メグルユメ
23.賽の河原
意識が戻ると、視界は青色に染まっていた。全身を呑みこむ感触から、今アレンは水の中にいることを自覚する。
陸の情報の一切が遮断された冷たい水の世界に包まれた。浮遊感にも似た感覚を味わっていたのは数瞬で、水面から離れた水中でアレンの体は流されていく。
手足を必死に振り回しもがくが陸と感覚が違いすぎる。動作の感覚が意識と違って遅い。水の抵抗が思ったより強い。口から気泡が放出される。
水に手足が絡めとられるアレンは上下の感覚さえ分からずに水面を目指す。平衡感覚が破壊されていく。足が地を踏みしめられないだけでこうも不安になってしまうのか。
呼吸ができない恐怖感、取り乱せば取り乱すほど確実に削られていく命。もがく手が地を叩いた。ここが水底。アレンは大量の気泡と共に水面をぶち破る。
待ち望んだはずの空気の味は全く分からない。アレンは盛大に咳き込んだ。水を大量に飲んでしまった喉が何度もえずく。
アレンは何も考えられず本能に従い岸を目指した。バシャバシャと音を立てて水を掻き分け、もがいていた足裏が底面に触れた瞬間、力強く蹴って前へ進む。転ぶように前へ進むと、水が脛ほどまである浅瀬へと辿り着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ああぁ……うぇ~~」
ばしゃりと両腕をついて、四つん這いになる。血管が破裂したかのように全身が痛い。視界もうまく効かない。
「大丈夫?」
誰かが何か言っている。耳もうまく機能していないので何も分からない。辛うじて顔を上げると赤い何かがぼんやりと見えた。コストイラか?目を暫く閉じ、擦ってもう一度目を開ける。目の前にいたのはシキだった。自分の目が充血していただけか。
周りを見てみるとエンドローゼも同じように咳き込んでいた。レイドはその背を擦ってあげていた。アストロも地に頭をつけて震えており、こちらもアシドに背を擦られていた。アレンが大きく咳き込むとシキが背を擦ってくれ始めた。優しい。好きが加速しそう。
アレンは深呼吸して息を整える。
「塔の側って確かに海がありましたけどあんなに深いものなんですかね」
アレンの問いにコストイラが首を捻る。
「オレもそこは分かんねェんだよな。不思議な何かが働いたと考えてもおかしくはねェんじゃねェのか?よくわかんけど」
コストイラはアストロとアシドに視線を向けた。
「やっぱ詳しいのはあっちだろ」
「それを言うならよ、瓦礫だってどこ行った」
アレンの疑問に対してアシドがまず言ったのはその言葉だった。言われて辺りを見渡してみるが、確かに瓦礫の一つも見当たらないし、5つの試練を担当した人達も見つからない。
「一番ありえそうなのは魔術。その辺はどう考える、アストロ」
「7人を転移させるのも、5人と瓦礫を転移させるのも必要な魔力量にそこまでの差おそらくはないわ。やったことないから推測になるけどね。ものすごく長い呪文の詠唱と膨大な魔力、気の遠くなるような日数をかけるものよ。こんな芸当は。まぁ、元々そこに魔法陣があって、発動一歩手前で止めてあったって言うなら別だけどね。それでも維持する魔力が必要だけどね」
「違うなら無理はあるが、潮がそういう流れだった。そんなとこを考えるしかないだろう。いくら考えても答えが出るもんじゃねェ。帰り道を探すぞ」
「そう、ですね」
アシドとアストロの見解を聞き、アレンは無理矢理納得させる。アレンは皆に声を掛け、宿に戻ろうとする。
カチャ、カラカラカラ。
軽い石が石場を転がる音が聞こえた。視線を向けると、イビルマーメイドがいた。試練は終わりじゃない。そう告げられた気がした。
「まじかよ」
誰が呟いたのかも分からない。それほどに皆は人魚に集中していた。
試練の延長戦が始まった。
回復の済んでいない体を無理に動かしているため軋んでくる。持久戦は無理だと判断したアシドとコストイラがマーメイドに切り込んだ。イビルマーメイドは突撃してくる2人に眼を見開く。乗っていた岩の影に下りる。それを確認すると2人は互いに分かれ岩の裏に辿り着く。
マーメイドは1匹ではなかった。イビルマーメイド2匹とパイレーツが3人いた。人魚の胸が風船めいて膨らむ。絶叫が来る。
2人は急いで岩を楯にする。輪唱のように重なり合う叫びは岩に罅を入れていく。前兆を感じ取っていなかった5人は急いで耳を塞ぐが、アレンとアストロは膝をつき、エンドローゼは気を失った。岩に背をつけている2人の横をパイレーツが通り過ぎる。絶叫が止む。
対応の遅れが出たが、パイレーツの攻撃を躱す。軋む体に無理を強いて、攻撃に転じる。痛みに顔が歪む。
「岩ッ!」
アストロからの声に反応したアシドが岩を叩き割る。崩れる岩の隙間からマーメイドを目視で捉え、距離を見極める。
「「届く」」
アレンとアストロの声が重なる。アストロの指から放たれた光とアレンの放った矢は真っ直ぐにマーメイドに向かう。魔術が当たり、魔物の体が動き矢が外れる。
パイレーツの気がマーメイドに向いたのを感じ取り、確実に仕留めにかかる。
骨の軋みを噛み殺し、コストイラの横薙ぎは首を飛ばし、アシドの横薙ぎは敵の上半身と下半身を分かつ。
最後の1人は行動が終わった直後のコストイラを狙いサーベルを振るう。しかし、シキが止め、そのままの勢いで膝を落とし敵の頭を割る。
「やっぱ跳躍力すげェな」
軽々とここまで跳んでみせたシキを褒めると糸の切れた人形のように座り込む。
淡い暖かい光に包まれる。首だけを動かし、エンドローゼを見る。
「いっつもすまんな」
「い、いえ、わ、わ、私にはこれしか役に立て、う、う」
「う?」
「うぇ~~」
魔力酔いを起こしエンドローゼが吐き始めてしまう。
「無理しやがって」
「む、む、無理しないと、み、み、皆が無事に帰れない」
アストロが怒るがエンドローゼは止めない。レイドはエンドローゼの背を擦ってやる。エンドローゼの決意は固いようだ。
ザ―――。
水を割って何かが進む音が聞こえた。
陸の情報の一切が遮断された冷たい水の世界に包まれた。浮遊感にも似た感覚を味わっていたのは数瞬で、水面から離れた水中でアレンの体は流されていく。
手足を必死に振り回しもがくが陸と感覚が違いすぎる。動作の感覚が意識と違って遅い。水の抵抗が思ったより強い。口から気泡が放出される。
水に手足が絡めとられるアレンは上下の感覚さえ分からずに水面を目指す。平衡感覚が破壊されていく。足が地を踏みしめられないだけでこうも不安になってしまうのか。
呼吸ができない恐怖感、取り乱せば取り乱すほど確実に削られていく命。もがく手が地を叩いた。ここが水底。アレンは大量の気泡と共に水面をぶち破る。
待ち望んだはずの空気の味は全く分からない。アレンは盛大に咳き込んだ。水を大量に飲んでしまった喉が何度もえずく。
アレンは何も考えられず本能に従い岸を目指した。バシャバシャと音を立てて水を掻き分け、もがいていた足裏が底面に触れた瞬間、力強く蹴って前へ進む。転ぶように前へ進むと、水が脛ほどまである浅瀬へと辿り着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ああぁ……うぇ~~」
ばしゃりと両腕をついて、四つん這いになる。血管が破裂したかのように全身が痛い。視界もうまく効かない。
「大丈夫?」
誰かが何か言っている。耳もうまく機能していないので何も分からない。辛うじて顔を上げると赤い何かがぼんやりと見えた。コストイラか?目を暫く閉じ、擦ってもう一度目を開ける。目の前にいたのはシキだった。自分の目が充血していただけか。
周りを見てみるとエンドローゼも同じように咳き込んでいた。レイドはその背を擦ってあげていた。アストロも地に頭をつけて震えており、こちらもアシドに背を擦られていた。アレンが大きく咳き込むとシキが背を擦ってくれ始めた。優しい。好きが加速しそう。
アレンは深呼吸して息を整える。
「塔の側って確かに海がありましたけどあんなに深いものなんですかね」
アレンの問いにコストイラが首を捻る。
「オレもそこは分かんねェんだよな。不思議な何かが働いたと考えてもおかしくはねェんじゃねェのか?よくわかんけど」
コストイラはアストロとアシドに視線を向けた。
「やっぱ詳しいのはあっちだろ」
「それを言うならよ、瓦礫だってどこ行った」
アレンの疑問に対してアシドがまず言ったのはその言葉だった。言われて辺りを見渡してみるが、確かに瓦礫の一つも見当たらないし、5つの試練を担当した人達も見つからない。
「一番ありえそうなのは魔術。その辺はどう考える、アストロ」
「7人を転移させるのも、5人と瓦礫を転移させるのも必要な魔力量にそこまでの差おそらくはないわ。やったことないから推測になるけどね。ものすごく長い呪文の詠唱と膨大な魔力、気の遠くなるような日数をかけるものよ。こんな芸当は。まぁ、元々そこに魔法陣があって、発動一歩手前で止めてあったって言うなら別だけどね。それでも維持する魔力が必要だけどね」
「違うなら無理はあるが、潮がそういう流れだった。そんなとこを考えるしかないだろう。いくら考えても答えが出るもんじゃねェ。帰り道を探すぞ」
「そう、ですね」
アシドとアストロの見解を聞き、アレンは無理矢理納得させる。アレンは皆に声を掛け、宿に戻ろうとする。
カチャ、カラカラカラ。
軽い石が石場を転がる音が聞こえた。視線を向けると、イビルマーメイドがいた。試練は終わりじゃない。そう告げられた気がした。
「まじかよ」
誰が呟いたのかも分からない。それほどに皆は人魚に集中していた。
試練の延長戦が始まった。
回復の済んでいない体を無理に動かしているため軋んでくる。持久戦は無理だと判断したアシドとコストイラがマーメイドに切り込んだ。イビルマーメイドは突撃してくる2人に眼を見開く。乗っていた岩の影に下りる。それを確認すると2人は互いに分かれ岩の裏に辿り着く。
マーメイドは1匹ではなかった。イビルマーメイド2匹とパイレーツが3人いた。人魚の胸が風船めいて膨らむ。絶叫が来る。
2人は急いで岩を楯にする。輪唱のように重なり合う叫びは岩に罅を入れていく。前兆を感じ取っていなかった5人は急いで耳を塞ぐが、アレンとアストロは膝をつき、エンドローゼは気を失った。岩に背をつけている2人の横をパイレーツが通り過ぎる。絶叫が止む。
対応の遅れが出たが、パイレーツの攻撃を躱す。軋む体に無理を強いて、攻撃に転じる。痛みに顔が歪む。
「岩ッ!」
アストロからの声に反応したアシドが岩を叩き割る。崩れる岩の隙間からマーメイドを目視で捉え、距離を見極める。
「「届く」」
アレンとアストロの声が重なる。アストロの指から放たれた光とアレンの放った矢は真っ直ぐにマーメイドに向かう。魔術が当たり、魔物の体が動き矢が外れる。
パイレーツの気がマーメイドに向いたのを感じ取り、確実に仕留めにかかる。
骨の軋みを噛み殺し、コストイラの横薙ぎは首を飛ばし、アシドの横薙ぎは敵の上半身と下半身を分かつ。
最後の1人は行動が終わった直後のコストイラを狙いサーベルを振るう。しかし、シキが止め、そのままの勢いで膝を落とし敵の頭を割る。
「やっぱ跳躍力すげェな」
軽々とここまで跳んでみせたシキを褒めると糸の切れた人形のように座り込む。
淡い暖かい光に包まれる。首だけを動かし、エンドローゼを見る。
「いっつもすまんな」
「い、いえ、わ、わ、私にはこれしか役に立て、う、う」
「う?」
「うぇ~~」
魔力酔いを起こしエンドローゼが吐き始めてしまう。
「無理しやがって」
「む、む、無理しないと、み、み、皆が無事に帰れない」
アストロが怒るがエンドローゼは止めない。レイドはエンドローゼの背を擦ってやる。エンドローゼの決意は固いようだ。
ザ―――。
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