メグルユメ
11.7人の侍
ぞろぞろと用心棒が出てくる。勝負を有耶無耶にせんとする男の指示に、用心棒たちは刀を解き放つ。全員が同じ東方の恰好をしている。しかし、模様はところどころ違う。制服なのか自前なのかは分からない。さほど重要でもない。
「あれは東方に伝わる着物って服だ。オレも実家にある」
「キモノ」
妙に東方の文化に詳しいコストイラの言葉を反芻する。アレンは想像上でコストイラに着物を着せてみるとあまり似合っているように見えない。まぁ、着物は目の前の7つしか知らないが。
「……返してもらおうか。それは私のものだ」
先程コストイラを殴った用心棒が右手を差し出す。何のことかとアレンがコストイラを見ると、どさくさに紛れて用心棒の腰から刀を奪い取っていたようだ。
「やなこった」
コストイラは舌を出して反発すると、素早い居合によって差し出されていた右手を切り落とす。用心棒たちは居合に反応こそすれど刀を抜くことも出来なかった。
「—――っ!!?」
用心棒は声を出すことも出来ず、蹲り悶絶する。
「こいつ!」
用心棒たちはいっせいに刀を抜き、コストイラに襲い掛かる。
「?」
「どうかしたか?」
シキ、レイドと共に市場を散策していたエンドローゼが何かに反応するように振り返った。
「な、な、何でもないです」
エンドローゼが首を振って答える。エンドローゼは気弱な人物であり、思っていることを口には出せない。その本質に気付きつつあるレイドはあえて言及することなく、そうか、と一言で済ます。しかし、反応したのはエンドローゼだけではなかったようだ。
「シキもか。何かあるのか?」
シキの見つめている方をレイドも見てみるが、何も特別なことはない。至って正常な市場の風景だ。
「魔物」
「何?」
「おそらく昨日のと同じ種」
レイドは自分一人だけ反応できなかったことに怒りを覚えながら、改めてエンドローゼの方を見る。
「エンドローゼもか?」
「う、う~ん?そ、そ、そんな気もす、す、するような、し、しし、しないような気も、う~~ん?」
おそらくエンドローゼは幽かに聞こえただけで、本当によく分かっていないのだろう。
「実際に魔物だったとしたら見過ごせんな。行こう」
女子2人も頷き返す。
「そ、そんな」
男がへたり込んだ。刀は珍しい武器だ。発祥の地である東方でさえも今は刀を持っている人は少ない。この地では余計に珍しい。
グリードの著した『刀の美学』と呼ばれる本で認知されている。刀は剣とだいぶ違う。
まず造られ方が違う。刀は折り返し鍛錬と呼ばれる鍛錬や、造込みという技法によって、折れず曲がらずよく斬れる刀が生み出される。一振り作刀するのに約10キログラムの材料から約850~900グラムの完成品ができる。
一方、剣は溶かした金属を型に流し込み成形する鋳造か、熱した金属を叩いて伸ばす鍛造、またはその両方の合わせ技の方法で作られる。10キログラムの材料から1キログラムの剣10本が作れる。
斬り方も異なる。
刀は叩き、刃を引くことで斬ることができる。剣はその重さを利用して叩き斬るのが主流だ。
この酒場は、中央にアシドが立ち、槍を振るうのがギリギリほどの広さだ。にもかかわらず、コストイラは用心棒たちと殺陣をしてみせた。6人もの用心棒を戦闘不能に追い込んでみせた。重さも重心も斬り方も、似ているようですべて違う武器でどうしてここまで戦える。
「まさか、貴様東方の出身か!?」
「大外れ」
男の予想に対し、普通の港町で生まれ育ったコストイラは返答する。コストイラの注意が男に向いている隙を狙い、斬りにかかる。コストイラは手にしていた刀を投げつけた。なぜ自らの生命線である武器を手放せるのか、と一瞬だけ判断が遅れた。その一瞬はコストイラには十分すぎるだけ時間があった。
用心棒が投げつけられた刀を躱す。コストイラは地面に落ちていた別の用心棒の刀を拾い、宙に中途半端な状態のままの刀を叩く。そして、折ってみせる。圧倒的な戦闘能力の差に、用心棒は戦意を失った。
「オレらの勝ちだぜ、スローシム」
教えてもいないはずの名を言われ、男――スローシムは肯定するしかなかった。
「たんまり稼げたし、良いことだらけだっ……た……な?」
コストイラの言葉が尻すぼみしていった。彼の目の前には
「そうか。そんなに稼げたのか。いったい何をして稼いだんだ?」
レイドの威圧に気圧され、分散させようとアシドとアストロを見るが、顔を背けられた。最後にアレンを見る。ごめんなさい。助けられません。
「え、え~と」
「ん?」
「ば、博打です」
次に何を言われるのか。コストイラは裁きの時を待つ被告人のような気持ちでレイドのことを待つ。
「なぜ、我々も誘わなかった」
「え?」
「ここに賭博場があるとどうして教えてくれなかった」
「え!?」
まさかの怒りにコストイラだけでなくエンドローゼやシキも驚く。
「賭博場ではどんないかさまがされているのか分からんだろう。どんな暴力があるのかも分からない。その結果、奴隷にされたり、娼館に売られたりしてしまうかもしれないんだぞ。とても危険な場所だということを理解しているのか!?」
「ずいぶんと詳しいな」
「…………話に聞いていただけだ」
コストイラがニヤニヤし始める。レイドは厳格さを維持しようとするが、もう手遅れだった。アストロは呆れたように溜め息を吐き、空を見上げた。今日もまた月が見ている。
「あれは東方に伝わる着物って服だ。オレも実家にある」
「キモノ」
妙に東方の文化に詳しいコストイラの言葉を反芻する。アレンは想像上でコストイラに着物を着せてみるとあまり似合っているように見えない。まぁ、着物は目の前の7つしか知らないが。
「……返してもらおうか。それは私のものだ」
先程コストイラを殴った用心棒が右手を差し出す。何のことかとアレンがコストイラを見ると、どさくさに紛れて用心棒の腰から刀を奪い取っていたようだ。
「やなこった」
コストイラは舌を出して反発すると、素早い居合によって差し出されていた右手を切り落とす。用心棒たちは居合に反応こそすれど刀を抜くことも出来なかった。
「—――っ!!?」
用心棒は声を出すことも出来ず、蹲り悶絶する。
「こいつ!」
用心棒たちはいっせいに刀を抜き、コストイラに襲い掛かる。
「?」
「どうかしたか?」
シキ、レイドと共に市場を散策していたエンドローゼが何かに反応するように振り返った。
「な、な、何でもないです」
エンドローゼが首を振って答える。エンドローゼは気弱な人物であり、思っていることを口には出せない。その本質に気付きつつあるレイドはあえて言及することなく、そうか、と一言で済ます。しかし、反応したのはエンドローゼだけではなかったようだ。
「シキもか。何かあるのか?」
シキの見つめている方をレイドも見てみるが、何も特別なことはない。至って正常な市場の風景だ。
「魔物」
「何?」
「おそらく昨日のと同じ種」
レイドは自分一人だけ反応できなかったことに怒りを覚えながら、改めてエンドローゼの方を見る。
「エンドローゼもか?」
「う、う~ん?そ、そ、そんな気もす、す、するような、し、しし、しないような気も、う~~ん?」
おそらくエンドローゼは幽かに聞こえただけで、本当によく分かっていないのだろう。
「実際に魔物だったとしたら見過ごせんな。行こう」
女子2人も頷き返す。
「そ、そんな」
男がへたり込んだ。刀は珍しい武器だ。発祥の地である東方でさえも今は刀を持っている人は少ない。この地では余計に珍しい。
グリードの著した『刀の美学』と呼ばれる本で認知されている。刀は剣とだいぶ違う。
まず造られ方が違う。刀は折り返し鍛錬と呼ばれる鍛錬や、造込みという技法によって、折れず曲がらずよく斬れる刀が生み出される。一振り作刀するのに約10キログラムの材料から約850~900グラムの完成品ができる。
一方、剣は溶かした金属を型に流し込み成形する鋳造か、熱した金属を叩いて伸ばす鍛造、またはその両方の合わせ技の方法で作られる。10キログラムの材料から1キログラムの剣10本が作れる。
斬り方も異なる。
刀は叩き、刃を引くことで斬ることができる。剣はその重さを利用して叩き斬るのが主流だ。
この酒場は、中央にアシドが立ち、槍を振るうのがギリギリほどの広さだ。にもかかわらず、コストイラは用心棒たちと殺陣をしてみせた。6人もの用心棒を戦闘不能に追い込んでみせた。重さも重心も斬り方も、似ているようですべて違う武器でどうしてここまで戦える。
「まさか、貴様東方の出身か!?」
「大外れ」
男の予想に対し、普通の港町で生まれ育ったコストイラは返答する。コストイラの注意が男に向いている隙を狙い、斬りにかかる。コストイラは手にしていた刀を投げつけた。なぜ自らの生命線である武器を手放せるのか、と一瞬だけ判断が遅れた。その一瞬はコストイラには十分すぎるだけ時間があった。
用心棒が投げつけられた刀を躱す。コストイラは地面に落ちていた別の用心棒の刀を拾い、宙に中途半端な状態のままの刀を叩く。そして、折ってみせる。圧倒的な戦闘能力の差に、用心棒は戦意を失った。
「オレらの勝ちだぜ、スローシム」
教えてもいないはずの名を言われ、男――スローシムは肯定するしかなかった。
「たんまり稼げたし、良いことだらけだっ……た……な?」
コストイラの言葉が尻すぼみしていった。彼の目の前には
「そうか。そんなに稼げたのか。いったい何をして稼いだんだ?」
レイドの威圧に気圧され、分散させようとアシドとアストロを見るが、顔を背けられた。最後にアレンを見る。ごめんなさい。助けられません。
「え、え~と」
「ん?」
「ば、博打です」
次に何を言われるのか。コストイラは裁きの時を待つ被告人のような気持ちでレイドのことを待つ。
「なぜ、我々も誘わなかった」
「え?」
「ここに賭博場があるとどうして教えてくれなかった」
「え!?」
まさかの怒りにコストイラだけでなくエンドローゼやシキも驚く。
「賭博場ではどんないかさまがされているのか分からんだろう。どんな暴力があるのかも分からない。その結果、奴隷にされたり、娼館に売られたりしてしまうかもしれないんだぞ。とても危険な場所だということを理解しているのか!?」
「ずいぶんと詳しいな」
「…………話に聞いていただけだ」
コストイラがニヤニヤし始める。レイドは厳格さを維持しようとするが、もう手遅れだった。アストロは呆れたように溜め息を吐き、空を見上げた。今日もまた月が見ている。
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