メグルユメ
5.匂いに釣られて
「おぉおお」
シキが後頭部を押さえながら、地面から出てきた。そりゃあ地面に埋まった状態で、かなり思い切り、しかも全力に近い威力の蹴りを喰らったのだ、当たり前だろう。
もぞもぞと体を地面から出すと、どこにそんな力があるのか、自身の四倍はあろう肉塊を引き上げた。
「蛇肉」
「そうね。お腹空いたし、調理しましょうか」
「やったぜ」
腹を空かせている仲間は、シキの持ってきた蛇肉に涎を垂らしそうになった。
「でも、どうしましょう。調味料はないし、ハーブ類もないし、それに、火を使いたくないし」
「何でだ?」
「煙が出たら、位置バレするじゃない」
「確かに」
悩む理由を聞き、コストイラは納得した。とはいえ、肉の調理法など、煮る・焼く・蒸すの三択だ。シキのような生が時折いるが、アストロにその選択肢はない。
煮る・焼く・蒸す、このすべてに火が使われる。つまり、三つすべてが煙を出す調理法だ。
「どうしよう」
「どうすっか」
アストロとコストイラが一緒に悩む。エンドローゼも必死に脳を回転させる。
「え、え? あ、あの」
「アレン、これ、ここ、美味しい」
「え、でも、これ、脳」
「そう」
「あの」
「美味しい」
シキが、かなりぐいぐいアレンに迫る。気迫ある詰め方に、アレンは圧倒と恐怖ばかりだ。
アレンに生の脳を食べる文化も経験もない。初めての経験にはかなりの勇気がいる。
その勇気が強要され、無理矢理引き出される。だから勇者なのか?
「もう面倒だわ。燃やしましょう」
料理のプロではないアストロには、いい調理法が浮かばなかったため、もう焼くことにした。
「え、いいのかよ、煙」
「守って」
「美味い飯のためだ。しゃあねェ」
ご飯の前に汗を流そうのテンションで、刀を掴みながら立ち上がった。レイドやアシドもそれに続いて立ち上がる。
「シキ、来なさい」
「ム?」
「お話」
「ん」
アストロの手招きに応じ、シキが少女二人に合流した。
「いい? シキ」
「ムン」
「ぐいぐい押し付けるのは駄目よ。アレンは困る」
「ムムム」
「私達が頑張って料理を教えるわ。いわゆる花嫁修業よ」
「花嫁修業」
花嫁修業という単語を聞き、シキの肩に力が入る。
「それじゃ、シキ。今、私が斬ったくらいのサイズの肉を21か28用意して」
「承知」
アストロが蛇肉の塊から100g程の肉を切り出し、シキに見せる。シキは小さく一度頷くと、然の魔剣を抜き取り、切り出しを始めた。少し贅沢で勿体ないことをしている気分になったが、アストロと感性の違うシキにそんな感覚がないのだろう。シキはアストロの指示通り、肉を100g程度28枚切り出した。
アストロとエンドローゼは焚火の準備を終えていた。レイドの蔓を切り出し、薪の代わりにしている。その薪に火を点ける。
アストロは不安になった。果たして、これは花嫁修業か? 少し悩んでしまうが、シキがとても楽しそうにしているため、良しとしよう。
「さて。焼きましょうか」
「ムン」
「どーれくらい、や、や、焼きましょうか」
問題はそこだ。シキやアシドはあまり焼かないが、アレンはよく焼く派だ。
「じゃあ、中間のレア辺りで焼きましょうか。そろそろ皆を呼びましょうか」
ジュ―と肉が焼け、脂が跳ねる。
「よし、さっさと栄養補給だ」
「栄養、というか、満腹になるための行為だけどね」
焼き終えた肉をコストイラ達にも渡した。
『私も私も』
「はい、ん?」
アストロが肉の刺さった串を渡そうとした時に気付いた。え、今受け取ったのは誰?
アストロがそちらに顔を向けると、口の端に肉汁をつけた少女がいた。
清涼感たっぷりの青と白のキモノを着た少女だ。必死に肉にかぶりついては、口の端についた肉汁を指で拭い取っている。
「一口サイズに切りましょうか?」
『ううん、いい。だって、美味しいものは汚れるものですし』
「まぁ、そうね」
少女にどこかで聞いたことのある台詞を返され、アストロは少し納得した。
「というか、その少女は誰?」
アシドは肉にかぶりつきながら、少女に指を差した。少女ははぐはぐと肉にかぶりついたまま、一切答えようとしない。
「この子、何者なのかしら」
「子?」
アストロが首を傾げる。シキも傾げているが、理由は違う。この子、本当に子? この”人”じゃない? ということだ。
少女(?)は肩をビクリと震わせたかと思うと、顔を逸らした。あ、これ絶対何か隠しているな?
「どうかしたのか?」
すでに四本の肉串を食べ終えたコストイラが近づいてきた。アストロが三本目の肉串に手を伸ばす少女(?)を指差した。
「何かこの子? 人? が」
「は? 誰だ、そいつ」
コストイラが顔を覗こうとするが、少女(?)は全力で顔を合わせようとしない。この少女(?)はコストイラと知り合いなのだろうか。
「この感じ、まさか。おい、変装しているけど、オレには分かるぞ! お前、カーミラだな!?」
少女(?)は銀髪のかつらを取り、キモノを脱いだ。現れたのは金髪に白系のドレスを身に着けた美人だ。指で綺麗な金髪を梳き、後ろに流した。
「フッ! よく分かったな!」
カーミラは口端に肉汁をつけたまま、とてもいい決め顔をした。
シキが後頭部を押さえながら、地面から出てきた。そりゃあ地面に埋まった状態で、かなり思い切り、しかも全力に近い威力の蹴りを喰らったのだ、当たり前だろう。
もぞもぞと体を地面から出すと、どこにそんな力があるのか、自身の四倍はあろう肉塊を引き上げた。
「蛇肉」
「そうね。お腹空いたし、調理しましょうか」
「やったぜ」
腹を空かせている仲間は、シキの持ってきた蛇肉に涎を垂らしそうになった。
「でも、どうしましょう。調味料はないし、ハーブ類もないし、それに、火を使いたくないし」
「何でだ?」
「煙が出たら、位置バレするじゃない」
「確かに」
悩む理由を聞き、コストイラは納得した。とはいえ、肉の調理法など、煮る・焼く・蒸すの三択だ。シキのような生が時折いるが、アストロにその選択肢はない。
煮る・焼く・蒸す、このすべてに火が使われる。つまり、三つすべてが煙を出す調理法だ。
「どうしよう」
「どうすっか」
アストロとコストイラが一緒に悩む。エンドローゼも必死に脳を回転させる。
「え、え? あ、あの」
「アレン、これ、ここ、美味しい」
「え、でも、これ、脳」
「そう」
「あの」
「美味しい」
シキが、かなりぐいぐいアレンに迫る。気迫ある詰め方に、アレンは圧倒と恐怖ばかりだ。
アレンに生の脳を食べる文化も経験もない。初めての経験にはかなりの勇気がいる。
その勇気が強要され、無理矢理引き出される。だから勇者なのか?
「もう面倒だわ。燃やしましょう」
料理のプロではないアストロには、いい調理法が浮かばなかったため、もう焼くことにした。
「え、いいのかよ、煙」
「守って」
「美味い飯のためだ。しゃあねェ」
ご飯の前に汗を流そうのテンションで、刀を掴みながら立ち上がった。レイドやアシドもそれに続いて立ち上がる。
「シキ、来なさい」
「ム?」
「お話」
「ん」
アストロの手招きに応じ、シキが少女二人に合流した。
「いい? シキ」
「ムン」
「ぐいぐい押し付けるのは駄目よ。アレンは困る」
「ムムム」
「私達が頑張って料理を教えるわ。いわゆる花嫁修業よ」
「花嫁修業」
花嫁修業という単語を聞き、シキの肩に力が入る。
「それじゃ、シキ。今、私が斬ったくらいのサイズの肉を21か28用意して」
「承知」
アストロが蛇肉の塊から100g程の肉を切り出し、シキに見せる。シキは小さく一度頷くと、然の魔剣を抜き取り、切り出しを始めた。少し贅沢で勿体ないことをしている気分になったが、アストロと感性の違うシキにそんな感覚がないのだろう。シキはアストロの指示通り、肉を100g程度28枚切り出した。
アストロとエンドローゼは焚火の準備を終えていた。レイドの蔓を切り出し、薪の代わりにしている。その薪に火を点ける。
アストロは不安になった。果たして、これは花嫁修業か? 少し悩んでしまうが、シキがとても楽しそうにしているため、良しとしよう。
「さて。焼きましょうか」
「ムン」
「どーれくらい、や、や、焼きましょうか」
問題はそこだ。シキやアシドはあまり焼かないが、アレンはよく焼く派だ。
「じゃあ、中間のレア辺りで焼きましょうか。そろそろ皆を呼びましょうか」
ジュ―と肉が焼け、脂が跳ねる。
「よし、さっさと栄養補給だ」
「栄養、というか、満腹になるための行為だけどね」
焼き終えた肉をコストイラ達にも渡した。
『私も私も』
「はい、ん?」
アストロが肉の刺さった串を渡そうとした時に気付いた。え、今受け取ったのは誰?
アストロがそちらに顔を向けると、口の端に肉汁をつけた少女がいた。
清涼感たっぷりの青と白のキモノを着た少女だ。必死に肉にかぶりついては、口の端についた肉汁を指で拭い取っている。
「一口サイズに切りましょうか?」
『ううん、いい。だって、美味しいものは汚れるものですし』
「まぁ、そうね」
少女にどこかで聞いたことのある台詞を返され、アストロは少し納得した。
「というか、その少女は誰?」
アシドは肉にかぶりつきながら、少女に指を差した。少女ははぐはぐと肉にかぶりついたまま、一切答えようとしない。
「この子、何者なのかしら」
「子?」
アストロが首を傾げる。シキも傾げているが、理由は違う。この子、本当に子? この”人”じゃない? ということだ。
少女(?)は肩をビクリと震わせたかと思うと、顔を逸らした。あ、これ絶対何か隠しているな?
「どうかしたのか?」
すでに四本の肉串を食べ終えたコストイラが近づいてきた。アストロが三本目の肉串に手を伸ばす少女(?)を指差した。
「何かこの子? 人? が」
「は? 誰だ、そいつ」
コストイラが顔を覗こうとするが、少女(?)は全力で顔を合わせようとしない。この少女(?)はコストイラと知り合いなのだろうか。
「この感じ、まさか。おい、変装しているけど、オレには分かるぞ! お前、カーミラだな!?」
少女(?)は銀髪のかつらを取り、キモノを脱いだ。現れたのは金髪に白系のドレスを身に着けた美人だ。指で綺麗な金髪を梳き、後ろに流した。
「フッ! よく分かったな!」
カーミラは口端に肉汁をつけたまま、とてもいい決め顔をした。
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