メグルユメ

トラフィックライトレイディ

3.北西の浸食棚

 未だに川が終わらない。塔の上から見た海は一体いずこにあるのやら。

「あとどれぐらい歩けば海に着けるんだ?」

 楽しみが永遠に引き延ばされているような感覚になり、アシドが落ち込んでいる。面倒そうなので放置しておくことにした。

 河が緩やかなカーブを描いている。勇者一行はそれに合わせて曲がっていく。

 アレンはだいぶ体力がついてきたと思っている。元々体力がなかったわけではない。ただ周りの体力が化け物じみているだけだ。元々五十だったものが千になっているくらい違う。二十倍だよ。凄い成長だよ。
 まぁ、他の人達は百倍くらい成長しているだけだ。

 とはいえ、すでに数時間は動きっぱなしだ。いい加減休憩を取りたい。アレンの心の機微を目敏く察知したエンドローゼが、アストロの袖を引っ張った。それを読み取ったアストロが手を上げた。

「ねぇ、休憩しない?」
「あん? あぁ、そうだな。そろそろ休むか」

 アストロの提案にコストイラが素直に聞き入れる。エンドローゼが少し大きい岩に座る。アレンも同様に岩に凭れて座った。
 今まで動かしていたからよかったものの、止まった現在はどっと疲れがやってきた。もう動けない。気力はあるよ。
 アストロの左腕にチクリと痛みが走った。幻肢痛かと思ったが、魔道具のおかげでもうしないはずだ。

 そこで、川から大きな体が飛び出してきた。シーサーペントかと思ったがそれよりも大きい。ギガントイールではないかと推測したが、太く、深い紫色をしている。
 何より、アストロの左腕が疼いている。これをやった奴だぞ、と訴えてきている。

 こいつはサンドウォームだ。

 アストロのトラウマが刺激される。アストロにとって左腕喪失は、かつての育ての親達との日々と匹敵するトラウマとなっている。
 喉が一瞬で乾く。手足が震える。いつものような行動ができない。指示もその他もできない。

 目の前に顔が迫ってくる。何もかも遅れて体が動く。今動いたところで間に合わない。このままでは右腕も食われる。いや、腕だけでは済まないだろう。

 目の前にレイドが現れる。楯を構えているが、それごと食われる未来しか見えない。きっとレイドも咄嗟に体が動いただけなのだろう。愚直で素晴らしい男だ。惚れはしないが。

 サンドウォームの体が横に吹っ飛ぶ。誰が、と目線を向けると、シキがいた。後で目一杯撫でてやろう。

 砂蚯蚓が長躯を靡かせながら、地面に頭から落ちる。コストイラが仕留めに走るが、巨大蚯蚓は着地の時点で地面に潜っていた。
 とても素早い動きで潜るため、コストイラは間に合わせるのに必死になる。いつもより刀を長く持ち、力が入るギリギリで振った。
 しかし、ギリギリ届かず、サンドウォームは地中に消えた。

 ここで勇者一行としてはあまり良くない考えが浮かぶ。

 あれ? これ逃げても問題ないのではないか?

 今、敵は目の前にいない。アレン、エンドローゼのような鈍足を何とかすれば、逃げられそうだ。それに相手は土の中だ。こちらから出せる術はない。

 しかし、問題がある。相手はアストロのトラウマなのだ。トラウマは早い段階でなければ治すことができない。克服は早い方がいい。

 どうする?

 ちなみに、トラウマのことをエンドローゼに言うと、どうして今まで言わなかったのかを叱りながら、魔法によって治療してくれるうえに、治すことができる。
 なぜそれをしないのかと言えば、単純に意地の話だ。弱みを見せたくない、という意地と、自身の研究内容は正しいと思いたい、という意地。この二つの意地がエンドローゼを頼るという選択肢とせめぎ合った結果、話さないことにしたのだ。

 後で知られればエンドローゼはプンスカ怒り、アストロに猫パンチを繰り出すことだろう。フォンは激昂して天罰を落とすことだろう。

「長期戦ね」

 その一言でコストイラの迷いは消えた。アストロは戦う気満々だ。だというのにコストイラ自身が諦めてどうするのだ。

 コストイラが刀を振って、集中力を高める。

 サンドウォームはどこだ?

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