メグルユメ
33.霧夜の間に
鬼。それは最強種族の一角だ。
頑強な肉体と比類なき怪力、圧倒的な総保有魔力量による鋼鉄の如き闘気は、人魔をまるで紙切れのように薙ぎ払う。
男女ともに巨体な個体が多く、歴史に名を残す喧嘩師であることが多い。
そう、それは、酒を飲み明かすホウギにも同じことがいえる。
エンドローゼが、シスタースモアについて、簡易的でも葬式がしたいと主張してきた。
別段関わり合いのないアストロ達は断ってもよかったのだが、少女の提案を受け入れることにした。
ちなみに、コプロの葬式はしていない。コプロは葬式のような。看取られる最期よりも、放置されて、風に身を晒すような最期の方が”らしい”からだ。
一生懸命穴を掘り、頑張って膝を曲げ、抱えさせ、体育座りで埋めた。
エンドローゼは目を伏せ、祈りを捧げる。名も知らぬシスター、かか様、どうもありがとう、お休みください。
勇者一行の出発は昼過ぎ、というか逢魔が時。しばらく歩けばいつの間にか月が出てきた。
だいぶ中心に近づいているのが分かる。確証はない。しかし、確信はあった。
いつも以上に脈打つ拍動。
いつも以上に多くなる呼吸。
いつも以上に乾いてくる口内。
何か真相へと近づいているような漠然とした感覚が、体に現れている。
この先に何かがある。決定的な何かが。
鬼はただ一人、ぽつねんと岩に座っている。酒を吞んでいるが、いまだに物思いの方が勝っている。
夜霧に体をぼやかし、朧となっている月を、人知れず仰ぎ見る。
隠れ秘めている手力は、レイベルス以外に止められる者はいないと言われている。しかし、それも今は見る影なく、抜けている。
振るわれる剛力により、荒ぶる神と讃えられた。
振るわれる剛力により、悪しき化生とも銘打たれた。
人に恐れられ、罵倒されたとしても、それはすべて、奴との絆が為のこと。
「よぉ、久し振りだな」
黄昏を過ぎて、今はすでに宵の口となっている。独りで宴をしていた鬼の元へと、勇者が集う。
狩り、狩られる側、両側に身を置く者達が、顔を合わせる。
そこに楽しげな雰囲気はどこにもない。ホウギの顔には薄笑いが浮かべられていたが、そこに実際の笑いはない。
霧のせいで月明かりは直接照らしてくれない。
「迷いは消えたって声してんな」
「あぁ」
「本当か?」
「あぁ」
「確かめさせてくれ」
「……あぁ」
ホウギの柔らかい質問に、レイドは大きく頷いた。
「あの、あの~」
「ん? 何?」
アレンがアストロに身を近づける。アストロは怪訝な顔をして、少し離れた。何を思ったのか、淋しそうな顔をするアレンに、シキが身を寄せる。
「あの方、誰ですか? 僕、知らないんですけど」
「貴方が箱の中にいた時に逢ったのよ」
「アレンが白黒といちゃいちゃしていた時」
……シキの方を見るのは止めておこう。
レイドが大剣に手をやる。その姿を見て、あの日のことを思い出してしまう。かつての絆が絶え果てたことで実現した対峙。既に永遠に消えてしまった者達との記憶。200年以上前の出来事だ。
過ぎる年月をいくつ経たことか分からない。その時のことは歴史には残されていなかったため、人に忘れ去られてしまった。
しかし、連続する日々の中を生きる。ホウギは一度も記憶を失っていない。幽かに脳裏へと残る幻は、いつかに視た将来の景色。平和そのもの。
そんな見ているようで見ていないホウギに苛立ちを覚え、レイドが先に動いた。
2m10㎝の高さ。筋肉が大量にあるために160㎏以上の体重。それが体を丸くして突進してくるのは、通常の人間であれば恐怖するだろう。
だが、相手は鬼だ。恐怖することなど、ほとんどない種族だ。
ホウギは両腕を広げ、レイドのタックルを受け止める。大剣はホウギの脇の下を通り過ぎており、がっちりと固定されてしまった。
「ぐっ!?」
動かない。
ホウギはレイドの左足を刈り、バランスを崩したところで投げ飛ばした。
レイドはゴロゴロと転がりながら、地面を手で押し、急いで立ち上がる。そこから回転エネルギーを利用して、大剣を振るった。
ホウギは右腕を地面と垂直に立てて、受け止めた。骨に罅が入ったような気がしたが、ホウギは構ったりしない。ホウギは右腕を振るって弾いた。
レイドの顔へと道が開かれた。
ホウギは右の拳を固め、レイドの顔を殴った。160㎏を超え体が軽々と浮いた。ビキリと罅が確実に入った。
レイドはわざと体をバウンドさせて立ち上がった。そのまま突進して、大剣を振るい続ける。
ホウギは大剣を軽々と躱し、軽いパンチを繰り出す。
レイドは鼻血を出しながら、それでも大剣を振るう。
ホウギは左手で大剣を受け止めた。そのまま左手を固定し、レイドのことを蹴飛ばす。
ゴロゴロと地面をレイドを見ながら、大剣を投げ飛ばした。立ち上がった瞬間、拳を一閃した。
頑強な肉体と比類なき怪力、圧倒的な総保有魔力量による鋼鉄の如き闘気は、人魔をまるで紙切れのように薙ぎ払う。
男女ともに巨体な個体が多く、歴史に名を残す喧嘩師であることが多い。
そう、それは、酒を飲み明かすホウギにも同じことがいえる。
エンドローゼが、シスタースモアについて、簡易的でも葬式がしたいと主張してきた。
別段関わり合いのないアストロ達は断ってもよかったのだが、少女の提案を受け入れることにした。
ちなみに、コプロの葬式はしていない。コプロは葬式のような。看取られる最期よりも、放置されて、風に身を晒すような最期の方が”らしい”からだ。
一生懸命穴を掘り、頑張って膝を曲げ、抱えさせ、体育座りで埋めた。
エンドローゼは目を伏せ、祈りを捧げる。名も知らぬシスター、かか様、どうもありがとう、お休みください。
勇者一行の出発は昼過ぎ、というか逢魔が時。しばらく歩けばいつの間にか月が出てきた。
だいぶ中心に近づいているのが分かる。確証はない。しかし、確信はあった。
いつも以上に脈打つ拍動。
いつも以上に多くなる呼吸。
いつも以上に乾いてくる口内。
何か真相へと近づいているような漠然とした感覚が、体に現れている。
この先に何かがある。決定的な何かが。
鬼はただ一人、ぽつねんと岩に座っている。酒を吞んでいるが、いまだに物思いの方が勝っている。
夜霧に体をぼやかし、朧となっている月を、人知れず仰ぎ見る。
隠れ秘めている手力は、レイベルス以外に止められる者はいないと言われている。しかし、それも今は見る影なく、抜けている。
振るわれる剛力により、荒ぶる神と讃えられた。
振るわれる剛力により、悪しき化生とも銘打たれた。
人に恐れられ、罵倒されたとしても、それはすべて、奴との絆が為のこと。
「よぉ、久し振りだな」
黄昏を過ぎて、今はすでに宵の口となっている。独りで宴をしていた鬼の元へと、勇者が集う。
狩り、狩られる側、両側に身を置く者達が、顔を合わせる。
そこに楽しげな雰囲気はどこにもない。ホウギの顔には薄笑いが浮かべられていたが、そこに実際の笑いはない。
霧のせいで月明かりは直接照らしてくれない。
「迷いは消えたって声してんな」
「あぁ」
「本当か?」
「あぁ」
「確かめさせてくれ」
「……あぁ」
ホウギの柔らかい質問に、レイドは大きく頷いた。
「あの、あの~」
「ん? 何?」
アレンがアストロに身を近づける。アストロは怪訝な顔をして、少し離れた。何を思ったのか、淋しそうな顔をするアレンに、シキが身を寄せる。
「あの方、誰ですか? 僕、知らないんですけど」
「貴方が箱の中にいた時に逢ったのよ」
「アレンが白黒といちゃいちゃしていた時」
……シキの方を見るのは止めておこう。
レイドが大剣に手をやる。その姿を見て、あの日のことを思い出してしまう。かつての絆が絶え果てたことで実現した対峙。既に永遠に消えてしまった者達との記憶。200年以上前の出来事だ。
過ぎる年月をいくつ経たことか分からない。その時のことは歴史には残されていなかったため、人に忘れ去られてしまった。
しかし、連続する日々の中を生きる。ホウギは一度も記憶を失っていない。幽かに脳裏へと残る幻は、いつかに視た将来の景色。平和そのもの。
そんな見ているようで見ていないホウギに苛立ちを覚え、レイドが先に動いた。
2m10㎝の高さ。筋肉が大量にあるために160㎏以上の体重。それが体を丸くして突進してくるのは、通常の人間であれば恐怖するだろう。
だが、相手は鬼だ。恐怖することなど、ほとんどない種族だ。
ホウギは両腕を広げ、レイドのタックルを受け止める。大剣はホウギの脇の下を通り過ぎており、がっちりと固定されてしまった。
「ぐっ!?」
動かない。
ホウギはレイドの左足を刈り、バランスを崩したところで投げ飛ばした。
レイドはゴロゴロと転がりながら、地面を手で押し、急いで立ち上がる。そこから回転エネルギーを利用して、大剣を振るった。
ホウギは右腕を地面と垂直に立てて、受け止めた。骨に罅が入ったような気がしたが、ホウギは構ったりしない。ホウギは右腕を振るって弾いた。
レイドの顔へと道が開かれた。
ホウギは右の拳を固め、レイドの顔を殴った。160㎏を超え体が軽々と浮いた。ビキリと罅が確実に入った。
レイドはわざと体をバウンドさせて立ち上がった。そのまま突進して、大剣を振るい続ける。
ホウギは大剣を軽々と躱し、軽いパンチを繰り出す。
レイドは鼻血を出しながら、それでも大剣を振るう。
ホウギは左手で大剣を受け止めた。そのまま左手を固定し、レイドのことを蹴飛ばす。
ゴロゴロと地面をレイドを見ながら、大剣を投げ飛ばした。立ち上がった瞬間、拳を一閃した。
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