メグルユメ

トラフィックライトレイディ

13.帰ってきたテイマー

 カンカンと中指の第二関節で金属板を叩く。感覚がある。感覚があるのだ。

「素晴らしい代物です」

 マスコンディレートが感心する。目の前にはエルフの鍛冶師がおり、英子の脚の義足を作ったのだ。もう英子は走ることすらできるだろう。

「あまり無茶をしないでくださいよ。貴女は風の精霊に愛されておられる方なのですから」
「はいはい。でも、やられっぱなし嫌じゃない? ほら、皆やる気だよ?」

 マスコンディレートが小屋のカーテンを開ける。外ではフレアドラゴンや八咫烏や精霊がもうやる気しかない。
 風の精霊がやる気になっていることで、エルフの鍛冶師は黙ってしまう。

 マスコンディレートは力こぶを作りながら、日光に照らされた。




 火炎竜顎で溜めたテクニカルポイントはもう消えてしまっている。つまりまた二発当てなければならない。
 しかも、その後に放つ強大な水魔術一発では倒せない。
 護りながら戦うためには前衛が欲しい。というか、コストイラもシキも早く出てこいよ。

 とりあえず右手に水の魔力を練り上げていく。一歩でも動いたら放つ。
 ラーヴァゴーレムが走り出した。アストロは横に跳びながら水の魔力を放った。
 ラーヴァゴーレムの頭に当たったことで、ターゲットをアストロに固定した。一直線にアストロに向かう。

 瓦礫を飛ばしながら溶岩巨人が近づいてくる。アストロの顔が引き攣る。もう一度水の魔力を一から溜めていく。

 ズゴンと大きな音が響く。その時、ラーヴァゴーレムの体が浮いた。アストロの肝が冷える。

 これ、私の上に落ちてきたら、死。質量が大きいものが迫ってくるのは、それだけで恐怖がある。
 その恐怖など一先構わず、ラーヴァゴーレムはアストロの頭上を通り過ぎた。ドガンと着陸する。そのまま滑っていった。溶岩巨人は掌を瓦礫に押し付け、立ち上がった。そこで、掌が地面を突き夜破った。

『ゴ?』

 ラーヴァゴーレムが間の抜けた声を出し、そのまま崖から落ちていった。前を向くと、蹴飛ばした体勢のままでシキが止まっていた。

「大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ」

 シキはアストロの心配をしながら、脚を上に持っていき、膝を曲げて地面に戻した。

「貴女って、結構脚が綺麗よね」
「そう?」

 シキの左腕にはインサーニアの時の裂傷があるが、それ以外は綺麗な体をしている。アレンに引かれたくないため、あまり大きな傷を創りたくないのかもしれない。

「アレンも喜んでくれる?」
「え? え、えぇ、そりゃもう大喜びよ。その健康的な太腿で奉仕されたら、もう何も言えないわよ、ね?」
「何でオレに同意を求めんだよ。いや、まぁ、オレは嬉しさリアルに60%かな」

 急に話を振られたコストイラは怒りながらも素直に答えた。シキは無表情で頭に情報を刻み込んでいき、アストロは半眼でふーんと言っている。恥ずか死ぬかと思った。

 シキが小石を拾い、大きく振りかぶり投げた。

 ド、パンと形容し難い音が聞こえた。アストロが上を見ると、頭をなくした八咫烏が落ちてきていた。もしかして、今の音は八咫烏の頭が弾け飛んだ音なのか?

 エンドローゼがビクリと起き上がった。その直後に墜落した。その衝撃でアシド達も起き上がる。

「な、な、何か頭の何に、え、え、何か、ぜーッ叫が」
「何何何!? 何!? 今の衝撃」

 エンドローゼが頭を押さえて蹲っている。アシドが槍を持つ力を強めながらキョロキョロとしていた。

「ぐ、う、あ」

 マスコンディレートが頭から血を流しながら立ち上がった。頭をなくした八咫烏の姿を見て、悲しそうな顔をした。しかし、これで諦めてしまっては成長につながらない。

 どんな作品の主人公も一度は負けている。そこから成長を遂げて、再戦で勝って、世界に飛び出していくのだ。

 マスコンディレートが右腕を振るって、地面と平行に掲げた。
 それに呼応するようにフレアドラゴンや風の精霊、さらに背の高い牛が出てきた。いったいどこに隠れていたというのか。

 そして、怪牛の鳴き声が開戦を告げた。

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