メグルユメ

トラフィックライトレイディ

14.雷鳴の怪牛

 牛のような見た目をしているが、その魔物はあまりにも筋肉質だった。農業で用具を引かせるにも、食用にするにも向かない種である。
 ただし、闘牛としての適性は恐ろしいほどにあった。

 鎖に繋いでも引き千切られ、壁で囲んでも簡単に体当たりで壊され、世話をする人を用意しても突進して破裂させてしまう。
 そんなパワーを平均的に有しているビッグホーンは何者にも仕える気がなく、気丈な存在である。

 この個体も立ちはだかるものは突き破っていこうという気概がある。
 ビッグホーンがその地を王の風格で歩いている時、その少女と出会った。その少女を見た瞬間、不思議と吹き飛ばす気にはならなかった。
 そして、不思議なことに少女の思いが通じていた。逆にこちらの思いも通じていた。

 心が安らいだ。常に刺々しかった心が丸くなり、少女の側にいたいと思えることが多くなった。

 そして、怪牛は少女のものとなった。
 その際に新たな名前「ヨシ」を授けてもらった。




 ヨシが張り切っている。鼻息荒くし、蹄で地面を叩いている。
 状況がおおよそ分かってきたアシドが槍を構える。コストイラとシキがそれぞれ刀とナイフを抜くが、構えを取らない。

 ヨシが鋭くアシドを睨み、コストイラにも向ける。コストイラも王者の風格を漂わせていた。ヨシはそれを許容できなかった。

 地面を爆発させてビッグホーンが突進してくる。コストイラは風に揺らめくろうそくの火のように体を動かし、、ビッグホーンの突進を避けた。そして、刀を亜音速で振るう。

 ビッグホーンの首筋から血飛沫が舞う。そのタイミングを計ったかのように、フレアドラゴンが炎を、精霊が突風を生み出した。
 高速で迫る炎を前に、コストイラは後ろに跳んだ。ビッグホーンが炎に包まれる。コストイラが地面を踏み潰す勢いで足裏を叩きつけた。
 瓦礫で壁を作って炎をやり過ごす。

 そこで、シキが飛び出した。コストイラもアストロもビビる。アレンは気絶しそうなほど驚いた。
 シキがナイフを振るって炎を弾く。衝撃的な戦い方をするシキに、ドン引きしてしまう。液体でも気体でもシキの敵ではないというのか?

 仲間だけでなくマスコンディレートもドン引きである。え、本当に人間ですか? か弱くて傷つきやすくて全種族の中で死にやすい人間ですか?

 英子はヒュと息を呑みながら後ろに下がった。それを護るように精霊が前に出る。

 フレアドラゴンの口端から炎が漏れている。精霊の周りには風が歪められている。空気さえ歪んで見えた。

 フレアドラゴンがもう一度炎を吐きだす。シキは円を描くようにナイフを振るい、炎を薙ぎ払った。
 さらにシキが近づいてくる。

 フレアドラゴンが怯えて砲を吐こうとする。マスコンディレートがそれを止めた。今攻撃をしても通る気がしない。
 シキが肉薄し、蹴りを繰り出す。精霊は風の鎧を纏った腕で受けた。
 精霊の目が丸くなる。精霊は風の鎧に自身があった。先程の赤い侍に切られたが、それはハプニングがあったからだ。
 しかし、真正面から蹴られた。風の鎧を破壊され、その先にいる腕の関節がないところで曲がっている。

 精霊が奥歯を噛み締め、シキを見る。すでに足が地面に戻っており、ナイフを持つ腕が振られていた。
 フレアドラゴンが制止を振り切り、炎を吐いた。風の精霊の持つ風の鎧であれば、火炎巨竜の炎など簡単に防ぐことができるだろう。

 シキは腕の振りを止めることなく、精霊を切った後、炎を躱した。その動作をしてまで躱すのに間に合った。

 炎が通り過ぎた、晒された精霊が黒く焦げている。風の鎧が機能していない。闇の魔剣で切られたことで風の鎧がズタズタになってしまっていたのだ。
 精霊が光の粒子になって消えた。

 風の精霊が死んだ。マスコンディレートの心に大きな傷を残した。呆然としてしまっている。

 フレアドラゴンが迷う。自分はどうすればいい? 今、主を護れるのは自分しかいない。しかし、敵を倒せる存在もいない。正確にはいるのだが、奴はサボり魔。呼ばれなければここに来ない。

 どうする?

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