メグルユメ

トラフィックライトレイディ

1.ヲヌネ

「うわ! うわ! うわぁぁぁぁぁぁぁ……」

 バタンと女が倒れた。

「全然勝てる気がしないよぉ~~」
「いや、お前、実はメッチャ余裕だろ」

 セルフエコーを掛けながら倒れたカレトワに、同じく倒れているロッドが思わずツッコミを入れた。気力と魔力を使い果たして倒れているアスミンは、ツッコミができるくらいにはロッドさんも元気じゃないですか、と心の中で呟いた。

「ごっめんなさ~~い! やりすぎてしまいました~~~~~!」

 少し涙目で謝るのは、元勇者の脚にして現勇者の母であるヲヌネだ。カレトワのアップルパイ仲間であるという重大な肩書もある。

 今はカレトワとロッドの修行相手をしている。

 魔王インサーニアを倒して帰ってきた当初のシキに比べればとても良い動きをしている。カレトワのレベルはすでに72であるし、ロッドは65、アスミンは31にまでなった。相当な強さだ。日常を生きるのであれば、ここまでのレベルは必要ないだろう。

 しかし、三人はそれを望んだ。

 ならば、ヲヌネはそれに応えるだけだ。

「あぁ、シキちゃんは今、どこにいるのでしょうか」
『あの、皆さん、アップルパイ食べます? 私、焼いたんですけど』
「食べる!」

 イライザが可愛らしいフリル付きのエプロン姿で、トレイにアップルパイを乗せて出てきた。
 カレトワは発条仕掛けの人形のように跳ね起き、アップルパイに向かった。

「おや、まだ余裕がありますねェ」
「超余裕じゃねぇか、オレなんて起きられねぇよ」
「もう少しきつめに修行しましょうか」
「むぐぐ!?」

 カレトワがアップルパイを頬張りながら焦った。やばい! このままじゃ殺される!

 カレトワは物凄く焦りながらも、アップルパイを味わった。味わわずに食べるなど、アップルパイに失礼至極!

「ま、アップルパイの魅力には勝てませんよね」

 ヲヌネはイライザのアップルパイを手に取ると、口に運んだ。

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