39．元に戻る

「いちち。あの野郎、本気で殴ってねぇな？　いや、まだ本気が出せねぇのか？」

　レイベルスがゆったりと休息をとり、戦いを眺めている。そろそろ戦いに参加しようと、立ち上がろうとする。

　そこでレイベルスの肩に手が置かれた。




　楯で剣技を防いでいく。

　そこで、レイドの肩に痛みが走る。後ろにいた者が槍で刺したようだ。

　レイドが裏拳気味に殴る。後ろにいた者は顔が変形しながら飛んで行った。

「何という強さだ。一対一タイマンならば歯が立たなかっただろう。しかし、複数は手の数において有利！」

　女剣士が再び楯に剣をぶつけてくる。レイドはそれを防御しなければ致命となってしまうため、楯を合わせているが、この時点で片手を押さえられているため、周囲の者達から攻撃に対する防御力がない。今度は右の二の腕が傷ついた。

　煩わしい。面倒。厄介。五月蠅い。鬱陶しい。

　もういい。全てを破壊してしまおう。

　レイドは重戦士タイプだ。パワーとタフネスに自信があるが、スピードに難がある。相手の女剣士も周囲のマーエン教もスピードタイプであるため、レイドにとって相性が悪い。
　そこで、レイドはパワーに物言わせることにした。

　レイドの遠慮のない、力任せの一撃が地面を襲う。

　攻撃の終わりは無防備になりやすい。女剣士は攻撃に転じようとしたが、失敗した。レイドの豪快な一撃により、地面が波打ったのだ。
　女剣士は咄嗟に腰を落として耐えたが、周囲のマーエン教徒達は耐えきれずに転倒した。

　改めて攻撃しようとした女剣士が顔を上げると、レイドの巨拳が映った。

「なっ！」

　女剣士が目を見開く。もう間に合わない。
　女剣士が覚悟を決めた瞬間、拳が到達した。
　女の体が有り得ない程に吹き飛び、着弾した。信者が駆け寄り、その姿を確認して口元を覆った。

　顔がかなり変形している。もうステーキが食べられない顔になってしまった。

　周囲にいたマーエン教が腰を抜かした。唯一時間を稼げるものがいなくなってしまった。もう無理だ。
　蜘蛛の子を散らすように全力で逃げ去っていった。




　槍をいくら振っても短剣で防がれてしまう。
　だんだんとアシドが苛立ち始める。相手の薄気味悪い笑みも、ネチネチとした戦い方も、それと突破できない自分も、腹が立ってしょうがない。

「チッ」

　アシドの中に真っ暗な感情が生まれた。

　アシドがデブを睨む。男はその変化に気付き、眉根が寄っていく。
　アシドが乱暴に、力任せの振り下ろしを行う。男は腹の贅肉を揺らしながら、二刀の短剣をクロスさせて槍を受け止めた。
　アシドはそれが分かっていたかのように、無防備な腹を蹴り上げた。
　アシドの鍛え上げられた脚力によって、男の体内にある内臓のいくつかが破裂した。

　男が腹の底から血を吐いた。アシドがもう一度力任せに槍を振り下ろした。
　今度は短剣が間に合わない。男の頭に直撃する。男の視界が白黒としていく。

　そして、追撃、猛撃、痛撃、進撃、迫撃。

　何度も浴びせられる槍撃によって、遂に太ましい男の頭が陥没した。

「な、何なんだ、アイツ」
「ば、化け物」
「やっていられるか！」

　周囲にいたマーエン教徒達は逃走した。




　イーラが背中に手を回すが、コストイラが金毛の剛腕を切りつけることで追い返す。とはいえ、爪はかなり硬く、頑丈であり、切り離せない。
　イーラは鬱陶しくなり、大きくジャンプした。勢いがよく、コストイラは咄嗟に金毛に抱き着く。イーラは体をひっくり返し、その巨体で圧し潰そうとする。
　コストイラが抜け出そうとする。しかし、金毛の剛腕がそれを阻止するように肘がコストイラを打つ。
　コストイラの体が戻される。

　ドン！

「ゴ！」

　コストイラが下敷きとなる。イーラはすぐさま起き上がり、追撃の鉄槌を降らしてくる。

　コストイラは地面の染みとなった。

　その隙を縫いながら、アシドがイーラの懐に入る。アシドが高速で槍を振るうが、イーラはその速度に対応し、爪で攻撃を往なした。
　アシドはそれを利用して二撃目を入れようとするが、イーラはそれよりも速く攻撃をした。

　瞬間的に無理な体勢で槍を間に入れるが、そのまま殴り飛ばされる。

『フハハ！　心と体のズレが戻っていく。本来のレベルへと戻ってゆくぞ！　すでに９００後半にな！』

　アストロの魔力を無防備に浴びながら、それをすべて無視して高笑いする。何も反応がないため、アストロには屈辱しかない。

『天ツキにいるメスガキフォンも、そこにいる木偶の坊レイベルスも敵わん領域に来た！』

「お、そうだな」

　テンションを上げていくイーラに対して、極めて軽い調子で返してきた。その声音を不思議に思いながら、イーラは顔全体を向ける。

　目の前にはグレートドラゴンの死体。

　イーラにはさらに疑問が浮かぶ。

　この巨体であれば、かなりの重量だ。投げたのはかなりの筋力を保有しているレイベルスで間違いないだろう。

　では、なぜ投げた？　目眩ましか？

　疑問を持ちながら、煩わしい蠅を払うように手を振った。
　手が触れた瞬間、死体が破裂した。

　イーラが血を嫌うように顔を逸らそうとする。

　しかし、血の中に、鋭い眼光を見た。