メグルユメ
5.咳をしても一人
森を駆ける。
懐かしい。
少女はその昔、暗殺者の訓練の一環でよく森林やの山を駆けて回った。慣れたように根っこを跳び、慣れたように枝を飛び移る。
歌が近い。残り4分40秒で敵を討つ。大丈夫。いつもやっていることだ。
暗殺者は顔を見られてはならない。ゆえに、短期決戦を挑むのだ。
見えた。魔物は一匹。確か名前はラミアだったか。速攻で終わらせにかかる。
さすがにラミアとて無抵抗ではない。咄嗟に身を翻し、逃げようとした。
シキが深追いする。ラミアは逃走を隠れ蓑にして反撃に出た。
尻尾を大きく振るい、シキの横腹を叩いた。しかし、尾と体の間にはナイフが入っている。
シキは無表情でナイフを振るった。ラミアの尾が切られる。
『ア!?』
ラミアの歌が途切れた。ラミアが絶叫をこらえようと奥歯を噛み締める。
正直、歌が終わったので、シキの役目は終了している。しかし、アレンに褒められたいので、この魔物を倒す。
ラミアが見えない。あれ? 逃げた?
シキはとりあえず褒められたいので、ラミアの痕跡を探す。血の跡が見えているので追跡は容易い。
シキの考え通り、ラミアは血の跡の先にいた。
シキがナイフを振るう。逃げに徹していたラミアはシキの存在に気付いていなかった。
その結果、ラミアの頭がゴロリと地面に落ちた。シキはラミアの頭を持ち上げる。これで褒められる。
「ムフー」
シキは一人、森の中で勝ち誇った。
世界樹近くに存在する町、ガクカセイチ。ここに突如として名を轟かせた新人がいた。
その者の名前を知る者があまりにも少ないため、その冒険者には渾名が付けられた。3分間の魔女、と。
「3分間の魔女について知りたい? 兄ちゃん、何者だよ」
「私は記者をしております、ミードと申します。こちらは助手のエッグです」
そういうとミードは身分証を見せた。確かに記者なようだが、大元の視を知らない。そして、エッグと言う助手が見えない。
「助手?」
「はい。こちらのォエエエエエ!?」
そこでようやく気付いたようだ。隣には誰もいない。イマジナリーフレンドをリアリーフレンドだとして扱っている精神異常者の線を疑った、どうやら違うらしい。
「エェエエエッブッ!!」
ミードが客を搔き分け、一人の女を引っ張ってきた。
「エッグ。今日はこの方からお話を聞くって言っただろ! 何をしていたんだ」
「……いい匂い」
「君と言う人は」
エッグはボーッッとしている女のようだ。ミードは額に手を当て、顔を振っている。苦労が見えてくる。
「3分間の魔女の話だったな」
「はい」
「正直俺の知っていることなんて少ねェ。こういうのは本人に聞くべきだぜ」
「そうおっしゃられましても、その3分間の魔女の御姿を我々は知りませんので」
「すげー特徴的だから、すぐに見つけられると思うぜ」
「ほぉほぉ」
ミードは羊皮紙にメモを残していく。未だ重要なことを話していないのだが、何を書いているのだろうか。
「まず、凄ェ包帯姿だ。服の下に至るまで、全部が、だぜ。それにいつもぐったりしている」
「包帯? それはなぜ」
「知るかよ。聞いたって答えちゃくれねぇぞ」
「成る程。では会ってみた方が早そうですね。ありがとうございます」
男はひらひらと手を振った。
3分間の魔女ことサヒミサセイは今日もぐったりしている。体が動かなくなってきている。その為、3分間の戦闘が限界なのだ。その時間を過ぎれば倒れてしまうだろう。
レベル65近い魔物が30体。それを討伐するのが、今回の依頼だ。
討伐時間は2分54秒。ギリギリだ。いや、ギリギリアウトだ。帰り道で許容量を超えてしまう。
サヒミサセイは汗腺が壊れている。うまく汗が分泌されないため、体温がぐんぐん上昇していく。すでに体温が40度を突破した。早く横になりたい。
街に入ると、好奇や興味の視線が向けられる。いつものことだ。しかし、その中に珍しい視線を感じる。こんな視線に耐えられないため、早く路銀を稼ぎたい。
「あの、3分間の魔女様ですか?」
「……は?」
3分間の魔女と言う名前は渾名であり、陰で言われているものだ。当然のように言われているが、サヒミサセイは知らない。
「え、知らない」
「え!? 全身包帯の方だと聞いたのですが」
面倒な雰囲気を感じ取り、足早に去ることにした。
「ゴホゴホ」
湿っぽく鉄臭い咳をすると、天を見上げた。心配してくれる人は誰もいない。
懐かしい。
少女はその昔、暗殺者の訓練の一環でよく森林やの山を駆けて回った。慣れたように根っこを跳び、慣れたように枝を飛び移る。
歌が近い。残り4分40秒で敵を討つ。大丈夫。いつもやっていることだ。
暗殺者は顔を見られてはならない。ゆえに、短期決戦を挑むのだ。
見えた。魔物は一匹。確か名前はラミアだったか。速攻で終わらせにかかる。
さすがにラミアとて無抵抗ではない。咄嗟に身を翻し、逃げようとした。
シキが深追いする。ラミアは逃走を隠れ蓑にして反撃に出た。
尻尾を大きく振るい、シキの横腹を叩いた。しかし、尾と体の間にはナイフが入っている。
シキは無表情でナイフを振るった。ラミアの尾が切られる。
『ア!?』
ラミアの歌が途切れた。ラミアが絶叫をこらえようと奥歯を噛み締める。
正直、歌が終わったので、シキの役目は終了している。しかし、アレンに褒められたいので、この魔物を倒す。
ラミアが見えない。あれ? 逃げた?
シキはとりあえず褒められたいので、ラミアの痕跡を探す。血の跡が見えているので追跡は容易い。
シキの考え通り、ラミアは血の跡の先にいた。
シキがナイフを振るう。逃げに徹していたラミアはシキの存在に気付いていなかった。
その結果、ラミアの頭がゴロリと地面に落ちた。シキはラミアの頭を持ち上げる。これで褒められる。
「ムフー」
シキは一人、森の中で勝ち誇った。
世界樹近くに存在する町、ガクカセイチ。ここに突如として名を轟かせた新人がいた。
その者の名前を知る者があまりにも少ないため、その冒険者には渾名が付けられた。3分間の魔女、と。
「3分間の魔女について知りたい? 兄ちゃん、何者だよ」
「私は記者をしております、ミードと申します。こちらは助手のエッグです」
そういうとミードは身分証を見せた。確かに記者なようだが、大元の視を知らない。そして、エッグと言う助手が見えない。
「助手?」
「はい。こちらのォエエエエエ!?」
そこでようやく気付いたようだ。隣には誰もいない。イマジナリーフレンドをリアリーフレンドだとして扱っている精神異常者の線を疑った、どうやら違うらしい。
「エェエエエッブッ!!」
ミードが客を搔き分け、一人の女を引っ張ってきた。
「エッグ。今日はこの方からお話を聞くって言っただろ! 何をしていたんだ」
「……いい匂い」
「君と言う人は」
エッグはボーッッとしている女のようだ。ミードは額に手を当て、顔を振っている。苦労が見えてくる。
「3分間の魔女の話だったな」
「はい」
「正直俺の知っていることなんて少ねェ。こういうのは本人に聞くべきだぜ」
「そうおっしゃられましても、その3分間の魔女の御姿を我々は知りませんので」
「すげー特徴的だから、すぐに見つけられると思うぜ」
「ほぉほぉ」
ミードは羊皮紙にメモを残していく。未だ重要なことを話していないのだが、何を書いているのだろうか。
「まず、凄ェ包帯姿だ。服の下に至るまで、全部が、だぜ。それにいつもぐったりしている」
「包帯? それはなぜ」
「知るかよ。聞いたって答えちゃくれねぇぞ」
「成る程。では会ってみた方が早そうですね。ありがとうございます」
男はひらひらと手を振った。
3分間の魔女ことサヒミサセイは今日もぐったりしている。体が動かなくなってきている。その為、3分間の戦闘が限界なのだ。その時間を過ぎれば倒れてしまうだろう。
レベル65近い魔物が30体。それを討伐するのが、今回の依頼だ。
討伐時間は2分54秒。ギリギリだ。いや、ギリギリアウトだ。帰り道で許容量を超えてしまう。
サヒミサセイは汗腺が壊れている。うまく汗が分泌されないため、体温がぐんぐん上昇していく。すでに体温が40度を突破した。早く横になりたい。
街に入ると、好奇や興味の視線が向けられる。いつものことだ。しかし、その中に珍しい視線を感じる。こんな視線に耐えられないため、早く路銀を稼ぎたい。
「あの、3分間の魔女様ですか?」
「……は?」
3分間の魔女と言う名前は渾名であり、陰で言われているものだ。当然のように言われているが、サヒミサセイは知らない。
「え、知らない」
「え!? 全身包帯の方だと聞いたのですが」
面倒な雰囲気を感じ取り、足早に去ることにした。
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湿っぽく鉄臭い咳をすると、天を見上げた。心配してくれる人は誰もいない。
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