魔王に選ばれた存在として、エンコはイライザとよく接触していた。イライザは困っていたが、夫はそういう奴だからと諦めていた。
カレトワには、まだまだだね、と笑われた。彼女に言わせると狙いが顔に出ているとのこと。フェイントがフェイントとして機能していないらしい。カレトワは一回り半ほど年が離れているが、とても良好な仲で時折お忍びで共にアップルパイを食べに城下町に行くような関係だった。
でも、もう彼女も死んでしまったのだろうか。
涙は流さない。敵を討ってから流そう。
ピコン。
レイドの頭上から音がした。
「ぬ?」
レイドにはそれが何の音なのか分からなかったので頭上を見る。その瞬間、紫の風が正面から押し寄せた。
「ぐぉ!?」
今度は大剣のガードがない。レイドは鉄の扉に叩きつけられ、肺の空気が押し出される。内開きのはずの扉が、外側に開いた。
イライザは即座に判断する。あと残っているのは流星群を躱した銀髪の少女と魔術を相殺させた紫の少女、奇妙な眼でこちらを見ている茶髪、おどおどしている淡い紫の少女。次に攻撃するべきは高火力の紫か。それよりもあの淡い紫の少女は回復術士か。残しておくと厄介だ。先にそっちを倒す。
気まぐれの多いカンジャが気まぐれに教えてくれた対処法、回復術士は真っ先に潰せ。残していれば不死の軍団のように次々と起き上がるから面倒なことになると。
『///ッ!』
先ほどの流星群をエンドローゼに向け集中砲火しようとする。しかし、届かない。イライザの背から血が出る。血で右側の顔を隠されたコストイラが斬った。血で潰された視界は遠近感が狂っており、狙いが外れたようで、コストイラの顔が歪む。
イライザは手だけをコストイラに向け、紫の風をぶつける。ゴロゴロと転がり、壁にぶつかって止まる。前を向くとアシドとシキが武器を振るところだった。
あ、駄目だ。
そう思った瞬間、壁と窓が爆発した。
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