メグルユメ

トラフィックライトレイディ

15.二柱の番人

 長い長い地下道は歩くものを苛立たせていた。まだ終わらないのかと。すでに1時間は歩いていた。それも周りの景色が一切変わらない中で。



 しかし、その気持ちは唐突に終わりを告げた。通路が急に広くなったのだ。今までは2.5メートル程だった天井は5.5メートル程に変わり、2.5メートル程だった幅は10メートルほどになっていた。



「広…」



 思わず口から出てしまうほどには劇的な変化だった。なぜこんなにいきなり通路がこんなに広くなったのか、などと考えたが、それはすぐに止められた。目の前が行き止まりだったのだ。どうやらただ広くてでかい空間に迷い込んでしまったようだ。



 キョロキョロと探っていると、この岩肌の露出した部屋には奥に扉があり、その横には門番のように緑の像が置いてあった。高さは5メートルほど。天井ギリギリだ。アレン達はその魔物を見たことがあった。



「どっかで見たことあんな。核があるやつだっけ」



「そうですね」



「ここは私に行かせてください」



 アシドに言われ、コストイラ達も何となくグリーンジャイアントを思い出した。そんな中、女が手を挙げる。



「…………は?」



「ここは私に行かせてください」



 威圧的に返すと、女は先ほどと同じセリフを言う。



「何でですか?」



「さっきは見事な連携を見せつけられちゃいました。燃えちゃいましてね。それに参加できなかったことが悔しかったのです」



 アレンが理由を問うと、女は爽やかに答える。最後に本音をポロリと溢した気もするが、真意が読めない。良くも悪くも堂々としていられると分からないのだ。アレンは不安そうな表情を浮かべ、グリーンジャイアントを見ながら言う。



「良いんじゃないですか?」



 反論はない。アストロ、シキ、エンドローゼ、レイドは完全に我関せずを貫き、反論をしてきそうなアシドとコストイラは明後日の方を向いている。何か思うところでもあるのか関心がないのか。



 女は嬉しそうに刀を抜く。女が近付くと緑の巨人の目がオレンジの光を放つ。そして口から泥を吐いた。















 何とも珍妙な生き物だ。



 女はグリーンジャイアントを見て、そんな感想を抱いた。実はグリーンジャイアントは分類上、人工生命体に属するが、女の知ったことではない。体のどこにしまっているのか分からない泥を吐いてくる。女は軽々と躱し、さらに近付く。グリーンジャイアントは腕を棍棒のように振るい、ぐちゃぐちゃにしようとするが、空振りに終わる。



 これなら簡単に勝てそう。そう思った女は刀に光を集めた。



 光。



 光………。



 女の腹にグリーンジャイアントの拳が突き刺さる。女の口は酸っぱいものを吐き散らしながら、天井に衝突する。チカチカと明滅する視界の中にグリーンジャイアントの右の拳が動き出すのを映した。空中にいる女には躱すという選択肢はない。迫りくる拳に対し、女は刀の両端を持ち、防御しようとする。



 もしも戦っていたのが女ではなくコストイラであったなら、防御ではなく往なしを選択していただろう。この場合の防御はリスクが高すぎる。



 予想と違わず、刃は硬く握られた拳を両断することが出来ず、拳の途中で止まり、勢いそのままに飛ばされる。巨人の右手には刀が残っており、4本だった指が5本に増えていた。床に激突したことで出てきた鼻血を床に落としながら敵を見据える。



「まだまだぁ!」















「お前さっきからどこ見てんの?」



 急に話しかけられたことで体をびくりと反応させ、アレンは振り向く。



「こ、コストイラさん」



「え?そんな?」



 アレンは声を掛けられビビりまくり、コストイラはその反応を見せたアレンにビビった。



「扉の向こうです」



 息を整えたアレンは当初のコストイラの質問に答える。



「向こう?なんかあんのか?」



「考えてみて下さい。こんなどっちが中でどっちが外かも分からない場所の扉ですよ?門番がこっち側なだけなのか、さらに、逃げようとするものを倒すための殲滅部隊がいるのかもしれません」



「考えすぎじゃね?とは思ったがそれぐらいが未知のエリア探索にはちょうどいいのか」



 コストイラはアレンが扉を睨みながら話す内容に共感する。そして、女の方を見た。女は手を真上に掲げたかと思うと、そのまま手をぐるりと一周させる。6つの光を円状に出現させる。



『ゴォオオオオオッッ!!』



 今度は叫んだ。女は自身の作った光の輪を潜り、圧倒的な速度で走り出す。怒れる巨人は女をキャッチするように左手を振るう。女は難なく擦り抜け、右手に刺さる自身の刀の柄を摑む。若干つんのめるが、勢いに任せて振り抜く。右腕の先から肘にかけて、外側が切り離される。血は流れない。



 離れた部位が土塊に変わり、腕からはオレンジと黒の混じった煙を上げる。グリーンジャイアントは痛がる素振りを見せない。そもそも痛覚はあるのだろうか。



 グリーンジャイアントは全力で腕を振るい、殺しにかかる。いくらこちらが削られようが一撃で倒してしまえば問題ない。女は逸る気持ちを押さえ、沈勇に光を蓄える。



 光。また光である。



 偽物の光は魔物を狂わせる。本物の光が見えなくなるからだ。振るわれる腕は空を斬り、女はその内に潜っていく。光を纏う刀は緑の巨人の足を斬る。俯せに倒れた巨人の背に女が乗っかり、心臓のあると思しきところに刀を突き立てる。















 エンドローゼが女を治療している最中、アレン達は扉を開けた。



 3メートルほどある両開き戸の左側だけ開けると、右側に予想通り門衛がいた。今度はレッドジャイアントだった。アレンがレッドジャイアントを視認した時、紅き巨人の目がオレンジの光を放った。そして両の拳が炎を纏う。アレン達はすぐに顔を引っ込めた。



 危ない。あのまま顔を出していれば焦げた人肉が出来上がったことだろう。



「オレが行ってこよう」



 右腕をぐるりと回しながらコストイラが前に出る。



「格の違いを見せてやる」



 女の方を見ながら言い切った。



 コストイラは素早く扉を抜ける。振り下ろされる拳を置き去りに、その足の速さで紅き巨人を翻弄し、かく乱する。そのまま壁を駆け上がり、レッドジャイアントの心臓部のパイプを切断する。



 早業だった。1分も経っていないだろう。ズシンとレッドジャイアントが倒れ、その上に着地する。



「調子乗ってんなアイツ」



「ま、まぁまぁ」



 アシドがコストイラを見ながら舌を打ち、アレンはそんなアシドを宥めながら心の中では同意していた。

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