メグルユメ
25.心の裡
コプロは一般的なガラエム教徒だ。
しかし、コプロはその生温い信仰が気に入らなかった。
とはいえ、それを表に出すことはなかった。
そもそも本人は冗談が大好きで、社交的、魔力や魔術を悪戯に使うような子だった。
家は商家でありながら貴族であった。そのため、実家は太く、裕福であった。そう、一生働かなくてもいいほどに。
そんな温室でぬくぬくと育ったコプロは、刺激を追い求めるようになった。
コプロはガラエム教に背く行為をするようになった。自分は悪なのではないだろうか、という妄想をすることになる。
そこで、悪になれば刺激が絶えないのではないかと考えた。その次の日から、酒、ドラッグ、女、それどころか男にまで手を出した。
しかし、どれもが満たしてくれない。
苛立ちで酒瓶を割り、致死量のドラッグを吸い、女も男も壊す程抱いた。
意図的で罪悪的で世俗的な行為によって、ガラエム教の信仰の泥濘から自らを浄化することに、コプロは心血を注いだ。
しかし、その行為の中に、コプロはいかなる満足も得られないと確信した。
だからこそ、未知を求めた。誰も達成できていないことをしてのけたいと考えた。その過程でかなりの善行と悪行を積んできた。
未知の領域と出会いたいと追い続けた。その結果、辿り着いたのが魔術と魔法だ。
この世の全ての現象は様々な存在が互いに響き合う。それは摂理。自然界の法則。魔術はそこに何らかの力を外から内から加えることで、通常は起こりえない現象を引き起こす技術だ。
常人達はそのようなことを何も考えずに行っている。だからこそ、皆は雑魚なのだ。
そんな世界にも、魔術結社が存在している。魔術を高めようとする者達で構成されている組織。もう自分でできることが少なくなってきたコプロは、その結社に所属することにした。
だが、入社したコプロは愕然とした。内容が、もう何か月もずっと以前から知っていることだったのだ。
コプロは魔法が行き詰ってしまった。しかし、魔術結社にある蔵書は全て知っている内容だった。
その時、レンオニオールの『悪魔の召喚』に出会えた。感動とともに自分でやってみようと思い、本を盗んだ。
大きく六角形を描き、各頂点に一羽ずつ喉元に刺し傷のある、平和を象徴する鳥を置いていく。その鳩達を贄として、呪文とともに悪魔を召喚する。
喚ばれたのは低級の悪魔であるミニデーモン。
コプロは歓喜しながらミニデーモンを殺した。レンオニオールの言っていることは正しい。天才だ。
後日、コプロの悪魔召喚は結社内で問題となり、上層部に呼び出された。
カリキュラムがある。色を出すな。勝手なことをするな。個性を出すな。
コプロは結社にいてもいいことがないと考え、一年半で辞めた。実質、結社からの追放である。
出て行く時に、周りから、お前は我々を見下していた、お前は強引すぎた、と言われたが、全く気にも留めなかった。去り際に、そのような品のない暴言を吐くカリキュラムがあったのなら、そこまでは我慢すればよかった、と返したところ、物を投げつけられた。
結局、結社など通過点に過ぎない。
しかし、まだ満足できるほどの刺激を受けていない。
コプロは魔術の修行をしながら、世界中を旅することにした。
その道中にて出会った三人と、新しく魔術結社を設立することにした。その魔術結社の名はグランセマイユ。意味は魔術を追い求める者。
ある日、魔女が告げた。子の一人でも育てて見ろ、と。そして、一人の娘を置いて行った。
その娘には名前がなかった。名づけなど面倒なことをしたくなかったが、呼びつける名がないのは七面倒だと思い、名を考えることにした。
コプロは手にしていた論文の著書の名を、そのまま転用することにした。論文が四人の連名によって書かれたものであったため、頭文字を取ってくることにした。アルストン・ヒューイット、スーベニア・トランシーバー、トロレリア・モンターニュ、ローマスタンド・バンバンイル。じゃあ、アストロだな。
アストロは、これまでに出会った魔術師の中でも特に物覚えが悪かった。一度教えたことのうち、70%は次の日を待たずして忘却され、残りの30%は理解できなかった。
三度目辺りでコプロは諦めた。こいつは期待しない。何かを教えるなんて無駄だ。
どれだけ外部の者との対話を重ねても、外周が大きくなり、自己から伸びる半径が長くなるだけだ。できることが増えても心理には至らない。
内なる声との対話によって、真の意思を見つけ出し、それに従って生きることで、魔術の真意を見つけられる。魔法の深淵を探ることができる。
小娘になど構っている暇はない。
小娘には雑用ばかりをやらせた。レイヴェニアに言われた手前、この小娘を捨てるのはどこか負けた気がするためやってやらない。
炊事、洗濯、掃除、死体処理まで何でもやらせた。
掃除や死体処理は特にひどかった。芥箱をひっくり返したり、水の入った桶を倒したり、血抜きに失敗し、家の中を臭くしたりしてくれた。ふざけるな。
何にもできないやつを見ると、とりあえず苛立ってくる。
だから、コプロはアストロを殴った。魔力や魔術、魔法の練習台代わりにぶつけてやった。空いた酒瓶を投げつけた。
アストロは何を言うでもなく反抗するでもなく、傷を放置して掃除を続けた。掃除から帰ってくるときには傷が治っていた。魔力の残滓的に、やったのはグラッセだろう。別に咎める気はない。
何も反抗しないのが苛立つ。ただ何者かの言いなりになっていることに腹が立ってしょうがない。
そんな時、レイヴェニアが学舎を提案してきた。こいつはこいつで母気取りなのか?
しかし、木偶の坊がいなくなる、近くから離せると考えると、送り出した方がいい気がしてきた。
許可を出し、通学が始まると、アストロが泣いて帰ってくることが増えた。余計に煩わしくなる。行かせなければよかった。
しかし、コプロはその生温い信仰が気に入らなかった。
とはいえ、それを表に出すことはなかった。
そもそも本人は冗談が大好きで、社交的、魔力や魔術を悪戯に使うような子だった。
家は商家でありながら貴族であった。そのため、実家は太く、裕福であった。そう、一生働かなくてもいいほどに。
そんな温室でぬくぬくと育ったコプロは、刺激を追い求めるようになった。
コプロはガラエム教に背く行為をするようになった。自分は悪なのではないだろうか、という妄想をすることになる。
そこで、悪になれば刺激が絶えないのではないかと考えた。その次の日から、酒、ドラッグ、女、それどころか男にまで手を出した。
しかし、どれもが満たしてくれない。
苛立ちで酒瓶を割り、致死量のドラッグを吸い、女も男も壊す程抱いた。
意図的で罪悪的で世俗的な行為によって、ガラエム教の信仰の泥濘から自らを浄化することに、コプロは心血を注いだ。
しかし、その行為の中に、コプロはいかなる満足も得られないと確信した。
だからこそ、未知を求めた。誰も達成できていないことをしてのけたいと考えた。その過程でかなりの善行と悪行を積んできた。
未知の領域と出会いたいと追い続けた。その結果、辿り着いたのが魔術と魔法だ。
この世の全ての現象は様々な存在が互いに響き合う。それは摂理。自然界の法則。魔術はそこに何らかの力を外から内から加えることで、通常は起こりえない現象を引き起こす技術だ。
常人達はそのようなことを何も考えずに行っている。だからこそ、皆は雑魚なのだ。
そんな世界にも、魔術結社が存在している。魔術を高めようとする者達で構成されている組織。もう自分でできることが少なくなってきたコプロは、その結社に所属することにした。
だが、入社したコプロは愕然とした。内容が、もう何か月もずっと以前から知っていることだったのだ。
コプロは魔法が行き詰ってしまった。しかし、魔術結社にある蔵書は全て知っている内容だった。
その時、レンオニオールの『悪魔の召喚』に出会えた。感動とともに自分でやってみようと思い、本を盗んだ。
大きく六角形を描き、各頂点に一羽ずつ喉元に刺し傷のある、平和を象徴する鳥を置いていく。その鳩達を贄として、呪文とともに悪魔を召喚する。
喚ばれたのは低級の悪魔であるミニデーモン。
コプロは歓喜しながらミニデーモンを殺した。レンオニオールの言っていることは正しい。天才だ。
後日、コプロの悪魔召喚は結社内で問題となり、上層部に呼び出された。
カリキュラムがある。色を出すな。勝手なことをするな。個性を出すな。
コプロは結社にいてもいいことがないと考え、一年半で辞めた。実質、結社からの追放である。
出て行く時に、周りから、お前は我々を見下していた、お前は強引すぎた、と言われたが、全く気にも留めなかった。去り際に、そのような品のない暴言を吐くカリキュラムがあったのなら、そこまでは我慢すればよかった、と返したところ、物を投げつけられた。
結局、結社など通過点に過ぎない。
しかし、まだ満足できるほどの刺激を受けていない。
コプロは魔術の修行をしながら、世界中を旅することにした。
その道中にて出会った三人と、新しく魔術結社を設立することにした。その魔術結社の名はグランセマイユ。意味は魔術を追い求める者。
ある日、魔女が告げた。子の一人でも育てて見ろ、と。そして、一人の娘を置いて行った。
その娘には名前がなかった。名づけなど面倒なことをしたくなかったが、呼びつける名がないのは七面倒だと思い、名を考えることにした。
コプロは手にしていた論文の著書の名を、そのまま転用することにした。論文が四人の連名によって書かれたものであったため、頭文字を取ってくることにした。アルストン・ヒューイット、スーベニア・トランシーバー、トロレリア・モンターニュ、ローマスタンド・バンバンイル。じゃあ、アストロだな。
アストロは、これまでに出会った魔術師の中でも特に物覚えが悪かった。一度教えたことのうち、70%は次の日を待たずして忘却され、残りの30%は理解できなかった。
三度目辺りでコプロは諦めた。こいつは期待しない。何かを教えるなんて無駄だ。
どれだけ外部の者との対話を重ねても、外周が大きくなり、自己から伸びる半径が長くなるだけだ。できることが増えても心理には至らない。
内なる声との対話によって、真の意思を見つけ出し、それに従って生きることで、魔術の真意を見つけられる。魔法の深淵を探ることができる。
小娘になど構っている暇はない。
小娘には雑用ばかりをやらせた。レイヴェニアに言われた手前、この小娘を捨てるのはどこか負けた気がするためやってやらない。
炊事、洗濯、掃除、死体処理まで何でもやらせた。
掃除や死体処理は特にひどかった。芥箱をひっくり返したり、水の入った桶を倒したり、血抜きに失敗し、家の中を臭くしたりしてくれた。ふざけるな。
何にもできないやつを見ると、とりあえず苛立ってくる。
だから、コプロはアストロを殴った。魔力や魔術、魔法の練習台代わりにぶつけてやった。空いた酒瓶を投げつけた。
アストロは何を言うでもなく反抗するでもなく、傷を放置して掃除を続けた。掃除から帰ってくるときには傷が治っていた。魔力の残滓的に、やったのはグラッセだろう。別に咎める気はない。
何も反抗しないのが苛立つ。ただ何者かの言いなりになっていることに腹が立ってしょうがない。
そんな時、レイヴェニアが学舎を提案してきた。こいつはこいつで母気取りなのか?
しかし、木偶の坊がいなくなる、近くから離せると考えると、送り出した方がいい気がしてきた。
許可を出し、通学が始まると、アストロが泣いて帰ってくることが増えた。余計に煩わしくなる。行かせなければよかった。
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