メグルユメ

トラフィックライトレイディ

31.狂魔の城

 崖の上から見た印象とは異なる城が見える。石槍のように聳える塔。5メートル以上ある扉。レンガ調の壁面。



 想像した以上に大きく、圧迫される。門番がいない。それが不可思議さを助長していた。無防備、無警戒すぎる。勇者一行はお互いに目線を絡め、頷き合う。5メートル以上の高さ、鉄という材質、重さは想像もつかない。



「ふん」



「ぐぉ」



 レイドとコストイラのタッグでも開かない。コストイラが真っ赤になった手をひらひらとさせる。



「痛ってェ」



「オレ等も手伝うか」



 肩をぐるりと回してアシドが前に出る。7人全員で押す。ゴゴゴと体一つ出入りできそうなほどの隙間を開ける。



「いきなり体力が削られたな」



「これが狙いだとしたら素直に褒めるわ」



 軽口を叩けているので問題はないのだろう。



「行くか」



 痛みを誤魔化すように手を振っていたコストイラが先陣を切るように隙間に入っていく。7人全員が入るとパッと照明がついた。見られていると思ったがすぐに断ち切る。目の前に大量のバフォメットがいたからだ。気付かれているのは当たり前だろう。



 バフォメット達は鎧を身に着けており、野生のそれよりグレードの高い鎌を所持している。山羊頭用に加工された兜から、オレンジと紫の混じった瞳を覗かせる。銀の兜達の中に金の兜を被ったバフォメットが叫ぶ。



『メェエエエエエエエエエ!!』



 バフォメット達が一斉に襲い掛かる。アストロの魔術が炸裂し、大勢をまとめて吹き飛ばす。コストイラとレイドが前へ出て引き付け、漏れた相手をアシドとシキで処理していく。アレンは矢でチクチクと攻撃し、エンドローゼは片っ端から回復していく。コストイラは鎧の隙間をうまく斬り、炎を灯して、後方の者をまとめて燃やす。レイドは大雑把に大剣を振り、バフォメットの鎧を粉砕し、後ろの者達もまとめてぶっ飛ばす。



 鎌が掠り血が出るそばからエンドローゼが治していく。心なしかエンドローゼの反応速度が上がっているように思える。



『メェ…………』



 最後に金の兜を被った山羊頭人身の魔物が倒れる。



「ふぅ」



 コストイラがわざとらしく額を拭う。拭うなら返り血を浴びた頬の方だと思うが深くは突っ込まない。



「手荒い歓迎だったな」



「歓迎って喜んで受け入れることだから、手荒い時点で歓迎なのかしら?って思ったけどコストイラに悪いから言わないようにするけどね」



「全部漏れてね?」



 アストロの言動は最初と比べて柔らかくなった気がする。しつこく言い寄るコストイラの脳天に拳骨を食らわしているが、相当優しくなった気がする。



「よし、行くか」



 頭の天辺を擦りながらコストイラが涙目で言う。相当痛かったのだろう。



 その時、上から巨大な何かが落ちてきた。着地の瞬間床を割り、さらに着地の衝撃で全員の体が浮く。バフォメットの死体も含めてだ。



 それは片手で斧を振る。バフォメットを断ちながら進む大斧に対し、コストイラは咄嗟に刀を抜き合わせる。しかし、コストイラがいるのは空中。踏ん張れないので吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。



 それは5メートルの身長を誇っていた。



 それは濃い緑色の鎧を着ていた。



 それは巨大な斧を所持していた。



 それは兜の隙間から赤とオレンジの中間の色の光を発していた。



 それは鎧を着たミノタウロスのようだ。違いといえば完璧な人型で牛頭ではないぐらいではないだろうか。



『フゥウウウウウ』



 ガチャリと音を立て、仁王立ちする。グググと腰を捻り、斧を振りかぶる。



 そこでようやく動き出せた。アシドはアストロを、シキはエンドローゼを抱え、距離を取る。鎧ミノタウロスは捻りを解放し、斧を振る。斧の軌道上には誰もおらず、空振りに終わるが、斧が地面を叩くと床を割り、再び身を浮かせてくる。



 斧を引き抜き、目標を定める。尻餅をついているアレンだ。



『これより先、インサーニア様の元には行かせん。インサーニア魔王軍一の騎士、パンタレストが止めて、いや、終わらせてくれよう』



 高らかに宣言するパンタレストはアレンの脳天に向け斧を振り下ろした。

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