メグルユメ

トラフィックライトレイディ

13.火種が燻る洞窟

 ファイアーボールは洞窟の入り口横に着弾する。アレン達はパラパラと舞う破片に当たるが、破片が細かいので我慢できる。アレン達は洞窟の中への避難が完了する。上空からの狙撃はもうできない。



 レッドドラゴンは地上に降り立ち、洞窟内に侵入する。アレン達は迎え撃つために反転し、身構える。



 その横を何かが通り過ぎた。



「え?」



「お、おい、危ねェぞ」



 アレンやコストイラが制止させようとするが、その者は止まらない。



 3メートルを超す男は立ち止まることなく洞窟の外へ出て行く。



 レッドドラゴンはその男を見た。異様な存在だ。人間には感じられない。3メートルを超す背丈。顔を覆うこけいしのような被り物。異様に長く感じる手足。特徴的な猫背。隠れ見える紅い肌と被り物の奥から送られる視線に体が動かない。



 レッドドラゴンもワイバーンも本能が訴えかけてくる。相手にしたらいけない相手だ。遠く目にいた翼竜達は一目散に逃げかえっていく。しかし、近くにいた翼竜達は逃げられない。男はレッドドラゴンの首を摑み、頬を殴り、首を圧し折る。



『ォゴォェ』



 レッドドラゴンは短く鳴き、力が抜けた。ピクリとも動かない。男はレッドドラゴンの死体を持って洞窟へ戻ってくる。



『お前らはいつまでそこで呆けている?』



 男が不思議そうに声を掛けてきた。そこでアレン達は時間を取り戻す。



「じ、実はこの洞窟で夜を明かそうとしておりまして」



『成る程』



 男はアレン達を見ることなく火をおこし、レッドドラゴンを焼いていく。捌ききっていないので、焼かれている肉のところどころには鱗がついている。



『ならば、過ごしていくといい。私はガレット。この洞窟に住んでいるものだ』



「ありがとうございます」



 ガレットがレッドドラゴンの肉を7人にも配る。



『ところでお前らはなんでこんなところにいる』



 ガレットは肉を目線の高さまで持っていく。



『お前らも追跡し、殺し、理解する。そんな衝動を抱えているのか?』



 何のことだろうか。そんな衝動に覚えはない。アレンが周りを見るが誰一人して心当たりはないようだ。いや、一人いた。コストイラだ。眉根を寄せ、困り顔をしているコストイラは静かに視線を逸らした。ガレットはその光景を逃さなかった。



『もしそうであるのなら、こいつを活用すると良い』



 そう言うと、ガレットは1冊の本を取り出した。皮で作られた外枠に、中身は紙だろうか。だとしたらかなりの高級品だ。



『こいつは私がこれまでに記してきた手記だ。分からないことがあればこれで調べてみると良い。少しは助けになるだろう。姿のスケッチはないので名前から調べてくれ』



 アレンは本を受け取らされる。なぜ、アレン?ガレットはさらに背を丸めると、続けていく。



『ここはまだ優しい。先へ進むときはいくら格下相手でも、勝ったことがある相手でも、命を懸けて戦うことだ』



 ガレットはそこまで言うと一人横たわり、寝てしまった。しかし、その姿にはどこにも隙がない。この男は明らかにここにいるべき人物ではない。アレンの眼にも情報が一切見えてこない。この男はどこから来たのだろうか?















 翌朝。ガレットは次にどこに行くべきかという疑問にも答えてくれた。どうしてここまでしてくれるのかと聞くと、似ているからと答えた。それ以上は答えてくれなかった。



 別れ際、太陽のような色をした石を渡された。貯めこむのみで消費する機会がないのだそうだ。



 何とも気前の良いことか。



 礼を言うと、ガレットは昏い表情をした。

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