メグルユメ
10.湾奥の海食洞
魔物には理性がない。そして、おおよそ知性と呼べるものがない。
これは学のない子供でさえ教えられることである。
しかし、勇者一行はその考えを覆された。話すことができるし考えることもできる。魔物でも頭がいい者がいる。
ここでもう一つ逆説を入れよう。今目の前で展開されているパレードは、知性を感じない。どこか目指しているように見えない。目の前に進んでいるだけ。それすら認知しているのか怪しい。
シキが石を砕いて全力で投石するが、十体、二十体持っていくのがやっとだ。それだけで化け物じみているのでドン引きものだ。
「こっちです」
アレンが全員を呼ぶ。そのままアレンは走り出した。全員がそれを追う。アストロやコストイラが迫る魔物を押し退ける。
アレンの全力疾走にアシドが軽く追い着いてしまう。
「これ、どこ目指しているんだ?」
アシドが明らかに速度を緩めてアレンと並走する。アレンはゼーゼーハーハー言っていて話せないため、指でさし示した。
「よし、オッケ」
アシドがセーブしながらギアを入れ替える。そしていち早く海食洞に入っていった。
レイド、アストロ、コストイラが抜いていく。そして、エンドローゼにすら抜かされた。
え皆速い、速くない?
走りながら、後ろのシキに抱え上げられた。揺れの少ない、風のような柔らかさに、音のような速さで海食洞に入った。
「ムン!」
全員が入ったことを確認すると、レイドが大きく足を踏み下ろした。それに反応して、海食洞の入口に蔦が張られていく。
水棲魔物が蔦に押し寄せてくる。ギシギシと音を立てているが、それが恐怖を煽ってくる。
アシドが蔦の隙間から槍を突き出し、何とか数を減らしていくが、相手の絶対数が多すぎて、焼け石に水でしかない。
その時、鮫が動いた。こちら側に狙いを定めたかと思うと、一気に加速した。前にいた同胞達は遠慮くなく轢き殺していく。
水飛沫を撒き散らしながら突進してくる。轢き殺された魔物の血肉が飛び散っている。
「マズい!」
レイドが先頭に立ち、楯を構えた。彼自身、蔦の耐久力的に突破されてしまうと考えたのだ。
その予想は的中してしまう。
ブチブチと蔦を容易く千切り、中に侵入してくる。レイドが楯で頭を殴り、止めようとする。
しかし、巨大な魔物の馬力とレイドの馬力では圧倒的に違いすぎる。
レイドは呆気なく弾き飛ばされてしまった。
一つ、誤解されていることがある。
チラスレアは決して弱くない。そう思われてしまった原因は、やはり勇者一行のせいだろう。たかがレベル三十程度の勇者一行に負けた。この事実がかなり大きい。
しかし、これには四つの言い訳がある。
一つ、そもそも本気で倒そうとしていなかった。当時のチラスレアはアルバトエルの餌が手に入ればよかった。ただ弱らせればよかっただけだったので、倒そうとは考えていなかったために、本気を出していなかった。
一つ、物を壊したくなった。チラスレアはものを大事にする女だ。当時闘っていた部屋にある調度品を一つたりとも壊したくなかった。その意識が無意識にすらあったチラスレアは力をセーブしてしまっていた。
一つ、久々の実戦だった。実戦自体は本当に久し振りで、約三百年ぶりである。そのため、力加減が上手く分からず、あまり力が発揮できなかった。
一つ、割と勇者一行を好ましく思っていた。吸血鬼は吸血であるからという理由で嫌われ、敵対される。しかし、あの日のチラスレアは吸血鬼としてではなく、チラスレアとして戦っている。そのこと自体は初めてではなかったが、それでも嬉しかったのだ。
自分でもチョロいと思うが、アルバトエルはそれで堕ちた。
以上四つの理由により、チラスレアは本気で戦っていなかった。
しかし、ここはその四つすべてに当たはまらない。つまり、本気を出すことができる。
バリトンの剣が来ることは、空気の流れで分かっていた。
スッとチラスレアは左腕を上げた。
これは学のない子供でさえ教えられることである。
しかし、勇者一行はその考えを覆された。話すことができるし考えることもできる。魔物でも頭がいい者がいる。
ここでもう一つ逆説を入れよう。今目の前で展開されているパレードは、知性を感じない。どこか目指しているように見えない。目の前に進んでいるだけ。それすら認知しているのか怪しい。
シキが石を砕いて全力で投石するが、十体、二十体持っていくのがやっとだ。それだけで化け物じみているのでドン引きものだ。
「こっちです」
アレンが全員を呼ぶ。そのままアレンは走り出した。全員がそれを追う。アストロやコストイラが迫る魔物を押し退ける。
アレンの全力疾走にアシドが軽く追い着いてしまう。
「これ、どこ目指しているんだ?」
アシドが明らかに速度を緩めてアレンと並走する。アレンはゼーゼーハーハー言っていて話せないため、指でさし示した。
「よし、オッケ」
アシドがセーブしながらギアを入れ替える。そしていち早く海食洞に入っていった。
レイド、アストロ、コストイラが抜いていく。そして、エンドローゼにすら抜かされた。
え皆速い、速くない?
走りながら、後ろのシキに抱え上げられた。揺れの少ない、風のような柔らかさに、音のような速さで海食洞に入った。
「ムン!」
全員が入ったことを確認すると、レイドが大きく足を踏み下ろした。それに反応して、海食洞の入口に蔦が張られていく。
水棲魔物が蔦に押し寄せてくる。ギシギシと音を立てているが、それが恐怖を煽ってくる。
アシドが蔦の隙間から槍を突き出し、何とか数を減らしていくが、相手の絶対数が多すぎて、焼け石に水でしかない。
その時、鮫が動いた。こちら側に狙いを定めたかと思うと、一気に加速した。前にいた同胞達は遠慮くなく轢き殺していく。
水飛沫を撒き散らしながら突進してくる。轢き殺された魔物の血肉が飛び散っている。
「マズい!」
レイドが先頭に立ち、楯を構えた。彼自身、蔦の耐久力的に突破されてしまうと考えたのだ。
その予想は的中してしまう。
ブチブチと蔦を容易く千切り、中に侵入してくる。レイドが楯で頭を殴り、止めようとする。
しかし、巨大な魔物の馬力とレイドの馬力では圧倒的に違いすぎる。
レイドは呆気なく弾き飛ばされてしまった。
一つ、誤解されていることがある。
チラスレアは決して弱くない。そう思われてしまった原因は、やはり勇者一行のせいだろう。たかがレベル三十程度の勇者一行に負けた。この事実がかなり大きい。
しかし、これには四つの言い訳がある。
一つ、そもそも本気で倒そうとしていなかった。当時のチラスレアはアルバトエルの餌が手に入ればよかった。ただ弱らせればよかっただけだったので、倒そうとは考えていなかったために、本気を出していなかった。
一つ、物を壊したくなった。チラスレアはものを大事にする女だ。当時闘っていた部屋にある調度品を一つたりとも壊したくなかった。その意識が無意識にすらあったチラスレアは力をセーブしてしまっていた。
一つ、久々の実戦だった。実戦自体は本当に久し振りで、約三百年ぶりである。そのため、力加減が上手く分からず、あまり力が発揮できなかった。
一つ、割と勇者一行を好ましく思っていた。吸血鬼は吸血であるからという理由で嫌われ、敵対される。しかし、あの日のチラスレアは吸血鬼としてではなく、チラスレアとして戦っている。そのこと自体は初めてではなかったが、それでも嬉しかったのだ。
自分でもチョロいと思うが、アルバトエルはそれで堕ちた。
以上四つの理由により、チラスレアは本気で戦っていなかった。
しかし、ここはその四つすべてに当たはまらない。つまり、本気を出すことができる。
バリトンの剣が来ることは、空気の流れで分かっていた。
スッとチラスレアは左腕を上げた。
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