メグルユメ

トラフィックライトレイディ

22.輝きを目指して

 男――フェリップは生まれながらに単眼だった。そのことを種にいじめが起こるのは想像に難くない。両親は嘆き謝罪したが、何も変わらないことにフェリップは許すことができなかった。



 しかし、嫌な部分はそこだけだった。両親は単眼であることを嘆いたが、家族からの愛情は普通の家庭よりも深く、そこまで不便に思ったことがなかった。



 本来複数の眼を持つ生物が単眼で生まれてくるということは、頭部の内側は他の生物のものとは違う配置になっていなければならず、鼻に至っては歪むかなくなってしまう。そのため、長く生きることが出来ず大抵の場合は流産か、出産後はすぐに死んでしまうかのどちらかだった。



 フェリップはもうすぐ年が2桁になる。それだけで幸運なことだろう。フェリップが14歳になると、自分の内にと問いかけを行うようになった。なぜ不便と思わないのだろうか?



 何度も問い、違う論理展開を行い、何度も同じ結論に行きついた。自分は満ちているのだ。自分のことを想ってくれる人がいて、自分のことを愛してくれる人がいて、目標が自分にはあり、そこに辿り着くための脚がある。満足のいく人生を歩んでいる。そこに不便と思う隙があるはずがない。フェリップが16歳の時、計100回目のこの結論へ至ったとき、5つの眼が開いた。















 決着か?



 フェリップはそう思ったが、自分で否定する。立っている人がいるからだ。淡紫色の髪をした少女。フェリップのビームを躱しきった少女は、味方の回復に勤しむ。なぜ避けきれたのかを考えようとして頭を振る。倒してからでも遅くはない。5射1束にビームを放つが少女には当たらない。レイドが起き上がり楯で受けたのだ。



 まだ立ち上がるか、いや、戦わされているのか?回復魔法とはそういうものだ。傷を負ったとして前線から下げられることがない。



 苦しみから解放しようとフェリップは眼球を光らせる。



 眼は全てレイドを見ていた。だから気付けなかった。後ろからの強襲に。















 フェリップには目標があった。



 毎夜見る夢に出てくる光だ。導くように語り掛けてくる光に辿り着きたいのだ。毎回光に少しだけ近付けているような気がする。距離を詰められているということはいつかは辿り着けるということだ。



 日を追うごとに光は強まり、起きている間も見える時があるほどだ。



 座禅を組み、目を瞑っている間も光は近付いている。



 もうすぐ。



 もうすぐで。



 フェリップは光の正体を観測しようと開眼した。















 血飛沫が舞う。



 浮遊していた目から刀が生えた。そのまま刀は横へ滑っていき、浮遊していた全ての眼が斬られていく。視界が消えていく。それと裏腹にフェリップは嬉しそうな顔をする。



 これか。これなのか!



 これこそが私の求めていた光なのか?



 しかし、紅い男の後ろに光が見える。つまりまだ辿り着けていない。



 フェリップの単眼が驚愕に揺れる。



 じゃあ、ここで死ぬわけにはいかない。



 単眼を細めビームを打ち出す。刀を上空に上げられコストイラのバランスが崩れる。まずは1人。フェリップは再び眼からビームが発射される。その時、フェリップの瞳が揺れた。腹に刃が見える。



「あ…………」



 フェリップの意識が途絶えていく。久方振りの2連敗。前回は100年前か?フェリップは静かに目を閉じた。















―私を解放せよ



 またこの声か。毎日聞いた声。



―私はお前を恐れない



 光。



 シルエットさえない、ただの光。何者も逆らえない光。



―夜は明ける



 こちらを見透かしたような神の如き声。妙に脳に残る声は透明な声で不透明なことを命じてくる。



―光を解放せよ



 何をすれば光を解放できるのか、どこに行けばいいのかも教えてもらえない。ふんわりとしたことしか言ってこない。でもなぜか引き込まれる。



―光を消し去ることは出来ぬ



 光は常に見えていて、常にこちらをどこかに導こうとする。いい加減なものだ。この5つしか言ってこない。いったい私にどうしてほしいのだ?















「やったか?」



 コストイラが危ないことを言ってくるが、実際に単眼の男は起き上がらない。



「そうですね。僕たちの勝ちのようですね」



 アレンの言葉を聞くと安心してように腰を下ろす。強敵の5連戦はやはり体も心も応えたようだ。



 ゴゴゴゴゴゴッッ!!



 巨大な音と激しい揺れが起きる。



「何だっ!」



「この塔がっ!」



「崩れてるっ!!」



 全員が一斉に動き始めるが間に合わない。足元の床が消える。崩落の影響が早い。単眼の男を気にする余裕など一切なかった。



「うぁあああああっっ―――!!」



 落ちていく。



 全て落ちていく。



 何かに衝突した衝撃で意識が途絶えた。

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