メグルユメ

トラフィックライトレイディ

1.×人

 アレンは再び絶望した。何度絶望すれば気が済むのか。そんなツッコミを入れたくなるほどの回数を絶望している。もし希望を数値化した時、-90~-100までが絶望だとしたなら、アレンは常にー80くらいの状態なのだ。すぐに絶望してしまう。

 果たして、今回は何に絶望したのか。

 それは、死の直前、水の精霊が口元を押さえ、吐き気を催している姿をしたことだ。

 今この場は凄惨な殺害現場なのだ。常人や凡人と言われているようなものは吐きそうになるほどに拒絶するものなのだ。
 しかし、今の自分はどうだ。拒絶したか? 嫌悪を抱いたか?

 否だ。答えは否だ。アレンは何も感じなかった。

 自分は樵の息子だ。ごく一般的な樵の父と、体が弱く病気になりやすい物書きの母との間に生まれた常人でしかない。
 特殊な訓練など積んでいない、それどころか父の斧さえまともに振れない程の力しかない自分が、小人物でしかないはずの自分が、凡人でないはずがない。

 自分の周りにいるのは超人、外人、異人、壊人、狂人、絶人だ。何もない自分は凡人だと思うしかない。思うしかないのだ。
 だというのに、自分は凡人ですらなくなったということだ。凡人としての反応ができなくなったのだ。

 では、今の自分は何だ。凡人ではなく、何になったというのだ。顔を覆ってその場に蹲りたくなった。ただ、それをすると、皆に迷惑をかけてしまう気がして止めた。
 ここでいつまでもうじうじしている時点でかなりの小人物だ。あの優しさの塊であるエンドローゼでさえ、今のアレンは凡人だと思うだろう。

 アレンがちらとシキを見た。アレンの初恋の人。しかも、現役で好きだ。全てを投げうってでも好きだと言えるのか、と言われれば、即答しよう。しかし、絶人シキは破格すぎる性能をしている。アレンが釣り合うはずがない。
 隣に立てるように努力した。花ではなく、花を咲かせる土に成ろうとしたこともあった。

 しかし、それらは中途半端に終わった。彼女達は一人一人が数万年に一度咲くような大輪で、アレンは毎年見られるような誰もが育てたことあるような花でありながら、枯れかけであった。

 アレンの土ではどんな素晴らしい素材でも花にならないし、花になりたいと思う者も現れなかった。

 アレンは凡人だ。ネガティブな思考の抜けない凡人である。
 気分の落ち込みは加速しやすい。

 このパーティに僕は必要なのだろうか。

 加速を続けたネガティブアレンの思考が行きつく先はいつもここだ。どうしても自分の価値を見出すことができない。そんな自分は皆といるのが相応しくない、と主張したいのだ。
 アストロ辺りに言えば、馬鹿じゃないの? と返ってくるだろう。

 アストロは、自分は壊人コストイラのことが分からなくなってきている、と言っているが、アレンに言わせれば、アストロだって人間離れしている。
 上級冒険者と遜色ないほどの体捌きができ、世界の中でもトップクラスの魔力を誇っている。どう考えてもアストロだって強者だ。

 果たして今のアレンはどれほど強いのだろうか。

 上級冒険者と戦えば、五分は持つだろうが、勝てるかどうかは分からない。中堅冒険者ならばいい勝負ができるだろう。魔力量は冒険者の平均より少し多いくらいであり、優秀というわけではない。
 勇者パーティの一員というレッテルがあるからこそ、他の冒険者よりも強いと思われているだけなのだ。

 実力と評価にかなりの差がある。実力の方が低いという嫌な図式だ。

 皆に隠れて体を鍛えている。にもかかわらず、強くなれている気がしない。自分が50強くなったとしても、周りが100強くなっているからだと理解している。しかし、納得ができるかどうかは別だ。

 アレンは歩きながら自身の掌を見る。それなりに日焼けした手の中に白く貫通している痕が残っている。これが戦闘をうまくさせてくれない。神経が傷ついて痺れてしまっている。

 弓を強く引くことができない。2,3発なら射ることができるだろうが、このレベルの相手に対して、それで仕留められるわけない。

 アレンはただ月を見て、溜息を吐いた。

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