メグルユメ

トラフィックライトレイディ

3.シュルメ

 半透明な姿をした給仕達の横を抜け、冥界に君臨する王は廊下を歩いていた。

 本日は一切の業務をしていなくても怒られない日だ。今日は追悼の日。コストイラの母であるフラメテの命日なのだ。

 フラメテはとにかく大雑把な女だった。命の危機があるような仕事でも大丈夫、何とかなる、を押し通した。

 豪胆で豪快な生き方に魅せられた者は多い。そんな生き方ができるところを尊敬し、慕っている者達だ。

 シラスタ教のお面を作った際、何の動物がいいかを尋ねると、狸だと言われた。
 なぜ狸なのかを聞くと、ぽくない? と返された。私から見れば狸ではなく、獅子や狼だ。まぁ、犬のような可愛らしさはあるか。
 ほら私って、腹黒さとか、秘密とかあるタイプじゃん? と言われたが、嘘が滅茶苦茶顔に出るタイプなので、腹黒さとは無縁だと思っていた。

 あそこまで青天井の明るさを持っている女は初めてだ。そして、最初でありながら最後でもあった。もうあんな女とは、いや、あんな存在とは出会えないだろう。

 この世界は死に溢れている。

 シュルメ自身が生まれるより前から今日に至るまで。

 その中には、享受していた平和に突如訪れた理不尽な死から、勇者や英雄と呼ばれる者の悲壮な最期など多々ある。
 もはや、星の数ほどの死が、この地にはうずたかく積もっている。

 シュルメは冥界の王として、死に動揺しない。
 しかし、それは今の話であって、昔はよく動揺していた。

 それは、ある瞬間から変わった。

 それがフラメテの死だ。

『フフ。冥界の王が、一人の死に対して哀悼を捧げるなんて、笑われちゃうな』

 シュルメは現世にあるフラメテの墓に花を添えた。

「おや、シュルメ様。お久し振りです」

 シュルメが振り返ると、そこには先代勇者であるグリードがいた。その後ろ、三歩分奥にナギがいる。彼女を見ていると師匠のエレストを思い出す。

 グリードは悲しそうな顔をして、花束を抱えているが、ナギは少し不満気な顔をしている。完全に付き合わされているのだろう。

 まぁ、それも仕方のないことだ。ナギとフラメテに交流も関係も一切ない。

『お久し振りです、グリード』

 シュルメは薄い笑顔をグリードに向けた。

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