メグルユメ

トラフィックライトレイディ

22.天の盃

 レイドはただ巻き込まれた。シキと違い、意思の確認すらされなかった。闘技場に参加する宣言をするコストイラに対し、あぁ、いつまで経っても変わらないな、どうすればいいのだろうか、などと考えていると、

「あぁ、レイドも登録したから」

 いつの間にか登録されていた。解除しようと思ったら、不可だと追い返された。

 つまり、参加が強制。

 なぜしなくてもいいような戦いをしなくてはならないのか。これが分からない。

「いつまでもうじうじしていては好転しない。早く終わらせよう」

 勇者パーティに属する楯が戦場に降り立った。




 鬼。

 この世界における最強格の種族の一つ。頑健な肉体と比類なき怪力、圧倒的な魔力保有可能容量による鋼鉄の如き闘気は、人も魔物も等しく紙切れのように薙ぎ払う。
 中でも四天王と呼ばれる鬼は、別格の強さを有しており、普段は心優しき者が多いが、こと闘争に関してはたとえ相手が神仏の類であろうとも一歩も引くことはない。

 その四天王とは、ジョコンドともに世界を巡ったホウギ。ホウギと両翼を成すと称されるレイベルス。その二名に育てられたとされるシロガネ。

 そして、最期の一人こそ目の前にいた。ゴメタァ=リディイリ。四天王と呼ぶにはあまりにもかけ離れている実力を持つ鬼だ。

 それぞれを形式上、レベルを数値化したとすると、ホウギとレイベルスは900~950、シロガネが850~900程度あるのに対し、ゴメタァは350~400とされる。

 本当に四天王か、という疑問は飲み込んでほしい。三人がおかしいだけだから。それに、現在の四天王四番目アスラ=テントはもっと弱い。

「死んでもなお働かされるとは、アイツも不運だな。全くの不自由だな」

 観客席の最上段から一人の鬼が見下ろす。

 月明かりに睨まれながら戦闘が始まった。




 今、目の前で雇い主が堂々とサボってる。指摘、というか注意するべきか、それともスルーするべきか。相手は王だ。不敬とか失礼とか言われるのは怖い。しかし、スルーすると上司に怒られそうだ。

 ナイトが困ったように弟を見ると、フィリスも困ったように兄を見ていた。
 さて、どうしたものか。まぁ、とりあえず。

「ディーノイ様に報告だな」
『待て、二人とも』

 去ろうとしたら呼び止められた。

『今、水晶を起動しよう。興味ないかい? 兄貴の戦いが』

 ナイトとフィリスの眉がピクリと動いた。互に顔を見合わせた。

「仕方ありません。共犯になりましょう」
「ディーノイ様が来たら、庇ってもらいましょう』
『き、君達に期待通りの結果になるかは分からないけど、善処はしよう』

 嫌そうな汗を流しながら、水晶と遠視の魔眼をリンクさせた。

「兄様が映りましたね。一緒にいるのはどなたでしょう?」
『あれはゴメタァ=リディイリだね。元鬼の四天王の一角だよ。ちなみにもう故人』

 さらりと教えてくれたフォンのことを見る。故人ということはもう死んでいるということだ。

「あ」
『完全にアローナックルだな』
「アローナックル、ですか?」
『弓を引くように腕を振りかぶる殴り方だよ。まぁ、レイドは直前に身を引いたことで威力を殺したね。最初から喰らう気でいたようね』
「なぜわざわざ」
『覚悟だろう。楯としての覚悟をここで力づけようとしているということだ』
『「「あ』」』

 後ろに絶望がいた。絶対怒られる。
 三者の背中に冷や汗が流れた。

『何か期待しているようだが、すべては終わってから、な』
『……うい』

 結局どちらが強いのだろう。

『ほら、完全なターン制バトルになったぞ』
『あぁ、いい殴り合いだ。興奮してくるね』
「わ、我々はしませんよ?」
『誰も期待していない』
『お、ゴメタァの歯が飛んだね』
『かなりの覚悟だね。お、ゴメタァを殴り倒した。……まぁ、あんなに頑張っているしな。認めてやるか? そろそろ』
『認める認めないはお前次第だろ』

 ディーノイがフォンの頭をぐりぐりと撫でた。

『さて、お前等。サボったな?』
『うげ』

 大魔王は逃げられない。





「お前ぁ、鬼を殴り倒すなんてさすがだな。お前が誰か知らねぇけど」

 病室に大音量が響く。普通に考えて、迷惑だ。というか、酒持ち込んでないか!?

「こ、こ、ここは病室ですよ!」
「ウム? 何だこのちびっ子は?」

 一人の鬼がエンドローゼに向けて手を伸ばそうとすると、少女は怯えた。その瞬間、濃密な死がイメージできた。かつての旅で味わったものとは違うが、似たような死が目の前に見えた。

 鬼が手を引く。

「そこまで怯えられるとは思っていなかった。素直に謝罪しておこう。済まなかった。ところでレイドと言ったか? いつか戦おうぜ。一対一タイマンでな」

 鬼は楽しそうに鼻歌を奏でながらいなくなった。

 果たして、奴は何だったのだろうか。どこかレイベルスと似たような奴だという感覚を得ているが、本人ではない。名乗ってくれなかったのだが、何者だったんだ?

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