メグルユメ

トラフィックライトレイディ

30.死を齎すサクラ

 根は鋭い突きを繰り返し繰り出す。コストイラやアシドは根を弾き対処しようとするが、根は巻き付こうとして激しくうねる。魔術が当たりうねりが中断させられる。



「くっ。抵抗するな。その身を養分とするのだ!サクラ好きには本望だろ!?」



 男の本性が明らかになっていく。きっとこのサクラは人間を養分にして育ってきたのだろう。この男はそう改造した。



「はぁっ!」



 男は天に手を挙げたのち、その手を前に突き出す。その手からは薄紫色の魔術が発射される。シキは軽々と根と魔術を躱し、男に肉薄する。



「なっ!?」



「ふっ」



 男は近付くシキを目視出来ていたが対応が間に合わない。シキの膝が男の腹に突き刺さる。その衝撃で思い出した事柄があった。赤い髪、黄色い目。こいつは退治屋の息子だ。あの怪物の、息子だ。



 コストイラに慈悲はない。コストイラ自身、サクラが好きだ。話をする機会が親との間にしか存在しなかった。楽しそうに話す父親が好きで、その話の内容に用いられるサクラも自然、好きなった。父親との思い出はサクラしかなかった。



 この男はそのサクラの話ができる。それでもコストイラは容赦しない。サクラの根を炎でもって断ち切る。サクラは喋ることはないが、その反応から痛がっているのは分かる。



「あぁ!?レイ!?」



 男は焦りを隠さず上擦った声が出る。前に出ようとする男をシキは蹴り上げてサクラに叩きつける。攻撃を受けるたびにサクラの花は落ちていく。男の焦りは増していく。しかし、手助けしたくても男ではシキを突破できない。



 サクラの花弁がひらひらと舞い、次第に蝶へと姿を変える。蝶は刀をくるくると回り突撃していく。



「おぉ、よし、いいぞ!」



 男がガッツポーズをとる。サクラの花が落ちた枝から花が咲く。しかし、アレンの眼には元から花が多すぎるという風に見えていたため、そのことに気付かない。コストイラとアシドもサクラの懐に入る。幹に傷がつかない。そのことに気付くが、攻撃するしか能のないコストイラは攻撃を続ける。花弁が大量に散る。















 男――ルエナがサクラに出会ったのは50年前だ。ルエナは魔術の極致を目指すために旅していた。



 ある日、東方に存在するとある山でそれに出会った。育てていた男はカケルと名乗り、それをサクラだと説明してくれた。ルエナはカケルに弟子入りしてサクラを学んだ。



 西方にあるルエナの故郷ではサクラが育たないらしい。気候、土壌、その他さまざまな環境が違い、サクラにはストレスが強すぎるのだ。



 ルエナはそれを変えたかった。西方にもサクラを咲かせたいと願った。ルエナはカケルにいくつかの苗木をもらった。



 まずルエナは東方と似た土壌を探した。気候の穏やかな土地を探した。そして、ルエナは禁術に手を出した。生命を生み出した。正確には生命を改良を加え意思疎通を可能にした。



 しかし、サクラは痩せ細り始めた。何がいけなかったのか。土壌は東方に近い場所を選んだ。気候も近い場所だ。何が違った。



 辿り着いたのは肥料だった。そう考えたルエナは肥料を取り寄せた。行商人を呼び、肥料を運び込んだ。行商人を先に行かせ、ルエナも後から追っていく。そして、目撃した。



 サクラは根を動かしていた。行商人はサクラに食べられていた。サクラは初めて自らの意思で動いた。



 ルエナは感動した。サクラの行動だ。



 そうか、サクラに足りなかったのはこれだったのか。



 顔を輝かせたルエナは生贄を次々と用意した。用意していった。桜が満開になるその日まで。















 サクラの花弁が大量に散る。ルエナはその花弁を摑むように手を伸ばす。握るの手の中には花弁が入ってこない。止めを刺さんとするコストイラは刀を振りかぶるが蝶が波のように押し寄せ弾き飛ばす。蝶は寄り集まり龍の形を取り、アレン達を呑みこんでいく。



 ダメージは1つ1つはが小さいが蓄積していき、膨大なエネルギーを生み出す。



 花は再び満開近くまで咲いていく。



「あれは体力の指針となっているのか」



 アレンは膝をつきながら観察する。ルエナは両手を突き出し、淡い紫色の魔力をためる。ルエナは勝ちを確信した。その瞬間、ルエナの体の中心が貫かれた。



「……あ…………?」



 ルエナは何も分からずに血を吐き出す。血に濡れた根が引き抜かれ、支えを失ったルエナは簡単に膝をつき倒れ込む。



 目だけを動かしサクラを見る。サクラは満開を迎え、咲き誇っていた。ルエナは満足そうに眼を閉じて力を抜いた。サクラは素晴らしいほどに咲き誇る。こんな場面じゃなければ素直に喜べただろう。ルエナはミイラになってまで笑みのままであった。

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