メグルユメ
17.勇気を出すのも烏滸がましい
ロッドはとある盗賊団の団長を務めていた。強盗、殺人、強姦。好きに生き、好きに過ごした。その結果起こされた事件の大半は国全土に知れ渡っていた。その程度で自粛するロッドではない。好きに生きるという信条に反してしまう。
もっとも、その盗賊団も活動していた国ももう滅んでいる。ロッドが何かしでかしたのではなく、国が魔物にちょっかいを出し、返り討ちにあい蹂躙されたのだ。ちなみにロッドはそうなる前に国外に逃亡していた。引き際を弁えるのも重要な能力だ。
だからこそロッドは現在、荷物を纏えていた。そもそもロッドが魔王軍に入り、なおかつ幹部にまでなったのは、好き勝手に生きられるからだ。残虐非道、婬虐暴戻と言われるロッドは、金と女が欲しいだけの男だった。
「戦ったところで勝てねェなァ。小手先の手段が通じるかもしれねェが必死になって倒さなきゃいけねェ相手でもねェ。逃げた方が得だろこんなん」
先程、勇者一行が塔内に侵入したのを確認するやいなや逃げる支度をしていた。とっとと逃げよう。バックパックに荷物を詰め込むと、背負い込み窓に手をかける。
バンと扉が開けられた。
「いた」
「え?早くね?もっとかかると思ったのに。え?罠、どうしたの?」
「そんなの突破してきたわ」
想定よりもだいぶ早く突破されたので動揺してしまう。見つかる前に消える予定だったのに。
「逃げる気か」
こげ茶色の髪に茶色い目。確か名前はアレンだったか。
「そうさ。逃げるのさ」
国から逃亡した時、ロッドはすでに盗賊団から抜けていた。
当時、最も信頼していた男とその恋人である男に団長の座を譲っており、後顧の憂いはなかった。コレイニは戸惑っていたが、関係ないとばかりと姿を消した。
なぜ消えたのか。
コレイニ達盗賊団も愛人たちも知らなかった。知らないからこそ、様々な噂がたった。女の尻を追った。この国に愛想が尽きた。足を洗って新天地で真面目に働いている。様々な噂だ。否定も肯定もできる筈のロッドがいないので噂の域を出なくなった。
その真実は逃亡するする少し前に一人の女に会ったのが原因だった。目に光がなく虚空を見つめており、唇はカサカサで罅割れていた。これまでのロッドなら決して関わろうとしないタイプだ。心が壊れている。スラムを生きたロッドには見慣れた姿だ。好むような光景ではない。
ロッドの目を引いたのはそこではなかった。そんな状態でなお、その女は美しかった。突出した美人だ。美人コンテストをしたのならぶっちぎりで優勝するだろう。
ふと思いついたことがあった。この状態なら別にヤッてもいいんじゃないか?ロッドは実行することにした。
「やぁ、今一人かい?」
「…………」
答えが返ってこない。ロッドにとって沈黙は肯定だ。しかも話せないのなら叫んでこないだろう。しめしめと内心で喜ぶ。
「今、暇かい?」
「…………」
「じゃあ、オレと遊ぼうよ」
「…………」
「よし、こっちの路地裏に来てよ」
「…………」
ロッドが少女の手を握り、立ち上がらせようと引っ張ると、少女は従順に立ち上がる。そのまま手を引くと、少女は歩いてくれた。ぺろりと自身の唇を舐め、少女の服に手を伸ばす。乱暴にしてもいいが、優しく脱がしてやる。気が付いた時に強姦だと思われないようにしなければ、自分のものにできない。いざとなれば快楽で堕としてやればいい。
釦の一つに手をかけた時、左頬に衝撃が貫いた。しかし、吹っ飛んだのは左側。どうやら攻撃を受けたのは右頬らしい。
「うちの妹に何をしている」
見ると右手を固く握りしめた男が立っていた。身内が近くにいたのか。どうする。得意の嘘で切り抜けるしかない。
「私はこの心の壊れた少女を見て、手持ちの薬で何とかならないか。そう思った私は出来るのかどうか調べたくなってしまったんだ。誘拐するような真似をしてしまって申し訳ない」
値踏みするような目を向けられる。嘘がバレた瞬間死ぬのは確実か。
「で、どうなのだ?」
どう?あぁ、治せるかどうかか。そんな眼で見ているわけではないので分かるわけもなく、そもそもロッドは医者ではない。
「…………難しいですね」
「なぜそう思った」
ロッドは医者になり切って答える。
「まず大前提として私はプロの中のプロというほどの熟練者ではありません。なので間違うこともあります。今、私が所持しているものは毒になりうる可能性があります」
「ふむ」
「次に、回復術士が欲しいです。彼らの中には心の病を治せるものがいると聞いています。もしかしたら薬がなくても回復術士一人で事足りるかもしれません」
「ふむ」
ロッドは責任を負いたくなかったので可能性の一つとして示し、保険をかけまくった。
「どこにいるのか分かるか?」
「私にはなんとも」
またぼかしておく。
「そうか」
男は顔を下に向け、顎を触り、眼を細める。この後のことでも考えているのだろう。もうロッドの力はいらないだろう。
「では私はこれで」
「待て」
呼び止められた。今度は何だ?
「いつか必ず礼がしたい。オレはコウガイ。アンタは?」
ロッドは迷った。実名を言うべきか、偽名を名乗るか。
「私はロッドです」
この時は何故か、実名を名乗りたい気分だった。
国を飛び出したのに理由はなかった。しいて言うなら別の国に行ってみたかった。そんな折、国境で問題が起きた。そもそもロッドは大盗賊の団長をしていた時点で犯罪者だ。そう簡単に逃亡などさせてくれる筈がない。
「はぁああ!」
「くっ」
裂迫した剣戟をナイフで何とか受け流す。
ロッドは強い。盗賊団などに入ることなく真面目に生きていれば、今頃騎士団の中でも頭角を現し、トップクラスの実力者として畏怖の念をかき集めていただろう。しかし、そんな強さも人間基準であり、英雄のような強さを持っているわけではない。数で押されれば負けてしまう。すでに3人は倒すのに成功したが、まだ10人はいる。
「フンッ!」
「なっ」
型通りのつまらない剣でナイフが飛ばされる。武器が今手元にない。まずい。戦えない。これまでか?
そう思った時、最期くらいは自分の目で見てやろうと目を見開く。
目の前にいた剣を振りかぶっていた騎士が消えた。いや、今度は気付いた。殴り飛ばされたのだ。
「コウガイ」
呟きを掻き消す音と共に戦闘が始まり、すぐに終わった。語彙力を失うほどに凄い戦いだった。強い。攻撃を一撃も受けず、拳一発で相手の鎧を砕いた。
決めた。オレはこのヒトに付いていこう。このヒトに付いていけば何もかもうまく行く気がしてきた。
「コウガイさん」
「ん?」
「付いていってもいいですか?」
「オレは構わんが」
「が?」
「アスミンにも聞いてみなければ」
コウガイは近くの岩に寄りかかっていた女性の手を取り、質問している。妹の名前はアスミンと言うのか。ロッドはコウガイについていくことになった。
ロッドは魔王に忠誠を誓っていない。コウガイが魔王軍に入ったからこそ後を追ったに過ぎない。魔王のために戦おうとも思わないし、死ぬような思いをしたいと思わない。暇で気が向いたら戦う。しかし、今回は戦いたくない。こんな緊急事態というか有事の際はコウガイの為に動くと決めている。
「待てっ!」
「待つわけないじゃん。それと、君達の探し物はあっちだよ」
ロッドは宝玉の方を指さす。アレン達がそちらを見た瞬間、窓から飛び降りた。
「あっ!」
アレンが慌てて窓に近寄り、下を覗くと色のついた液体を顔にぶっかけられた。
「馬ァ鹿!もっと警戒しろよ!オレからのアドバイスだぜ。ありがたく受け取りな!」
ロッドは塀の上からアレンを嘲笑い、囲いの向こう側に行ってしまった。
もっとも、その盗賊団も活動していた国ももう滅んでいる。ロッドが何かしでかしたのではなく、国が魔物にちょっかいを出し、返り討ちにあい蹂躙されたのだ。ちなみにロッドはそうなる前に国外に逃亡していた。引き際を弁えるのも重要な能力だ。
だからこそロッドは現在、荷物を纏えていた。そもそもロッドが魔王軍に入り、なおかつ幹部にまでなったのは、好き勝手に生きられるからだ。残虐非道、婬虐暴戻と言われるロッドは、金と女が欲しいだけの男だった。
「戦ったところで勝てねェなァ。小手先の手段が通じるかもしれねェが必死になって倒さなきゃいけねェ相手でもねェ。逃げた方が得だろこんなん」
先程、勇者一行が塔内に侵入したのを確認するやいなや逃げる支度をしていた。とっとと逃げよう。バックパックに荷物を詰め込むと、背負い込み窓に手をかける。
バンと扉が開けられた。
「いた」
「え?早くね?もっとかかると思ったのに。え?罠、どうしたの?」
「そんなの突破してきたわ」
想定よりもだいぶ早く突破されたので動揺してしまう。見つかる前に消える予定だったのに。
「逃げる気か」
こげ茶色の髪に茶色い目。確か名前はアレンだったか。
「そうさ。逃げるのさ」
国から逃亡した時、ロッドはすでに盗賊団から抜けていた。
当時、最も信頼していた男とその恋人である男に団長の座を譲っており、後顧の憂いはなかった。コレイニは戸惑っていたが、関係ないとばかりと姿を消した。
なぜ消えたのか。
コレイニ達盗賊団も愛人たちも知らなかった。知らないからこそ、様々な噂がたった。女の尻を追った。この国に愛想が尽きた。足を洗って新天地で真面目に働いている。様々な噂だ。否定も肯定もできる筈のロッドがいないので噂の域を出なくなった。
その真実は逃亡するする少し前に一人の女に会ったのが原因だった。目に光がなく虚空を見つめており、唇はカサカサで罅割れていた。これまでのロッドなら決して関わろうとしないタイプだ。心が壊れている。スラムを生きたロッドには見慣れた姿だ。好むような光景ではない。
ロッドの目を引いたのはそこではなかった。そんな状態でなお、その女は美しかった。突出した美人だ。美人コンテストをしたのならぶっちぎりで優勝するだろう。
ふと思いついたことがあった。この状態なら別にヤッてもいいんじゃないか?ロッドは実行することにした。
「やぁ、今一人かい?」
「…………」
答えが返ってこない。ロッドにとって沈黙は肯定だ。しかも話せないのなら叫んでこないだろう。しめしめと内心で喜ぶ。
「今、暇かい?」
「…………」
「じゃあ、オレと遊ぼうよ」
「…………」
「よし、こっちの路地裏に来てよ」
「…………」
ロッドが少女の手を握り、立ち上がらせようと引っ張ると、少女は従順に立ち上がる。そのまま手を引くと、少女は歩いてくれた。ぺろりと自身の唇を舐め、少女の服に手を伸ばす。乱暴にしてもいいが、優しく脱がしてやる。気が付いた時に強姦だと思われないようにしなければ、自分のものにできない。いざとなれば快楽で堕としてやればいい。
釦の一つに手をかけた時、左頬に衝撃が貫いた。しかし、吹っ飛んだのは左側。どうやら攻撃を受けたのは右頬らしい。
「うちの妹に何をしている」
見ると右手を固く握りしめた男が立っていた。身内が近くにいたのか。どうする。得意の嘘で切り抜けるしかない。
「私はこの心の壊れた少女を見て、手持ちの薬で何とかならないか。そう思った私は出来るのかどうか調べたくなってしまったんだ。誘拐するような真似をしてしまって申し訳ない」
値踏みするような目を向けられる。嘘がバレた瞬間死ぬのは確実か。
「で、どうなのだ?」
どう?あぁ、治せるかどうかか。そんな眼で見ているわけではないので分かるわけもなく、そもそもロッドは医者ではない。
「…………難しいですね」
「なぜそう思った」
ロッドは医者になり切って答える。
「まず大前提として私はプロの中のプロというほどの熟練者ではありません。なので間違うこともあります。今、私が所持しているものは毒になりうる可能性があります」
「ふむ」
「次に、回復術士が欲しいです。彼らの中には心の病を治せるものがいると聞いています。もしかしたら薬がなくても回復術士一人で事足りるかもしれません」
「ふむ」
ロッドは責任を負いたくなかったので可能性の一つとして示し、保険をかけまくった。
「どこにいるのか分かるか?」
「私にはなんとも」
またぼかしておく。
「そうか」
男は顔を下に向け、顎を触り、眼を細める。この後のことでも考えているのだろう。もうロッドの力はいらないだろう。
「では私はこれで」
「待て」
呼び止められた。今度は何だ?
「いつか必ず礼がしたい。オレはコウガイ。アンタは?」
ロッドは迷った。実名を言うべきか、偽名を名乗るか。
「私はロッドです」
この時は何故か、実名を名乗りたい気分だった。
国を飛び出したのに理由はなかった。しいて言うなら別の国に行ってみたかった。そんな折、国境で問題が起きた。そもそもロッドは大盗賊の団長をしていた時点で犯罪者だ。そう簡単に逃亡などさせてくれる筈がない。
「はぁああ!」
「くっ」
裂迫した剣戟をナイフで何とか受け流す。
ロッドは強い。盗賊団などに入ることなく真面目に生きていれば、今頃騎士団の中でも頭角を現し、トップクラスの実力者として畏怖の念をかき集めていただろう。しかし、そんな強さも人間基準であり、英雄のような強さを持っているわけではない。数で押されれば負けてしまう。すでに3人は倒すのに成功したが、まだ10人はいる。
「フンッ!」
「なっ」
型通りのつまらない剣でナイフが飛ばされる。武器が今手元にない。まずい。戦えない。これまでか?
そう思った時、最期くらいは自分の目で見てやろうと目を見開く。
目の前にいた剣を振りかぶっていた騎士が消えた。いや、今度は気付いた。殴り飛ばされたのだ。
「コウガイ」
呟きを掻き消す音と共に戦闘が始まり、すぐに終わった。語彙力を失うほどに凄い戦いだった。強い。攻撃を一撃も受けず、拳一発で相手の鎧を砕いた。
決めた。オレはこのヒトに付いていこう。このヒトに付いていけば何もかもうまく行く気がしてきた。
「コウガイさん」
「ん?」
「付いていってもいいですか?」
「オレは構わんが」
「が?」
「アスミンにも聞いてみなければ」
コウガイは近くの岩に寄りかかっていた女性の手を取り、質問している。妹の名前はアスミンと言うのか。ロッドはコウガイについていくことになった。
ロッドは魔王に忠誠を誓っていない。コウガイが魔王軍に入ったからこそ後を追ったに過ぎない。魔王のために戦おうとも思わないし、死ぬような思いをしたいと思わない。暇で気が向いたら戦う。しかし、今回は戦いたくない。こんな緊急事態というか有事の際はコウガイの為に動くと決めている。
「待てっ!」
「待つわけないじゃん。それと、君達の探し物はあっちだよ」
ロッドは宝玉の方を指さす。アレン達がそちらを見た瞬間、窓から飛び降りた。
「あっ!」
アレンが慌てて窓に近寄り、下を覗くと色のついた液体を顔にぶっかけられた。
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ロッドは塀の上からアレンを嘲笑い、囲いの向こう側に行ってしまった。
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