メグルユメ

トラフィックライトレイディ

24.紫魂の塔

 淡い紫色の塔なのだが、という印象があまりない塔に辿り着いた。印象が薄くなる理由は明白だ。辺りには魔物の牙や爪に、剣から翼が6枚生えた紋章のようなものが彫られている。それが塔を中心に数百個も飾られているのだ。囲いがないのに、まるで囲いのようで結界のようでもあった。



「気味が悪いわね」



 アストロが紋章のようなものが刻まれた爪を摘まみ、まじまじと見ている。アレンも見ているが、見たことのない紋章だ。いや、見たことがある。癒院や要塞、魔王軍の兵士と戦った時、あの場所にもこの紋章を見た気がする。これは魔王軍の印なのか。細かい意匠が施されており、魔王軍の技術力の高さがうかがえる。



「美しい彫りこみだ。いくつか持って帰りたいな」



 レイドは創作意欲が刺激されたのか、紋章をなぞりながら見ている。



『コレノ良サガワカルノカ』



 皺嗄れた声がし、そちらを向くと、老いたゴブリンがいた。杖を持ち、ローブを着こんでいる風采容貌から、ゴブリンウィザードであることは確かだ。



『コノ良サガワカルノハ熟練ノ技術者カ宗教ニ精通シタ者ダ。オマエハドチラダ』



「…………」



 レイドは答えてもいいのか迷う。相手は魔物だ。下手に気持ちを激しく揺らし機嫌を悪くさせるのも悪手だ。



「…………技術者だ。熟練者ではないがな」



『フム、ソウカ。謙虚ナノハ良イコトダ。ダガ、今ノ世ハ自分ヲアピールデキナケレバ生キ残レナイノモマタ事実ダ。謙虚デアルト同時ニ傲慢デモアルベキダ』



 魔物に諭されてしまった。レイドは汗を垂らす。大丈夫だ。相手はまだ敵ではない。



『持ッテ行クト良イ。インサーニア様ノ加護ヲ得ルコトガ出来ヨウ。コレデ我々ハ仲間ダ』



 欲しいには欲しいが仲間になりたいわけではない。ここが限界なような気もしてくる。



『スグッ!?』



 首から刃が生える。シキはいつの間にかゴブリンウィザードの影に移動しており、暗殺していた。

 レイドやアストロ、シキまでもが爪や牙を懐にしまっていく。そんなに欲しかったのだろうか。自分も懐に入れるアレンは自身を棚に上げてそんなことを思っていた。



 シキの眉がピクリと動く。横の森から魔力の塊が出現する。シキは体を回転させ魔力の塊を切断する。直後爆発して、シキが吹き飛ばされる。



『カタカタカタ』



 森の中から5メートルはあろう身長のローブ姿の何かが出てきた。ローブに隠れていない所には白く骸骨のようなものが見えた。ローブは大きく、体全体が覆われており、手先は手袋、腕は袖で、頭はフードと垂れた幕のようなもので隠されている。魔物であることを隠しているような装いだ。魔物の首元には紋章の描かれた爪や牙を使ったネックレスがかかっている。



『カタカタカタカタ』



 ローブの隙間からスルルルルルとカードが宙を舞う。規則正しく並んだカードたちは2つの輪を描くように動き、×の字を描くように魔物の体を取り巻く。



 魔物は右手を突き出すと、それに合わせてカードが1枚右手の前に止まる。



『カタカタカタカタ』



 カードから紫色の霧が噴出され、吐き出し終わるとカードが消える。



 霧が絡みつくように手足に纏わりつく。

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