メグルユメ
30.姿を見せる憤怒
『ヴフゥ』
シキを弾き飛ばしたミノタウロスが、レイド達を一瞥し、そしてシキの元へと向かった。
その瞬間、レイドの怒りが天頂を振り切った。
野郎、ぶっ殺してやる!
血が出そうになるほど握り締める右拳とともに駆け出そうとするレイドを、コストイラが全力で止める。
「待て! レイド!」
「なぜ止める! 貴様も分かっているのだろう! 私がミノタウロスを、あの憎い自分の手で殺すべき相手を倒すのだ!」
「だからこそ止めさせてもらうぜ!」
「何!?」
自分と同等かそれ以上の炎を、その魂に宿すレイドに圧されそうになるが、瞋恚の炎に真っ向から燃え上がる。コストイラが指を差し、レイドの意識を向けさせる。
そこには三体の牛頭人体がいた。
レイドの炎がそちらに向く。
「オレが一体受け持つ。アストロのプライド的にも、一体はアストロ達が、だから、レイド、一体頼む」
「当たり前だ」
レイドが大剣を抜き、憤怒をミノタウロスに向ける。
人間の怒りは複雑だ。
人間は脳が発達した猿だ。動物にある本能ですら、複雑となった。
前頭前野が脳に複雑な仕事を可能にさせた。さらに、脳は未来を見るようになった。被害者でも加害者でもないのに怒るのは、未来が見られるようになった弊害だ。
人が群れを成し、手製の拙い弓矢で狩猟していた頃、得られたものを活かして分かち合うかによって生まれた感情だ。ズルをして取り分を誤魔化すと、全体にとっても損であるし、将来的にも被害があるかもしれない。それを許してはいけないと考えた結果、怒りを選択した。
しかし、現在のレイドの怒りは、そんな理知のありそうなものではない。獣と同じ、今に生きる怒りだ。
相手を威嚇するように猛牛を睨みつける。
レイドを突き動かす炎を受け、暴力の化身でさえ、少したじろいだ。しかし、それはほんの少しのこと。ミノタウロスはそんなレイドを叩き潰してやろうと、大棍棒を振り上げた。
迫る棍棒を大剣で受け止める。
ミノタウロスが目を丸くする。暴力の化身ともいわれているが、それを受け止めたのだ。とはいえ、このまま圧し潰してしまえばいい。
ミノタウロスが両腕に血管を浮かび上がらせて、レイドを地面の染みにしようとする。
対するレイドも血管を浮かび上がらせ、拮抗する。
ここまで互角の力比べをすることなどなかった。ミノタウロスにとって、とても新鮮な気持ちだった。しかし、それでもプライドがある。ミノタウロスは相手を讃えつつ、力を込めていく。
獣の怒りを滾らせるレイドは、ここで人間に戻った。真正面、獣のぶつかり合いではなく、技へ逃げたのだ。
拮抗していた力がなくなり、重心が完全に傾いた。
『ブ!?』
ミノタウロスが前傾となり、思わず手と膝を地面に着いた。両刃斧は半分以上が地面に埋まっている。その時の衝撃により、地面が湖のように波打った。少し離れているところで戦っていたコストイラ達も驚いた。
レイドが断頭台の首刈り刃のように、近くにあった腰を両断しようとする。
『ヴ!』
理不尽の権化は立ち上がるよりも斧を優先した。抜きながらに振るわれた一撃は、レイドを叩き飛ばした。身長2m10㎝、体重は鎧や武具を合わせて400㎏を超えている。そんなレイドを飛ばすなど、なんて膂力だ。幸いだったのは、当てられたのが刃の方ではなく、腹の方だったことだろう。
『グ、ヴ』
ミノタウロスの歯の隙間から血が零れ落ちた。
レイドの振るった大剣はミノタウロスの脇腹半ばまで斬っていた。
ミノタウロスは大剣を抜き取った。ゴプと血が溢れ出すが、臓物までは漏れてこない。それだけ筋肉が鎧となっているのだろう。
『ヴァフゥ』
ミノタウロスは右手に両刃斧、左手に大剣を装備する。
対して、レイドは丸腰。いや、正確に言えば大楯しかない。
ミノタウロスは血と唾を吐きながら、斧と剣を振るう。
レイドは斧を半身で躱し、大剣を楯で弾いた。懐に入った外人は猛牛の顎にアッパーを入れた。さらに固めた拳をミノタウロスの胸を殴った。
憤怒を右の拳に乗せて、ミノタウロスの体を凹ませた。
ミノタウロスの肺が片方潰れ、荒く息をし始める。ミノタウロスの左腕を取ると、力任せにせず、技でもって捩じり上げた。
『ブモッ!?』
ミノタウロスの左手が自然と開く。そして、レイドは無理矢理大剣を奪取して、再び脇腹に大きく振るった。
レイドは器用な男ではないため、先程とは違う部分に入った。しかし、結果的に、二つの傷の間にあった肉は落ち、中にあった臓物は外へと吐き出された。
シキを弾き飛ばしたミノタウロスが、レイド達を一瞥し、そしてシキの元へと向かった。
その瞬間、レイドの怒りが天頂を振り切った。
野郎、ぶっ殺してやる!
血が出そうになるほど握り締める右拳とともに駆け出そうとするレイドを、コストイラが全力で止める。
「待て! レイド!」
「なぜ止める! 貴様も分かっているのだろう! 私がミノタウロスを、あの憎い自分の手で殺すべき相手を倒すのだ!」
「だからこそ止めさせてもらうぜ!」
「何!?」
自分と同等かそれ以上の炎を、その魂に宿すレイドに圧されそうになるが、瞋恚の炎に真っ向から燃え上がる。コストイラが指を差し、レイドの意識を向けさせる。
そこには三体の牛頭人体がいた。
レイドの炎がそちらに向く。
「オレが一体受け持つ。アストロのプライド的にも、一体はアストロ達が、だから、レイド、一体頼む」
「当たり前だ」
レイドが大剣を抜き、憤怒をミノタウロスに向ける。
人間の怒りは複雑だ。
人間は脳が発達した猿だ。動物にある本能ですら、複雑となった。
前頭前野が脳に複雑な仕事を可能にさせた。さらに、脳は未来を見るようになった。被害者でも加害者でもないのに怒るのは、未来が見られるようになった弊害だ。
人が群れを成し、手製の拙い弓矢で狩猟していた頃、得られたものを活かして分かち合うかによって生まれた感情だ。ズルをして取り分を誤魔化すと、全体にとっても損であるし、将来的にも被害があるかもしれない。それを許してはいけないと考えた結果、怒りを選択した。
しかし、現在のレイドの怒りは、そんな理知のありそうなものではない。獣と同じ、今に生きる怒りだ。
相手を威嚇するように猛牛を睨みつける。
レイドを突き動かす炎を受け、暴力の化身でさえ、少したじろいだ。しかし、それはほんの少しのこと。ミノタウロスはそんなレイドを叩き潰してやろうと、大棍棒を振り上げた。
迫る棍棒を大剣で受け止める。
ミノタウロスが目を丸くする。暴力の化身ともいわれているが、それを受け止めたのだ。とはいえ、このまま圧し潰してしまえばいい。
ミノタウロスが両腕に血管を浮かび上がらせて、レイドを地面の染みにしようとする。
対するレイドも血管を浮かび上がらせ、拮抗する。
ここまで互角の力比べをすることなどなかった。ミノタウロスにとって、とても新鮮な気持ちだった。しかし、それでもプライドがある。ミノタウロスは相手を讃えつつ、力を込めていく。
獣の怒りを滾らせるレイドは、ここで人間に戻った。真正面、獣のぶつかり合いではなく、技へ逃げたのだ。
拮抗していた力がなくなり、重心が完全に傾いた。
『ブ!?』
ミノタウロスが前傾となり、思わず手と膝を地面に着いた。両刃斧は半分以上が地面に埋まっている。その時の衝撃により、地面が湖のように波打った。少し離れているところで戦っていたコストイラ達も驚いた。
レイドが断頭台の首刈り刃のように、近くにあった腰を両断しようとする。
『ヴ!』
理不尽の権化は立ち上がるよりも斧を優先した。抜きながらに振るわれた一撃は、レイドを叩き飛ばした。身長2m10㎝、体重は鎧や武具を合わせて400㎏を超えている。そんなレイドを飛ばすなど、なんて膂力だ。幸いだったのは、当てられたのが刃の方ではなく、腹の方だったことだろう。
『グ、ヴ』
ミノタウロスの歯の隙間から血が零れ落ちた。
レイドの振るった大剣はミノタウロスの脇腹半ばまで斬っていた。
ミノタウロスは大剣を抜き取った。ゴプと血が溢れ出すが、臓物までは漏れてこない。それだけ筋肉が鎧となっているのだろう。
『ヴァフゥ』
ミノタウロスは右手に両刃斧、左手に大剣を装備する。
対して、レイドは丸腰。いや、正確に言えば大楯しかない。
ミノタウロスは血と唾を吐きながら、斧と剣を振るう。
レイドは斧を半身で躱し、大剣を楯で弾いた。懐に入った外人は猛牛の顎にアッパーを入れた。さらに固めた拳をミノタウロスの胸を殴った。
憤怒を右の拳に乗せて、ミノタウロスの体を凹ませた。
ミノタウロスの肺が片方潰れ、荒く息をし始める。ミノタウロスの左腕を取ると、力任せにせず、技でもって捩じり上げた。
『ブモッ!?』
ミノタウロスの左手が自然と開く。そして、レイドは無理矢理大剣を奪取して、再び脇腹に大きく振るった。
レイドは器用な男ではないため、先程とは違う部分に入った。しかし、結果的に、二つの傷の間にあった肉は落ち、中にあった臓物は外へと吐き出された。
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