メグルユメ
18.凶星の影
巨大な影が上空を飛ぶ。
「邪魔だぜ、テメェ」
その上空に、一匹の侍が飛んできた。
『グァ!?』
三つ脚の烏が驚愕した顔のまま炎を吐こうとする。
しかし、蒼い侍はその前に、空中だというのに、三つ脚の烏を三枚におろした。
地上では、ハイオーガが拳を固めていた。
『ガァ!!』
気迫の詰まった拳を、拳闘士は額で受け止めた。
額が割れて血が噴き出すが、拳闘士は笑顔だ。
「俺の額を割るたぁやるじゃねぇかよ」
拳闘士は己の左目尻から、バチンと電撃を放ちながら、拳を固めた。
「ウラァ!」
その拳がハイオーガに当たった瞬間、ハイオーガの肉は弾けた。
「おい、軽薄拳闘士! それに上裸侍も! ヴェー達がおるんに、肉やら血やらをこちらに飛ばすでないわ!」
「んなこと言うなよ、レイヴェニア。こいつら倒すのに必要だったんだよ」
「そうだぜッ、レイヴェニアッ! 倒すのに必要だったんだよッ!」
「じゃあ、お前だったらどう倒すんだよ」
「ふん!」
レイヴェニアが横から来る肉片だったり、上空からの血肉だったりを神力で防御する。レイヴェニアはキレているが、逆にキスレとヲレスタに煽られてしまった。
その煽りに対して、レイヴェニアは冷静に、指先に魔力を集めた。そのまま小さな魔力をハイオーガに発射した。
ハイオーガの歯よりも小さな魔力が、胸に当たった。その途端、ハイオーガを覆い隠す程の魔力に膨張し、存在ごと消された。
「え、消えたんだけど」
「えっ! 恐ッ!」
キスレとヲレスタは両腕を抱いて恐怖した。
「あ」
その声は恐怖や畏怖のそれではなく、悲嘆のそれだ。
「ど、どうした、童」
「お肉……」
金髪碧眼の少年とも少女ともとれる子が指をくわえて、先程までオーガがいたところを見つめている。オーガの肉が食べたかったのだろう。
「わ、童よ。オーガの肉は硬く喰いづらい。び、ビッグフットの肉はどうじゃ?」
「オーガのお肉は硬いけど、歯の調整にも使えるし、僕の好物なんだよね」
『グボァ!!』
『……何をしているのですか?』
サーシャがいじけたように答えたことにより、レイヴェニアは今日一のダメージを受けた。その茶番を目にしていたネレイトスライは溜息を吐いた。
「よし、ヴェーがオーガを持ってこようではないか!」
『え、ちょっと、あ。何か言う前に行ってしまった』
この集団のリーダーであるショカンは、僕リーダーなのに、と内心思ったが、レベル差的にも従わせるのは無理なので仕方ないとも思った。レイヴェニアが本気を出したなら、この集団であっても目撃すらできないだろう。
ある程度言うことを聞いてくれているのだが、肝心なところでは、我儘だ。今だって、ハイオーガの肉を狩りに行ってしまった。
この先、大事なところで裏切ったり脱退したりしないだろうか。不安になってしまう。
「おい、ショカン! このままでいいのか? キチンと教育とか調教とかしておいた方がいいぞっ!」
『できるならしたいことだね。でも、実はレベル差が300近いんだよね。僕はやりたくないなぁ』
「……そんなに高いのか、レベル」
文句を言うニシエに対して、ショカンは諦観の念を示した。ニシエもドン引きしている。
「さぁ、童よ、ハイオーガの肉じゃ。取ってきたぞ!」
「あ、本当に取ってきた」
サーシャはあまりにも綺麗すぎるハイオーガの死体を不審に思いながら、好意は有り難く受け取っておく。
ガストロが角のついた兜を被り直しながら、サーシャに近づいた。
「どれ、儂が切り分けてやろうか」
「いえ、結構です。このまま食べます」
サーシャは提案を拒みつつ、生肉のまま切り分けることなく齧り付いた。
『あぁ、……サーシャ、食べながらでいいから聞いてくれ』
「ふぁい、何でしょう」
レイヴェニアがいない間に、ショカンがサーシャに近づき、話を始める。
『レイヴェニアはちょっと我儘な方だけど、君の言う事なら聞いてくれるんだ。ちょっと、飼い主として頑張ってくれないかな?』
「か、飼い主? むしろ向こうの方が飼い主っぽいですけど」
「大丈夫じゃろ、お主ならできる」
エルフのガストロはその特徴的な髭を揉みながら、優しい目をサーシャに向ける。サーシャは不安そうに目を伏せながら、むぐむぐ口を動かす。
「おい、童に妙なことを吹き込むなよ? ヴェーの悪口であれば別の時に言えばよいじゃろう」
『レイヴェニア』
「おうおう、どこから聞いておったのじゃ。というか、悪口はいいんじゃな」
突然のレイヴェニアの登場にショカンとガストロが目を丸くする。
「ヴェーは完璧超人じゃから、それを妬む者がおるのも当然じゃ。その気持ちはその者にとっては本物なのじゃ。ヴェーにはそんなもの分からんが、理性する気など毛頭ない」
豊かに実る双丘を持ち上げるように腕を組み、胸を張る。そして、さも当然かのように論を展開すると、急に眉間に皺をつくった。
「じゃが、問題は食事中ということじゃ。食事とは楽しくするものじゃ。耳を汚し、沈んだ気持ちですべき行為ではない。食事の時は真摯に食事へと向き合うべきじゃ。他のことなど、どーでもよい」
「食事に対するプライドが高いの。種族ゆえか? 個人のものか?」
「個人じゃ」
レイヴェニアの食事論を聞き、興味深そうにガストロが髭を撫でる。
「食事とはいわば生きるためにしなければならぬ義務じゃ。しかも、約毎日のようにしなければならん。それを拷問として捉えたくはないじゃろう? じゃから楽しむものとして捉えるべきなのじゃ」
「その通りだぜっ、レイヴェニアッ! 飯食って美味ェと思うっ。これが一番だよなっ!」
珍しく意見の合ったヲレスタに対して、レイヴェニアは露骨に嫌そうな顔をした。
「確かに、ご飯は楽しく食べたい、かも」
「ほ」
「今までお腹に入れば全部一緒って思っていたけど、食べ物に好き嫌いがある時点で僕は食事を楽しんでいるのかもって思うよ」
「すぐに理解できるなんて、やはり童は天才では?」
レイヴェニアは興奮気味にサーシャに抱き着き、頭を撫でた。
「邪魔だぜ、テメェ」
その上空に、一匹の侍が飛んできた。
『グァ!?』
三つ脚の烏が驚愕した顔のまま炎を吐こうとする。
しかし、蒼い侍はその前に、空中だというのに、三つ脚の烏を三枚におろした。
地上では、ハイオーガが拳を固めていた。
『ガァ!!』
気迫の詰まった拳を、拳闘士は額で受け止めた。
額が割れて血が噴き出すが、拳闘士は笑顔だ。
「俺の額を割るたぁやるじゃねぇかよ」
拳闘士は己の左目尻から、バチンと電撃を放ちながら、拳を固めた。
「ウラァ!」
その拳がハイオーガに当たった瞬間、ハイオーガの肉は弾けた。
「おい、軽薄拳闘士! それに上裸侍も! ヴェー達がおるんに、肉やら血やらをこちらに飛ばすでないわ!」
「んなこと言うなよ、レイヴェニア。こいつら倒すのに必要だったんだよ」
「そうだぜッ、レイヴェニアッ! 倒すのに必要だったんだよッ!」
「じゃあ、お前だったらどう倒すんだよ」
「ふん!」
レイヴェニアが横から来る肉片だったり、上空からの血肉だったりを神力で防御する。レイヴェニアはキレているが、逆にキスレとヲレスタに煽られてしまった。
その煽りに対して、レイヴェニアは冷静に、指先に魔力を集めた。そのまま小さな魔力をハイオーガに発射した。
ハイオーガの歯よりも小さな魔力が、胸に当たった。その途端、ハイオーガを覆い隠す程の魔力に膨張し、存在ごと消された。
「え、消えたんだけど」
「えっ! 恐ッ!」
キスレとヲレスタは両腕を抱いて恐怖した。
「あ」
その声は恐怖や畏怖のそれではなく、悲嘆のそれだ。
「ど、どうした、童」
「お肉……」
金髪碧眼の少年とも少女ともとれる子が指をくわえて、先程までオーガがいたところを見つめている。オーガの肉が食べたかったのだろう。
「わ、童よ。オーガの肉は硬く喰いづらい。び、ビッグフットの肉はどうじゃ?」
「オーガのお肉は硬いけど、歯の調整にも使えるし、僕の好物なんだよね」
『グボァ!!』
『……何をしているのですか?』
サーシャがいじけたように答えたことにより、レイヴェニアは今日一のダメージを受けた。その茶番を目にしていたネレイトスライは溜息を吐いた。
「よし、ヴェーがオーガを持ってこようではないか!」
『え、ちょっと、あ。何か言う前に行ってしまった』
この集団のリーダーであるショカンは、僕リーダーなのに、と内心思ったが、レベル差的にも従わせるのは無理なので仕方ないとも思った。レイヴェニアが本気を出したなら、この集団であっても目撃すらできないだろう。
ある程度言うことを聞いてくれているのだが、肝心なところでは、我儘だ。今だって、ハイオーガの肉を狩りに行ってしまった。
この先、大事なところで裏切ったり脱退したりしないだろうか。不安になってしまう。
「おい、ショカン! このままでいいのか? キチンと教育とか調教とかしておいた方がいいぞっ!」
『できるならしたいことだね。でも、実はレベル差が300近いんだよね。僕はやりたくないなぁ』
「……そんなに高いのか、レベル」
文句を言うニシエに対して、ショカンは諦観の念を示した。ニシエもドン引きしている。
「さぁ、童よ、ハイオーガの肉じゃ。取ってきたぞ!」
「あ、本当に取ってきた」
サーシャはあまりにも綺麗すぎるハイオーガの死体を不審に思いながら、好意は有り難く受け取っておく。
ガストロが角のついた兜を被り直しながら、サーシャに近づいた。
「どれ、儂が切り分けてやろうか」
「いえ、結構です。このまま食べます」
サーシャは提案を拒みつつ、生肉のまま切り分けることなく齧り付いた。
『あぁ、……サーシャ、食べながらでいいから聞いてくれ』
「ふぁい、何でしょう」
レイヴェニアがいない間に、ショカンがサーシャに近づき、話を始める。
『レイヴェニアはちょっと我儘な方だけど、君の言う事なら聞いてくれるんだ。ちょっと、飼い主として頑張ってくれないかな?』
「か、飼い主? むしろ向こうの方が飼い主っぽいですけど」
「大丈夫じゃろ、お主ならできる」
エルフのガストロはその特徴的な髭を揉みながら、優しい目をサーシャに向ける。サーシャは不安そうに目を伏せながら、むぐむぐ口を動かす。
「おい、童に妙なことを吹き込むなよ? ヴェーの悪口であれば別の時に言えばよいじゃろう」
『レイヴェニア』
「おうおう、どこから聞いておったのじゃ。というか、悪口はいいんじゃな」
突然のレイヴェニアの登場にショカンとガストロが目を丸くする。
「ヴェーは完璧超人じゃから、それを妬む者がおるのも当然じゃ。その気持ちはその者にとっては本物なのじゃ。ヴェーにはそんなもの分からんが、理性する気など毛頭ない」
豊かに実る双丘を持ち上げるように腕を組み、胸を張る。そして、さも当然かのように論を展開すると、急に眉間に皺をつくった。
「じゃが、問題は食事中ということじゃ。食事とは楽しくするものじゃ。耳を汚し、沈んだ気持ちですべき行為ではない。食事の時は真摯に食事へと向き合うべきじゃ。他のことなど、どーでもよい」
「食事に対するプライドが高いの。種族ゆえか? 個人のものか?」
「個人じゃ」
レイヴェニアの食事論を聞き、興味深そうにガストロが髭を撫でる。
「食事とはいわば生きるためにしなければならぬ義務じゃ。しかも、約毎日のようにしなければならん。それを拷問として捉えたくはないじゃろう? じゃから楽しむものとして捉えるべきなのじゃ」
「その通りだぜっ、レイヴェニアッ! 飯食って美味ェと思うっ。これが一番だよなっ!」
珍しく意見の合ったヲレスタに対して、レイヴェニアは露骨に嫌そうな顔をした。
「確かに、ご飯は楽しく食べたい、かも」
「ほ」
「今までお腹に入れば全部一緒って思っていたけど、食べ物に好き嫌いがある時点で僕は食事を楽しんでいるのかもって思うよ」
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