メグルユメ
2.待ち人は歴史の中で……
風が吹いている。
風が嵐となり、息を巻き上げている。
なぜあの女が毒による自殺をしたのか分からない。アレは我々のせいなのか? 我々が追い詰めてしまったのだろうか。
いくら考えても分からない。そんな無駄なことを考えるのは止めよう。
嵐がひどい。砂嵐のような色をしているが、どうやら砂ではない。ただの空気。そこに感触などない。空気が色づいているだけなのだ。
アストロの具合が悪い。エンドローゼも脂汗が出ている。
コストイラやアシドも少し気分が悪くなっている。この色付きの空気が原因だろう。正体が何か分からないが、体に悪いものだということは分かる。
アレンも調子が悪い。魔眼が暴走しそうだ。
「何だ、あれ?」
「うぷ、ん? あ、あぁ、と、えっと?」
濁っている視界で、必死に目を凝らす。
緋色や黄色、白銀色に青白色などの様々な色をした人形が岩に凭れるようにして倒れていた。統一感が全くないにも関わらず、その色が当然であり、常識という印象を与えてくる。
形は人であるが、姿は機械である。
「何だ? ゴーレム? その割には大分メカニックだな」
「あれは魔力人形よ」
「それって、海賊のところにもあった奴だよな」
「あぁ、まぁ、あれよりも遥かに上等なものね」
吐き気を飲み込みながら、魔女が見極める。
「あの極彩色は特別性。特に”異世界人”ゴートが製造したものね」
「あのゴートが」
「何でもやるな、あの勇者」
「会ったことはないが、感謝の言葉が絶えないな」
コストイラとアシドがゴートに文句を言い、レイドは感謝を述べる。
「その昔、瘴気の元を根絶するために作られ、作戦に失敗した兵器よ」
「あれでも失敗したのか」
空気が渦巻いている。
その中心に魔力人形がある。まさか、これは、魔力人形がやっていることなのか。
過去の遺物がカタリと動いた。指がカチャカチャと這い、ギギギと持ち上がり始めた。
ガタガタと体が動き、ピタリと止まった。
「な、何だ?」
コストイラが刀を向けると、人形の頭が前を向き、コストイラを見た。
錆びついた歯車が動くような音を出しながら、魔力人形が動き出す。 ガチャンと魔力人形の手の中に剣が出現した。魔力人形の目がカッと光を放つ。
次の瞬間、コストイラとの間の距離が喰われた。
魔力人形が剣を振るう。コストイラは咄嗟に膝を曲げ、一閃を躱した。コストイラは片膝を着いた状態で刀を振った。
「グァ!?」
ボディが硬い。レイドの楯に少し含まれている日緋色金の硬さだ。帝国歴元年よりも遥か前、神代の時代に活用されていた、非常に硬く希少な、太陽のような金属だ。
刃が返ってくる。コストイラが不格好であるが、躱すのに成功した。
すでに吐き気があるが、アストロが魔力を放った。いつもよりも魔力の球形が乱れている。
体が変だ。
いつもなら魔力操作で完璧な球形の魔力を放つなど容易いことなのに、今は崩れてしまっている。
なぜだか、体の感覚が違う。そこまで魔力を使っていないのに、すでに魔力酔いのような症状だ。体内に入ってくる魔素の量が多い。ここは他の土地と比べて、魔素で溢れている。多量の魔素を受け、魔力変換器官が、川に設置される水車のように稼働し続けている。そのせいで、活動限界が短くなっているのだ。
調整しなければ、体内の魔素量が多すぎて、爆発してしまいそうだ。
アストロの放った魔力は、魔力人形のボディの白銀色の部分に当たり、霧散した。
全く効いているような気がしない。レイドの楯の大部分を占める月天石が使われていると考えるのが妥当だろう。月天石は魔力を使う攻撃を軽減するだけであって、無効化するものではない。
アストロは吐き気を最高潮に催しながら、魔法を放った。
アシドが背後から槍で刺す。カキンと弾かれた。欠けることすらない、火花が散るのみのダメージ。もしかしたら、それはゼロなのかもしれない。
そう思った時には、魔力人形は右足を軸に回転していた。
鉄鋼の踵がアシドの脇腹に入った。
「がっ!?」
アシドの体が吹き飛び、ゴロゴロと転がる。アシドは脇腹を押さえながら悶えた。
超速度で魔力人形の懐へと入ったシキが、胸元を蹴り上げた。
「ヌゥン!」
少し浮いた魔力人形に、レイドが楯を前に出しながら、タックルした。
魔力人形は勿論耐えることができず、飛ばされ、地面を二、三回バウンドして四つん這いとなって止まる。
キュワンという音とともに魔力人形が薄緑色の淡い光に包まれた。
「まーさか、か、か、回復?」
前衛にとって絶望的な内容を、回復のスペシャリストが言い放った。
嵐が続く。
体力が多く、装甲が硬く、回復まである。
前衛として完璧すぎる。厄介極まりなく、ゾンビ戦術すら可能かもしれない。
幸いなのが、エンドローゼの援助なしに、アシドがすでに回復していることだ。この魔力人形は攻撃力が低い。ただのヘイトを買う役なのかもしれない。
その割には攻撃技が豊富な気がするが、気のせいか?
攻撃速度は目を張るものがあるが、別段躱せないわけではない。
銀閃を屈んで避けたシキが魔力人形の頭を蹴り上げる。頭部の足裏跡から煙のようなものが出ている。
そこにアシドが槍を薙ぐ。これも魔力人形の頭部を襲う。
魔力人形の首が強制的に傾げられた瞬間、コストイラが距離を詰め、刀を振るうが、やはり切れない。武器同士がぶつかっているようなイメージだ。
「チ」
コストイラはその場に止まることなく、抜けていった。コストイラはすでに魔力人形の攻撃範囲の外に出ている。
魔力変換装置がしっかりしているのか、無尽蔵に魔術を放ってきている。しかし、威力は通常のものよりも低い。
剣に炎を纏わせたかと思うと、次は雷を纏ったり、赤黒い魔力を放ったりしてくる。
レイドは後衛を護るように楯を構えておく。アストロやエンドローゼはその後ろで隠れている。
アシドとコストイラは攻撃範囲から外れたところで、タイミングを計っている。それでも攻撃の余波が届くため、そこにも注意を払っていた。
シキは懐にぴったりとくっついている。至近距離で攻撃をかわしながら、攻撃を加えていく。然の魔剣は、確実に警戒されているため、当てさせてくれない。
魔力人形の振るう剣に向けて蹴りを放つ。
シキの鋭い蹴りが魔力人形の剣を壊した。
武器をなくした魔力人形はすぐさま剣の柄を捨て、次の剣を取り出した。魔力人形は風の魔力を纏い、シキに剣を振り下ろした。
その時、アシドが遠慮なしに蹴りを後頭部へと叩きこんだ。相変わらずダメージの有無が分からないが、隙を作るだけなら、これで構わない。
傾いた体を、コストイラがさらに蹴り上げ、完全に体勢を崩させる。
そこにシキが然の魔剣を振るった。その一閃は流麗で綺麗で美しく、魔力人形の核を容易く刈り取った。
ボゴン、バゴンと小さな爆発を起こしながら、魔力人形は体をくの字に折り曲げて後退りをする。
とても人間的な動きで、自身の胸にある核部分を押さえて、前を向いた。
これまで、どれだけ戦ってきたのだろうか。
次々と仲間が倒され、いなくなってしまった。
何度救難信号を出しただろうか。
どれだけ仲間を待っただろうか。
どれだけ創造主を待っただろうか。
いくら待ち続けても、そこに現れるのは敵のみ。
戦っては休んで、戦っては休んで、を繰り返して、待ち続けた。
待って、待って、待ち望んで、待ち耐えて、待ち惚けて、そして、最後に残ったのは……。
あぁ、助けて。
何かを願うように、ねだるように伸ばされた腕を、白銀の悪魔は無慈悲にただ一閃した。
風が嵐となり、息を巻き上げている。
なぜあの女が毒による自殺をしたのか分からない。アレは我々のせいなのか? 我々が追い詰めてしまったのだろうか。
いくら考えても分からない。そんな無駄なことを考えるのは止めよう。
嵐がひどい。砂嵐のような色をしているが、どうやら砂ではない。ただの空気。そこに感触などない。空気が色づいているだけなのだ。
アストロの具合が悪い。エンドローゼも脂汗が出ている。
コストイラやアシドも少し気分が悪くなっている。この色付きの空気が原因だろう。正体が何か分からないが、体に悪いものだということは分かる。
アレンも調子が悪い。魔眼が暴走しそうだ。
「何だ、あれ?」
「うぷ、ん? あ、あぁ、と、えっと?」
濁っている視界で、必死に目を凝らす。
緋色や黄色、白銀色に青白色などの様々な色をした人形が岩に凭れるようにして倒れていた。統一感が全くないにも関わらず、その色が当然であり、常識という印象を与えてくる。
形は人であるが、姿は機械である。
「何だ? ゴーレム? その割には大分メカニックだな」
「あれは魔力人形よ」
「それって、海賊のところにもあった奴だよな」
「あぁ、まぁ、あれよりも遥かに上等なものね」
吐き気を飲み込みながら、魔女が見極める。
「あの極彩色は特別性。特に”異世界人”ゴートが製造したものね」
「あのゴートが」
「何でもやるな、あの勇者」
「会ったことはないが、感謝の言葉が絶えないな」
コストイラとアシドがゴートに文句を言い、レイドは感謝を述べる。
「その昔、瘴気の元を根絶するために作られ、作戦に失敗した兵器よ」
「あれでも失敗したのか」
空気が渦巻いている。
その中心に魔力人形がある。まさか、これは、魔力人形がやっていることなのか。
過去の遺物がカタリと動いた。指がカチャカチャと這い、ギギギと持ち上がり始めた。
ガタガタと体が動き、ピタリと止まった。
「な、何だ?」
コストイラが刀を向けると、人形の頭が前を向き、コストイラを見た。
錆びついた歯車が動くような音を出しながら、魔力人形が動き出す。 ガチャンと魔力人形の手の中に剣が出現した。魔力人形の目がカッと光を放つ。
次の瞬間、コストイラとの間の距離が喰われた。
魔力人形が剣を振るう。コストイラは咄嗟に膝を曲げ、一閃を躱した。コストイラは片膝を着いた状態で刀を振った。
「グァ!?」
ボディが硬い。レイドの楯に少し含まれている日緋色金の硬さだ。帝国歴元年よりも遥か前、神代の時代に活用されていた、非常に硬く希少な、太陽のような金属だ。
刃が返ってくる。コストイラが不格好であるが、躱すのに成功した。
すでに吐き気があるが、アストロが魔力を放った。いつもよりも魔力の球形が乱れている。
体が変だ。
いつもなら魔力操作で完璧な球形の魔力を放つなど容易いことなのに、今は崩れてしまっている。
なぜだか、体の感覚が違う。そこまで魔力を使っていないのに、すでに魔力酔いのような症状だ。体内に入ってくる魔素の量が多い。ここは他の土地と比べて、魔素で溢れている。多量の魔素を受け、魔力変換器官が、川に設置される水車のように稼働し続けている。そのせいで、活動限界が短くなっているのだ。
調整しなければ、体内の魔素量が多すぎて、爆発してしまいそうだ。
アストロの放った魔力は、魔力人形のボディの白銀色の部分に当たり、霧散した。
全く効いているような気がしない。レイドの楯の大部分を占める月天石が使われていると考えるのが妥当だろう。月天石は魔力を使う攻撃を軽減するだけであって、無効化するものではない。
アストロは吐き気を最高潮に催しながら、魔法を放った。
アシドが背後から槍で刺す。カキンと弾かれた。欠けることすらない、火花が散るのみのダメージ。もしかしたら、それはゼロなのかもしれない。
そう思った時には、魔力人形は右足を軸に回転していた。
鉄鋼の踵がアシドの脇腹に入った。
「がっ!?」
アシドの体が吹き飛び、ゴロゴロと転がる。アシドは脇腹を押さえながら悶えた。
超速度で魔力人形の懐へと入ったシキが、胸元を蹴り上げた。
「ヌゥン!」
少し浮いた魔力人形に、レイドが楯を前に出しながら、タックルした。
魔力人形は勿論耐えることができず、飛ばされ、地面を二、三回バウンドして四つん這いとなって止まる。
キュワンという音とともに魔力人形が薄緑色の淡い光に包まれた。
「まーさか、か、か、回復?」
前衛にとって絶望的な内容を、回復のスペシャリストが言い放った。
嵐が続く。
体力が多く、装甲が硬く、回復まである。
前衛として完璧すぎる。厄介極まりなく、ゾンビ戦術すら可能かもしれない。
幸いなのが、エンドローゼの援助なしに、アシドがすでに回復していることだ。この魔力人形は攻撃力が低い。ただのヘイトを買う役なのかもしれない。
その割には攻撃技が豊富な気がするが、気のせいか?
攻撃速度は目を張るものがあるが、別段躱せないわけではない。
銀閃を屈んで避けたシキが魔力人形の頭を蹴り上げる。頭部の足裏跡から煙のようなものが出ている。
そこにアシドが槍を薙ぐ。これも魔力人形の頭部を襲う。
魔力人形の首が強制的に傾げられた瞬間、コストイラが距離を詰め、刀を振るうが、やはり切れない。武器同士がぶつかっているようなイメージだ。
「チ」
コストイラはその場に止まることなく、抜けていった。コストイラはすでに魔力人形の攻撃範囲の外に出ている。
魔力変換装置がしっかりしているのか、無尽蔵に魔術を放ってきている。しかし、威力は通常のものよりも低い。
剣に炎を纏わせたかと思うと、次は雷を纏ったり、赤黒い魔力を放ったりしてくる。
レイドは後衛を護るように楯を構えておく。アストロやエンドローゼはその後ろで隠れている。
アシドとコストイラは攻撃範囲から外れたところで、タイミングを計っている。それでも攻撃の余波が届くため、そこにも注意を払っていた。
シキは懐にぴったりとくっついている。至近距離で攻撃をかわしながら、攻撃を加えていく。然の魔剣は、確実に警戒されているため、当てさせてくれない。
魔力人形の振るう剣に向けて蹴りを放つ。
シキの鋭い蹴りが魔力人形の剣を壊した。
武器をなくした魔力人形はすぐさま剣の柄を捨て、次の剣を取り出した。魔力人形は風の魔力を纏い、シキに剣を振り下ろした。
その時、アシドが遠慮なしに蹴りを後頭部へと叩きこんだ。相変わらずダメージの有無が分からないが、隙を作るだけなら、これで構わない。
傾いた体を、コストイラがさらに蹴り上げ、完全に体勢を崩させる。
そこにシキが然の魔剣を振るった。その一閃は流麗で綺麗で美しく、魔力人形の核を容易く刈り取った。
ボゴン、バゴンと小さな爆発を起こしながら、魔力人形は体をくの字に折り曲げて後退りをする。
とても人間的な動きで、自身の胸にある核部分を押さえて、前を向いた。
これまで、どれだけ戦ってきたのだろうか。
次々と仲間が倒され、いなくなってしまった。
何度救難信号を出しただろうか。
どれだけ仲間を待っただろうか。
どれだけ創造主を待っただろうか。
いくら待ち続けても、そこに現れるのは敵のみ。
戦っては休んで、戦っては休んで、を繰り返して、待ち続けた。
待って、待って、待ち望んで、待ち耐えて、待ち惚けて、そして、最後に残ったのは……。
あぁ、助けて。
何かを願うように、ねだるように伸ばされた腕を、白銀の悪魔は無慈悲にただ一閃した。
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