メグルユメ

トラフィックライトレイディ

13.隻腕の海賊

 ピィー。

 甲高い笛の音が通路に響く。砦の中にいた海賊達が一斉に顔を上げる。海賊達は全員武器を執り、笛の音がした方に走り出した。
 女海賊が口から笛を話した時、コストイラが笛ごと切った。

「どれくらい来るかによってかなり変わってくるぞ」
「一旦張るわよ」
「オッケ」

 奥から武器を携帯している海賊達がやってくる。先程パレードよりは少ないが、知性がある分、凶悪な相手だ。

 アストロが通路を潰す勢いで魔術を放つ。

「うおっ!?」
「キャァア!?」

 巨大な火炎が海賊達を焼いていく。後続の海賊達は焼けた死体を楯に前進してくる。
 アストロが引き攣る。あまり人道的とは呼べない方法で距離を詰めてくる。
 コストイラが肉盾ごと海賊を切る。アシドは肉盾ごと槍で貫いた。

「何、この戦い方」

「アストロは見たことないようだな。死体を楯にして詰めることで、相手に精神的なダメージを与えつつ、攻撃を防御するという方法だよ」

 レイドが淡々と説明する。当たり前のように説明したことに、アストロもエンドローゼも驚愕してしまう。これが戦争だと当たり前なのか!?

「おわぁあああ!」

 何か叫び声が聞こえた。男の海賊が飛んでくる。

「危ない!!」

 レイドがアストロとエンドローゼを庇い、壁に寄せた。

 バジョン! 男の海賊が地面でバウンドした。頭が潰れ、首が折れ、四肢が弾けた。

 人間を投擲している。海賊達の中に2m超えの巨漢がいる。裸の上半身にジャケットを着ている左手は五指がなくなっており、金属製のフックとなっている。眼帯までして、想像上の海賊の風貌そのままだ。
 隻腕の海賊は再び仲間を掴むと、投擲した。

「何でこんな攻撃を」
「ひ、ひ、人の命を、なーんだと」

 アストロがドン引きし、エンドローゼは憤っている。

「これも精神攻撃だ。精神を乱せば、魔術師を封じられるからな」

 怖いくらい無表情なレイドに、うまく返答できない。
 人権など無視した冒涜的な戦い。慣れていない者には何とも戦いづらいことだろう。慣れたくなど一切ないが。

 コストイラ達が後退していく。コストイラ達が落ちたところが海賊達の背側になってしまった。

「マズい。追い込まれている。どうする」
「早くあの隻腕を殺さないと」

 その時、隻腕が後ろを向いた。




 バリトンはマッハの制止を聞かず、ハイキックを繰り出した。チラスレアは盛大に溜息を吐き、屈んで躱した。そして、目にも映らぬ速さで動き、内臓をぶちまけさせないようにしながら、腰元にタックルする。

「ゴッ!?」

 口から血が出た。内臓のいくつかを破裂させてしまったかもしれない。回復魔法は使えないので、申し訳ない。

 ぐっと膝を伸ばすと、バリトンの体が持ち上がった。そのまま丁寧に仲間の元へと投げてやる。
 ノーバウンドで仲間の元まで空を散歩し、無事キャッチされる。キャッチをしたピュリシュとテントラムが勢いに負けて倒れた。

「さて、私は家に帰るかしらね」

 チラスレアは伸びをして、深呼吸をする。どこか清々しい気分だ。

 チラリと後ろを見ると、立ち上がろうとするピュリシュとテントラム、ぐったりとしているバリトンと臨戦態勢のマッハとヒューリ。まぁ、戦ったところで無傷かつ瞬殺で終わらせることができるだろう。両者にはそれぐらいの実力差がある。闘争の勘は本来の実力近くまで戻っている。

「ん?」

 チラスレアが少し殺気を出しつつ、軽く威圧した。

「ヒ」

 テントラムは恐怖のあまり腰が抜けてしまった。さらに失禁までしてしまっている。

「では、私はこれで」

 チラスレアは笑顔で立ち去った。

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