メグルユメ
17.潮が廻りて
自分がいつからそこにいるのか分からない。気付いたらここにいた。自分が水の中にいる。そこに違和感を覚えた。
自分が死んでしまうのではないか。溺れてしまうのではないか、と思い、必死に鰭を動かしてしまう。
そこで気付いた。あれ? 自分はカリュブディスなのだ。水の魔物なのだ。水中で息ができるのだから、何も焦る必要がないではないか。
自身が起こした水流によって削れた壁の瓦礫が頭に落ちる。
その時、走馬灯のように過去が脳裏に過ぎる。その過去は自分のものであって自分のものではなかった。それは、その者の前世の記憶だった。
自分は砦の王だった。
王と言っても、国のトップということではない。だが、この砦においてはトップだった。望めば金でも女でもなんでも手に入った。
それが一夜にしてなくなってしまった。
それが勇者に奪われてしまった。あの勇者に褫奪されてしまったのだ。
ふつふつと熱が沸いてきた。勇者に仇討してやる。自分の敵討ちだ。
カリュブディスになって、前世では使えなかった魔力探知を行う。その時、反応が変わった。
上に、いるじゃないか! あの勇者が!!
元砦の王が鰭を動かす。そして、一気に浮上した。
「来る」
シキが呟いた。シキは身を引き、アレンの胸を押して横穴の奥へとやった。
水柱が立つ。
アストロ達も横穴に引っ込む。その水柱は数百mにまで達し、幅もかなりあった。
キングクラーケンによって作られた泉の拡張よりも、さらに大きく、約2倍ほどに拡張された。
アストロ達はかなり奥まで引っ込んでいたと思ったが、水柱がなくなると、かなりギリギリの位置にいた。
穴場の近くにいたコストイラとアシドはめくれ上がった地面とともに吹き飛んだ。地面に頭や顔をぶつけ、血を出しているが、地面によって水柱から守られたのは確かだ。
コストイラが地面をバウンドして、かなりゴロゴロと転がって止まる。一秒も間を開けずに上半身を跳ね上げ、膝立ち状態となる。
アシドは地面ギリギリに着地する。コストイラのようにバウンドすることなく貫通した。アシドの口や鼻から空気が泡になって出ていく。
その泡越しにアシドは視た、敵の姿を。全部は見えない。敵の体が大きすぎたのだ。眼球運動だけでも、かなりの長さが見えると思うが、敵はそれ以上だ。30mはあるか?
カリュブディスが上昇することで発生した水流に巻き込まれ、アシドの体が流されていく。漁師の息子は抵抗せずにすんなりと流された。
カリュブディスが多くの水を引きつれて、水面を割った。地面の上に水が雪崩れていく。カリュブディスの体がシキの入っている横穴にまで昇る。高さ25m、これでも尾は見えない。
焦げ茶のような色をした肌を持つ魔物はギョロリと目玉を動かした。
右の目に忌々しき勇者と弓使いが見える。
こいつらだ。そう、こいつらに恥をかかされたのだ。
そう思い、何かがふつふつと湧き始めるのを感じながら、元砦の王は確かに見た。シキが振りかぶったところを。
カリュブディスは本能的な恐怖に身を侵され、咄嗟に瞼を閉じてしまった。そのせいで何が起きたのかは、憶測でしか分からない。
しかし、これだけは確実に言える。目が、勇者を観測していた目が見えなくなった。
バヂュンという音が響いたのは分かっている。まさか、勇者の投擲が瞼を貫通し、目玉を穿ったのか? 何だ、それは。馬鹿げている。
重力に従ってカリュブディスが落ちていく。
そして、左目は視た。豊満な体を持っている魔法使いを。その魔法使いは左手を失っていた。しかし、闘志はむしろ増しており、それを証明するように右手が突き出されている。
今度は左の瞼を閉じる。厄災さえ作り出す魔物が、小心者のように恐怖している。厄災さえ作り出せそうな火力の炎が、目玉を瞼の上から焼く。
『ゴォオオオオアアアアア!?』
カリュブディスが叫びながら水中に戻っていく。水のおかげで炎は鎮まった。しかし、目玉の変性は止められなかった。視界の半分以上が白く濁ってしまい、何も見えない。
一瞬だった。ただ水から上がり、昇って、下りてくる。それだけのはずだった。それなのに両目を失うという大損失だ。
敵の方に顔を向ける。何も見えない。しかし、元砦の王には魔力探知がある。コンナニモ素晴らしい技術をあんな卑しい奴等が持っているはずがない。
元砦の王は心の中で厭らしい笑みを浮かべた。もう一度波を、嵐を真上に放ってやる。
真上の範囲内から、勇者達が離れる。ここまであからさまに魔力の集約が行われていて、気付くないはずがない。いや、ごめんな、アレン。
「アレン」
シキがアレンの襟を掴んで引っ張った。
「もうちょっと後ろね」
アストロがレイドとエンドローゼを後ろに押しやる。
コストイラが刀を抜く。また出てきたら、絶対ぶった切る。という意志がオーラに表れる。
カリュブディスがサイクロンを放つ。技を放った直後は好きになりやすい。そこにアシドが入り込む。アシドがカリュブディスの耳の中に侵入する。シキのように中へ中へと向かおうとするが、シキのようにうまくいかない。アシドが無理矢理槍を突き出し、カリュブディスの脳を刺した。
一撃で死ぬとは思えず、何度も槍を突き出し、脳をぐちゃぐちゃにした。
自分が死んでしまうのではないか。溺れてしまうのではないか、と思い、必死に鰭を動かしてしまう。
そこで気付いた。あれ? 自分はカリュブディスなのだ。水の魔物なのだ。水中で息ができるのだから、何も焦る必要がないではないか。
自身が起こした水流によって削れた壁の瓦礫が頭に落ちる。
その時、走馬灯のように過去が脳裏に過ぎる。その過去は自分のものであって自分のものではなかった。それは、その者の前世の記憶だった。
自分は砦の王だった。
王と言っても、国のトップということではない。だが、この砦においてはトップだった。望めば金でも女でもなんでも手に入った。
それが一夜にしてなくなってしまった。
それが勇者に奪われてしまった。あの勇者に褫奪されてしまったのだ。
ふつふつと熱が沸いてきた。勇者に仇討してやる。自分の敵討ちだ。
カリュブディスになって、前世では使えなかった魔力探知を行う。その時、反応が変わった。
上に、いるじゃないか! あの勇者が!!
元砦の王が鰭を動かす。そして、一気に浮上した。
「来る」
シキが呟いた。シキは身を引き、アレンの胸を押して横穴の奥へとやった。
水柱が立つ。
アストロ達も横穴に引っ込む。その水柱は数百mにまで達し、幅もかなりあった。
キングクラーケンによって作られた泉の拡張よりも、さらに大きく、約2倍ほどに拡張された。
アストロ達はかなり奥まで引っ込んでいたと思ったが、水柱がなくなると、かなりギリギリの位置にいた。
穴場の近くにいたコストイラとアシドはめくれ上がった地面とともに吹き飛んだ。地面に頭や顔をぶつけ、血を出しているが、地面によって水柱から守られたのは確かだ。
コストイラが地面をバウンドして、かなりゴロゴロと転がって止まる。一秒も間を開けずに上半身を跳ね上げ、膝立ち状態となる。
アシドは地面ギリギリに着地する。コストイラのようにバウンドすることなく貫通した。アシドの口や鼻から空気が泡になって出ていく。
その泡越しにアシドは視た、敵の姿を。全部は見えない。敵の体が大きすぎたのだ。眼球運動だけでも、かなりの長さが見えると思うが、敵はそれ以上だ。30mはあるか?
カリュブディスが上昇することで発生した水流に巻き込まれ、アシドの体が流されていく。漁師の息子は抵抗せずにすんなりと流された。
カリュブディスが多くの水を引きつれて、水面を割った。地面の上に水が雪崩れていく。カリュブディスの体がシキの入っている横穴にまで昇る。高さ25m、これでも尾は見えない。
焦げ茶のような色をした肌を持つ魔物はギョロリと目玉を動かした。
右の目に忌々しき勇者と弓使いが見える。
こいつらだ。そう、こいつらに恥をかかされたのだ。
そう思い、何かがふつふつと湧き始めるのを感じながら、元砦の王は確かに見た。シキが振りかぶったところを。
カリュブディスは本能的な恐怖に身を侵され、咄嗟に瞼を閉じてしまった。そのせいで何が起きたのかは、憶測でしか分からない。
しかし、これだけは確実に言える。目が、勇者を観測していた目が見えなくなった。
バヂュンという音が響いたのは分かっている。まさか、勇者の投擲が瞼を貫通し、目玉を穿ったのか? 何だ、それは。馬鹿げている。
重力に従ってカリュブディスが落ちていく。
そして、左目は視た。豊満な体を持っている魔法使いを。その魔法使いは左手を失っていた。しかし、闘志はむしろ増しており、それを証明するように右手が突き出されている。
今度は左の瞼を閉じる。厄災さえ作り出す魔物が、小心者のように恐怖している。厄災さえ作り出せそうな火力の炎が、目玉を瞼の上から焼く。
『ゴォオオオオアアアアア!?』
カリュブディスが叫びながら水中に戻っていく。水のおかげで炎は鎮まった。しかし、目玉の変性は止められなかった。視界の半分以上が白く濁ってしまい、何も見えない。
一瞬だった。ただ水から上がり、昇って、下りてくる。それだけのはずだった。それなのに両目を失うという大損失だ。
敵の方に顔を向ける。何も見えない。しかし、元砦の王には魔力探知がある。コンナニモ素晴らしい技術をあんな卑しい奴等が持っているはずがない。
元砦の王は心の中で厭らしい笑みを浮かべた。もう一度波を、嵐を真上に放ってやる。
真上の範囲内から、勇者達が離れる。ここまであからさまに魔力の集約が行われていて、気付くないはずがない。いや、ごめんな、アレン。
「アレン」
シキがアレンの襟を掴んで引っ張った。
「もうちょっと後ろね」
アストロがレイドとエンドローゼを後ろに押しやる。
コストイラが刀を抜く。また出てきたら、絶対ぶった切る。という意志がオーラに表れる。
カリュブディスがサイクロンを放つ。技を放った直後は好きになりやすい。そこにアシドが入り込む。アシドがカリュブディスの耳の中に侵入する。シキのように中へ中へと向かおうとするが、シキのようにうまくいかない。アシドが無理矢理槍を突き出し、カリュブディスの脳を刺した。
一撃で死ぬとは思えず、何度も槍を突き出し、脳をぐちゃぐちゃにした。
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