メグルユメ
23.旅立ちの日に
マゴットは砦を任された者だ。
いや、いらない、価値のあまり見出されなかったところを押し付けられたのだ。
事実上の左遷。
マゴットは知らなかった?分かっていなかった?
そんなわけがない。
『彼』はそこまで馬鹿ではない。
教えられていなかろうが、活躍すれば戻れるかもしれないと言われようが、関係ない。これが左遷だと分かっていた。
こんな強者のいなさそうな人里の砦で、どんな活躍をしろというのだろうか。
だが、今、この瞬間に、活躍の場が来た。
速く中央に行けそうだ。
頭上から光が落ちた。
辺りは煙に包まれ、視界が消える。
煙の中から現れたのは、青い髪に長いローブを身に着けた青年だった。
『君達が勇者一行様かい?』
あまりのことに情報処理が追い付かない。
『誰か答えてくれないのかい?そこの男でも、そこの女でも誰でもいいからさ』
いきなり現れた青年はアシドやシキを見て質問する。返ってこないことに苛立ち始める。
「確かにオレらは勇者一行だ。アンタの方こそ誰だい?」
『私は、<鴉巣生鳳>、火の守護者のカンジャだ。まぁ君達にも分かりやすく言うなら、魔王軍幹部さ』
青年はさらりと言ってのけた。
空気が変わった。
カンジャの発言に、全員が警戒を強める。
『まぁそんなに急ぐなよ。私はね、別に戦いに来たわけではないんだよ』
「じゃあ、何をしに来たんだ?」
コストイラがカンジャに疑問を投げかける。
カンジャは片眉を上げ、口角も少しだけ上げる。
『決まってる。確認だよ』
両腕を広げ、宣言するカンジャから炎が扇形に広がっていく。
石にすら火が張り付いている。
『あれ?終わりかい?』
カンジャはどこか期待した声を出す。
返事がない。
溜め息を吐き、首を横に振る。
期待外れだったか。
この場から去ろうと脚に力を入れた時だった。
答えが音として返ってくる。
立ち上がったのは。
紫色の長い髪、同色の眼。シックなイヴニングドレスは、防御の魔法でもかかっていたのだろうか。ドクロが2つ割れたネックレスを手でいじりながらアストロが立ち上がる。
『驚いた。最初に立つのは別のやつだと思ってた』
「へっ。先に立たれるたぁな」
アシドはふるふると生まれたての小鹿のように立ち上がる。次いでレイドが立ち上がる。
「防御力が高かろうが辿り着けない領域があるのよ」
アストロが高慢に振る舞うと、カンジャは微笑を浮かべる。
『へぇ、成る程ね』
カンジャが指を振ると、アシドとレイドが火柱に包まれる。アストロのものよりも高威力だ。
『でも、誤差の範囲さ。すぐに修正できる微量のね』
アストロが焦り、魔術を放とうとする一瞬、カンジャが動く。
アストロの眼前に何かが迫る。一瞬だが、アストロの思考が途切れる。
蹴り飛ばされてきたマゴットの頭を避けると、カンジャの姿はすぐそこにあった。超至近距離からの高火力の炎の魔術。アストロの体が、吹き飛ばされる。きらきらと砕け散ったドクロのネックレスの破片が舞っていた。
『終わりだね』
確認でもなんでもない。押し付けるような一言。その結果を確定させるための言葉。反論する余地なく、反論する人もなく終わる。
『誤差は多少あったけど、概ね計算通りだね』
カンジャは辺りを見渡し、落胆する。
『もっとさぁ、頑張ってくれたって良いんだよ。そりゃぁ、今の段階でいい勝負ができるとは思ってもいないし、ましてや勝つとも思っていないさ。でもさ、一撃で半数がダウンってどうなのさ。もっと根性見せてもいいでしょ?ホラホラ』
誰も聞いていないが、一人で煽り続ける。しかし、反応はない。
『あぁ、私のデータを狂わせてくれよ』
カンジャの失望を月だけが見ていた。
炎の波が押し寄せてきたことまでは覚えている。その後のことは完全に覚えていない。
アレン達は廃砦となったこの場所で夜を明かしていた。
明確な敗北。
明瞭となった実力差。
明らかとなったレベルの低さ。
焚き火の前で皆が胸の内に似た気持ちを抱く。
次こそは負けない。
アレン達は夜が明けるより早く、西へ歩き始める。
いや、いらない、価値のあまり見出されなかったところを押し付けられたのだ。
事実上の左遷。
マゴットは知らなかった?分かっていなかった?
そんなわけがない。
『彼』はそこまで馬鹿ではない。
教えられていなかろうが、活躍すれば戻れるかもしれないと言われようが、関係ない。これが左遷だと分かっていた。
こんな強者のいなさそうな人里の砦で、どんな活躍をしろというのだろうか。
だが、今、この瞬間に、活躍の場が来た。
速く中央に行けそうだ。
頭上から光が落ちた。
辺りは煙に包まれ、視界が消える。
煙の中から現れたのは、青い髪に長いローブを身に着けた青年だった。
『君達が勇者一行様かい?』
あまりのことに情報処理が追い付かない。
『誰か答えてくれないのかい?そこの男でも、そこの女でも誰でもいいからさ』
いきなり現れた青年はアシドやシキを見て質問する。返ってこないことに苛立ち始める。
「確かにオレらは勇者一行だ。アンタの方こそ誰だい?」
『私は、<鴉巣生鳳>、火の守護者のカンジャだ。まぁ君達にも分かりやすく言うなら、魔王軍幹部さ』
青年はさらりと言ってのけた。
空気が変わった。
カンジャの発言に、全員が警戒を強める。
『まぁそんなに急ぐなよ。私はね、別に戦いに来たわけではないんだよ』
「じゃあ、何をしに来たんだ?」
コストイラがカンジャに疑問を投げかける。
カンジャは片眉を上げ、口角も少しだけ上げる。
『決まってる。確認だよ』
両腕を広げ、宣言するカンジャから炎が扇形に広がっていく。
石にすら火が張り付いている。
『あれ?終わりかい?』
カンジャはどこか期待した声を出す。
返事がない。
溜め息を吐き、首を横に振る。
期待外れだったか。
この場から去ろうと脚に力を入れた時だった。
答えが音として返ってくる。
立ち上がったのは。
紫色の長い髪、同色の眼。シックなイヴニングドレスは、防御の魔法でもかかっていたのだろうか。ドクロが2つ割れたネックレスを手でいじりながらアストロが立ち上がる。
『驚いた。最初に立つのは別のやつだと思ってた』
「へっ。先に立たれるたぁな」
アシドはふるふると生まれたての小鹿のように立ち上がる。次いでレイドが立ち上がる。
「防御力が高かろうが辿り着けない領域があるのよ」
アストロが高慢に振る舞うと、カンジャは微笑を浮かべる。
『へぇ、成る程ね』
カンジャが指を振ると、アシドとレイドが火柱に包まれる。アストロのものよりも高威力だ。
『でも、誤差の範囲さ。すぐに修正できる微量のね』
アストロが焦り、魔術を放とうとする一瞬、カンジャが動く。
アストロの眼前に何かが迫る。一瞬だが、アストロの思考が途切れる。
蹴り飛ばされてきたマゴットの頭を避けると、カンジャの姿はすぐそこにあった。超至近距離からの高火力の炎の魔術。アストロの体が、吹き飛ばされる。きらきらと砕け散ったドクロのネックレスの破片が舞っていた。
『終わりだね』
確認でもなんでもない。押し付けるような一言。その結果を確定させるための言葉。反論する余地なく、反論する人もなく終わる。
『誤差は多少あったけど、概ね計算通りだね』
カンジャは辺りを見渡し、落胆する。
『もっとさぁ、頑張ってくれたって良いんだよ。そりゃぁ、今の段階でいい勝負ができるとは思ってもいないし、ましてや勝つとも思っていないさ。でもさ、一撃で半数がダウンってどうなのさ。もっと根性見せてもいいでしょ?ホラホラ』
誰も聞いていないが、一人で煽り続ける。しかし、反応はない。
『あぁ、私のデータを狂わせてくれよ』
カンジャの失望を月だけが見ていた。
炎の波が押し寄せてきたことまでは覚えている。その後のことは完全に覚えていない。
アレン達は廃砦となったこの場所で夜を明かしていた。
明確な敗北。
明瞭となった実力差。
明らかとなったレベルの低さ。
焚き火の前で皆が胸の内に似た気持ちを抱く。
次こそは負けない。
アレン達は夜が明けるより早く、西へ歩き始める。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
2
-
-
337
-
-
969
-
-
4
-
-
35
-
-
40
-
-
3427
-
-
4
-
-
361
コメント