メグルユメ

トラフィックライトレイディ

13.生まれ落ちて

 壺が動かなくなり、アレン達は眉を顰める。



 すると、壺の口が光を放ち、魔物が出現する。



「生まれただと!?」



 幸いなのは、生まれたばかりの魔物は状況把握をする時間が必要なため、対処が容易になる。



 しかし、魔物を召喚してみせた壺に驚きを隠せない。



「召喚は数十人の魔術師を集めて、何日も準備をして行う代物よ。そう簡単にできるものではないわ。次が出てくるのは時間がかかるわ」



 アストロの助言により、コストイラが前へ踏み出す。思い切り上段から振り下ろす。



 ガキン。



 刀の軌道が逸れる。壺には当たらない。生まれたばかりのミニデーモンは倒されている。ミニデーモンではない。じゃあ何者が?



 刀の腹に氷の槍が当てられた。ゴブリンウィザード。



 ここにきてようやく現れる。















 魔術には2種類しかない。



 1つは、コストイラが纏う炎のような、無条件で出せる技。大体は威力が低いが、工夫次第で格上にも勝てる。



 もう1つは、相手を攻撃した時に溜まる、テクニカルポイントを消費して出せる技。テクニカルポイントを消費する魔術は強力なのが多い。一発逆転やバフ、デバフのものが多い。



 テクニカルポイントは通常、一戦闘が終わると消えてしまう。残しておきたければ、専用の魔道具が必要だ。つまり、魔道具がないと戦闘開始でいきなり大魔術を放つというのは出来ない。ちなみにアストロの指輪はこの専用の魔道具だ。



 さて、ゴブリンウィザードの発射した氷の槍はテクニカルポイントを消費するタイプの魔術だ。しかし、彼は最初に放ってみせた。どこかで溜めていたのか?是、彼は外に待機していたミニデーモンを殺すことで溜めてきたのだ。



『オオ壺サマ、今お助けイタシマスッ!』



 ゴブリンウィザードは炎と氷の槍を出現させる。コストイラはゴブリンウィザードの放つ槍をギリギリで打ち落とす。しかし、壊れた槍の氷と炎が肌を傷つける。



「チッ」



 コストイラは痛みに顔を歪め、舌打ちをする。ゴブリンウィザードは杖を振り、紫の霧を発生させる。



 アストロが魔力を射出するが、ゴブリンウィザードは炎の槍で相殺させる。アシドとシキが駆け寄ろうとするが、炎を氷の槍を乱射させているため近寄れない。レイドはアストロ、エンドローゼを守るように楯を構える。エンドローゼは次々と作られていく仲間の傷に優先順位もつけず回復魔術をかけていく。アレンは相変わらずボッチだ。さらに矢を当てられるビジョンが見えない。



 生への執着を見せるゴブリンウィザードは粘り強さを見せる。魔物としてのポテンシャルか、それとも必死が故の火事場の馬鹿力か。



 ゴトゴト。



 壺から音が鳴る。



 ここで、ゴブリンウィザードとアレン達の違いが出た。



 最大の差、それは人数差。そして、それに伴う信頼。



 ゴブリンウィザードは壺を見た。



 コストイラは壺に視線を移さない。



 ゴブリンウィザードはその御業を目撃しようとした。



 コストイラは壺を他の者に対処を任せ、信頼という丸投げをした。



 結果はコストイラに軍配が上がった。コストイラの手にしていた刀はゴブリンウィザードの首に届く。今度は邪魔がなく、ゴブリンウィザードの首が飛ぶ。



 アシドは壺を割り、今回の依頼が終了する。















「え?異動ですか?」



 受付嬢のオレリアは持っていたペンを取り落とした。



 異動。ずっと待ち望んでいたことだ。治癒院のギルドは冒険者があまり訪れない。固定給プラス歩合制の給料の受付嬢にとって、依頼を受ける冒険者がいないのは給料が下がるのと同じこと。異動をずっと望んでいたオレリアにとってはいいニュースでしかない。



「どこに異動なんですか?」



 治癒院のギルド長が異動先の記された羊皮紙を渡す。



「ここだ」



 ギルド長のしわがれた声が聞こえなくなるのかと思いながら、羊皮紙を見る。



「塩漬けクエストを消化したことが評価されたようだ。まぁ、……頑張れ」



 オレリアは場所を確認すると絶望した。



 まさか、ヂドルに行くことになるなんて。

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