メグルユメ
7.神速の刃
天之五閃。
それは魔法や拳打ではなく、剣術のみで天剣へと至ったもの。その五人の総称。
五人いるからこそ、五閃なのだが、そこに決まったメンバーはいない。
書物によって、その面子は変わる。勇者のみで構成されているもの、剣術の開祖のみで構成されているもの、騎士団長のみで構成されているものなど、様々だ。
(テスロメル著 天之五閃 冒頭より抜粋)
天之五閃の説明は、前述した通りでおおむね間違っていないだろう。
どこかに偽りが含まれるというのであれば、それは決まったメンバーがいないということだ。実際はきちんとメンバーが決まっている。
そのメンバーの一人が、今、コストイラ達の目の前にいる。苛烈を凝縮させたような赤と、白熱を濃縮させたような白を混ぜたような色の髪をした女は、腕を組み、薄い胸を張り、こちらを睥睨していた。
『ふーん。アンタがコストイラ? カーミラの言う通り、結構強そうじゃん。でも、この先に行くのなら、半端な強さは身を滅ぼすだけ。だから、私を倒してから行きなさい!』
女は細剣を抜き、指揮棒のように振って、こちらに剣先を向けてきた。
『私は<神速の刃>エレスト。あの子を護れるかどうか。見極めてやるわ!』
コストイラは静かに鯉口を切り、刀を構えた。
エレストは剣先が見えなくなるスピードで細剣を振り、腰を落とした。左膝を伸ばし、右膝を大きく曲げ、細剣を地面と平行になるように構える。
「これはオレのけじめだ。手は出さないでくれ」
アストロ達の方を振り向かずに前に出る。レイドが反論しようとしたが、アストロが黙って止め、首を振った。
『フーン。七対一でもいいと思ったけど、一対一でくるんだ。そこは評価してあげるわ。でも、その勇気だけは何もできない!』
神速の一撃だった。瞬きさえ許さぬ速さで迫った細剣に、コストイラは刀を挟んだ。
危なかった。少しでも遅れたなら、首と胴が分かれてしまっただろう。
『さぁ、その強さを示せ!』
エレストの細剣が振られるたびに桜の花弁が散る。シキの技を思い出すが、エレストの細剣が早すぎて噎ぶほどの桜の花弁が舞っている。
その花弁が流るる時を示すように落ちている。
全てに対応していく。その速度には感服する。市場で見かけたあの人に似ている。
その炎を宿す瞳を見つめていると、ゾクゾクする。
桜の花弁しかないというのに、桜の花の匂いがしてきそうなほど、花弁で埋め尽くされている。
エレストがその神速でもって懐に潜り込み、蹴りを腹に入れた。ゴプとコストイラの口から謎の液体が出てきた。爆散は免れたが、内臓はめちゃくちゃだ。
エレストは足裏から伝わるコストイラの熱に、思わず口角が上がってしまう。永く深い眠りも醒めてしまうだろう。
燃えるような赤い炎の剣筋が、エレストの白い玉肌を炙っている。エレストは自前の動体視力でもって、ギリギリに躱していく。
対してコストイラは、ギリギリで対応しきれず、細かい傷を増やしていく。
それは返り血が原因か、高揚が原因かは分からないが、エレストの頬が染まっていく。そこに隠しきれない裏模様に、エレストは内心微笑む。
あの時、あの人が言っていた赤い糸とはもしやこのことだったのか。目には見えぬ赤い糸は辿ることができなければ、切ることもできない。
こう攻めるとどう出る? こっちの剣技にはどんな対応してくる?
攻めの一つ一つにコストイラが焦る。その顔、行動に、エレストが好意の影を探してしまう。
エレストの好意の半分がコストイラに向いている。もう半分が向いているあの人への好意は嘘ではないし、むしろ本物だ。
だというのに、今コストイラへと向かっている慕情の方が大きく感じてしまう。
『ハッ!』
エレストが鼻で笑う。何か可笑しいのか分からない。コストイラは怒りを炎に変え、刀を振っていく。
「コストイラさん」
アレンが呟く。素人目でもコストイラが押されていることが分かる。これは本当に手を貸さなくていいのか? とアストロに視線を送るが、彼女は大丈夫、出さなくていい、と送り出した。
それは魔法や拳打ではなく、剣術のみで天剣へと至ったもの。その五人の総称。
五人いるからこそ、五閃なのだが、そこに決まったメンバーはいない。
書物によって、その面子は変わる。勇者のみで構成されているもの、剣術の開祖のみで構成されているもの、騎士団長のみで構成されているものなど、様々だ。
(テスロメル著 天之五閃 冒頭より抜粋)
天之五閃の説明は、前述した通りでおおむね間違っていないだろう。
どこかに偽りが含まれるというのであれば、それは決まったメンバーがいないということだ。実際はきちんとメンバーが決まっている。
そのメンバーの一人が、今、コストイラ達の目の前にいる。苛烈を凝縮させたような赤と、白熱を濃縮させたような白を混ぜたような色の髪をした女は、腕を組み、薄い胸を張り、こちらを睥睨していた。
『ふーん。アンタがコストイラ? カーミラの言う通り、結構強そうじゃん。でも、この先に行くのなら、半端な強さは身を滅ぼすだけ。だから、私を倒してから行きなさい!』
女は細剣を抜き、指揮棒のように振って、こちらに剣先を向けてきた。
『私は<神速の刃>エレスト。あの子を護れるかどうか。見極めてやるわ!』
コストイラは静かに鯉口を切り、刀を構えた。
エレストは剣先が見えなくなるスピードで細剣を振り、腰を落とした。左膝を伸ばし、右膝を大きく曲げ、細剣を地面と平行になるように構える。
「これはオレのけじめだ。手は出さないでくれ」
アストロ達の方を振り向かずに前に出る。レイドが反論しようとしたが、アストロが黙って止め、首を振った。
『フーン。七対一でもいいと思ったけど、一対一でくるんだ。そこは評価してあげるわ。でも、その勇気だけは何もできない!』
神速の一撃だった。瞬きさえ許さぬ速さで迫った細剣に、コストイラは刀を挟んだ。
危なかった。少しでも遅れたなら、首と胴が分かれてしまっただろう。
『さぁ、その強さを示せ!』
エレストの細剣が振られるたびに桜の花弁が散る。シキの技を思い出すが、エレストの細剣が早すぎて噎ぶほどの桜の花弁が舞っている。
その花弁が流るる時を示すように落ちている。
全てに対応していく。その速度には感服する。市場で見かけたあの人に似ている。
その炎を宿す瞳を見つめていると、ゾクゾクする。
桜の花弁しかないというのに、桜の花の匂いがしてきそうなほど、花弁で埋め尽くされている。
エレストがその神速でもって懐に潜り込み、蹴りを腹に入れた。ゴプとコストイラの口から謎の液体が出てきた。爆散は免れたが、内臓はめちゃくちゃだ。
エレストは足裏から伝わるコストイラの熱に、思わず口角が上がってしまう。永く深い眠りも醒めてしまうだろう。
燃えるような赤い炎の剣筋が、エレストの白い玉肌を炙っている。エレストは自前の動体視力でもって、ギリギリに躱していく。
対してコストイラは、ギリギリで対応しきれず、細かい傷を増やしていく。
それは返り血が原因か、高揚が原因かは分からないが、エレストの頬が染まっていく。そこに隠しきれない裏模様に、エレストは内心微笑む。
あの時、あの人が言っていた赤い糸とはもしやこのことだったのか。目には見えぬ赤い糸は辿ることができなければ、切ることもできない。
こう攻めるとどう出る? こっちの剣技にはどんな対応してくる?
攻めの一つ一つにコストイラが焦る。その顔、行動に、エレストが好意の影を探してしまう。
エレストの好意の半分がコストイラに向いている。もう半分が向いているあの人への好意は嘘ではないし、むしろ本物だ。
だというのに、今コストイラへと向かっている慕情の方が大きく感じてしまう。
『ハッ!』
エレストが鼻で笑う。何か可笑しいのか分からない。コストイラは怒りを炎に変え、刀を振っていく。
「コストイラさん」
アレンが呟く。素人目でもコストイラが押されていることが分かる。これは本当に手を貸さなくていいのか? とアストロに視線を送るが、彼女は大丈夫、出さなくていい、と送り出した。
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